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君に出会ったあの日を忘れない  作者:さかき原 枝都は
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彼女はいとこ いとこは彼女・・・かな?

「よう元気してるかい磨緒」

陽気な声の主は須郷多唯人、人の気も関係ないような能天気な声だ

「元気な奴が病院のベットに寝てなんかいねぇよ」

「なあんだ、せっかく差し入れ持ってきたのにご会いそうだな」

病室に唯人、優子、実来の3人が見舞いにやってきた。

「きゃぁ、磨緒くん病人している。ねぇ痛くないのぉ。どうして足つるしているのぉ」

いつになくテンションの高い優子がキャンキャンと騒ぎ立てる

「おい優子、少しは静かにしろよ、ここは病院だぜ」

唯人が歯止めの効かなくなりそうな優子をたしなめた。

「そんなこと解ってるわよ。唯人に言われなくても」

優子は頬をぶうぅと膨らませた。

「ねぇ、足の具合どうなの」

実来が心配そうに尋ねた。

「ああ、バッチシ骨にひび入ってるってよ。1週間の入院で全治2か月だって」

「ええ、そんなぁ。それじゃ一緒に滑れないじゃない」

優子が見たらわかるようなことを白々しく言う

「ごめん。せっかくみんなと来たのにこんなことになって」

「ま、いいてことよ。俺らは俺らで楽しんでいくわっ、お前はこのベットの上で十分楽しんでくれ」

唯人は何か意味ありげに、にやつきながら言った。

「さぁ、あんまり長くいても触るだろうからひとまず帰るわ。磨緒も大丈夫そうだし」

「そうね、早くまた滑りたいしね」

唯人と優子をちょっと見て実来は

「磨緒くん、何か困ったことない。よかったら私ついててあげようかなぁ」

「ああ、いらんいらん。こいつは少し不自由させればいいんだよ」

あきれたように唯人は実来の申し出を断った。

「ありがとう実来ちゃん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「そうおぅ」

「さぁ、帰って滑るぞう。なにせ俺らは明日帰らにゃならんからなぁ。お前に付き合っている暇なんかないぜ」

なぜだろう、何か引っかかる言葉が多い、今日の唯人は

3人は病室を出ようとした。

「おーい、唯人くぅん。差し入れはおいていかないのか」

俺は3人を引き留めせっかく持ってきてくれた差し入れをせがんだ。

「おお、そうだった」

唯人はベットの上にコンビニの袋に入っているものを広げた。

それは、スナック菓子に雑誌エロイの、タバコにビール・・・。こいつはここで宴会でもする気だったんだろうか。

「おまえなぁ。ここ病院だぜ」

「あ、そっ。せっかく退屈してるとおもってたのになぁ。そうそう、特にこの雑誌はいらねぇよな。なにせあんなに美人な人と知り合いなんだからな」

唯人はすねたように言い放つ。そして、小さな声で
「磨緒、あんなすげぇ美人隠していたなんて、お前も隅におけねぇな。てなわけで、こいつは今晩の宴会に回すとするか」

「そんなぁ、唯人。せめてタバコだけでも置いてってくれぇ」

腰かけていたベットからたちあり「ハハハ」と苦笑いをしながら

「ほらよっと」俺にタバコを投げ渡した。

「そんじゃ、お大事に」そう言って彼女たちと一緒に病室を後にした。

唯人たちが帰った後の病室は一段と静けさを感じるようになった。

まさか、また瞳に出会えるとは思ってもいなかった。

しかも、とびっきりの美人になっていたなんて、あの頃の瞳からは想像もつかなかった。

あの時、寒さと足の痛さに疲れのピークが重なって気が遠くなっていた。瞳は携帯でロッジのレスキューに連絡を取り救助を依頼した。

「磨緒くん、頑張って。今、レスキューに連絡したから、もうすぐ救助に来るから、しっかりして」
瞳の声が遠くから聞こえた。

レスキューが到着すると、俺はソリに乗せられてロッジまで運ばれた。

すぐさま救急車が呼ばれ、この病院に搬送された。

救急車には瞳と、唯人が乗車した。

搬送中、瞳は俺の手をしっかりと握り、心配そうにみつめていた。

その時、その瞳の姿を見て唯人は何かを感じたんだろう。

瞳と俺が他人ではないことを

冬の日は短く、あたりは次第に薄暗くなってきた。

夕食を食べ終わり、看護婦が配膳を下げてから少しの時間が過ぎたころ、コンコンと病室の戸をたたく音がした。


瞳が見舞いに来てくれた。


「磨緒くん、調子はどうぉ」

彼女は心配そうに尋ねる

「うん、麻酔が効いているからぜんぜん痛くないよ」

それを聞いて彼女は少し安心したようだ。そして手に持つ花束を差し出し

「これ、お見舞いのお花」

その花束は、ピンクや赤い色をした花がバランスよく配色された花束だった。

「ありがとう。でもここ花瓶ないよ」

「うふふ、そうだと思って、ジャーン。花瓶持ってきましたぁ。お花生けてくるね」

彼女は持参した花瓶と花束を持って給湯室へ向かった。

少しして、静かに花瓶が台に置かれた。

「ねぇ、綺麗でしょ」
「うん、綺麗だよ」

俺は瞳を見つめながら言った。

瞳はそれを感じ取り

「違うでしょ、お花の事よ。これでも私生け花少しやってたんだから」

瞳は少し顔を赤くした。

「まったく、おませになちゃって、もうぉ」

彼女は人差し指で俺の額をチョンとこづいた。

「でもよかったわ思ってたよりも元気で、本当に大変だったんだから、解ってる磨緒くん」

瞳は片手を腰にやり、どことなく先生が宿題を忘れた生徒に注意をするような感じで言い放った。

実際、瞳が偶然あの場所にいたから助かったものの、もし誰もいなかったら今頃俺はどうなっていたんだろう。

「なぁ瞳、どうしてお前あそこにいたんだ。それにただ滑りに来ているって感じじゃなかったし」

「うふふ、そりゃそうよ。だって私あのスキー場のインストラクターなんだもん。講習が早く終わったから流しにあそこに寄っただけよ。そうしたら、パニクリながら滑っている誰かさんを見つけて救助したのよ」

「ははは、弁解の言葉も出ないや」

「まったくもう」

そして、ベットにあるネームプレートを見て

「あ、そうだ。磨緒くん、苗字変ってたね」

少し寂しげに言った

「うん、お袋あれから再婚したんだ」

「そっかぁ、叔母様再婚したんだぁ。それで藤崎の苗字になったのね、よかったわね叔母様も幸せになれて。じゃぁ、磨緒くんにも新しいお父さんが出来たんだ」

「まあ、親父もそうなんだけど、姉さんも一緒に出来た」

瞳はちょっとびっくりした表情をして

「そう、お姉さんも出来たんだ。よかったわね。お二人とは仲良くやってるの」

「まあね」

俺が中学に上がる時お袋は、今の親父と再婚をした。そして一緒に来たのが姉の「麻美」だ。
麻美は今大学2年。俺とは4つの年の差。

麻美は、お袋と親父が再婚をするまで一人で家のことを全てやっていたらしい。

だからかもしれない、少し口うるさい所がある。まるでお袋が二人もいるようだ。

とはいっても、麻美は俺のことを本当の弟のようにかわいがってくれている。そしてお袋の事も自分の母親として慕っている。


「この6年の間に磨緒くんもいろんなことがあったんだ」


「なあ、瞳はこの6年間どうしてたんだ。もしかしてもう結婚してるとか・・・」

これだけ美人なんだから結婚までとはいかないにせよ、彼氏くらいはいるだろう。そう思った俺は瞳にかまをかけてみた。


本当は気になってしょうがなかったからだ。


瞳は、俺の目の前に左手を広げた

「磨緒くん、よーくごらんなさい。私の左の薬指は未だ封印されていませんのよ」
少し偉そうに瞳は言い放った

「なぁ、これって威張ることかよ。でもまぁ、まだ若いんだし結婚とはいかなくても彼氏くらいは、さすがにいるだろう。な、瞳」

瞳はまた少しほほを赤らめて

「な、なによ。彼氏なんかいなくたって別にいいじゃない」
今度は少しほほを膨らませ「プン」とした表情をした。その表情はどことなく可愛いと思った。

「嘘だろ、これだけの美人が彼氏もいないなんて。お前今まで何やってきたんだ」

「何やってきたって、私あれから東京の大学に行ってたのよ」

「え、東京にいたの?どこに住んでいたの」

「三軒茶屋」

「三軒茶屋にいたのか。俺らお袋が再婚してから高円寺に引っ越したんだ。そうか三軒茶屋かぁ、意外だったなぁ」

まさか瞳が今まで東京にいたとは、これっぽっちも考えていなかった。

「それで、もう秋田に戻ってきたのか」

瞳は少し下をうつむき

「うん、まぁねぇ。でも、もうじきまた東京に行くのよ」

俺は少し驚いて

「瞳、また東京にくるんだ。いつ頃?どれくらい東京に居られるの?向こうでまたあえるじゃん」

瞳は少し恥ずかしそうに

「ん、多分3月にはもう向こうに行ってるとおもう。だって4月からの採用だから・・・」

4月からの採用?

ということは、瞳はどこかに就職が決まったということか。
つまり、いつまでいられるのではなく、東京のどこかにまた住むということになる。

俺は内心嬉しさが込み上げてきた。

なにせまた瞳と同じ時間を過ごすことが出来るのだから。

俺は思い切って瞳に言ってみた



「なぁ瞳、彼氏いないんだったら、俺と・・・付き合わない?いま、こんなんだけど・・・」


「はいぃぃ?今なんて言ったの」

瞳はびっくりして聞き返した。

「だ、だからぁ、俺と付き合わないかって言ってんだよ」

「ぷっ」

瞳は思わず噴き出した。そして次の瞬間おなかを抱えうっすらと目に涙を浮かべるほど笑い転げた。

「な、なんだよう。人が真剣にいってるのによぉ。腹抱えて笑うことないだろう」

俺は瞳が笑い転げるのを見てむっとした。

「ご、ごめん、ごめん。だって磨緒くんいきなり、付き合わないかなんて言うんだもん」

「俺は真面目だよ」

俺は真剣な顔で瞳に言った。

「どうしようかな・・・・でもあの磨緒ちゃんが告白するようになるなんて、成長したものね」

「だてに歳だけ食ってないぜ」

「あら、そうなのぉ。でもそれを言ったら私なんて、あなたから見たらおばさんよ。それでもいいの?」

少し真面目な顔で瞳は俺に向かっていった。

「そんなの関係ないよ」

少しトーンを下げて瞳に応えた。

「もう間もなく、面会のお時間が終了いたします・・・・」

面会時間終了の管内アナウンスが流れ出した。

「あら、もうそんな時間」

そう言って瞳はバックから小さな手帳を取り出し、さらさらと何かを書き始めた。

書き終わると、その部分を切り取り俺に手渡した

「これ、携帯の電話番号。それとSNSのアドレスとユーザーよ」

俺はそれを受け取り

「瞳、電話してもいいの」

瞳はうふっとにこやかに

「ばかねぇ。野暮なこと聞かないのぉ」

瞳は照れ臭そうにつぶやき、そっと俺の唇にキスをした。

まじかに彼女のうるんだ瞳が目に入る。そしてあの甘いほのかな香りが俺をまとった。

「瞳」

静かに俺から離れ「じゃ、私帰るね」そう言って彼女は病室を出ようとした。

「あ、そうそう忘れてたわ。おじさま磨緒くんのお母さんに連絡してくれたの。そうしたら叔母様「動け
るようになったら連絡よこせ」だって。後でちゃんと連絡しなさいよ」

俺はちょっと照れ臭そうに

「あはは、すっかり忘れていたよ。ありがとう瞳」

「いいのよ、それじゃバイバイ」

瞳はにこやかに手を振って病室を後にした。



次の日、唯人たちは真っ赤に雪焼けした顔で一足先に東京へ帰った。


ただ、帰り際に実来ちゃんの意外な一面を見てしまったのは想定外だった。

「そいじゃ、磨緒先に帰ってるぜ。早く戻って来いよシャバへな。なんちって」

「それじゃ磨緒くん早く良くなってね。学校で待ってるから」

唯人と優子はさばさばしたもんだった。遊ぶだけ遊んだっていうのがありありの二人だった。

「実来ちゃんいくよ」優子は黙ってうつむいている実来を促した。

「う・・ん・・・」

彼女は小さく返事をしたものの動こうとしなかった。

そして思い切ったように

「私、ここに残る。ここに残って磨緒くんの看病する」

「はぁ」

二人そろって声を上げた。

「何言ってるのよ実来。あんたいたって何もすることないでしょう。ただボーといるだけよ」
実来は下をうつむき

「で、でも、ほら例えば御トイレに行くときなんか、一人じゃ大変じゃない」

唯人は、ははぁんとしてベットの下に置いてある尿瓶を持ち上げて

「実来、お前のその気持ちもわかるんだが、こいつまだ尿瓶つかってるぜ。こいつのちんぽつかんでこの中にしょんべんさせなけいけないぜ。出来るか実来ちゃん」

唯人の言葉に実来は顔を真っ赤にして


「で、出来るわよ磨緒くんのなら・・・・」

「おうぅぅ」

外野がうなる

「こりゃ大発言だぜ。だが今回は駄目だ」

なぜか、唯人は実来の想いを断ち切ろうとした。

そして優子に合図をして実来を無理やり引きずり返した。


未だに廊下に響く実来ちゃんが叫んだ俺の名が耳に残っている。


入院5日目になると松葉杖をついて動けるようになった。

でも動けるようになったにせよ、いるのは病院だ動き回っても何も面白いことはない。

もっぱら晴れた日は屋上が俺の居場所になっていた。

「ふうぅ」タバコの煙が静かに立ち上がる。

「屋上から見るこの景色、なんだか見飽きたなぁ。あいつらどうしてっかな」

柄にもなく落ち込みながらフェンスの金網にのりかかりタバコを吸っていた。


その時


「藤崎さん。病院は禁煙ですよ」



慌てて隠そうとしたが無駄だった。

ふとその声の方を向くとその声は瞳だった。

「なんだよ、脅かすなよ瞳」

瞳はにっこりとして

「ちなみに、未成年者の喫煙は法律で禁止されています・・・よ」

そう言って、俺から火のついたままのタバコを受け取り、口に軽く加え白い煙をふうぅと吐いた。

「瞳、お前も吸うのか」

「ん、たまにね。磨緒くんみたいにヘビーじゃないんだから」

「あのなぁ・・・」

そう言ってもう一本タバコに火をつけた。

「珍しいな、こんな時間に来るなんて」

「そうぉ、今日は休みなの。だから早くきちゃった」

瞳は微笑見ながら答えた。

「あ、そうそう、それとね。さっき病室に行ったらお医者さんが、動けるようだから退院してもいいよって言ってくれたの。でもね、通院は最低でも2回は必要だって、ギブスは向こうの病院で取ってもらった方がいいみたいなこと言ってたわ」


それを聞いて沈んでいた気持ちがいっぺんに晴れた。

「ねぇ、磨緒くんどうする?今日退院しちゃう」

「そりゃ、聞くまでもないでしょう瞳さん。今日でしょう今日」

でも肝心の事を思い出した。

それは、ここの入院費の支払いと、叔父さんのペンションまでの足を確保しないといけなかった。

「瞳、ここの入院費と帰りの車どうしよう」

瞳はにっこりとして

「あら、それなら大丈夫よ。叔母様から保険証が送られてきたとき、一緒に来たお手紙に請求書送ってもらうようにって書いてあったわ。ペンションの叔父様、送られてきた手紙全部よこしてきたから読んじゃった。それに帰りは私が送ってあげる」

まったく根回しのいいことで「それに帰りは私が送ってあげる」ということは、瞳車運転出来るのか。
たいしたもんだわ

「それじゃ私退院の手続きしてくるから磨緒くん病室に戻って準備してくれる」

「ほーい解った」

俺らはあわただしく病院を後にした。

瞳はてきぱきと退院の手続きを終わらせ、俺は病室の荷物をかたずけ・・・と言っても身一つで運ばれて入院したから荷物と呼べるものはほとんどない。

あると言えば、瞳がペンションからもってきた数枚の下着ぐらいのものだ。

全ての準備が終わり、ナースステーションに挨拶に行くと

「あらあら、ずいぶんと急いで退院するのね。やっぱりこんなおばさんたちより、彼女のそばがいいわよね。でも同い年位なのに彼女の方はずいぶんしっかりしているのね。あんたにゃもったいないわ、大切にしてやんなさい」

二人とも耳の端まで真っ赤になった。

「お世話になりました。ありがとうございます」

ひとまず礼を言い頭を下げた。

「ハイこれがこれからの通院予約の予定ね、ちゃんと来るのよ」

俺が予約の控えを受け取ると瞳が

「ハイ、ちゃんと連れてきますからよろしくお願いします」

なんて言ったもんだから

「あら、こちらこそよろしくね。ほんとあんたにはもったいないわ。彼女泣かすんじゃないよ」

その看護婦はガァハハと笑い、俺の背中をバンバンとたたいた。

「まぁ」

と、一言、瞳はさっきより真っ赤になってうつむいてしまった。

一階に降りるエレベーターの中で瞳は上機嫌で、ホールに着くと

「磨緒くんここで座って待ってて、車移動して来るから」

口元が緩みっぱなしのまま玄関へ向かい

「ゴンッ」室内ドアにぶつかった

イツツツ

「あはは、ここ自動じゃなかった。あはははは・・・」

照れ臭そうにして駐車場へ向かった。

「何やってんだ、あいつは」

意外と瞳もおよこちょいなところがあるんだな、なんて感心する俺がいる。

しばらくして瞳は玄関の近くに車を着けた。

「お待たせ、摩緒くん」

瞳は荷物を持ち俺は松葉杖でゆっくりと車に向かった。

「うわ、可愛い車だなぁ。これって軽自動車っていうんだっけ」

「うふ、そうよ。可愛いでしょ、私の車」

その車は、俺が想像するような車と違ってピンク色の小さい、いやこじんまりとしたと行った方がいいよ
うな車だった。

瞳は俺に自分の肩をかし、助手席に乗せた。

運転席に瞳は座ると、何気なくサングラスをかけ

「さ、行きますかぁ」と上機嫌に車を走らせた。

「運転手さん。安全運転でお願いしますよ。また病院送りはこりごりですから」

「まぁ、失礼しちゃうわね。これでも私今まで無事故無違反なんだからね」

そう言いいながらサングラスをかけ車を運転する瞳の姿はかっこよかった。

「なあ、瞳。さっきの看護婦、瞳の事俺と同じくらいっていてたよな。俺、入院中老けたんかなぁ」

「バカねぇ。それは多分逆よ」

「逆って、瞳が高校生に見られてるってことか?」

「ハハハ、多分ね。私こっちに来てから仕事探す時、何軒かの会社から歳誤魔化していませんかぁとか、

高校生は就業できませんとか言われたことあるから。私童顔なのよねぇ、これも悩みの一つかもしれないわ」

そうはいうものの、少し嬉しそうに見えた。

「贅沢な悩みだな」

瞳は微笑みながら

「そうかもね」と答えた。

でも瞳がにやついているのは別な事かもしれない。

なんて思うのは思い上がりだろうか。

車は狭い道を抜け広い道に出た。

広いと言っても、高円寺の駅前から延びる道路より少し狭いくらいの道だ。

その道の両脇には、ビデオのレンタル屋、コンビニ、家電量販店などが点々と並ぶ道並み

俺のおぼろげな記憶にはこんな建物や店などなかった。

たった6年の間でも町の風景が大きく変わっている。

なんだかちょっと浦島太郎の気分になった。

「ねぇ磨緒くん、お腹すかない?」

瞳は運転しながらこっそりと聞いてきた。

確かに、午前中に急に退院をすることになって昼ご飯を止めていた。

瞳の「お腹すかない?」の言葉を聞いたとたん「きゅうぅぅ」と俺の腹が鳴った。

「うふふ、やっぱりね。ペンションの叔父さんとこ連絡したら、夕食までには戻ってこいって言っていたから、多分今行っても何もないと思うわよ。それに私もお腹すいちゃった」

瞳は叔父さんにも連絡済みなのか。

なんというか、俺なんか気が付かないことをことごとくやってくれている。

あの看護婦が言っていたように、しっかりとした彼女?もしかしたら、出来の悪い世話の焼ける弟としっかり者の姉と言ったところかもしれない。



弟。


もし、瞳が俺にいろいろやってくれるのは、久しぶりに会った歳の離れている弟と見ているんだろうか?
もしそれが本当なら「少し悔しい」

でも今の俺には、背伸びしようが、その方法も知らない。

せめて、大人ぶるのはタバコを吸うくらいだ。

瞳は左側にウインカーを出しショッピングセンターの駐車場に車を止めた。

「磨緒くん、私買い物してくるから待っててね」

「ああ」俺は生返事をした。

瞳はそう言ってドアを閉めようとしたが、再び

「磨緒くん。タバコ吸うんだったらドア開けてね。煙こもると臭いついちゃうから」

「あ、あう、うん。わかった」

彼女はにっこりとしてドアを閉め、店の方へ向かった。

俺はその瞳の姿を店に入るまで追った。

やっぱり瞳の姿は、店の前を行きかう人々の中ではっきりとその美しい容姿が目を追わせた。

車の中に一人になった俺は、もそもそとポッケからタバコを取り出し、口にくわえライターで火をつけた。

瞳に言われた通りドアを開け煙が車内にこもらない様にした。

しかし、まーなんだ。俺は瞳に付き合わないかと、自分でも驚く位ハッキリと言えたもんだと今になって
自分を感心している。

俺も今まで彼女がいなかったわけではない。

実際、中学の時付き合っていた女性はいた。

でも、初めはただ仲が良くて、気がついたら付き合っていて、気が付いたら彼女は俺の前からいなくなっていた。

だから「俺と付き合わない」なんて告白?だろうな。

そんなことを言ったのは初めてだった。

瞳はあの時、笑い転げていてはっきりと「ハイ」という返事はもらっていない。

とてつもなく中途半端な状態が俺の気持ちをもやもやとさせる。

そして、もう一つ。

自分の中で「姉いとこ」ということではなく、瞳を一人の女性として、いつまでも一緒にいたいという気持ちが、日ごとにあふれ出てくるのを感じていた。


入院中、目を閉じれば浮かぶのは、あの瞳の優しい笑顔と、まだ感覚が薄れない瞳の柔らかい唇が当たる感触だった。

「ふうぅー」

俺はため息とともに、白い煙を吐き出した。

ふと、俺の背中を針でも刺すようなチクチクとする視線を感じた。

後ろを振り返ると、運転席側の窓ガラスに顔をぴったりと押し付けて「ジィー」とみつめる変顔があった。

その目は俺が気が付いているのに窓ガラスに顔を押し付けたまま「ジィー」と俺を見続けている。
俺もそのまなざしを負けずと見返した。

しばらくこの状態が続く。

ふいに俺は両手で両の目じりを下げ、鼻を膨らませ、両の指で口を広げ、ガラス越しの変顔に変顔で対抗した。

すると、ガラス越しの変顔は、「ぶっ」と吹き出し顔をドア窓から放し、俺に指を指し笑い出した。

「なぁ、聞こえてるだろう」

「え、」

そいつはいきなり話かけられ、笑うのをやめた。

「お前、この近くの子か?制服着ているから中学生だろう」

「な、なんだよう。中学で悪いか。お、お前こそだ、だれなんだ。この車で何してんだよ」

「何してんだって、買い物に行っちまった運転手を待ってんだよ」

その中学生は、タタタタと俺の方へやってきた。

「運転手って、姉ちゃんを・・・」

「ねぇちゃんって・・・・」

「だってこの車姉ちゃんのだ。運転手ってたら姉ちゃんしかいねえべぇ」

この車は瞳のだって言ってた。で、この車は、姉ちゃんのだって?

ということは、もうわかりきったことだろう。

「お前、瞳の弟か?」

そいつはうなずいた。

そして俺の顔をまじまじと見つめながら

「お、お前、姉ちゃんのな、なんだ、かっ」

ゴンと大きな音と共に買い物袋がそいつの頭に当たった。

見上げると瞳がぷうーと頬を膨らませながら

「ちょっと大、あなた何してんのよ」

買い物袋を、瞳の弟らしき奴の頭に置いたまま言い放った。

「ね、ねぇちゃん」

「ねぇちゃんじゃないでしょう。あなた部活はどうしたのよ、まだ帰る時間じゃないでしょう?」

「部、部活はカゼが多いから休みになったんだよ。それより、コイツ姉ちゃんの車に黙って乗っていたから・・・・」

ふいにその中坊は、にやにやとして

「あ、やっぱりそうか!ごめんごめん、俺えらいとこ見ちゃったなぁ」

「あ、何よ、えらいとこって」

「だって、こいつ姉ちゃんの彼氏なんだろ。まったくいつの間に彼氏作ってんだがぁ」

「何よ、彼氏だなんて、磨緒くんは・・・・」

瞳はまた耳の先まで真っ赤にさせて、うつむいた。

「瞳に弟いたんだ」

俺がこっちにいた時、瞳の弟なんか気にする余裕もなかった。

確かに幼いころ数回、彼女の家に行ったことがある。その時男の子がいたような、いないようなおぼろげな記憶しかなかった。

「この子、弟の大。磨緒くん覚えてない?」

俺は、頭を掻きながら

「ごめん、まったく覚えていないや」

そういうと、瞳の弟大は何か釈然としないようにくびを傾げたが、すうーと、瞳の前に手を差し伸べた。

「な、なによ。大その手は」

大はニヤつきながら

「何やらご事情があるお二人の様でぇ。ほれぇ、ほれぇっ。親父には黙っておいてやるから、口止め料!」

「口止め料って・・・・」

「俺はその肉まんでもいいんだぜ」

大は彼女が持つ買い物袋に入っている肉まんを指さした。

「まったくもう」瞳はあきれたように、買い物袋に入っている肉まんを一つ大に渡した。

大はその肉まんを受け取ると、すかさず反対の手を指し伸ばした。

「な、何よう」

「へへぇ、こっちは親父の分、そんでもってこっちはお袋の口止め料だべぇ」

「ハイハイ」と言いながら瞳はもう一つの肉まんを渡すと

「まいどありー」と言いながら、一つを口にほほ張り「うめぇ」と言って

「ほいじゃ、お二人共お幸せにぃー」とちゃかしながら出口の方へと向かった。

瞳は大に向かって「まっすぐ帰るんでしょうねぇー」

「おれ、たかしん家寄ってくっからよろしくぅー」

「何がよろしくよ、あの子ったら」瞳はあきれたように言い放った。

「さ、行きましょ」そう言って瞳は車に買ってきた荷物を入れ、車を出した。

「ごめんね、磨緒くん。大、変なこと言って」

運転をしながら申し訳なさそうに瞳は話した

おい、瞳。「変な事」って、あいつが彼氏だろうって言ったことか?

思わずその言葉が引っかかってしまった。

だって、俺が少しならずも瞳に対して以前とは違う気持ちを抱いていたから、その、「彼氏」という言葉
は想いっきし気になる。

そこに「変なこと」なんて当の本人である瞳の口から出るとは・・・つ、辛いかもしれない。

「ハハハ、そ、そんなこと気にもしていないよ」

とは、言ったものの、とても複雑だった。


「そうぉ?」

と、返した瞳の言葉に、疑問詞が付いていたように思えたのは、思い上がり?なのか。


瞳はちらっと時計を見て

「ねぇ磨緒くん。お弁当冷めないうちに食べちゃおうか」

そう言ってペンションの方とは反対の道へ入った。

「ちょっといいとこあるんだぁ。そこでお弁当にしましょ」

車は少し上り坂をスピードを落としながら進んだ。一応、その道も除雪はされていたが、ほとんど車が通った後がない証拠に至るどころに白い雪が黒いアスファルトを隠していた。

「さぁ、着いたわよ」

車が止まったところは小高い小さな駐車場のようなところ。と言っても周りは除雪された雪が高く積まれていて、雪がなければ車10台は優に止められるような場所だった。

そして、車の前方からは眼下に白い雪の原と、小さな集落の家々そのむこうにある山の間から望む青い色をした湖がその存在を示していた。

「すげぇ」

白い雪のなかにある青い湖。都会では望むことが出来ない景色。

「ねぇ、いいでしょう、ここ」

「よく来るの?」

「たまにね。一人になりたい時に・・・」

「ふうん」

と生返事をした。

後部座席にある買い物袋からお弁当2つと缶コーヒー2つを前の席に取り出し

「うまそう、このハンバーグ」

大きなハンバーグが弁当の半分をこれでもか言うくらい幅を利かせている弁当だった。

「ここのハンバーグ弁当本当に美味しいのよ」

瞳は、少しシートを倒し、弁当を食べ始めた。

「あ、本当、美味いや」

この一週間というもの、あの閉鎖された空間でいまいち馴染めなかった病院食がメインだったから、めち
ゃくちゃうまかった。

あっと言う間に弁当は空になり、久々の満腹感を味わった。

「さっすがぁ。やっぱり食べるのはやぁい。さすが男の子ね」

「そっかぁ」

「ねぇ磨緒くんお弁当足りた?本当は肉まんも一者に食べようと思ってたんだけど、大に持ってかれちゃったから、ごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。それよりまだ半分しか食べてないのか。おせっなぁ」

そう言われ瞳はちょっと膨れて

「まったく、大と同じこと言わないでよ。磨緒くんは少し大人なのに」

そう言う瞳の顔は、少し昔の面影をのぞかせていた。

「ハハハ、ごめん。ごゆっくりお召し上がりくださいませ。お嬢様」

瞳はその言葉に合わせるように

「はい、そうさせて戴きます」とにっこり微笑んだ。

ようやく瞳が弁当を食べ終わり、食べた後の弁当の殻をまとめて後ろの席に置くと、オーディオのスイッチを数回ピピと押した。

今まで流れていたJポップから静かに次の曲が流れだした。

静かに始まるピアノの鍵盤をたたく音が奏でるその曲は、どこかで聞いたことがあるメロディ。
ふと、心が安らぐような優しい音が二人を包む。

「磨緒くん、この曲わかる?」

瞳が静かに聞いてきた。

「うんん。どっかで聞いたことある曲だけど、思い出せないや」


「そうぉ。有名な曲なんだけどなぁ。これは、ショパンの夜想曲第2番変ホ長調9-2。ノクターンって言われているわ」


「ふぅんそうなんだ。俺クラッシックあんまり得意じゃないんだ」

瞳は「ふぅ」と軽くため息をついて

「磨緒くん高校生だったわよね。高校の音楽でこの曲習わなかったの。それに中学の音楽にだって出てくるのに」

「・・・・・・・・・・・・」

と言われても、俺には縁遠いジャンルの曲だ。

でも、静かに流れるピアノの音は、何か優しく喪の悲しさを感じさせた。そして、東京という何かの流れに沿わなければ生きていけないような時間の流れではなく、この目の前にある雪の原のように何も束縛がなく、やがて来る春をじっと待つ。そんな当たり前の時の流れが羨ましくも、憎らしくも感じた。

こうして、瞳と二人っきりで過ごせる時間はあとそんなに長くない。

春になれば瞳は東京に来ると言っていた。でも、東京のどこに行くのかもわからない、東京と言っても意外と広い。今まで瞳が東京の大学にいたのに、その4年間まったく音信不通だった。


この秋田より狭い隔離されたところなのに・・・


胸のあたりがもやもやとしながら、とても痛い。

「あら、どうしたの?黙り込んじゃって、磨緒くん」

瞳が俺の顔を覗き込む

瞳の顔がすぐ近くにまで迫っている。さらりとした髪が彼女のほほを数本流れた。

気が付き目に出来るのは彼女の顔ではなく、あの薄い桜色をした控えめな唇だけ。

そのまま彼女を抱き上げその唇にキスをした・・・かった。

もう寸前のところで、理性が勝った。

「ご、ごめん。俺、タバコ吸いたいから」

瞳に言われたようにドアを開け、咥えたタバコに火をつけた。

「ふう」

落ち着いたとは言えないが、歯止めが利かなくなるのは防げた。

もし今、瞳にキスをしてしまったら、多分俺の理性は吹っ飛んでいたに違いない。

無理やり、でも、もう止められない。

どこまでも、どこまでも。

自分が収まるまでその行動は続いていたに違いない、彼女のことは関係なく、自分の欲望が満たされれば
それでいい様に。

片足ギブスの小僧に、何が出来たかもわからないままに。

「ん、もう」

瞳は車を降り、助手席側の後部ドアに乗りかかり

「私も吸っちゃおう」

ポッケからタバコを取り出し、くわえたタバコに火をつけた。

「瞳もそのタバコ吸うんだ」

彼女が火をつけたタバコは、俺が吸っているタバコと同じ洋銘柄。

「あ、これぇ、別にそういうわけじゃないけど、磨緒くんのと同じのにしただけよ。だって買うとき楽だ
し、こっちじゃ磨緒くんタバコ買えないでしょ。未成年者なんだし」

「い、いや、そこまで気ぃ使わなくてもいいよ」

「まぁ、そっちこそ遠慮しちゃって、大丈夫よ、これ前に吸っていたからいいのよ」



前に吸っていたタバコ。



少し、その言葉が気になった。 
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