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隠匿するホテル 作者:kud
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ベールで隠す男──ただひとつ、部屋へ──

 このホテルはなにもかも覆い隠している。かように自分はベールで顔を秘めている。誰かの視線に晒され、また晒すのも唾棄すべきことだ。
 しかしホテルの隠匿行為についてはわからない。ご存じの方がいればいいのだが。
 自分の一番古い記憶はカウンターで来客を迎えたシーンのみだ。客の顔は覚えていない。黒い無地のワンピースを着ていたような気はする。彼女がつばの大きい帽子を被っていたおかげで、目線に触れることなくすんだ。
 フロントに立つ前、一枚のベールを選ぶ。その日の天候や気温に相応しいベールはどれか、とても重要で繊細な問題だ。
 生い茂る木々が作る陰のようなベールでなければいけない。そのため、選り分けは深い森の中をさまよい歩くようだ。いつ来るとも知れない客をを完璧に迎えるため、出来るだけ音を立てず密やかな選択を続ける。毎日神経をすり減らしながら選んでいる。
 色は黒か白のどちらかなのだが、一枚とて同じ色はない。濃い黒から淡い黒、赤みがかった黒や紫めいた黒、白も同様に様々なモノクロで満たされている。
 そして、選び抜かれた一枚のベールを纏うとき、このうえない多幸感に溢れる。
 すべてを包み隠しているホテルに、自分も隠匿される瞬間だ。

「用紙になんと書きましたか」
 彼女が力を込めて握ってきたので、つい言葉をかけてしまった。
 禁止されているわけではないが、言葉を信用していないので余計な口をきくのは避けている。
「Aと」
 即座に返る声には彼女の心細さがのっている。
──名前はすでに消えていたのです──

 自分から言えることがひとつある。
 消えたのではありません、隠されたのです。
 けれど、それを彼女に伝えるのは憚られる。

 自分が彼女に出来ることはただひとつ、部屋へ──
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