そんなものはありません
SFショートショートを書くという企画が開催されつつあった。
多くのSF好きを自負する者達が集まった。
企画は大いに盛り上がる、そう思われていたのだが、作品の締め切りが近付いているのにも関わらず、一作も作品が上がってこないのである。
不審に思った企画責任者は参加者に事情を聞く。
偶然なのか、それとも必然なのか、参加者達が自分の作品を上げる事を渋っていた理由は同じだった。
その理由とは、ネタかぶり、である。
そのネタかぶりとは参加者同士のものでは無く、既にある有名なSFショートショート作品とであった。
星新一、言わずと知れたSFショートショートの大家である。
彼の作品とかぶっていると言うのであるのだ。
作品数を百を超える、その些末な近似を参加者達は許せないでいた。
とは言え、もう企画は秒読み段階である。
企画責任者は参加者に妥協を打診するが、色よい返事は返ってこない。
そこで問題解決のため、参加者達で議論の場が設けられた。
初めは建設的な意見も出たが、皆を納得させるには至らない。
そんな中参加者の一人が、悪ふざけにこう切り出す。
『もしタイムマシーンで過去にさかのぼり、星新一を殺していれば、私達がこんなにも苦しまなくて済んだのでは?』
一向に進まない話に辟易していた参加者達はこの話に乗った。
喧々諤々(けんけんがくがく)の話し合いがされた。
そして、作品数が少ない時点で星新一を殺せば影響が一番少ないのではないかという結論に達した。
その作品のクオリティを鑑みれば、ショートショートというジャンルは後世にも生きていくだろう。
そして、作品数が少なければその分ネタかぶりも少なくなるはずである。
しかし、今度は違う問題が出てきた。
それは誰が星新一を殺すかという問題である。
皆、SFショートショートを愛する者たちである。
当然星新一に尊敬の念を抱いている者たちばかりである。
こればかりはいくら議論しても決まりはしなかった。
結局、実際に皆で会い、公平なくじ引きで執行者を決めると言う事となった。
「はじめまして、でいいのかな」
「何だか不思議な感じですね。実際にこうやって会うと」
ぎこちない自己紹介が終り、いよいよ本題へと向かう。
「じゃあ、くじ引きを始めようか」
皆緊張を隠しきれず、それでもどこかわくわくとしたような雰囲気もあった。
そして、選ばれた。
「頑張れ、私達皆を偉大な楔から解き放ってくれ」
「大丈夫だ。きっとうまくいく。そうに決まっているさ」
当たりくじを引いた者にそれぞれが励ましの声をかけるが、当然当事者の顔は晴れない。
何せ今から人殺しをしようとしているのだから。
しかしながら、自分も悩み苦しんできた者の一人である。
潔く覚悟を決め、顔を上げた。
そして、皆を見、力強く頷いた。
それに皆が応える。
「では、行ってきます」
「ご武運を!」
「ところで一つお聞きしたいのですが、タイムマシーンは何処にあるのでしょうか?」