物書きになろうよPDFで表示縦書き表示RDF



 ■ 警 告 ■

 この作品はパロディを含んでいます。
 ご理解できない方、不調を訴える方はお読みにならないで下さい。
物書きになろうよ
作:D



 時は20XX年。

 世の中、ほんとうに便利になったものだ。

「タダで小説が読めるなんて、素晴らしい! しかも携帯電話よ、ざまぁみなさいっ! おーっほっほっほ!」

 私は美しい(と思っている)顔が歪むのも構わず高らかに哄笑した。

 インターネット。そう、時代はWeb2.0。情報はずいぶんと安くなった。広告収入のおかげでウェブサイトは無料モデルで展開させることができる。だから私たちは無料で情報を仕入れることができる。

 そして、私のイチオシはこれ。

 『物書きになろうよ』――インターネットを通じ、パソコンと携帯で利用者が小説を書いたり、それを読んだりできる素晴らしいサイトなのだ。しかも無料。

 もう、文明開化様々なのである!

「ふふっ、ちょっと昔の原始人どもが、きっとあの世で恨めしく思ってるわねっ! あら嫌だ、呪われちゃうじゃない!」

 もう笑いが止まらない。

 私は容姿端麗で可憐な美少女(と思っている)高校生だが、自分の鍵のかかった部屋に一人いるので羽目を外しすぎて困ることなどない。むしろストレス解消よ!

「あーっはっはっはっは!」

 ちなみに、私は例えるならオードリー・ヘップバーンのような小悪魔的な美しさと天使のよ
うな可愛らしさを兼ね備えていて……なんで女子高生がそんな古い女優を知ってるんだって?

 しかも日本人だろ、ですってぇ?

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 この地球に彼女を知らない女性はいないわ(いる)、それに、いつ日本人だなんて言ったのよ! どこからどう見ても大和撫子です。ありがとうございました。

「ぎゃーはっはっはっは……あいったたた、顎が外れそうになったわ……」

 羽目じゃなくて顎を外してどうする。

 私は自分に突っ込んで、ちょっと落ち着くことにした。顎を外したくないからだ。違った。小説の評価をしなければならないからだ。

「うーん、いまのはイマイチだったわね! クソ小説読ませんじゃねーよ、と小一時間ry」

 評価する。

 なんて甘美な響きなのだろう! 私は他人の小説を評価する権利があるのだ――まあ、読者なら誰でも評価できるのだけど――つまり、褒めるもボロクソにするのも私の気分次第。ということは私は女王様!?

「ほーっほっほっほ、愚民どもに時間を割いてあげてるだけでも感謝なさい!」

 ちょ、ちょっと待て。

 私は暴走する自分を止めた。

 評価は確かに自由に行えるが、気分次第で上げたり下げたりしてはいけない。それは『荒らし』といって卑劣で愚劣で公然猥褻(違う)な行為。この私がそんな真似をすると思って?

「でもやっぱり、いま読んだ小説はダメだわ! だから星はひとつね」

 携帯画面のなかに星が並んでいる。

 このサイトでは小説の評価に星を使っているのだ。★←こんなの。で、五段階評価なのだが、もちろん星が少ないほど出来が悪い作品という烙印を押される。

「ふふふ……」

 私は口の端を吊り上げる。

 いよいよメインデッシュ。小説は読者が評価してやっと完成するのだ。ちょっと乱暴に言えば『止めを刺す』わけだ。何か間違ってる気がするけど、気にしたら負けだぞー。

「死ねぇえええええええええっ!」

 絶叫し、私は星ひとつを設定した。

 カ・イ・カ・ンっ……私は痺れるような恍惚に顔を歪ませて呟いた。端から見るとアブナイような。まあ見てる人なんていないし、全然モウマンタイ。古っ。

「……あれ?」

 一転、私は眉間に皺を寄せた。

 星を設定したあと、いつもなら小説の情報画面に戻るはずなのだ。しかし画面は見たこともない文章が表示されている。

『おいおい、それでいいのかい?』

 何だこれは。

 私は画面を凝視した。まるでそれは私に向けて問いかけているような、そんな内容だ。つまり、評価はそれでいいのか、と。しかもどこか挑戦的。馬鹿げている。今までそんなことはなかった。

 これはバグか何かだろう。

「だめだ、元のページに戻れない?」

 変だ。

 携帯を操作するが画面は変わらない。

 壊れてしまったのだろうか。どうしようかと悩んでいると、文章の下に、こちらが文章を入力できる項目があるのに気付く。

 質問に答えなければ解除されない仕組みらしい。

「面倒ねぇ……いいわ、付き合ってあげる」

 私はそのまま文章を入力した。

 バグだろうと何だろうと、売られた喧嘩を買わない女はいない。いるって。

『驚くのも無理はない。私は携帯電話の妖精――おい、裏の電池を取るのはやめろ! コホン、信じたくないのはわかるが、これが現実だ』

 驚いた。

 電池を引っこ抜いて強制的に電源を落とすつもりだったのだが、読まれている。

 これってもしかして本物? 携帯電話の妖精? 私ヤバイ?

「どういうこと?」

 私は思わず疑問を入力した。

 今回も文章を入力できる項目があったからだ。

 この妖精だか何だか、私と会話をしようってつもりなのだろう。幻覚を見てるとしたら私の頭は相当ヤバイことになっているが、幻覚を見てる人はそうだと気付かないもの――どっちみち逃げられない。

『ありがとう、どうやら信じてくれたらしいな。妖精とは呼びにくいだろうからジョニーとでも呼んでくれ(笑)』

 笑、じゃねーよっ!

 ジョニーって、思いっきり適当じゃん! 私はうめいた。

 しかし同時に、甘酸っぱい感情が押し寄せる。金髪碧眼の西洋系美男子を妄想、いや想像したからだ。

 ジョニーという名前に悪人はいない――と私の辞書に書かれている。いや、ほんとうに書いてます(笑)。使ってみた。

「素敵な名前ね! ジョニーってどんな感じなの?」

 思わずヨダレがこぼれる。

 い、いえ、まさかっ。そんなハシタナイ真似はしませんことよ! おほほほほ。

 そうこう――ヨダレを拭いていると――してると、新しい文章が表示された。そうこう、の後は気にしないでいいわよ!

『で、早速なんだが。さっきの評価は妥当じゃないと思うぞ、うん』

 無視された。

 そうだ、考えてみればヤツは携帯電話の妖精――西洋系美男子のはずがない! がっかりした私はその後、高熱に浮かされ三日三晩生死の境をさ迷った。

『いや無視したわけじゃない。でもこれは重要なことなんだよ。わかってちょ』

 全然重要に聞こえねー。

 妄想から現実に引き戻されたのは、新しい文章が自動的に表示されたからだ。重要なことって、あの評価のことだろうか。

「なんで?」

 疑問をそのまんま入力した。

 携帯電話の妖精が小説の評価を気にするなんてあまりにもおかしい。変だ。

『何故なら、君はよく考えもしないで評価してしまったからだ。作品の評価は個人の好みで決めてはいけない。それは冒涜だ。携帯電話の神様、マイケル様への冒涜だ!』

 ジョニーは悲痛な叫び声をあげた。

 というか、文章の最後にビックリマークがついていた。新しく登場したそのマイケル様がどう関係するが知らないが、個人の好みで評価してはいけないという一文に疑問をもつ。

「だって、ツマラナイんだもの! 私はもっとディープな描写を求めているのよ、綺麗な文章で誤魔化せると思ったら大間違い――それは神聖な行為なの!」

 何の話かなんてとても言えない。

 だって私は可憐な美少ry(今更だけど、略の略って意味よ。どこまで略せば気が済むのかしら)。それはともかく、私はビックリマークを使って叫び返した。

 そもそも、私の評価にケチつけるなんて何様のつもりかしら(笑)。むぅ、使いどころ間違えた。

『落ち着くんだ。君の好みに文句を言うつもりはない……』

 ジョニーはなだめるように呟く。

『ただ、評価は公平に行わなければいけないんだ。例えばハッピーエンドを期待したのにバッドエンドだったから星ひとつ、なんて横柄だろう? そうじゃなくて、作品の足りないところや、特に優れているところを評価すべきなんだ』

 言いたいことはわかる気がする。

 極論だけど、携帯電話の妖精が嫌いなのに、ある小説に携帯電話の妖精が出たからと言って評価を下げるなんて理不尽にもほどがあると、そういうことだろう。私もその一人かもしれない――だって、携帯電話の妖精が嫌いになっていたから。あれ、論点ずれてる?

「もういい、わかったから消えてよ」

 私はうんざりして入力した。

 なぜいちいち説教されなければならないのだ。よく考えてみれば、ジョニーに小説の評価なんて関係ないはずだ。わけのわからないヤツと口論しても時間の無駄だ。

『……君が最適な判断を下すことを信じているよ』

 そうキザっぽく言い残して、ジョニーは消えた。

 正確には、元の画面に戻っていた。私が評価した小説の情報の画面。まだ評価されていない――あの妖精が元に戻したのだろう。もう一度よく考えろ、と。

「なんだったんだろう」

 呆然として呟く。

 夢でも見ていたのだろうか。いや、夢であって欲しかった。ジョニーなんて名前の妖精がいるなんて信じたくなかった。おまけにマイケルも。

「そうだ、評価しなくちゃね……」

 我に返って携帯電話を握る。

 考えるまでもなく、私は私なりの決断を下した。きっと間違ってないはずだ――これでいいんだ。 

「明日も早いし、もう寝よう」

 時計を見て思い出す。

 すでに深夜を回っている。ジョニーのせいですっかり夜更かししてしまった。明日になれば全て終わるだろう。私はそう確信していた。

 そして翌日。

 金髪碧眼の美男子が現れて、私にお礼を言った。

 彼はジョニーと名乗り、望むなら私も同じ世界に連れて行けると言った。だが私は首をブンブンと力強く振って否定した。ジョニーは小麦色の肌をしたマッチョな青年――マイケルと手を握っていたからだ。

 そんな悪夢を見た。

「ああ、気分悪い……昨夜、あんなことがあったせいね」

 そう言って思い出す。

 私は寝起き一番、携帯電話を開いた。目的の『物書きになろうよ』のサイトに接続したのだった。

 トップページに『お詫び』の一文が表示されている。それを選択すると本文へのページへ飛
ぶことができた。

 それにはこう書かれている。

『どうも、こんにちは。このサイトの管理人、モデルト・ハイッサイカン・ケイアリマセーンです。昨夜、とうとうサイバーポリスに通報されたので要請どおり仕方なく白状します。私は皆さんに黙って小説をアップしていました。管理人の小説とバレたら叩かれるのは明白――そう考えたので黙っていました。お詫びします』

 しかしまだ本文は続く。

『でも、せっかく書いたのだから評価して欲しかった。読者の採点が欲しかったのです。しかし、酷評はイヤです。ええ、ワガママです。ジレンマです。そこで、あるウィルス・プログラムを私の小説にだけ仕掛けました。それは――』

 もう、十分だ。

 私はそこまで読んで満足し、携帯電話を閉じた。その先にはどんなプログラムだったのか説明があったからだ。

 反省もしてるし、もう問題は起きないだろう。

「がっかりだわ……」

 私は眩暈すら覚えて唸った。

 ジョニーはやはり存在しなかったが、残念な気がしていた。私は彼にお礼を言いたかったのだ。

「私が間違ってたわ。それを教えてくれたのは、あの妖精」

 そう、私は間違っていた。

「やっぱり――やっぱりただの美男子よりマッチョ男子のほうがいいわ! 小麦色の肌に隆々とした肉体っ! これからはマッチョ男子の時代よ! おーっほっほっほ!」

 私はいつまでも、夢で見たマイケルの姿に思い馳せていた。

 ……言い忘れていたけど、もうひとつ。

 小説の評価は今度からちゃんと読んで、良いところも悪いところもしっかり見つけてあげようと思う。それが読者に許された最高の特権なのだから。

 おーっほっほっほっほ!


 登場人物・団体等名称は架空のものです。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう