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君に出会ったあの日を忘れない  作者:さかき原 枝都は
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雪の中で

この物語には未成年者(高校生)が飲酒喫煙をする場面が幾度となく現れます。
現実、未成年者の飲酒喫煙は法律で禁止されています。



 人を好きになることと、人を愛することは違う。

 私は、今まで大きな恋を1度は経験してきたつもりだった。そして大きな恋の終わりも

 それは、妻子ある人との恋。

 彼も、私も本気だった。

 お互い、自分たちの立場を超えて。周りのいらない言葉を払い捨てながら。

 彼は、私の通う音大の講師。

 彼は私にピアノを教えてくれた。

 好きで始めたピアノ。中学の時に吹奏楽部で初めて出会ったピアノ。

 ピアノは、私を変えてくれた。そして彼に巡り会わせてくれた。

 彼はピアノを教えるのと同じように、彼を好きになるように教えてくれた。

 だから、私はピアノと彼をもっと好きになった。

 でもそれは、どこか後ろめたく、冷たく寂しかった。


 時間が経てば経つほど、その寂しさは大きくなり、私を支配してしまう。


 いつの日か、彼の家の前で彼の家族を彼と共に見た。



 小学生低学年くらいの女の子と、彼と同じくらいか少し若く見える奥さんであろうと思われる女性。
 その彼の表情も、その近くにいる女性の表情も穏やかで幸せそうに見えた。

 何より、その女の子の愛くるしい面影は、二人の弛みない愛情が注ぎこまれた証拠だった。

 そんな彼の家族を見ても、彼の幸せそうな面影を見ても、私は彼が好きだった。


 好きだった


 好き。

 私も彼も、本気で好きだった。

 幾度となくお互いの肌を重ね合わせても、好きと言う言葉だけしかなかった。

 彼は私に、ピアノと彼を好きになることを教えてくれた。

 そして、もう一つ。
「彼を好きになる事と、彼を愛することは違う事」を教えてくれた。


 彼が九州の大学へ移籍するとき、一緒に来てほしいと言われた。

 でも私は、行くのを断った。

 彼は、その瞬間まで私を愛していると言ってくれなかった。

 それは、私も同じだった。

 彼と過ごした時間は今の私にとって思い出のかけらだけど、今でもあの人が奏でるノクターン第2番は私の耳に残っている。


 暗闇の恋を思い出させるかのように。



 ・・・・・・・・・・ 
「ねぇ、磨緒くーん。今日はどうするの?」

「もち、泊まっていくさ。だってもう飲んじゃったもぉん。」

 磨緒は甘えた声で答えた。

 彼女は少しうれしそうに

「磨緒くんおうちには連絡しなくていいの?」

 台所から料理をする音と、美味しそうなにおいが磨緒の鼻をそそらせる。

「ん、大丈夫だよ。麻美にSNSで連絡しておいたから、唯人のところに泊まるって」

「またぁ唯人君とこぉぅ。そろそろやばいんじゃない、毎回同じところで」

 彼女は心配そうに言う

「大丈夫さ、麻美ねえはそういうのうまいからさ。それに・・・」

「本当にもう、麻美さん様様ね。それで明日の準備大丈夫なの?」

 そおっと彼女の後ろに立ち、静かに彼女を抱きかかえながら、耳元で

「教科書は万年ロッカーの肥しだよ。何よりここに、学校の先生がいるから心配ないさ」

「まったくもう、う、うん・・・磨緒くん飲みすぎ」

 優しく彼女の唇にキスをし、ゆっくりと首筋に自分の唇を這わせた。


「ねぇ、ちょっと磨緒くん・・・ん・あ、ま、まお、く・ん・・・ご、ご飯食べてか・ら・・・・」

「お、俺、腹減りすぎて、もう我慢できない。先生・・・瞳を食べないと治まらない・・・」

 ドサッ。二人はキッチンの床に倒れこんだ

「ま、磨緒くん、磨緒く・ん・・・」


「アイ(瞳)・・・」

 IHコンロにかけた鍋のお湯が湯気をたたえ沸騰し始めていた。

 でも俺は、彼女を強く抱きしめていた。

 彼女がどこにも行かない様に

 いつの頃からだろう。

 彼女の好きだった男性ひとがアイと呼んでいたように、俺も瞳を「アイ」と呼ぶようになっていた。

 いとこだろうが、年が離れていようが

 そして、同じ高校の教師と生徒であろうが・・・

 二人の愛は、永遠に絶えることがないと・・・・・・・俺は、信じている。


 共に息絶えるまで、俺たちは愛し続けると。












 ♦ 引きよされる運命 6年ぶりの再会

 高校2年の12月中旬ころ、秋田の叔父から一本の電話が来た。

「ハイ、藤崎でございます。あら、兄さんどうしたの・・・・・」

 ペンションを経営している叔父は、磨緒も来年は大学の受験もあるし冬休みを利用して久しぶりに来てみないかということだった。

 むろん始めは家族でとのことだったが、親父もお袋も年末は何かと忙しい仕事をしている。

 仕事も三が日までびっしりだ。だからそのあとは家でゆっくりしていたいらしい。

 そして4歳上の姉は、大学のサークルで企画した旅行へ行く予定になっていた。

 こうなれば俺一人でもよかった。

 だが、期末試験開始の一週間前に悪友の須郷多唯人すごうだゆいとにうっかり話してしまった。

「なんだよそれ、いいじゃん。俺、秋田にはいったことないから一緒に行こうぜ」
 唯人はさっそく乗ってきた。

 その話を何気なく聞いていた同じクラスの宮下優子みやしたゆうこ

「ねぇ、それ、私も一緒に行ってもいいかしら」と話に加わった。

「え、でも男二人に女一人じゃ何かといわれるんじゃないか」

 まあ、特別そんなことは多分彼女とはない予定だから大丈夫だと思うが、周りの目がうるさそうに感じた。

「あら、そういうことなら大丈夫よ」

 彼女はそう言ってすたすたと隣のクラスに向かい

「この子も一緒に行けば2対2だし、女一人よりはずっといいんじゃない」

「え、あ、あのう、何のことですか?」

 訳も分からず隣のクラスから連れてこられた彼女は町田実来まちだみく少しおとなしめの彼女は、まさか一緒にいくとは言わないだろう。

 そう思っていた。でも、誤算だった。

「磨緒くんに唯人君、優子ちゃんがいくの?」

 彼女はちらっと俺の顔を見て

「それなら、私もいこっかなぁ」

 意外にも実来も参加を打ち出した。もし実来がいかないと言ってくれれば、それを口実に優子も断ることが出来たんだが、もろくもそれは崩れ去った。

「ヤッター、それじゃこの4人で行くということで決まりね。それじゃ磨緒くん、おじさまに4人で行くからって連絡しておいてね。あ、そうそう、学割も申請しなきゃ」

 ウキウキとスキップをしながら優子は教務室に向かった。

「はぁ、大丈夫かよあいつ」

 唯人はあきれたように大きくため息をついた。

「本当に大丈夫なの実来ちゃん、無理してない」

 俺はもう一度実来ちゃんに確かめた。

「うん、大丈夫よ。無理してなんかしないわよ。本当に私もいきたいから言ったのよ」

 彼女は微笑みながらそう言った。

 結局僕ら4人、いつものメンバーで秋田に行くことになった。

 散々な結果と共に期末試験は終わり、新たな年を迎えた俺らは予定通り、東京駅の東北新幹線ホームに来ていた。


「おい、優子まだ来ていないぞ」



 新幹線の発射の時刻はすぐそこまで迫っていた。

「磨緒、電話してみろよ、何かあったんじゃないか」

 唯人が心配そうに俺に言う。

「うん、そうしてみるよ」

 俺はスマホを取り出し優子に電話をかけようとした。すると

 ゴロゴロゴロゴロ

「ごめーーん、遅くなって」

 大きなキャリーケースを引きながら優子がやってきた。

「ごめん、ごめん。荷物重くってさ」

「どうしたのその大きなケース?」俺は優子に聞いてみた

「どうしたのって、いろいろ準備したらこんなにいっぱいになっちゃって・・・」

「いっぱいになったて、一体何もってきたのさ」

 唯人があきれながら優子に言った

「何って、女の子はいろいろもの入りなのよ。それにみんなの分の「旅のお供セット」も持ってきたんだから・・・・」


「旅のお供セット???なんだそれ」


 彼女は新幹線の中でみんなで食べられるように、スナック菓子やおつまみをごっそり持ってきていた。ビールとタバコがひそかに忍んでいることは暗黙の了解ということで・・・・


「そうそう、出がけに兄貴がさぁ旅に出るんだったら、これも女の子のたしなみだぞって渡してくれたんだけど。これ何なの?みんなで風船でもしろっていうの?」

 不思議そうな顔をして優子は、肩掛けのバックから小箱を取り出した。



「楽しい人生を踏み出そう・・・0.01mm6個入り」


「あっ」実来が思わず声を漏らし

「ば、ばか、お前それ」

 唯人が慌てて取り上げようとした。

 優子はそれをひょいとかわした。

「だから、何なのよ これ!」

 実来が優子の耳に口を当てごにょごにょと小声で話し出した。

 優子はそれを聞きながら次第に顔を赤らめていった。

「あ、うぅん。そ、それじゃみんなもう乗りましょう。そろそろ発車の時間だし」

「うんしょっと」優子はぎこちなく列車に乗車した。

 そんな優子を見て唯人は

「まったく先が思いやられるぜ。なぁ磨緒」

「ハハハ、だね」
 俺は笑うしかなかった。

 定刻の時間に新幹線「こまち」は、その赤と白の車体を流れるように、「はやぶさ」を連結しながら東京駅のホームを後にした。

 途中、盛岡駅で「はやぶさ」と別れ「こまち」は高架軌道から外れ山々が連なる山脈へ続く軌道を走り出した。

「うわ、雪」

 一面に積もった雪を見て優子は、爆睡している俺たちをおこした。

「う、う、なんだよう」

「わぁぁ」

 一面に広がる雪景色、この景色を見るのは本当に久しぶりだった。


「もう少しで着くから準備しておこう」

 新幹線は駅に着き、俺らは列車を降りた。

 そして、俺は6年ぶりにこの秋田の地を踏んだ。

「はっくしょん。おぉさびぃぃ」

 唯人は震えながらくしゃみをする。

 叔父さんが駅まで迎えに来てくれることになっている。俺は駅の駐車場にある車を見回した。

「おぅい、磨緒」その声の方を見ると叔父さんが手をふっているのが目に入った。

「よく来たな、疲れなかったか」

 久しぶりに会う叔父さんは少し老けたかなと思った。でも昔の面影と何も変わっていなかった。相変わらずダンディなバーのマスターといった感じが・・・

「はい、大丈夫です。これからお世話になります」

「しばらく見ないうちに立派になったな磨緒。後ろにいるのが友達かい」

 3人は声をそろえて

「よろしくお願いしまーーす」

「さすが若いだけあって元気がいいな。寒いから車に乗って出発しよう」

 車から見るペンションまでの道は昔と何も変わっていなかった。
 おぼろげに覚えている風景は、新たに脳裏に焼き付く。
 あのペンションの建物も持っていた記憶と同じものだった。

 バンガロー風の木造の建物
 その奥にある大きなモミの木
 何も変わっていなかった。

 少し雰囲気が違うと言えば、今は冬でありあたり一面雪が振る積もっていることと、入り口横にある広いウッドデッキにうっすらと雪が積もっているくらいだろう。

「わぁ、暖炉がある」
 優子は中に入るなりはしゃぎだした。

「元気だね、あの子・・・」

 あきれたように言うと奥から叔母さんがやってきた。

 叔母さんも変わっていなかった。相変わらずの美人で明るくて気さくな人だ。

 はしゃいでいる優子と気が合うようで、ほんの数秒で2人でわんやわんや話し出していた。

「磨緒、どうする。荷物片づけたら一滑りでもしてくるか」

「お、いいね。俺は滑りたくてうずうずしてる」
 唯人大丈夫か、お前はスキー確か初めてだったよな

「はは、そうか、だったらこれを持っていきなさい」

 叔父さんは俺らにリフトとレンタルスキーの割引券をそれぞれに手渡してくれた。

「それと初心者さんはインストラクターがいるから教えてもらえるぞ」

 今やスキー場にはインストラクター付きでスキーを習える時代なんだ

「あ、そうだ磨緒」
「なんですか叔父さん」

「あ、いや・・・そうか今日は休みか。いや何でもない、さぁ早く行ってこい」

「おっさきー」
 唯人は一番先にスキー場に向かった。俺らもそのあとを追うように白銀のゲレンデへ赴いた。

 生涯2度目のスキー。

 幼少のころ、何度かこのペンションには遊びに来ていた。

 いや、実際半年ほどこの地で生活をしていた。でもそれはどれもが夏であり、雪の降る前の事だった。

 唯一、1度だけ正月をこのペンションで過ごしたことがあった。

 初めてスキーに乗ったのはその時だった。
 スキー初心者は、俺だけじゃない。
 唯人、優子、実来この3人も例外ではない。

 初めこそはみんなぎこちない、たどたどしい滑りだったがコツをつかむと意外とみんなそれなりに、いっぱしのスキヤー気取りで滑れるくらいにはなっていた。

 調子付いた俺は3人と離れ、無謀にも反対側の斜面を目指しロープウェイに乗った。

 山頂から見下ろすその斜面は、思わず崖のふちに立っているかのように急斜面で、両脇にそびえたつ木々が威圧感を与えていた。

「ま、何とかなるっしょ」

 だが、スキーになれない俺は傾斜を暴走しながら滑走していった。

 無我夢中で助けを叫んだ

 スキーはさらに加速を増していった。

 このスピードで、無事に止まることのすべを知れない俺は、焦りと共に恐怖を感じ自分ではもうどうにもならないことを感じ取った。


 次の瞬間、左の肩に「どん」と体当たりされた
 その反動でバランスを崩し転倒した。

 ガシャン、ザー

 磨緒は転倒しながらその傾斜を滑り出す。
 そして、コースを外れ深雪のある雪の中に突っ込んだ。

 なにが起きたのか分からないまま磨緒はしばらくぼ~と雪にうずもれていた。


「ねぇ、君。大丈夫」



 どこからか聞こえてくる女性の声を耳にして磨緒は我にかえった。

「あたたた、つ、ツメてぇ」
「君、怪我なかった」

 雪にうずもれながらその声の方をに目をやると、そこにはカラフルなスキーウエアーをまとった女性が、ストックを支えにし、雪にうずくまった俺を覗き込んでいた。

「ねぇ、生きてる?それとも死んでるぅ?」

 とぼけた調子で彼女は僕に問いかける

「あのなぁ、死んでる人間が動くか、しゃべるか、普通」

 少しむかついた。

「まぁ、それだけ言えるんなら大丈夫そうね。でも、見たところ初心者のあなたが、この上級コースを滑るなんて無謀としか思えないわ。身の程知らずもいいところね。それにまずは、お礼が先じゃない。助けられたんですもの」

「うっ」

 まったく痛いところをずけずけと言い放つ女だ。

 でも、確かに彼女の言うのも一理ある。

 ここが上級コースであることが知らなくても、この傾斜を見れば少なからずともスピードが出ることくらいは分かっていたはず、スキー初心者の俺が、まぁ何とかなるだろうと軽い気持ちで滑ったのがまちがいであることは。

 でも、彼女の言葉にはチクチク刺さるとげを感じた。
 きっと、こんなに偉そうに初対面の男にずけずけと言える女に美人はいないだろう。

 あのゴーグルの下に隠されているのは「なま○げ」のようなイカツイ顔に違いない。

 俺はようやく雪にうずもれた体を起こし、体中にまとわりついた雪を払い暑苦しくなったゴーグルと帽子を取った。そして彼女を見上げ

「どうも、助けてくれてありがとうございましたっ」

 少し、とげを返すように彼女に礼を言った。
 彼女はその口調に少し怪訝そうに

「どういたしまして」

 そして、ゴーグルを取った俺の顔を覗き込んで
「あっ」と言うなり俺に指を指した。

「も、もしかして、磨緒くん?」

 彼女は恐る恐る問いかけた。

「はぁ?」

 なんでいきなり人の名を呼ぶ?

「ど、どうして俺の名前知ってんだ」

 俺は驚いて彼女を問いただした。

 彼女はクスッとゴーグル越しに微笑み

「そう、それ、磨緒くんの驚いたときのその表情。変わってないなぁ」
「だ、だれなんだ、あなたは」

「あら、解らない。私よ、わ・た・し、瞳よ」

 彼女はそう言って付けていたゴーグルと帽子を脱ぎ去った。

 そこには、長い黒髪をさらさらとなびかせ、小顔で長いまつ毛にクリッとした瞳、そしてスッとした鼻立ちとつるんとした頬に控えめな柔らかい唇が印相的な女性がいた。

 それはどこの誰が見ても美人としか表現が出来ない顔立ちだった。

「瞳?」

「そうよ、瞳よ。6年ぶりかしら」

 彼女の6年ぶりの言葉に俺は愕然とした。
 6年という歳月は人を、いや、女性をこんなにも変えてしまうものかと


 彼女は「墨田 瞳」7歳上のいとこ


 俺が初めて瞳と出会ったのは、いやもっと幼いころにあってはいるんだろうが、物心が付き瞳を認識できたのは小学校の低学年の頃だったと思う。

 そのころ瞳はすでに中学生だった。
 俺が持つ中学時代の瞳の姿は、瘦せ型でおかっぱ頭の女の子。

 元気で明るくて活発で、喧嘩が強くて、そこらのガキ大将も手を出せないほどのやんちゃな女の子だった。

 その当時、俺はこの地でおよそ半年間生活をした。

 なぜなら、両親が離婚したからだ。

 俺を引き取り生活が安定するまで、お袋は俺を一人実家のこのペンションに預け東京で働いていた。

 突如に変わってしまった生活に俺は馴染めずいつも泣いていた。一人になってしまった寂しさに耐え切れなかった。

 そんな俺を瞳は、いつも見守ってくれていた。年の離れた弟のように

 最後彼女に出会ったのは、彼女が高校3年生の夏。

 ちょうど夏季合宿セミナーに彼女は参加をしていて、俺らが東京に帰るときに新幹線のドアが閉まる直前に小さなお守りを手渡してくれた。

 よっぱど急いできたんだろう。閉まるドア越しに見た瞳は肩を大きく揺らし、たえどなく息をしながら、やっとの思いで手を振っていた。

 片方の手の平で涙をすくいながら

 俺にとって懐かしく思い出す瞳の面影は、いまだにあのおかっぱ頭の瞳にしかないのだから。

「ずいぶん変わったなぁ瞳」

「あら、それを言うなら磨緒くんだってだいぶ変わったわよ。あの泣き虫磨緒ちゃんがこんなに大きくなって・・・それにちょっといい感じじゃない」

 瞳にそういわれ少し照れ臭そうになった。お互いの持つ面影はあの時から少しも進んでいないのだから仕方がないだろう。

 時折冷たい風が二人の間をすり抜ける。

「いつまでそうしているつもり磨緒くん。もうじき吹雪いてくるわ、急いでおりましょ」

 そう言って彼女は手を指し伸ばした。

 その手を取り、立ち上がろうとした瞬間、ズキンと右足に激痛が走る。

「痛っ」

 立ち上がろうとした足に力が入らずそのまま瞳に体が倒れこんだ。

 彼女は倒れこんだ体を支えようと俺の体に抱き着いた。

 彼女のさらさらとした長い髪が俺の顔をかすめる。

「大丈夫磨緒くん」

 彼女の声が耳元で聞こえる。


 痛さは次第に大きくなり俺の意識は瞳の甘くやわらかな香りと共に遠くなっていった。
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