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スペースフィッシングシリーズ

スペースフィッシング

作者:尚文産商堂
 西暦2515年。人類は宇宙に広く分布をしている……はずであった。だが、実際は、太陽系の、海王星付近がやっとといったところであった。これ以上遠くへ行くには、寿命と資材と金銭的に、現在は不可能だった。
 一方でそれより内側、特に小惑星帯から金星の軌道あたりは、人類がほぼ制圧したと言っても過言ではない。通称、アステロベルトと呼ばれるこのあたりでは、最近、一攫千金を狙う山師たちが集っていた。木星から火星までの間は、一般的に小惑星帯と呼ばれている。このエリアこそ、資源の宝庫、最後の希望とも言われている区域だ。
 2311年に設立された超国家的機関、太陽系惑星同盟によって、地球に存在している全ての国、火星で独立した4つの国、木星の各衛星に設けられた衛星政府、金星に在る統一金星政府、これらが一つに集まった。その時に、ある協定が結ばれた。宇宙資源管理協定と呼ばれる協定と3つの付属議定書だ。この協定と議定書に基づいて、今後の小惑星帯の資源発掘、管理が行われることとなった。

「へへっ、やりぃ」
 宇宙船の彼、鰆大治(さわらだいじ)は、喜んでいた。2515年現在、小惑星帯の資源発掘は、彼らのような零細企業も多くを占めている。一方で大会社も、この永久に終わりそうもない発掘に参入をしている。勢力的に、シェアを約10%持っていているのが3社いる。いわゆる御三家だ。
 手野重工業、永門鉱業、トロイメント・ヘヴィ・インダストリー(Troyment heavy industry)。この3社は原則としてライバル関係にある。この3社を合わせてTNTとも呼ばれる。TNTで合わせて30%のシェアであるが、それ以外の7割は、統計で「その他」と書かれるような零細企業ばかりだ。彼も、その零細企業の一つ、個人商店「(さわら)」によって発掘を続けていた。
 発掘、この時代では略称としてSFと呼ばれている。正式に言えば、スペースフィッシングだ。小惑星を魚に見立て、釣りをしているような感じだからだろう。誰が言い出したか分からないが、いつしかこれが定着し、発掘手法も、釣りの技法の名前が付けられるようになった。

「よお大将」
 鰆が船を動かしていてたどり着いたのは、小惑星帯の資源の回収場所だ。ここでは、資源の売買、補修用資材の購入、その他ドック入りの手配やご飯や宿なんかも、ここでできる。ここは小惑星帯最大の小惑星であるケレスだ。
 協定によって、ケレスの発掘は禁止されているため、この小惑星は、比較的静かであった。とは言うものの、回収場所はさほど多くはなく、TNTの提携場所に行くか、もしくはこのようなところに行くかのどちらかしかない。協定附属第一議定書によって、公式の回収場所は、指定された場所にしかない。鰆が今いる回収場所は、そのうちの一つだ。外気温は、氷点下を上回ることはない。だが箱と呼ばれるここは、セ氏25度に保たれていた。また、湿度も一定の60%に抑えられており、快適に過ごすことができるようになっている。
「鰆かぁ。どうしてたんだよ」
 大将と呼びかけられた人は、始めはボンヤリと虚空に思いを馳せていた。だが声をかけられ、カウンター越しに鰆の姿を見つけると、すぐに笑顔になる。
「いい物が採れてな。換金してくれ」
「いいぞ。目録を見せてくれ」
 ポンと、鰆は大将に紙切れ一枚渡す。データ通信ではなく、今だに紙で受け渡しをしているのは、互いに証拠を残すためだ。そのため、この紙はのちコピーされ、鰆と箱の双方で100年間保存される。この目録は、どのような鉱物を、どれだけ回収することができたかということが記されている。この目録の偽造は重罪であり、終身刑が言い渡されると言うこともある。現物を見ると言うことを、ここではしない。代わりに、ここでは金銭の授受だけを鉱物において行い、現物に就いては後で精査すると言うことになる。よって、クズ石を持ってくると言うこともありうるわけだが、そのあたりは相手との信頼だ。そのため、お得意先という概念がある。ここならば間違いがないという阿吽の呼吸ができる相手だ。これによって、この方式は百年以上の長きにわたって成り立っている。
 なお、良石と呼ばれる、不純物があまり混じっていない鉱石を持ってきた場合、別途ボーナスが支払われることになっている。目録には、そのために必要な情報も書かれているため、書かれている通りのところに、そのままポンと支払われることになっていた。
「ふうむ、なるほどなぁ。今回はこれだけ持ってこれたのか」
「そうさ。すごいだろ」
 鰆の目録には、鉄鉱石が35トン、ヘリウム3が10キログラム、金が350キログラム、黄銅鉱が13トンと書かれている。特にヘリウム3は、核融合の燃料として、ケレス全体のエネルギー源となっていた。そのため、かなり高値で取引されるが、集めるのが難しいため、ここまでまとまって取ってくると言うのは、熟練の職人でないとできなかった。目録を受け取ると、今度は交渉だ。どれだけを鰆が受け取る課の取引になる。
「鉄鉱石はトン頭100ドル、ヘリウム3がキログラム頭が、ほう7000万ドルだな。金がオンス頭1000ドル、こいつは後でグラム換算してやるよ。黄銅鉱はキログラム頭130ドルだな。てえことで、鉄鉱石は3500ドル、ヘリウム3が7億ドル、金が350キログラムをオンスに直して、12345.8867オンスか。四捨五入で12346オンスな。てことで1234万6000ドルと。黄銅鉱が1万3000キログラムになるから、169万ドルか。で、全部足すと……」
 その時、大将の後ろから少女の声が聞こえてくる。すぐに計算を終えたようで、楽しげだ。
「7億1403万9500ドル!」
「…当たりだ」
 鰆はカウンターの後ろを覗き込む。少女が小さな机を持ってきてノートに何かを書いていた。どうやら勉強をしているようだ。だが、やっているのは見た目の年齢に似つかわしくない、大学の数学専攻で習うような内容のことだ。
「いやぁ、孫娘なんだけどね。すごいってなんのって。なにせ、もうすぐ12歳になるっていうこの歳で、大学の高等数学をマスターしたんだからなぁ」
「数学楽しいのかい?」
「楽しい!」
 鰆がきくと、右の八重歯を見せながら、にっこりと笑って答えてくれる。だが、それ以上に好きな科目があると言う。それはなんだいと、鰆がきいた。
「物理!」
「物理かい。といっても、かなり範囲が広いよ。どの範囲だい」
「えっとね、鉱石物理が好きなの」
 鉱石物理というのは、簡単に言えば鉱物学を指す。現在では、簡易に鉱物の種類を測定するための機械であったり、鉱物の分類をして、どのような素材が作れるかというそこまでを鉱物学の範囲に含めている。この少女が好きなのは、そういった、複合的なものなのだろう。そこまで考えた時、大将が思いついたように鰆に提案した。
「そうだ、どうだろう。鰆のところの船に載せてもらえないかな。隅っこでもいいから、実学を兼ねて」
「なんだって?」
 鰆は思わず聞き返した。だが、言葉の意味は全てはっきりと理解している。
 瞬間、鰆は積みこんである荷物を考える。現在のカーゴの最大積載量は、諸々含めて100トン分だ。水と食料で10トン、必需品類で3トン、その他さまざまな器具類が25トン程度ある。そのため、それらを引いていくと、残りは62トン分。おそらくは、少女を載せても十分であろう。そう判断することができる。
「ならさ、金額をちょいと上乗せしてよ」
「そうだなぁ。7億1404万ドルちょうどというのはどうだ」
「もう一声ほしいところだな。10万ドルじゃいかんのか」
「…よし分かった。7億1410万ドルな。後で口座に振り込んでおくよ。燃料とか補給は大丈夫か」
「この子を乗せるんだったら、食料と水を買い足しておきたいところだな。それに服も何着か持ってきてほしい。燃料は、満タンにしといて。出港は明後日てところを予定してるんだが、いいか」
「いいよな、ジェニー」
「いいよっ」
 こうして、独り身だった鰆の船に、ジェニーが載ることが正式に決まった。一応ジェニーの肩書きとして、船長補佐が新たに造られた。最近は、小学生でも宇宙船舶免許が取得できる時代だ。これぐらいは問題になることはなかった。

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