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第十八話-緊急依頼-

また題名詐欺しました。すみません。



ㅤ冒険者になってから1週間が過ぎた。


ㅤ前に見たときは嫌がってたがリグルドの退治を受けたらエリオが聖魔法、俺を助けてくれたときのやつで一瞬で撃退しちまった。


ㅤこんなに簡単なら誰でもいけるじゃん?って思って依頼人のおっちゃんに聞いてみたら聖魔法は使える人間がごく少数しかいないらしい。


ㅤもしかして…エリオってすごい?


ㅤ振り返るとエリオが腕を組んで足を開いて立っていた。威張っているらしい。見た目がまだ幼すぎるから結構…ダサ…ゲフンゲフン。


ㅤガビンはガハハハ、エリオは凄いな!と笑っていた。前から思ってたけどガビンのツボってどこなんだよ。いっつも笑ってるよな。


ㅤそして、サーヤは居ない。


ㅤあ、死んでないよ?体調が戻らないから寮で休ませてるだけだよ?




ㅤ他にも色んな依頼が次々と増えてた。前に俺たちが見たときは他の冒険者がかなり取っていった後らしい。ロールズさんの依頼にタイミングよくありつけたのは幸運だろう。


ㅤ掃除とか介護とか様々な依頼を受けて俺たちは結構稼いだと思う。ただ、それらの依頼の報酬は高くても5000リグルドだった。最初に見た依頼の金額が高かったせいで少ないと思っていたがこれがF,Eランクの相場みたいだ。


ㅤそう考えるとロールズさん…アホすぎ…




ㅤまぁ、それはさておき。俺たちが稼いだ金は早計64000リグルド。一人当たり16000リグルドだな。結構な大金、と思うだろ?俺もそう思ってたよ。防具屋にいくまでは。


ㅤ一番安い装備一式で60000リグルドだった。わかるか?Fランクの俺たちが一週間かけて稼いだ金では冒険者としての装備一式の一人分程度なんだよ。それも一番安いやつ。


ㅤ高すぎる、なんて思わなかった。ここはあくまでファンタジーな世界でありながら、俺が暮らしている現実世界だ。だから少しくらい気長にやってもいいのさ。俺はその方が好きだしな。


ㅤ今日も今日とて俺たちは冒険者ギルドに赴いた。今日はいい依頼ないかなー。


ㅤあ、そうそう。おれたちそろそろEランクにあがれるらしいよ。あとFランク依頼5個くらいで。パーティ組んでるからサーヤも自動的にあがれるってさ。よかったね。


ㅤだが、俺たちはまだFランクだ。今日も雑用頑張ろう。そう思って見ていると震えあがるような依頼が目についた。思わずガビンの肩から落ちかけた。


==========

緊急依頼

黒髪の討伐

報酬:500,000スラグ

ランク:制限なし

備考:レイブン王国からの依頼。生け捕りにすれば1,000,000スラグ。町中での目撃証言あり。

==========



ㅤ笑えません。


ㅤてか…見られてた…?バレないように隠してたのに…


ㅤまずい…冒険者が多いこの国では絶対に逃げきれない。どうする?とりあえず学校に逃げてクレンシュナ先生に…


「おう、坊主共!久しぶりに会ったな。元気にしてたか。」


ㅤ背後から人懐こそうな笑顔で話しかけてくる巨人がいた。ベックだ。


ㅤどうしよう。こいつも冒険者の一人。あの依頼をみて俺たちの正体を知ったら絶対に追いかけてくる…


ㅤ適当にはぐらかして今日はさっさと帰ろう。誰かに見つかったら殺されちまう。


「どうした?元気なさそうだな?千尋だったか?今度は何を悩んでんだ?」


ㅤひぃぅっ!


ㅤほっ…名前呼ばれただけか。思わずびっくりしちまったよ。俺も小心者になったもんだ。いや、これくらいじゃないといけないはずだ。迂闊になるよりマシだ。


「い、いえ。今回は特に悩んでません。今日は帰ることにします。先輩頑張って下さいね。」

「おう、分かったぞ。気をつけて帰れよ。最近国が変な依頼出したせいでみんなギラついてるからな。」

「は、はい。分かりました。ありがとうございます。」


ㅤあ、あぶねぇ!いちいち怖い発言すんじゃねーよ!いや、そんなに怖い発言ではなかったか。


ㅤも、もしかして…俺たちが実は黒髪だってことを知っていてこんなことを言ったんじゃ…


ㅤベックは手を振っていた。…うん、こいつは能天気だからそんな器用な真似はできんだろう。ベックを疑うなんてどうかしてるな。信頼してるわけじゃないけど最初に助けてくれたのはベックだしな。無駄に疑うのはやめよう。


ㅤ俺はガビンから降ろしてもらって手を振り返した。エリオも少し俯いて手を振り返している。うむ、いい心がけだ。ちゃんと警戒できておる。


ㅤガビンは笑いながら手を4本振り回していた。こいつはいつも通りだな。


「いてっ!」


ㅤガビンの手が通りすがりの冒険者にあたった。


ㅤまさに通りすがりの冒険者Aみたいな感じの特徴のないやつだ。怒りの感情を露わにしてガビンを睨みつけている。


ㅤ対するガビンは大笑いして謝罪していたが…これは許してもらえそうにない。


「おい!てめえ、笑ってねぇで詫びくらい入れたらどうだってんだ!」

「す、すみません。俺のパーティメンバーが迷惑をかけてしまったみたいで。俺の方から謝罪しまぐぼぉっ!」


ㅤ俺は蹴飛ばされた。ちくしょぉ。なんでだよ…謝ってただけじゃねぇか…


「てめぇは引っ込んでろ!このガングロ野郎に謝れって言って……」




ㅤ冒険者Aは俺のほうを見ている。仲間になりたそうではない。


ㅤん?俺にホの字か?や、やめてけろ。そんな趣味オラにはねぇだ。


ㅤと、思ったらエリオもガビンも青ざめた顔で俺を見ていた。あのベックも。


ㅤまさか……


ㅤそのまさかだった。フードが首元に落ちていた。そう、俺の頭が丸見えになった。尻隠して頭隠さず。最悪なパターンだ。


「逃げろ!!学校に!!」


ㅤ俺は叫んだ。エリオが走り出す。ガビンは冒険者Aを押さえつけようとしたが冒険者Aは手慣れだった。すぐに足を掛けられガビンは倒された。


ㅤ俺もすぐにフードを被って走って逃げる。ガビンが稼いでくれた少しの時間は無駄ではなかった。俺はタッチの差で冒険者Aの手を避け、エリオを追った。


「おい!黒髪が居たぞ!とっ捕まえて山分けにするぞ!!ぶっ殺してもいい!とにかく捕まえろ!!」


ㅤ殺すのはアカン!アカンて!


ㅤ一歩一歩に練った気を送ってどんどん加速する。エリオが男に腕を掴まれ剣を抜こうとしていた。だが、ここで相手を殺してしまったら…逃げた後で問題になるだろう。


ㅤ俺は気を足に送り、全力でエリオに向かって跳躍した。


ㅤゴオッ!!


ㅤ風切音で鼓膜が破れそうだ。俺はその痛みに耐えてエリオを後ろから抱きかかえるように捕まえ、ついでにエリオを掴んでいた男を蹴り飛ばした。


ㅤ路地に逃げ込む。


ㅤ冒険者達は俺が俺が、と凄まじい速度で追ってくるが俺の足には追いつけない。


ㅤエリオをお姫様抱っこで逃げる俺、超かっこいい。おっと、そんなことを考えている場合ではなかったね。


「神の裁き、我に敵する者をその光で焼き消むぐぅ!ぅー!!んー!!」


ㅤと、そんなことを考えているとエリオが後ろから追ってくる冒険者共にホーリーフラッシュをぶち込もうとしていた。すかさず口を押さえて詠唱をやめさせる。アカンて、殺すのはアカンて。


ㅤ抵抗していたエリオは諦めたのか何も言わなくなった。だが手を上げたまま目を瞑った。


「ホーリーフラッシュ」


ㅤは?


ㅤ詠唱もしていないのにエリオがホーリーフラッシュをぶっ放していた。


ㅤムエイショウ?そんなのありなの?人が死んだ、間違いなく死んだ。と思ったらまたもやびっくり。


ㅤ冒険者共は息絶え絶えだったが確かに生きていた。足元に酷い火傷を負っている。エリオも手加減ができるようだ。


ㅤエリオが信じられない、という顔で自分の手をわなわなと見ていた。いや、お前がやったんだぜ?


「あんなガキにやられんじゃねぇ!挟み込め!誘導してから挟み込んでぶっ潰せ!絶対に逃すな!」


ㅤ冒険者Aは強そうだ。ガビンに怒っていたときの小者感はどこにいきやがった。


「くっ…」


ㅤ矢が飛んできて腕をかすめた。少し血が出る。かなり痛い。街中で矢とか撃つなよ!



ㅤどれくらい逃げ回っただろうか。路地を逃げ回っているうちにどんどん方角が分からなくなってしまった。


ㅤガビンは大丈夫だろうか。いや、今は自分たちの心配だ。今にも殺されてしまいそうだ。エリオの魔力ももう底をついてきた。


ㅤ気がついたら前方に冒険者Aが立ちはだかっていた。


ㅤ慌てて引き返そうとするも後ろにも冒険者の集団。左右の道も然り。


ㅤ逃げ場が無くなった。追い詰められた。


ㅤなーんてね!まだ策はある!


「へへっ、追い詰めたぞ。」

「生け捕りにした方が高くつくぜ。」

「女は捕まえて俺たちで使うのもいいんじゃねえか。」

「はっはー!それもいいな!」


ㅤ下衆みたいな声が大量に聞こえてくる。くそっイライラする。だがここで冷静さを失えば絶対に失敗をする。落ち着け、俺。


「クソガキ共が。黒髪の分際で冒険者ギルドに出入りしてたとはな。思い知らせてやれ!」


ㅤ冒険者Aの掛け声で一斉に大量の冒険者が俺たちに駆け寄ってくる。


「エリオ、歯を食いしばってろ。」


ㅤ俺は気を足にこめてジャンプした。ぐんぐんと高度があがってゆく。


「なっ!?あんのガキ!何者だ!」


ㅤはははっ!さらばだ冒険者Aよ!これで追いつけまい!


ㅤ俺は建物の屋根に降り立った。着地をミスって足を挫いたのは内緒にしておこう。


ㅤエリオがぐったりと座り込んだ。俺も足が痛いから座り込む。


「…ねぇ、千尋。」


ㅤエリオが俺の顔を覗き込んできた。おやおや、強気なエリオさんがちっとばかし不安を顔に浮かべている。どうやって下に降りるか、とか考えてるかな?俺に任せろって!


「私たち…ここにいられるのかな…」


ㅤ俺は静かに自分を殴った。俺はクソ野郎だ。自分のせいでエリオを巻き込んでしまってるのに、大事なことを考えてなかった。


「わからない。確かに…この町には居られないかもしれない。」

「私たち、どうなるのかな…」


ㅤエリオの言葉に言い知れぬ不安が襲いかかる。どうなるか。捕まれば死ぬ、たとえ生きていたとしても死んでいる方がマシと思うようなことをされるに違いない。


「まずはクレンシュナ先生に相談しよう。先生は元冒険者だしなんとかなるかもしれない。」

「…そうね。」

「大丈夫!なんとかするから!」


ㅤ俺は無理矢理笑った。いい男の笑みをする。ふふ、これでエリオも少しは安らぐかな?


「…千尋は笑わない方がいいわね。」


ㅤ……ちとショック




ーーーー




ㅤ屋根に降り立って1時間、かなり長いこと逃げていたらしい。学校がようやく見えてきた。この町は基本的に建物が高い。だから俺たちは下から見つかることはないだろう。


ㅤ冒険者が屋根に上がってくる可能性も考えていたが、どこの者かも知らぬ冒険者が屋根にあがれるほどこの町のセキュリティは弱くないらしい。「中に入れろ!」「ダメだ!帰れ!」みたいな会話が下から聞こえたから多分この予想はあっている。


ㅤ学校が見えてもまだかなり距離がある。ここらで少し休んでも大丈夫だろう。魔力切れで元気がなさそうなエリオに座るように促して俺もまた座る。


ㅤふぅ、と一息入れると背後から声がした。


「おう、坊主ども!元気か?」


ㅤ俺は慌ててエリオを抱えて距離をとる。するとベックがそこにいた。上にあがってこれたんだろうか。こいつも冒険者だ。絶対に油断はできない。


「先輩も…俺たちを狙ってるんですか?」

「んなこたぁねぇ、俺はお前さんたちを保護しに来た。逃げ回って疲れたろ?だから安心して休めるように俺が保護するってことよ。」


ㅤ信用できるもんか。こいつがいくら優しそうだからって信用してはいけない。人間、金が絡むと親でも殺してしまうもんだ。知り合ってすぐの相手なんざ裏切るに決まってる。


「…まぁ、そう言っても信用してもらえないのは分かってる。だがよ、このままだとお前さんたち…絶対に殺されちまうぞ?」

「そんなのは分かってます!だから逃げてるんじゃないですか!」

「いや、わかってないな。レイブン王国が緊急依頼を出すってことの意味がわかってないだろう?」

「それが…なんだって言うんですか。」


ㅤこの男は怪しい。情報を小出しにして大事なことを言わずに信用させて裏切るタイプだ。俺はそんなのには騙されない。


「レイブン王国が過去に緊急依頼を出したのは5年前。王国内の町にイフリートドラゴンを数匹連れ込んで暴れまわったやつが出たときだ。」

「イ、イフリートドラゴン!!」


ㅤエリオが叫んだ。俺は?俺はそんなやつ知らないから分からん。


「イフリートドラゴンは単体でA+ランクの実力がある。討伐依頼が出た場合はSランクパーティが最低でも5組くらいで討伐にいくもんだ。お前さんたちはそんなやつと同等に危険視されてるんだぜ?」


ㅤ…なんとなく、やばいのはわかった。だが逃げればどうということはない。逃げればいいんだ、逃げれば。


「はっきりいうが、逃げても無駄だぞ。レイブン王国は強大だからな。他の大陸の国もレイブン王国の出した依頼なら率先してやるはずだ。逃げ場は無いといえる。」

「じゃあ大人しく捕まれっていうのか!誰がお前なんかに捕まるか!俺たちは死ぬまで逃げてやる!」


ㅤ俺は現実を受け入れたくなくて走った。エリオを抱えて。気を使って逃げればベックなんて一瞬で振り切れるはずだ。


ㅤズンッ


「かっ…はっ……」


ㅤベックはいつの間にか目の前にいた。腹に凄まじい衝撃を受け、俺は膝をついた。エリオが驚愕の目でベックを見ている。


「手荒な真似をしてすまねぇ。が、お前さんたちは俺の後輩だろ?安心しろ。なんとかしてやっからよ。」


ㅤなんとか?なんとかなるわけがない。さっき言ってたじゃないか。逃げ場は無いって。それなのになんとかなるとか言ってんのか?


ㅤ助けるとかいって俺たちを生け捕りにするんだろう。そんなことされてたまるか。


ㅤ逃げる。俺は足に力を入れようとする。が、足は全く動かない。足以外は全部動くのに足だけが動かない。


「ああ、もう足が動かねーだろ?お前さんも魔力が無くなっちまったみたいだな。そんな怖い顔すんなって。後は俺に任せて眠ってな。」


ㅤベックはエリオの側頭部に目に見えない速度で何かをした。エリオはそのまま体の力が抜けて意識を手放したようだ。体の力が入っていない人間は重い。俺は耐えきれずエリオをおろした。


ㅤベックが俺を見る。人懐こい笑顔だ。ああ、終わった。そう思った。だが、ベックは動かない。


「千尋。お前さんは気法を使えるな?」


ㅤコクリ、と頷く。


「俺も気法を使う。お前さんはまだ荒い。お前さんたちを助けたらこの町から出ていくことになるからそのときに色々教えてやんよ。」


ㅤだから安心して眠ってろ、最後にそういうとベックは俺に何かをした。速くて見えなかったな。


ㅤそして俺は意識を失った。


千尋はよく意識を失いますね。


次回は今度こそ、ベックです。

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