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首吊り小屋は今日も賑やか 作者:Pー龍
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夜明けの珈琲はブラックで

この物語はタイトルだけ決まっていてほったらかしていたモノです。つい書き始めてしまいましたが、プロットもまったく無しの見切り発車状態。次の展開がどうなるのか作者にもさっぱりわかりません。アイデアあったらお知らせください。当分は先の展開を思いつき次第の不定期投稿にしようかなと考えております。最低週刊にはしたいとは考えておりますがどうなることでしょう?

長台詞を一部解消するため加筆修正を加えました。(4/1.21時) 
 黒で塗りつぶされた世界、新月の夜。

 空に散りばめられた小さな星々、満天の星空によって差し込むほんのわずかな銀の光によってなんとか目の前にある物体のシルエットを確認することが出来る、そんな暗闇が続いていた。

 それはわずか一瞬のことだったのかもしれないし、永劫のごとき時間経過だったのかもしれない。とにかくも時は地上を流れていった。
 時とは等しくもあり相対的なものでもある。

 やがて辺りの空気がわずかに変わり、風が変わり、肌触りが変わっていった。
 ほんのわずかずつではあったけれど、たしかに変化の兆しはあったのだ。東の空に滲む紫の染み。そのわずかな滲みがたっぷりと時間を掛けてだんだん広がっていく。

 ようやく夜の帳がその幕を仕舞いこもうと、地平線の先そのさらにはるか彼方から今まさに昇らんとする太陽の周りを照らす光がうっすらと覗いている。

 空は灰色、地平は紫に染まり、森は深緑、田畑は緑、川は群青、だんだんとこの世界に色が溢れ出そうとしている。

 森の木立からはうっすらと水蒸気が立ち上り、それはまとまって白い靄となり、やがて靄は霧となり、その霧はどんどん深くなっていった。

 目を凝らしてみても前方がまるで見えぬほどに濃い霧の中、提灯に灯った明かりのようなものが微かに彼方で揺れている。あれは新聞配達を生業とする男が手に提げた灯りでもあろうか。それともさまよう魂が灯しだす妖しの光であろうか。

 辺りは幻想的な白で覆いつくされた世界となり、朝日はその白をぐんぐんと朱く染め抜いていった。

 屋外の気温もわずかずつながら上昇していき、肌寒さは解けて温い微風が感じられるようになっていた。森に潜む獣たちはそれぞれのねぐらの中で寒さに強張ったおのれの身体をゆるめていることだろう。

 そのうち白の世界を突き破り太陽が顔を出すと、雄鶏たちのけたたましい鳴き声が順番に村へと響きわたっていく。これにより朝の到来を村人たちは知り、目を覚ましていく。

 目を覚ましたのは人だけではなく、村で暮らす犬や猫たちもまた朝の到来を知る。彼らもまた主人の目を覚まそうと競い合うように吠え、鳴くのだった。

 気温の上昇とともに晴れていく白の世界。霧は徐々に透明度を増していき、視界がぼんやりと開けてくる。


 此処は深い山の奥の奥のそのまた奥のさらに奥、地図には載っているけれど誰も知らない友嶺村、三首集落。
 首吊り小屋の朝は早い。今日も早朝から新しい仲間がやって来たようだ。

 朽ち果てた外見のその小屋の中には外見とは不釣り合いなオフィスデスクが置かれ、デスクに座るスーツ姿の人物が1人。その向かいには丸太を適当な長さに切った椅子、その椅子の前にはもう1人の登山客のような姿をした男が立っていた。

「ようこそ首吊り小屋へ。よく此処の場所がわかりましたね。随分と迷ったんじゃないですか? まぁどうぞ、ともかくそこへお座りください。生憎こんな椅子しかありませんが。」

「おはようございます。どうも初めまして、よろしくおねがいします。じゃちょっと失礼して座らせてもらいます。」

「こちらこそ、はじめまして。この首吊り小屋と呼ばれている小屋で自殺志願者の皆さんの世話役のようなことをやらせてもらっている神様のジェームス橘と申します。はい神様ですが、それがどうかしましたか? では、まずお名前からお聞かせください。」

「はい。僕の名前は戸尾(とお)三四朗(さんしろう)といいます。――――現世ではしがない建築会社の社長なんてのをやっておりました。申し訳ありません、最近じゃ名刺も切らしていましてね。」

「構いませんよ。ここに来る人で名刺をお持ちの方は少数派ですからね。ではこのカウンセリングシートにお名前とフリガナを記入していただけますか。――――ありがとうございました。いくつか質問させていただきます。ではまず、ここに来るに至った経緯などお聞きしてもよろしいでしょうか。」

「はい。実は去年柄にもなく大きな仕事を請け負いました。俺の会社はこれから始まるんだ、良しやってやるぞと社員を倍に増やしまして、これでイケると張り切っていたところだったんですけど、その仕事先が不渡りを出しちゃいまして、そこの社長が飛んだんです。逃げだしたんですよ。会社の金を全部持ち逃げして東南アジアに潜伏してるんじゃないかっていう噂でした。でも今ごろはきっとその持ち逃げした金も現地で使い切ってホームレスでもやってるんじゃないかって思うと少しは気が晴れます。前金が期日通りに頂けなかった時点でちょっと怪しいなとは思ってたんですよ。当時は大きな仕事だからって浮かれちゃってたんでしょうね。怪しいなとは思いながらもあんまり気にしてなかったんです。それでうちの会社も金が回んなくなっちゃって、銀行から警告がありました。それからは金の工面にあちこちの金融屋へと足を運んでの自転車操業が始まりました。あの頃の僕の仕事はもう毎日金融屋さん巡りですよ。そこからお手上げするまではホントにあっという間でした。そのあと今度は僕が債権者に追いかけ回されて、社員には見放されて、家族親戚友人に逃げられて、家は取り上げられてしまった挙句についここへたどりついちゃいました。」

「なるほど、取引先の企業が倒産した結果、あなたが経営していた建設会社も連鎖倒産に至ったわけですね。会社の運営資金を個人で街金(まちきん)から借りた結果自分自身も債務を背負ってしまって周囲の人間が離れて行ってしまったと。」

「えぇそうなんです。こういう時がくれば周囲の仲間や家族なんかが蜘蛛の子を散らすように離れていってしまうってのはこの業界でこれまでにたくさん見聞きしてきました。でもまさか自分がそうなるとは思いもしなかったですね。」

「そうでしょうねぇ。他人の不幸は誰もが笑い話に出来ますけど、そこでいつか自分に帰ってくるかも知れないと思いいたることができる方はそこで何がしかの教訓を得、同じ轍を踏まないものですよ。」

「そうですよねぇ。今更反省してみても遅いんですけど、おっしゃる通りです。何処か人に迷惑を掛けずに済むところでひっそりと死のうと思ったんですよ。でもやっぱり1人で死ぬってのはどうも寂しいですからね、地縛霊になったとしても、ボッチより先輩がいたほうが安心できそうな気がしましてね。でも、こういうのってここじゃ良くある話なんでしょ。」

「そうですね、あなたと似たような境遇の方もこちらにはずいぶんと大勢いらっしゃいました。皆さん何かしら現世にいられない事情を抱えて追い詰められた挙句、どうしようもなくなってこの小屋へとたどり着いた方ばかりです。えぇっとあなたのお名前は戸尾さんでしたかね?」

「はい、戸尾三四朗です。」

「ここにたどり着いた皆さんに私から2つの選択肢をご用意されていただいております。戸尾さんにもちゃんとご用意してありますよ。ではさっそくそのご説明をいたしましょう。まず1つめの選択肢はここでお望み通りに首を吊るという選択ですね。ほら今もそこの梁にロープがひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……何本かぶら下がってますでしょ。あなたの言う先輩方の形見ってヤツですよ。」

「えぇ、この小屋に入ってきた時から気になっておりました。」

「そうでしょう。あなたの視線が私と話している間もしきりとあの梁に向けられて、ずいぶん気にしていたようでしたからね。この小屋は最近じゃ現世の電脳世界で首吊り小屋なんて呼ばれて噂になっているようです。戸尾さんもそれを知ってここにたどり着いたというわけなんですよね。」

「はい。自殺志願者向けのサイトを探していたところ、この小屋の名前にたどり着きまして、そこには此処を目指した自殺志願者は誰も帰って来た者がいないとありました。他にもないかと検索して探してみました。記載されていたわずかな情報を繋ぎあわせてみた結果、多分この辺りなんじゃないかなと。遭難しかけましたが1日掛けてようやく此処へとたどり着きました。」

「此処に来たという時点で、それはもう首を吊りに来たということですからそれはもうお望み通りと言うことですよ。ご自身で既にご用意されてきたのかもしれませんが、こちらでも決して途中で千切れることのない高強度ロープをご用意してあります。代金は頂きますけどね。現金をお持ちでないようでしたら、お支払いは何がしかの物品でも結構です。決して首吊りの邪魔はいたしませんので存分にどうぞ。もしロープの結び方がよくわからないのでしたら、そこにラミネートしたものを貼り出してありますので参考にしてください。梁まで登るための梯子もそこにご用意してあります。さっき戸尾さん、地縛霊が何とかおっしゃってましたが、ここでは死んだあとの行動につきまして私共神様サイドでは特に制限をしておりません。どこへとなくお出掛けされて構いませんよ。移動の自由は保障されております。」

「橘さんは普段こちらの小屋でお仕事をされているわけですか?」

「えぇそうですけど。」

「ここで私がぶら下がった場合、橘さんにご迷惑ではないのでしょうか?」

「後の処理についてですか? それはすべてこの小屋に住みついている虫や鼠たちがやってくれます。よく躾けてありますのでご心配には及びません。あの子たちに全身齧られたとしてもそのころにはもう戸尾さん既に死んでいるんで痛さは感じないはずです。」

「はぁ、ご迷惑ではないということですね。」

「空気清浄器も4台稼働させます。換気扇も2台回します。多少は臭いますけど、これはしょうがない。慣れればどうということはありません。で、もう1つの選択肢なんですがね、こちらがはたしてお気に召すかどうかはわかりませんが、この集落で誰にも気づかれずにひっそりと暮らすという選択になります。」

「債権者に追われることなく暮らすことができるんですか? この集落で?」

「そうですね、この集落は現代における隠れ里のようなものだと考えてくださればいいでしょう。」

「戦国時代の忍者村みたいな感じでしょうか?」

「そんな感じです。同じ村の住民でさえ多くの者はこの集落には住んでいる者は誰もいないと知らされています。真実を知っているのは一握りの協力者だけです。この集落に至るためにはまずは村に入らなければなりません。1時間ほど前に戸尾さんも友嶺村を通過されましたよね。」

「はい、道に迷ってしまってようやく目的の集落を見つけたと思ったら、違っていてがっくりきました。一晩歩き回ったのに見つけることが出来ず、いろいろ諦めてもうどこでもいいんじゃないかと、どうせ死ぬんだしと思っていたら目の前に一匹のキツネがあらわれまして。」

「そのキツネの後を追ってこの集落に至る道を知ったというんですね。」

「はい。キツネに化かされるって言うのはこういうことを言うのかなと。」

「実は彼、私の部下でしてね、村に潜む協力者の1人ですよ。いまから1時間ほど前、あなたが村に入りこの小屋へと連れて来るという内容の連絡が彼から入りました。監視体制はこのように万全です。あなたの債権者が追いかけてくるようなことはまずありません。衛星で撮影された画像にも対応できるよう集落の上空に衛星が来る時間には予め外出を禁止しています。写真に写るのは廃墟だけです。例え1人2人撮影されたとしても廃墟マニアがうろついているくらいにしか思われないでしょう。」

「はぁ、あのキツネが……」

「この選択肢を選ばれた場合には当集落の管理者である我々の下、日々簡単な労働を行っていただくことになります。」

「それは、僕にもできるような仕事でしょうか?」

「労働の内容ですが主には農作業を中心としたものになります。どなたにもできる仕事です。他にもその方のスキルに応じた労働を行っていただくこともあります。労働報酬は現世と隔絶され、貨幣経済とは縁の無い素朴な暮らしと最低限の衣食住といったところでしょうか。現世のように最低賃金保障といったものはございません。最低生活保障はございます。何かご質問はありますか?」

「いいえ、思いつきません。」

「戸尾さんは独身という扱いで構いませんよね。こちらの選択肢を選ばれた場合には独身寮に入居していただくことになります。贅沢な暮らしは諦めてください。以上で私からのご説明を終わりますが、戸尾さん、この二択どうしますか?」

「――できることなら、ここでひっそりと暮らしたいと思います。いえ、是非それでお願いします。」

「そうですか、でももっとじっくりと時間を掛けて考えて頂いてもいいんですよ。念のためにもう一度確認させていただきますが、戸尾さん、その決意は変わりませんか? ご自身の身の振り方です。しっかりと考えてくださいね。」

「――――生きていたいです。」

「そうですか、わかりました。では戸尾さん、こちらの書類にサインをお願いします。えぇ、そこにどうぞ。ハンコはお持ちになってらっしゃいませんよね。拇印で結構です。右手の親指でお願いします。朱肉はこちらに、はい親指です。指はこれでお拭きになってください。書類を確認させてくださいね。……結構です。手続きの方は以上で完了となりました。それではあちらのドアを開けて中へと進んでください。あらためて担当者のほうから戸尾さんの本日の労働に関する説明があります。何か此処での暮らしについてわからないこと、提案などがあれば今後は担当者までお願いします。」

 戸尾と名乗った男は与えられた選択肢につき一切迷わずに後者を選んでいた。ここ首吊り小屋へとたどり着くまでに男はもう首を吊ってしまう他に(すべ)はないと充分な覚悟を決めていたはずだが、与えられたもう1つの選択肢は絶望の淵、最後の最後に与えられた蜘蛛の糸の如き光明に思えたのかもしれない。決意を告げた戸尾に神様と名乗る男はぞんざいに契約書類を渡し、署名を促した。戸尾は書類に書かれた細かな文字を読むこともせず、自らの名を記入、言われるがままに拇印を押す。自称神様はいつも通りに書類を確認し、自殺志願者だった男をドアの奥へと誘導したのだった。


「神様、お疲れ様です。コーヒーをお持ちしました。」

 首吊り小屋に明るい声が響く。神様と名乗る男のデスクに表の扉を開けてバニースーツ姿の少女がコーヒーの入ったマグカップを持ってやって来た。

彩加(さやか)くん、ありがとう。今日の移住希望者は結局5人だったよ。やってきた5人全員ともに移住を選んだ。」
「おめでとうございます。これでまた少しだけ村の収入が増えますね。」
「彼らは貴重なこの村の労働力だからね。安易にここで死んでもらっては困るし、俺が死体の横で仕事をしなきゃならないのはもっと困る。思いとどまってくれて助かってるよ。」
「ですよね~。私もあの臭いはちょっと苦手です。」

 小屋の外では先程奥の扉へと入っていった戸尾と名乗る男が熊の着ぐるみを身に纏い、別のバニー少女に集落についての案内を受けていた。
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