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常識をブチ壊せ!
作:緑平和



第7話 哲多クンの意思



恋する男たちは泥棒と同様、はじめは用心するが、
次第に用心を忘れ、恋にとりつかれてしまう。 デュクロ

「梅宮 お前大丈夫?」
午後の最初の講義が終わると 多野は僕の顔を覗いた。
「えっ?あっうん 平気。」
僕は多野の声を聞き 自分の体が固まっていたことに気づく。
ずっと黒板を見つめたままの顔をやっと動かし 机に置いていたノートを見る。
やべ 手にシャーペンを持ってたのに ノート真っ白。今の講義何も書いてないわ。
「多野 悪いけど今の講義のノート見せて。」
勉強大好きな梅宮。そう思っている多野は 僕が言った言葉に衝撃を受ける。
「お前 大丈夫じゃないだろう?」
それに オレがノート書くわけないし。
多野の机の上には ケイタイが1つ置かれているだけだ。
「そっか じゃあいいや。」
僕はそう言って 机に置いた私物をカバンに入れる。
「次の講義 場所どこだっけ?」
「どこって。次の講義 休講になったって言っただろう。だから ここでヒマつぶそうって。」
「あっそうだっけ?」
多野の目が最初は点になっていたが 段々と満月のように大きくなり
弛んでいた眉も力が入る。
「梅宮…朝妻と何かあったか?」
手に持っていたノートが床に落ちた。
質問の答えを声に出さなくても分かる。多野は大きくため息をした。
「梅宮 とりあえずさ オレに話せよ。」
多野は机に置かれていたケイタイをズボンのポケットに入れた。
どうやら 僕の話を真剣に聴いてくれるみたいだ。
けれど いったい多野に何を話せばいいのだろうか?
朝妻にキスをされた。と言うのか 僕の口から?
そう思った瞬間 耳元で朝妻の声が聞こえる。
「お前ができなかった常識を壊してやったんだ。早くこっちに来いよ。」
一気に顔が熱くなる。
噴火したように 一気に赤くなった僕の顔を見て 多野は口を緩ませ笑った。
「何 お前もしかして 朝妻と付き合うことになったの?」
「違う!僕は怒ってるんだよ!」
「あっそうなの?なんか顔が照れてるからってきりさ。」
ごめんごめんと多野は両手を合わせて謝った。
僕が照れてる?怒ってるんじゃなくて照れてるのか?
朝妻にキスされて オレは照れてるのか?
頭の中が 朝妻でいっぱいになっていて
それを追い払いたくて 顔を左右に大きく降る。
隣にいた多野は 怪訝そうに眉をよせた。
「とにかく 何があったんだよ?お前と朝妻 食堂にいなかったよな?2人で何してた?」
「…キ」
カチカチに固まっていた口をゆっくり動かした。
「キ?」
多野が言葉を繰り返す。
僕は 自分でも認めたくないことを口にしなければいけないのか。
「朝妻にキスされました。」
言ってしまった。多野はキと口にしたまま固まった。
あぁ あんなにも家族の非常識な恋愛を嫌がって 家を出て行ったのに
彼女もしっかり作って 常識的な日常を築き上げたのに
いったい僕が何をしたのだろうか?
徐々に瞳に水分が溜まる。
泣きそうになる僕を見て 多野は慌てて言葉を発する。
「そっかぁ それは講義も耳に入らないよなぁ。」
朝妻が まさかそこまでするとは思わなかったなぁ。いやぁ びっくりびっくり。
多野の空笑いが終わると 周りがシーンとした。
僕は 自分が起きている状況に幻滅をし 言葉を失い
恐らく多野は 予想以上に暴走している朝妻に驚いて 僕に同情をし 言葉を失っている。
「あのさ梅宮。」
沈黙を消そうと試みたのは 多野だ。
僕は 机の木目を見つめたまま 多野の話を聞く。
「ごめん。オレが梅宮を朝妻に紹介しなければ良かったんだよな。もっと 朝妻の暴走止めれば良かったんだよな。」
そうだ。そうだ。
多野が朝妻に紹介したのは しょうがないとしても
朝妻にメールで 僕の講義を教えたりしなければ 僕は朝妻にキスされずにすんだんだ。
「実はさぁ オレ 片想いしてるんだよね!」
僕の頭の中でフツフツと 多野への怒りを沸かしてる中 多野が 爆発した。
突然の大声に僕は肩を揺らし 多野を見る。
多野は耳の先まで真っ赤にしていた。
「だからさ なんか朝妻の恋愛を応援したくてさ。」
やっぱり片思いしてるとさ 仲間の恋愛も応援したくなってさ。
ペチャペチャと多野は話す。僕は それをただ聞いていた。
多野が片思い?
「でも多野 合コンばっかり行ってるよな?彼女探してるんじゃないの?」
「いや それはさぁ。叶わないから 他の人を探そうとやけになってるのも半分 片想いの相手がやいてくれるんじゃないかと期待してるのも半分…って オレ格好悪っ。」
両手で多野は顔を隠す。
でも はみ出してる耳は焼けているんじゃないかと思うほど赤い。
最初は 多野の発言に驚いていた僕だが 自然と笑みが出てくる。
軽い軽いと思っていた多野が こんなにも誰かを強く思っていたなんて 予想外だ。
「やっぱりさ 人を好きになるとさ なんていうか自分が自分じゃなくなるんだよ。欲求っていうか どうしても相手が自分に向いて欲しいっていうかさ。そのため手段択ばなくなるっていうかさ。」
顔を伏せたまま多野は話す。僕は顔をニヤケながらも しっかりと多野の言葉を耳に入れる。
「朝妻も梅宮が好きだからさ 振り向いてもらおうと必死だったんだと思うよ。そう言うところ なんかオレと同じだと思ったらさ 応援したくなっちゃってさ。」
多野はその後 何度もごめんなぁ。と言った。
確かに多野の言ってることは分かる。
人を好きになれば 誰だって自分を好きになって欲しくなる。
自分を好きな人の前で いいように見せたり 朝妻みたいに強情に振り向かせようとしたり
多野みたいにヤキモチ妬かそうと あえて違う人と仲良くして見たり
そう考えれば 朝妻の恋愛は間違えてないかもしれない。
ただ 相手が男なのだ。もっと言えば 同性愛を嫌がってる僕と恋愛をしようとしてるのだ。
「梅宮は朝妻が好き嫌いじゃなくて 最初っから同性だから嫌いなんだろう?」
自分が今考えていることを多野に読まれた。
「確かに 同性に好かれるのって嫌かもしれないけどさ。オレ的には朝妻そのものを見てほしかったんだよ。もし あいつが女なら そんなに嫌がってたか?」
朝妻が女?
あの好き勝手に髪やヒゲを生やしている 朝妻が女?
想像できない。でも 朝妻みたいな性格の女性が アピールしてきたら僕はどうしてたのだろうか?
ちょっとだけ想像してみようとした時だった。
カバンがブルルルと震えた。カバンの中に入れっぱなしだったケイタイが鳴った。
「ごめん。」
僕は ケイタイを取り出し画面を見る。
晴加からメールが来ていた。
 おは〜★てっちゃん。
 あれから 元気になった??
 今日迷惑じゃなければ てっちゃん家行って良い?
 てっちゃんが元気でるように ハルカ料理作りたいんだ=3
 てっちゃんの要望なら…裸エプロンもOKですヨ(#^3^#)
キュンと胸が絞られた。
いや 裸エプロンという言葉にではなく 晴加の優しさにだ。
僕の元気のなさに 晴加は真剣に心配してくれてるんだ。
それが嬉しくて 胸がキュンとした。
そして気づく。
朝妻が男だろうが女だろうが
常識がどうとか 非常識がどうとか
僕には関係ない。
大切なのは ただ1つだけだ。
「多野。朝妻が男とか女とか関係ないよ。僕は晴加が大好きだから 他に誰とか考えられない。」
ケイタイを見つめて 僕がそうはっきり言うと
多野は ん。そうか。 と言って笑った。
「でも 朝妻がキスするかぁ…あいつ 本当にSというか攻めキャラと言うか…」
今後どうすればいいんだろうねぇ。
多野が両腕を組み 真剣に悩んでくれている。
けれど僕は 前よりは悩んではいなかった。
だって 要は僕の意思の問題だと分かったから。
僕は朝妻を離したいと考えてばかりだったが その考えが間違えだったのだ。
僕は 晴加が好きで他には考えられない。
その意思さえ保つ自信があれば 朝妻なんて最初から気にしなければ良かったんだ。
 晴加 メールありがとう!!
 今日 本当に来てくれるの!?すんごく嬉しいよ!
 また学校終わったら連絡してな?楽しみにしてます(^3^)/★
メールを送信したら さきほどまで感じていた 怒りや不快感が消えたていた。
大丈夫。
僕は もう朝妻に揺らいだりしない。
そう思ったら また耳元で朝妻の声が聞こえる。
「お前ができなかった常識を壊してやったんだ。早くこっちに来いよ。」
残念だね 朝妻。
僕は壊されてもいないし お前のところにも行く気もない。
今目の前にいない朝妻に 僕はぽつりとつぶやく。
「今度は 朝妻の常識を僕が壊してやるんだ。」













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