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第二十話-サバイバル-

投稿遅れました。すみません。

ㅤ月光熊を倒すために森に住み込みはじめて早くも1ヶ月が過ぎた。だいぶ慣れてきたものの、四六時中四方八方から魔物が襲ってくる可能性がある日々は、経験の少ない子供二人を疲労させるのに十分だった。




ㅤよう…みんな。元気にしてたか?


ㅤ俺はな……心が…折れそうだよ。


ㅤそりゃあよ、俺だって憧れてたよ?冒険だぜ?サバイバルだぜ?男だったら憧れて当然だろ!?


ㅤだがな、どんだけ無垢な少年の心を持っていても俺は所詮現代っ子。現代っ子にサバイバルは無理だ。


ㅤ今まであった当たり前が無い、という前提をどうやって水に流せるんだよ。無理だろ?森での野糞も水に流せねえしな!


ㅤそう、二日目に気づいたんだ。


ㅤトイレが無い。


ㅤ信じられるか?よく覚えてないけど日本でも平安くらいには水洗ではないとしてもトイレあったよな?ここは何時代だって感じだっての。


ㅤ次に現代っ子の俺が耐えられないこと。それは何といっても飯!飯がクッッソまずい!!


ㅤいや、サーヤの料理よりはおいしい。それだけは言える。…サーヤごめんな。


ㅤそういえばサーヤは体調治ったかな。あの日も寝込んでたよなぁ…もしかしてこれも黒髪の影響だったり…


ㅤうぅっ…考えたくもない。


ㅤほんと黒髪が何だってんだよ。色だけで差別するなんて…まぁ、仕方ないか。今考えるべきはそっちじゃないな。とにかくサバイバルに慣れなきゃな。


ㅤ1ヶ月も経ってるのにトイレの度に精神削られてるんじゃなぁ。そろそろ自分を環境になれさせないとダメだな。


ㅤよし、考えよう。


ㅤこういうときは選択肢を3つ用意すればいいんだ。人生だってそうだろ?進む、止まる、戻る。この3つで構成されてる。だから3つってのが大切なんだ。


ㅤうーーん……ひとつめ……


「おーい、そろそろ訓練するぞー。」


ㅤおっと!残念だが呼び出しがかかったようだ!選択肢なんて後だ。


「はーい!今行きます!」


ㅤまぁ、訓練が楽かどうかでいうと…死にそう、としか言えないんだけどね。




ーーーー




ㅤ訓練の内容は超シンプル。


ㅤ1、鬼ごっこ


ㅤ森で走り回るベックにタッチする訓練。エリオと俺が鬼。だけど本当の鬼はベック。


ㅤ2、授業


ㅤ授業といっても学校みたいに机や椅子、黒板があるわけじゃない。その辺の石とか木に座って話を聞く、そして実践する。そんだけ。実践はまだ上手くいったことないんだけどね。


ㅤ3、ベックと戦う


ㅤベックは超強い。俺がどんだけ黒剣ぶん回しても当たる気がしない。しかも戦いの最中に時々ベックが攻撃してくるんだけど、その攻撃避けれたことがないんだよな。たぶん…悪いところを突いてきてるんだろうな。


ㅤと、こんな感じだ。クレンシュナ先生のときの訓練の筋トレが授業に変わったって感じだな。まあ、こっちのほうがきついけど。



ㅤベックは授業で色んなことを教えてくれた。


ㅤ魔力が切れたらどうなるかとか、森の木から飲み水を出す方法とか、冒険者ギルドの受付のお姉さんのスリーサイズとか、エトセトラ。ってか俺水くらいだせるよ?


ㅤそんな中でも俺が特に聞いたもの。


ㅤ気の扱い方。


ㅤ俺の唯一の攻撃手段といってもいい。俺は剣の才能があんまりないかもしれん。エリオやクレンシュナ先生やベックとの打ち合いのおかげで少しは強くなったけど…


ㅤエリオには気法無しで勝てない。そのエリオはクレンシュナ先生にもベックにも勝てない。つまり、俺、最弱、ネ。


ㅤ辛いよー。エリオは魔法が使えるのに!それも聖属性の!


ㅤ聞けば聖属性魔法はホーリーフラッシュが使える時点で王国で近衛兵として雇われるレベルらしい。なんつー恐ろしいもん使いこなしてんの。


ㅤが、ベックが言うにはまだ使いこなせてないようだ。なんとクレンシュナ先生が聖属性魔法を使えるらしい。聞いてねぇぞ…先生…


ㅤで、クレンシュナ先生は剣に魔法を乗せて、つまりホーリーフラッシュを剣に乗せて攻撃できるらしい。ホーリーフラッシュはよくわからんけど…悪意あるものに裁きを与える、とかそういう感じだって。


ㅤ悪意あるものってのがこれまたすごい。剣には意思があるっていったよな?相手に悪意がある、つまり相手の持ってる剣にも悪意がある。


ㅤということでクレンシュナ先生の斬撃は相手の剣を切り落とすことから始まるらしい。あの先生反則じゃね?


ㅤエリオはまだ使いこなせてないにしても可能性はあるってさ。やだなぁ…ちょっとでもエロいこと考えたら切り落とされそうだよ…何を?そのくらい考えろ!




ㅤまあまあ、それは置いといてだ。気の扱い方をベックは教えてくれた。さっぱりわからん。はい、終了。


ㅤ逆に分かるやつ居たら俺に電話してくれよ。コチラにおかけください。って出来るわけないか。


ㅤ剣に気を乗せるってのは自然と出来てた。それはベックも褒めてくれた。だけど、それだけなんだよ…


ㅤ気を飛ばすってので詰んだ。


ㅤ気は練れば練るほどに、実体化させられるらしい。つまり気を全身に張り巡らせれば、鎧みたいに出来るってことだ。だからベックはいつみても軽装なんだな。


ㅤだから、気は体の一部みたいなものだ、とのこと。体の一部ってのだけは魔力と同じだな。魔力切れで体にチカラが入らなくなる現象あるじゃん。あれは体を満たしていた魔力が無くなるから体を休めて魔力を回復させようとする生理反応みたいなもんだ。


ㅤだけど魔力と気の違う点二つだ。


ㅤ魔力は再生できる。気は再生出来ない。


ㅤ気って使い過ぎたら消えるの?そんなことを聞いたらベックがこれだけ教えてくれた。つまり…消えるってこと?


ㅤよくわからん!と言ったら「消えねーよ、安心しろ」って言われた。


ㅤ再生出来ないんだろ?使ってたらいつか無くなるんじゃないのかよ…それか実は回復するとか?


ㅤ考えても分からんことはいい、後でじっくり考えよう。二つ目にいこう。


ㅤ魔力は体の外に放出できる。気は放出できない。


ㅤ出来ないこと尽くしじゃねーか!気が魔力より優れてる点はどこだよ!ほぼないじゃん!


ㅤもう、考える気にもならんわ……




ーーーー




ㅤはい、これが俺の過ごした1ヶ月間の思ひ出。


ㅤ折れちゃうよね、心何個あったら足りるの?どっかで心売ってなかったっけ?


ㅤあ、魔力は外に放出できて、気は放出できないって話の説明してなかったんだな。


ㅤえーと…



ㅤハッ!!!!まさか………




ㅤお、おい。お前ら聞いてくれ。いま思ったことをありのまま話すぜ?


ㅤ少し、説明を先にしよう。


ㅤ魔力は放出できる。気は放出できない。


ㅤねりけしを想像してほしい。あの伸びるやつだよ。匂いとかついてるやつ。まぁ、ついてなくても全然構わないけど。


ㅤ魔力ってのは、ねりけしを千切って使えるってことだ。ただし、使ったねりけしは元に戻ってこない。その代わりに新たにねりけしが生成される。こういうメカニズムだな。


ㅤそして、気だ。気はねりけしを千切らない。千切れない。薄ーく広げたり、長く伸ばしたりして使う。これで量は常に一定、放出できないってのにもつじつまが合う。


ㅤ練れば練るほど実体化するってのは…まぁ、その通りだろう。俺も気を練るのは感覚でやってるからよくわからん。1箇所に全身の血液の流れを集める感じかな。上手く言えないけど。


ㅤつまり、気法を使う人は気が無くなる心配がない。持久戦に持ち込めば魔法使いは圧倒的に不利。なるほどですね。


ㅤこれはベックに聞いてみよう。この考えがあってるのかあってないか。すっげー気になる。てか正解な気がする。これならできるかもしれん。


ㅤいや、待て待て。過信は禁物だ。実際に使えないと意味がないんだ。よし…



ㅤ手頃なサイズの木を見つけて10シメール(10m)程離れる。手頃なサイズって言っても縄文杉くらいあるけどな。でもこれがこの辺で一番小さいんだもん!


ㅤそれはさておき、気を練る。もう何回も繰り返した作業だ。だが、今回は違う。気を飛ばす、いや、気を伸ばす。


ㅤ右手にどんどん気が集まってきた。やはり先ほどのイメージは合っていたらしい。いつもより気がすぐに、そして沢山集まる。


「ハァッ!」


ㅤ右手で勢いよくストレート!ジャブなんて要らねぇ!


ㅤドゴォォォッ!


ㅤ木に穴が空いた。だが穴の形はいびつな円だ。きっと綺麗に伸ばせて無いんだろう。


ㅤ木に直接触っていない。だが、確かに木に触れた感触が有った。


ㅤそうか、気はもう一つの俺の感覚なんだ。これを応用すれば…


ㅤドォオォォン…


ㅤ木が自身の重みに耐えられず倒れた。空いた穴のせいでバランスが崩れたんだろう。


「うお…びっくりした…まぁ、薪に丁度いいか。」


ㅤ確認を取るように独り言を呟く。もちろん反応するものは周りには居ない。


ㅤうるせー!居なくてもいいの!独り言だから、マジで!


ㅤとりあえず、薪にするなら持ちやすく切るか。


ㅤこれもベックが教えてくれたなぁ。さすがに動かない木を切るくらいなら俺にでもできるし、黒剣なら形変えられるから切りやすいし。よし、始めるか。




ㅤタララッタッタッタッタ!タララッタッタッタッタ!タララッタッタッタッタッタッタッタ、タッタッタ〜


ㅤ千尋三分クッキングのお時間です〜


ㅤクッキングと言っても食べ物ではございません。


ㅤ本日の木材はこちら!折れた木でございます。こちらを手頃なサイズに切り分けます!


ㅤ切り分けたものがこちらにありまブゥグェッッ!!



ㅤ唐突だった。俺は吹っ飛んだ。


ㅤ油断していた。ちょっと気が扱えるようになっただけで。


「ゴファッ!」


ㅤ背中に凄まじい衝撃。木に当たって肺の中の空気が一瞬で押し出される。


ㅤここは森。四六時中、四方八方。魔物の巣窟では常に死の危険が身近にある。


ㅤ今のだって運が悪ければ死んでいただろう。


「くそっ…こんなときに…」


ㅤ特に何をしていたってわけでもないのに、こういう台詞を言いたくなるのは男のサガだろう。許してくれ。


ㅤそいつは居た。豚とワニを混ぜたような顔。二足歩行。斧を構えるそいつは…


「ミノタウロスっ!」


ㅤグルゥゥァアァァッ!!


ㅤミノタウロスは斧をぶん投げた。見えない。速すぎる。


「くっ!!」


ㅤ咄嗟に右に飛んでよける。こういうときは一瞬で気が練ることができる。常にできるようにならないといけないな。


ㅤ先ほどまで背中をつけていた木に斧が当たり、木が真っ二つに裂けた。


ㅤまじかよ…俺なんて穴が空けただけだぜ…


ㅤ斧を失ったミノタウロスはこちらに突進してきた。


ㅤ遅いっ!!…………本当に遅い!!


ㅤ挙句の果てには俺がさっき切ろうして立て掛けてた木にぶつかって転倒。


「ハァァアッ!!」


ㅤ気を伸ばしてミノタウロスの脳天にぶち込む。


ㅤギュルァァアアァァアッ!!!


ㅤミノタウロスは一撃でピクリとも動かなくなった。入学試験のときと状況は違えど、確かに自分の力で倒した。


ㅤだが……


「オェェェェッ…」


ㅤ脳みそを潰した感触が直に伝わってきた。豆腐を素手でぐちゃぐちゃにしたような感触だ。


ㅤ魔物といえど確かに生を奪った。脳みそをぐちゃぐちゃにした。その感覚が気持ち悪くて俺は吐いた。今まで剣でなんとかしていたからわからなかったがこの感触はエグい。


「はぁ……はぁ………はぁ!?」


ㅤ気づいたときには周りにミノタウロスが5体居た。


ㅤ入学試験のあと、エリオから聞いた…


ㅤ全ての個体が卵を産み繁殖力が強い


ㅤグルゥゥァアァァッ!!!


ㅤ5体がそれぞれ叫び声をあげる。たしか…目の前にいるやつを敵とみなすんじゃないのか?さっさと仲間割れでもしてくれ…よっ!と


ㅤドゴォォっ!


ㅤ1体が斧を振り下ろした。腕力は種族的に強いのだろう。振り上げるモーションしか見えなかった。


「5体だろうが…鈍足ノロマは俺の敵じゃない!」


ㅤ黒剣を横に構える。黒剣を持つ手に気を込め、ミノタウロスに突進する。


ㅤシュッ…


ㅤ2体同時に声もなく切り倒した。


「剣を振るのは無理だけど…これなら…」


ㅤ格段に強くなれている。1ヶ月前よりも、速く、鋭く、重く。


ㅤ突進を繰り返すたびに上半身と下半身が切り離されたミノタウロスが生産される。


ㅤ目の前にいるミノタウロスを全て倒したとき、気がついたら辺りは血まみれ。12体ものミノタウロスの死体が転がっていた。


ㅤぶちまけられた内臓。腹の中身。


ㅤ数体の腹の中からは人間の手と見える部位や、ドロドロになった人間の顔が見えた。


ㅤ俺は…また、吐いた。吐くものは既に無かった。胃液を吐き出せるだけ出した。


ㅤふらふらする。


ㅤ目の前で起こった死。それは自分の手によって引き起こしたもの。


ㅤ森に入って今日までは小さい魔物や木の魔物のしか倒してこなかった。人間を食うような魔物には出会わなかった。


ㅤミノタウロスは人を食う。そう思うだけで気分が悪くなるのに、食われた人間の亡骸を見たら……


ㅤ俺は気分が悪くなってその場に倒れるように座り込んだ。


ㅤそして吐き気を抑え、泥のように眠った。

やっと千尋がすこし強くなりました。


ですが何かを殺すのには少し抵抗があります。


次回は忍耐です。

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