いじめは悪いことだから……
夜中に思い付いて書きまくりました。
良かったら、感想ください。
いじめは良くないことだ。いじめは悪いことだ。と教えられたのは私だけじゃないはずだ。
なのに何故、みんなはそんな悪いことをしようとするのだろう?
香織は人よりちょっとズレている。
アニメが大好きでオタクっぽく、男女問わずベッタリと引っ付くのが好きで、その癖、集団行動を乱すような、単独行動が好きな子であり、ヒーローものを未だに好むような子であった。
よく言えば、人懐っこい。悪くいえば子供っぽい。
その性格を好む者も確かに存在するが、嫌うものも存在する。
「香織ちゃんさ、自己中だし、子供っぽいし、意味不明なことばかりいうし、しかも男子に媚売ってるよ。あんな奴と一緒にされんのはマジ嫌!」
一人の女子が発端だった。
思春期に入り出し、自分の立ち位置やメイクを覚え出し始める頃、未だに幼く、子供っぽい香織を佳代は苦々しく思っていた。
「あぁ、そうかもね……」
「分からせてあげようよ。これはいじめじゃないよ。分からせる為のやつだから」
グループ内で目立つ方であった佳代を中心に香織はクラスからいじめを受けることになった。
「みんなー!おっはよー!」
「……はぁ」
「っウザ」
いつものように挨拶すれば、嫌そうな顔で溜め息をつかれ、けれどその後は仲間内でクスクスと笑っていた。いきなりの空気の変化に香織はキョトンとする。
「誰かさんってさ~本当にウザいよねー」
「うんうん、マジ宇宙人ってかんじー」
隣ではこちらをチラチラ見ながら、コソコソと、けれど聞こえるように悪口をいうグループ。
「香織ーうちらアンタのこと大嫌いだから~……ププッ」
何が起こってるかよく分かっていない香織に佳代がそう宣言された。
その日から、靴を隠されるのは当たり前、椅子に糊をつけられ、ハブられ、無視され、自分の持っている本をゴミに捨てられたこともあった。
権力の強いグループが睨めば男子や他のグループも従うように行動し、香織は確実に孤立を深めていた。
「あんな奴と一緒は勘弁!同類あつかいされたくないわ~」
「ッハハ佳代ちゃん、それ酷すぎ!」
横でチラホラ見られながら、笑われる。
「(……いい気分じゃない)」
香織は元々、単独行動は得意ではあったが、実害的な被害は苦しいものがあり、単独行動が好きだからといって、無視やハブりが平気という訳でもない。
「(本……読むか)」
いつもの様にハブられた教室でイヤホンを耳につけ、持ってきたアニメ雑誌に目を通す。しかし、突然イヤホンが奪われた。
「……っ……」
また嫌がらせかと思いながらも顔を上げれば……
「何?お前、いじめられてんの?」
見慣れない男子がすぐ側にいた。
この田舎では珍しい髪色に、ハーフっぽい端整な容姿の男子はこの間、転校してきた アレン・ロベルト。日本名では 立花 亜蓮
女子たちがキャアキャア言ってたと思うが、それどころではない香織には余り馴染みがなかった人物のはずだった。
「違うよ~アレンくぅん。いじめてなんかいないよ~」
香織が何か喋る前に、女子が入り込んで笑いながらそういった。
「この子さ~全然空気読めなくて~マジ宇宙人で皆に迷惑かけてんのに自覚ないから教えてあげてんの……」
「あ、そうだったんだ」
香織は思わずそう呟いた。
今まで嫌がらせをされていた理由がサッパリ分からなかった香織は、裏でそんな風に言われていたのだと、今になって気づいたのである。
「この子、こういってるけど?」
「……ハァ、マジウザいよねぇ~つーか、空気読めよお前の意見なんて聞いてねーし」
佳代が嫌そうにそう言えば、一人言をいったつもりの香織はキョトンとしており、そんな彼女をアレンはみつめて問いかけた。
「なぁ、お前はこの状況をどう思った?」
「ん?いじめだと思った。嫌がらせは続くし、悪意があるって嫌だな~って思った」
ここでそんな風にいってしまえば、また後で女子からのいじめは起こるのだが、少しズレている香織は素直に自分の気持ちをいってしまう。
「ハァ!?これはいじめじゃないっつーの!アンタの脳が……「お前、少し黙れよ」」
言い返そうとした佳代にエレンはピシャリといい放ち、そして、香織へ手を差し伸べた。
「俺の横に来るか?」
「え?」
突然の申し出に香織はキョトンと首をかしげる。どうしうことだろうかと思ってればアレンは続けてこういった。
「お前、顔は結構可愛いし、性格も面白れーし、いい暇潰しになりそうだから面倒みてやるよ」
「えっと……」
「だから、俺が傍にいてやるっつてんだよ」
アレンの声が振動となり、香織の鼓膜を震わせ、頭に浸透する。そして、余りよくない頭でその意味を理解し……
「……っ……」
思わず、彼に抱き付いた。
周りは阿鼻叫喚の叫びをあげるが、香織はそんなのをきにせずにいった。
「それって……それって香織と友達になってくれるってこと?」
「あぁ、そうなるな」
更に香織はギュウっと力をこめてアレンを抱き締める。アレンはそんな彼女を引き離さず、ポンポンと頭を撫でた。
「ちょっと、待ちなよ!アレンくん!この子、本当に皆から嫌われてるから仲良くしても意味ないよ!?やめときなよ!」
佳代はクイクイッとアレンの袖を引っ張ったが、アレンはそれを振り払って怒気を飛ばした。
「うっせーよブス!お前なんかよりも遥かにコイツの方がいい、人を必死で格付けしようとすんのが見苦しいんだよ!」
「……なっ……」
「大体、いい加減に気づけよ。お前のやってることは寒いし、周りからはドン引かれてんだよ。ハッキリ言ってやる……気持ち悪い」
思いを寄せる相手にそういわれ、周りからもクスクスと笑われた佳代は涙を溜めて教室から走りさったが、それを追う者は、誰もいなかった。
その日から香織の状況は一変した。
元から実は嫌われていないことに加え、アレンからの寵愛を受けることとなった香織は学校での嫌がらせはなくなり、寧ろ優遇されるようになった。
「アレンくーん!本当にありがと!皆から無視されなくなったよー!アレンくんのお陰だよ!」
香織はアレンに抱きつき、アレンもよしよしと頭を撫でる。
「お前は本当に素直で可愛いな……」
アレンは香織を常に傍におき、親のような気持ちで可愛がっていた。
「でもさ……佳代ちゃんがいじめられてるみたいなんだよ……」
ハブられ、嫌がらせを受けている姿を目撃した香織は複雑そうな顔でいった。
「とうぜんの報いだろ?お前は何も気にしなくていい」
「……うん」
スカッとしたかと言われれば、確かにそうである。
けれど、どこかダメな気がするのだ。しかし、何がダメなのかと言われれば、よく分からない。
アレンのいっていることは正しく、自分はそれに救われた。だから彼には多大なる感謝がある。
「アレンくん……本当にありがとうね」
香織はアレンの肩に顔をうずめた。
「ちょ……っやめて!」
放課後、教室に忘れ物をした香織が学校内へと入ると、佳代の悲鳴が聞こえ、聞こえた方向に足を運ぶと、まさにいじめとも言える現場に居合わせてしまった。
「キャハハ!なんか便所虫がしゃべってるんですけどー」
「いじめられる立場ってどうかな?」
モップで叩かれ、はいつくばされている。自慢だった髪やメイクは崩れ、涙を浮かべている。
「なにやってんの?」
香織がポツリとそう漏らせば、4人は焦ったように振り向き、けれど相手が香織だと分かるとまた笑みを浮かべた。
「ほら、この子って悪いことしてんじゃん?だから制裁ってやつ?」
「アンタもやるー?」
また4人はキャハハと笑う。佳代は香織の顔を確認すると、悔しそうに、唇を噛みしめる。
「まずさ、この子がいじめなんかしてんのがダメなんじゃん?」
「そうそう、佳代が悪いことしたから教えてあげてんの」
周りはまた、笑う。笑う。正当性を武器に、これは悪いことではないと、正義なのだというふうに。
因果応報だと思う。この4人の言うように佳代が悪い。
先に佳代がやったことだし、悪く言われるのも、嫌がらせをされるのも、結局は因果応報なのだろう。
けれど……
「これは香織の為でもあ「いじめはだめぇえ!!」……っえ!?」
香織は近くにあった机をつかみ、思いっきり叩き落とした。
いきなりの剣幕に4人と佳代はポカーンとする。
「っちょ……アンタ、佳代にいじめられてたんでしょ?恨みあるでしょ!?」
「あるよ!でも!それは香織の怒りだから!香織だけが怒る権利をもってんの!アンタら何の関係あんの!?何も関係ないじゃん!便乗してんじゃねーよ!」
余計なお世話だと、何も関係のない第3者がでしゃばるなと、香織は子供のように、けれどハッキリとした意思で伝える。
「いい?これはいじめだよ。アンタたちは自分の悪意で自分の勝手でいじめてるんだよ?それに私を言い訳にしないで、やるなら自分の勝手でやって……それでも見かけたら私は止めるけど!」
「は!?なにそれ、意味わかんないんだけど!」
苛立ちを露にし、本気で怒っている女子に、けれど香織は怯まずに佳代を背に立ち、いった。
「いじめは、悪いことだから」
愚直なまでにストレートに、素直にそういった。
それは、当たり前のことであり、前提であり、だから人はいじめと言わずに言い訳を探し、別の言葉で塗り替えようとする。
そんな中、彼女は小さな子供のような純粋さでいじめはダメだと宣言した。
「……っ……い、行こ!もうバカらしくてやってらんない!」
「アレンくんの腰巾着のくせに!もうやってらんない!」
女子たちは怯えたように、けれどそれを表に出さないうちに、さっさと教室から出ていった。
「香織……」
「あ、黒砂糖たべる?」
起き上がった佳代に、香織は布袋から黒砂糖を取り出し、佳代の手にのせた。
「え、なんで黒砂糖?」
「元気でるよ」
若干噛み合っておらず、ニコニコと笑っている香織の笑顔をみて、佳代はうつむく。
「……っ……ごめんなざぁい!」
涙を流し鼻水も流しながら、佳代は泣いた。香織はそんな佳代をよしよしと撫でる
「また明日から仲良くしましょ!皆にいって!私のことを許してるって!」
すがりつくように、子供のように佳代は泣きながら香織にいう。ようやく救われるのだと、やっと助けられるのだと、唯一の光が見えたかのように。
けれど香織はニコニコ笑顔をキョトンとさせて答えた。
「え?やだよ、佳代ちゃんとは仲良くしたくない」
あっけらかんと、とても自然に、答えを間違えた人に優しく教える先生のように香織はいった。
「それに、佳代ちゃんのことは許さない」
いつものように笑顔で、けれどハッキリと突き放すようにして、香織はそういった。
「……そんなっ……」
絶望の顔を浮かべる佳代に、香織は優しく、ゆっくりと分かるようにいった。
「あのね、香織はいじめってよくないことだと思うんだ。だって凄く醜いし、気持ち悪いでしょ?あの時の佳代ちゃんたちってさ、凄く、凄く佳代ちゃん醜いし、なのに全然自覚してないし、嫌だな~って思ったの。あんな風にはなりたくないな~って……
だからね、いじめは絶対にしないし、してたら誰であっても止めるよ?それが常識だもの。それを無くしたら人間としてダメになる。
でもね、佳代ちゃんのことは許さない。ずっとずっと許さない。佳代ちゃんと仲良くするくらいなら死んだ方がマシなくらいすっごく嫌」
ニコやかに、無邪気に笑った。それはとても自然で、普通の友達と会話をするような軽やかな口ぶりであった。そして、時計をみてハッと思い出す。
「あ、アレンくん待たせてるから帰るね!また明日!」
香織は手をヒラヒラさせて、明るく元気に、普通の友達にいうように自然にそう挨拶して教室から出た。
「あんな奴と一緒は勘弁」
それは、誰の言葉だったか……
「アレンくんお待たせ!」
「そんなに待ってねーよ」
「ならよかった!そういえばアレンくん……『ありがとう』と『ごめんなさい』」
「…………何がた?」
「ううん、なんでもない。
強いていうなら傍観もいじめに入るんだって、だから見てない時に起こるのはいじめじゃないのに、けど見ちゃったからさ……」
「………さっさと帰るぞ」
アレンは何かを察したが、それには触れずに帰りを促し、香織も素直に従った。
「うん!帰ろっか!」
いじめはダメなこと。
けれど、人を恨むことや人を許さないのは個人の自由。
謝られようが、相手がいじめられようが、香織は許しません。