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 原作未読の方への概要:死期を悟ったある女性が彼氏に充てた手紙。
「長いお別れ」(SWWEET/原作:青山景)
 新島くんへ

 とりあえず、先に言わせてください。
 ありがとうね。本当に、本当に、ありがとう。
 今までも何度も言ったけどさぁ、やっぱ最期に言いたいのもこれなの。ボキャブラリーがないと教師になったとき生徒との会話に困るぞ、って新島くんいつも言ってたね。でもあたしは語彙なんて必要ないと思う、って言い返してたっけ。
 新島くんがこの手紙を読んでいるときには、多分あたしはもうこの世にはいないね。ちょっと名前を呼んで確かめてみて。もしかしたら化けて出てきちゃうかもしれないからね。いつでもいいから。暇な時にでもいいから名前を呼んで。あたしはいつも新島くんといっしょだから。ってこんな風に書くと重い女って思われちゃうよね。でも実際、あたしは重い女なのよ、エッヘン。だってさぁ、毎日毎日彼氏に看病させる女だよ? 重くないはずないじゃん。新島くんは笑ってたけど、ちょっとは気にしてたよ。
 ごめん、かなり気にしてたかな。新島くんって優しすぎるんだよ。だからあたしが甘えちゃったんだ。
 新島くんが悪い! 冗談です。
 ていうかね、ベッドでずっと寝てたらおセンチ気分になっちゃって。なんか愚痴ぐちさぁ、未練みたいなのが出てくるのね。あれもやっとけばよかった、これもやりたかったって。それまでは、えっと、薬だけ飲んでれば新島くんと安心ウェザーって感じで並んでた頃はね、教師になれればそれ以外はいらないなぁって思ってたのね。でも窓から青い空とか、笑い声とかさぁ、幸せそうなカップルがちらっと見えたらやっぱ、なんていうか嫉妬みたいなのが生まれちゃって。無性に泣けちゃったりしてね。新島くんには絶対こんな顔見せないようにティッシュと本ばっか買い込んで、馬鹿みたい。
 いま思えばあの顔見せたかったなぁ、見せたら多分ドキッとしたと思うよ? 自分で鏡のぞきこんだときは、こんな不細工な顔みせらんないっ、って布団にもぐっちゃったけど。
 うん。さっき嫉妬なんて書いちゃったけど、やっぱなし。
 あたしは幸せだったもん。外歩いてる人たちに負けない位に幸せだったもん。自分が死んじゃうからって急に他人に嫉妬しちゃうようじゃダメだね。新島くんならそう思うでしょ? 丸っと全部ばっちりがっちりお見通しだっ!
 だから、取り消しね。取り消さないと本当化けて出てきちゃいそうだもんね。
 そういえば新島くんの妹さんの、あの、元気な…って形容はおかしいかな、あの二人組の友達は元気ですか?
 ススムくんって面白い男の子だったねぇ。表情が豊かで、子どもっぽくてすっごい可愛かったよ。
 今でも、この手紙を書きながらも思い出すよ。ススムくんに、あたしがもうすぐ病気で死んじゃうって夜空の下でいった日の事。ススムくん、きょとんってしちゃって、目をぱちぱちしてね、
「嘘だっ!」
 って実に素直な反応してくれてね。かなり笑えた。そりゃそうだよね、知らない人の車に勝手に乗り込んだりする姿を見せたんだもん。そりゃ嘘だって思うよね。うんうん。
 あたしが死んだら。あ、もう死んでるだっけか?(ここ笑ってね。)
 あたしが死んだら。新島くんも「嘘だっ!」って言うのかな? 言った? 言ってないよね。言わないでね。そんなこと言われたら悲しいもん。あたしが死んじゃった事から逃げないでね。新島くんはずっとあたしといたけど。高校の頃からだから、長いことずっといたように感じるけど新島くんはこれから、あたしがいない世界で生きていく方が長いんだからね。あたしの事を忘れてでも、生きてほしいんだ。
 わがままかな?
 生意気かな?
 そう怒っても構わないよ。いいよ。あたしに怒っても構わない。それでもいいから生きてほしいんだ。
 できればね、もっとわがまま言わせてもらえば普通に生きてほしい。あんまり危ない事に首つっこんだりしないで、まっすぐ立って生きてほしい。新島くんすぐ他人の事に関わろうとするから。優しいからね。
 あ、でもあの二人は助けてあげて。できるだけのことをしてあげて。ススムくんとさくらちゃんは絶対に助けてあげてね。あの二人は、特別に許可してあげる。ススムくんたちは心が欠けているのは新島くんもわかっていると思う。それはあたしたちがどうこうして埋めてあげられることじゃないのも。
 あの二人の問題はあの二人で対峙して戦わなくちゃいけないの。そうすることでやっと二人は結ばれるのね。赤い糸は他人が結ぶものじゃないの。自分たちで懸命に寄り添って、暗がりの中で手探りでぎゅって結ぶものなの。
 大丈夫。あたしには見えるよ、最高のハッピーエンドが。あの二人なら大丈夫よ。だってあたしたちだって大丈夫だったじゃない? そうでしょう?
 楽しめるよ。楽しめる人なら幸せになれるわ。あたしたちだって最高に楽しかったじゃない。新島くんといるとき、すごく楽しかったよ。何しても楽しかった。
 長かった?
 読むのしんどくなった?
 うん。そろそろ終わるね。ここまで書いておいてなんだけど新島くん、文字読むのあんまり好きじゃないよね。無理してあたしに付き合って蔵書を漁ってたけど。それでもいっぱい読んでたよね、楽しかった? 眉間にしわが出来ちゃってて笑えたなぁ。
 で、そんな新島くんに宿題です。
 この手紙はある本の中にしおりとして隠しています。
 ヒントはなし!
 だって、簡単だもん。新島くんにあたしがはじめて貸した本だもん。覚えてるよね。あ、ヒント書いちゃった。
 じゃあもう読むの疲れただろうし最後ね。
 ありがとう。本当にありがとう。
 新島くんを好きなれてよかった。新島くんがあたしを好きでよかったです。
 新島くん、
 愛し合おうぜっ。
 ずっとね。
 わがままでごめん。
 それじゃあね。
 ばいばい。


    * * *


 バカだなぁ。
 見つけて読むんだから宿題になってないじゃんか。
 でもまぁ見つけられてよかったよ。
 急に、読みたくなった。
 もう何度も読んでるのに、また読みたくなったんだ。
 作者の名前も覚えてないけどさ。この本だけはこれからもずっと読むだろうなぁ。
 だってこの本だけは特別だから。
 特別なものは特別のままで、永遠に特別の姿であり続けるんだ。
 永遠の別れなんてないんだ。


―終―
 最後まで読んでいただき感謝です。
「かってにノベライズ」という企画は一年以上前に別サイトで行っていたのですが、そのサイトが事実上の閉鎖みたいな形になりまして。しかもその事態で公開していたいくつかの文章が、跡形もなく消えてしまうという悲劇が。
 バックアップの大切さを知りました。
 しかしまあ消えてよかったかな、とも思います。あれらは今作以上に稚拙で目もあてられないようなものでしたので。なかったことになってよかったなぁ、と。
 で、なぜそのような悪夢のような企画に再挑戦するのか。
 やりたくなったからとしか言いようがないです。書きたいから書いた。それだけです。

 第一回目は青山景先生の「SWWEET」。
 このマンガはジャンル的にはミステリー。
 ざっくばらんにストーリーを説明すると、
 少年「ススム」が幼馴染の「さくら」と共に、幼い頃に失踪した弟「ツトム」を捜索するという物語。
 今回ぼくが書いたのはこの主人公二人にすこしだけ関わるユミコという女性が、彼氏に充てた手紙。
 ぼくは小説でも映画、マンガでも、脇役を好きなることが多く、この「SWWEET」でも脇役のユミコさんが好きになりました。なんという病気で彼女が死ぬのかは原作の中で言及されてもいないし、そもそも彼女が作中に登場するのは数ページだけ。そんな彼女について想像をめぐらせ書きました。
 脇役に愛を。
 脇役を愛さずに何を愛せというんだ?
 皆さんも脇役を愛しましょう。これはマンガ以外の作品にもいえることですが、脇役を愛せるマンガは必然的に素晴らしいマンガです。
 脇役に愛を、です。

 原作が気になった方は是非読んでみてください。
 この企画は布教の意もあるのでした。

 ではでは、また。気がむいた時にふらっと更新します。
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