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第十九話-ベック-

今回から章が変わります。

ㅤふと気がついて目を開けた。


ㅤ真っ暗でほぼ何も見えない。ここは外だろうか。何やら木で空が覆われているような感じだ。空気は淀んでおり、お世辞にも綺麗とはいえない。


ㅤ段々目が慣れていくと幹がかなり長い木で構成されている森であることがわかった。かなり上まで幹が伸びている。よくバランスを保てるな、と感心していると、


「ん……ぅ……」


ㅤ隣から声がした。エリオが意識を取り戻して起き上がろうとしているのが見えた。


ㅤそうか、俺たちは依頼を受けにいったら正体がばれて…


ㅤあぁ…くそっ…また俺のミスでエリオを…


ㅤいや、ここで悩んでも仕方がない。とにかく今は現状を理解するところから始めないと。


ㅤまずここはどこか。


ㅤ知らない。変な森。



ㅤ俺は誰?


ㅤハーーッハッハッハッハッ!天上天下唯我独尊!千尋ここに参じょ



ㅤ今何時?


ㅤ空が木で覆われてて暗いのでわかりまへん。



ㅤoh…何ということでしょう。自分の名前以外丸っきり知りませんでした。


ㅤもしかして…異世界っ!


「千尋…?何を言ってるの?」


ㅤおおっと。気にするなよマイハニー。俺はいつでも君だけの千尋だよ。


「…変なこと考えてたのね。」

「す、すんまへん。」


ㅤよかった。案外エリオが元気だ。よし、ここで俺が取り乱したらエリオまで不安になっちゃうから、しっかりしないとな。


「おう、坊主ども!やっと目覚めたか!」

「ピャァァァッッ!!!」

「おぅわ!何いきなり叫んでんだ。びっくりするだろ。」


ㅤふ、ふぅ。しっかりしないと、今から。


ㅤベックが何やら馬に鹿の角をつけたようなわけの分からん生物を持って、立っていた。


ㅤこいつはいっつも背後から声をかけて来やがる。悪趣味なやつだな。


「俺たち…どうなったんですか?」


ㅤ俺はエリオを背中で守りつつ、ベックに問いかけた。こいつが俺たちを攫ったって可能性も0では無い。一度信用させて裏切るというよくあるパターンかもしれない。


「あー、それなんだが…」


ㅤ何か後ろめたそうな顔をしてベックが頭をぽりぽりと掻く。そして緋色の目を細めへにゃっと笑ってベックは言った。


「お前さんたちは死んだことにした。」


ㅤんん?誰が死んだって?


ㅤえ、俺たち死んでんの?なんで?助けられたんじゃないの?ってことはここは死後の世界?つまり異世界っ!?


ㅤベックは手を伸ばし、口をパクパクとさせて呆然とする俺とエリオの頭を撫でた。大きくて…暖かいです…。


ㅤ…他意はないぞ?


「死んだ『ことにした』って言ってるだろ?お前さんたちはまだ死んじゃいねぇよ。」

「な、なんで俺たち死んだことになったんですか?」


ㅤ追われていたことに関係がないとは思えないが、一応確認のために聞いてみた。確認は大事だからな!


ㅤベックの雰囲気的に異世界ではないな。


「お前さんたち緊急依頼のせいで追われてただろ?アレの後始末をしたらそういうことになっちまった。」

「どんな…後始末を…」

「聞くか?ちょっくらエグいかも知れんぞ?」


ㅤエリオが俺の方を向いた。お互いを確認し合うように頷き合い、ベックに向き直った。


「聞きます。今後のためにも教えてください。」

「よし、じゃあ言うぞ。そっちの女の子の魔法で4人死人が出た。俺はその死体を二つかっぱらった。企業秘密だが、二人の髪の毛を真っ黒にした。それを顔や体つきが分からなくなるまでぐちゃぐちゃにして焼いて、ギルド持ってった。依頼は完了、緊急依頼も消滅。金も貰った。と、まあこんな感じだ。」


ㅤ金が入っているであろう袋をポンポンと叩きながらベックは座った。


ㅤ吐き気がしてきた。エリオは自分が人を殺していた、という事実を聞いて顔が青ざめている。


ㅤ死体をぐちゃぐちゃにして焼くなんて…人間の為せる技ではない…


「まぁ、気にすんな。よくあることだ。」


ㅤ…気にするな?無理だ。俺とエリオのせいで人が4人死んだ。2人は遺体すら蹂躙された。それも俺たちの替え玉となるために。


ㅤこの世界に神がいるなら俺たちはどんな目に遭うだろう。きっと生半可なことでは許されない。日本でも死体を壊すことは重罪だ。ましてやその前に4人殺している。死刑かもしれない。


ㅤぐるぐる回る思考を押さえつけ、吐きながら泣いているエリオの肩を支える。


ㅤ元はといえば全部俺のせいなんだ。俺がこの世界に来たせいで、俺がエリオの家に居たせいで、俺が変な呪文を唱えたせいで、俺が冒険者になると決めたせいで。


ㅤエリオは俺がいなければカレラ帝国に今も居ただろう。それも人気者として。愛嬌があり、優しく、強いエリオ。


ㅤそれがどうだ。俺一人のせいで世界中どこでも嫌われる黒髪の仲間じゃないか。


ㅤもしかするとトリスさんやエルバークさんも俺たちを追い出したくてレイブン魔法学校へと追いやったのかもしれない。


「エリオ…本当にごめんな。」



ㅤエリオは声もなく、ただ首を横に振るだけだった。エリオも分かっていた。自分がこんなことになったのは千尋のせいだ、と。だが、仕方のないことだった。だから千尋を恨んでなどいない。


ㅤエリオもずっと後悔していた。千尋を書庫に連れて行ったことを。あれさえなければ千尋を匿って暮らしていけただろうに。


ㅤ俺は自分が嫌になりそうだった。自分がエリオにしてしまったことは、取り返しのつかないことなのだ。黒髪の悪評の残り香は根強く世界に根付いている。


ㅤ日本ではクラス単位のイジメですら解決できない。世界レベルの宗教的な迫害や人種的な迫害はもはや戦争を引き起こしている。


ㅤ黒髪は世界レベルなものだろう。俺たちはもうこの世界で普通に暮らすことは出来ない。


「なぁ、お前さんたち。」


ㅤベックは抜け殻のような俺たちに声をかける。人懐こい笑顔ではなく、俺たちを試すようにニヤニヤしていた。


「さっき言ったこと覚えてるか?」


ㅤさっき言ったこと。覚えていない。もうそんなのどうでもいい。どうせ何をしても未来は同じなんだから。


「髪の毛の色を真っ黒にしたってやつだ。あれが他の色にも変えられる、と聞いたら…どうよ?」


ㅤっ!!!


ㅤエリオが凄まじい速度で振り返る。首が取れるんじゃないだろうか。と、思ったら首を捻ってのたうちまわっていた。


ㅤ俺もエリオと同じく、首を捻りました。い、一緒がよかっただけだし!?ワザとだし!?


「ハッハッハッ!えらい反応ぶりだな。さっきの死んだ目はどこに行っちまったんだ?」

「そんなことが…出来るんですか?」


ㅤ俺は首を押さえて座り直した。そんなことが可能なら黒髪なんておさらばしてやる。力付くでも聞き出そう。あ、勝てないか…いや…二人掛かりなら…。


「わー、まてまて。教えるから物騒なことは考えるなよ?俺かて聖属性魔法なんざ受けたら痛いじゃ済まされねぇからな。」


ㅤエリオも同じようなことを考えていたんだろうか。さっきからよく動きがシンクロする。えへへ、ちょっと嬉しい。


「ったく…さっきのお前さんたちはどこに行ったんだか…。端的に言うと、黒髪を他の色に変えることは、可能だ。」


ㅤ視界が急に明るくなった気がした。方法があるなら頑張れる。そう思えた。


ㅤと、思ったらベックがいつの間にか松明を作っていて視界が明るくなっていた。くそったれ!


ㅤ目から希望が溢れ出し、詳しく教えろ、という俺たちの視線を受けたベックは難しい顔をした。


「もっとも、簡単ではない。はっきり言うとこのメンバーでは無理だ。」


ㅤと、いうことは…アレか。なんか強い魔物から出るすごいレアな素材とか使わないと出来ないよ、とかそういう感じか。読めた読めた。


「素材を取るのがかなり難しいんだよなぁ。」

「ベックさん、死体に使う分はあって私たちに使う分は無いの?」


ㅤエリオが怖い顔をしていた。あるならよこしやがれ、というような顔だ。乙女のしていい顔ではない。


「無い。アレで最後だ。」

「死体に使わなくても俺たちに使えば良かったのでは…」


「そりゃあ、ダメだ。解決にならねぇ。お前さんたちのことはじきに学校から報告が入る。今まで誰かが報告を止めてたみたいだが、王国の命令には逆らえねぇ。お前さんたちの名前も、黒髪だということも、全部分かっちまう。」

「も、もしかして…家族にも…」

「もう大丈夫だ。お前さんたちは死んだ。家族は黒髪じゃないんだろう?だったら王国から逆にお金が入るはずだ。研究費、とかいう名目でな。危害は加えられんさ。」


ㅤエリオはそれを聞いて心底ホッとしたようだ。安堵の表情を浮かべている。


「ほんとお前さんたち行動がかぶるなぁ。」


ㅤん?あららら。俺も安堵の表情を浮かべていたらしい。まあ、そうなるわな。


「話を戻すぞ。必要な素材は5個だ。既に一つは手に入っている。だから後は4個だな。」

「手に入ってる素材ってなんですか?」

「染料だよ。町で売ってるぜ。500スラグで買えたし、いいご時世だな。」


ㅤや、安い。というかその染料でちゃっと髪染めりゃあいいじゃん?


「その染料ですぐに髪を染めればいいんじゃないですか?」

「ばかいえ、そんなもんで染まるかってんだ。髪の色を染めるには特殊な魔力が必要だ。その必要な魔力ってのが4種類。鷹龍の踵、海天魔の喉仏、地底蠍の毒、月光熊のハラワタだ。んで、今は月光熊がいる森の入り口付近だ。」





ーーーー




ㅤ詳しい話を聞くと髪の色を染めることはかなり難しいらしい。死ぬまで髪の色が変わらないのがこの世界では普通だという。


ㅤそしてこの森は意外や意外。レイブン魔法学校の北東に位置する巨大森林らしい。近いならガビンたちに別れでも告げたいな、いや、あいつらなら付いてくるとか言いそうだな。とか思っていたら「悪いが戻ることはできんぞ」と言われた。知ってるよ!


ㅤ早速その月光熊を倒しに行くのか、と聞くと死にたくねえからまだ行かねえ、と返された。


ㅤベックはSランク冒険者。かつてクレンシュナ先生とパーティを組んでいたらしい。世界の果てを見たことがあると言っていた。


ㅤ月光熊を倒しに行かないならどうしてこんなところに居るのか、と聞くと、森に慣れろ、魔物に慣れろ、そして訓練をする、と言われた。


ㅤ今の俺たちはこの森で一週間も生きていけないくらいに弱いらしい。屋根で受けた突然の衝撃が見えるようにならないと話にならない、とか。


ㅤこうして俺たちは髪の毛を染めるために、ただそれだけのためにベックと訓練をすることになった。


ㅤベックは気法使いであり、剣士であり、魔法使いである。剣士としては7段で、魔法使いとしては火、土、水を中級まで習得しているらしい。


ㅤうーん、魔法使いとしては微妙だね。


ㅤでも気法も使えて魔法も使いこなせるベックはかなり凄い。世界でも指折りの強者だろう。そんなベックでも死ぬ可能性があるという月光熊、どんだけやばいんだ、ほんと。


ㅤエリオも俺もまずは素早い戦闘になれるために、森を縦横無尽に走り回るベックの姿を追うトレーニングを始めた。


ㅤベックを追っているとすぐに見失い、行く先々で魔物が真っ二つになって焼けていた。こえぇ…


ㅤ俺とエリオはクレンシュナ先生とのトレーニングのおかげで体力は付いていた方だが、慣れない地形のせいかすぐに疲れがきた。


ㅤこれが森に慣れろ、ということなんだろう。森で戦うならこの地形に慣れないとすぐにばててその辺の魔物にも殺されてしまうだろう。今のところ出会う魔物はみんな死んでるけどね。


ㅤ戦闘だけでなく、キャンプや夜営、テントの作り方などサバイバルに必要なことをどんどんベックに教わっていこう。




ーーーー




ㅤこうして月光熊を倒すための森でのサバイバル生活が始まる。



ベックは過去にクレンシュナ先生たちとのパーティで月光熊を倒したことがあります。


次回はサバイバルです。

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