第五話 『これからどうする?』
かなり時間が経ったように思えるが、そう時間は経っていないのだ。
何のことか訳のわからないことをいきなり言ってしまう俺を許してくれ。この話は結構煙たがられてんだとよ。他のに比べテンション高くて書くのが辛ぇって。そんなの知ったことか。
こんな冒頭部分で三行もこんな事を並べるなんて、相当追い詰められてるんだな。テンション的な意味で。
さてさて、状況を整理してみようか。
暗黒死神十指団の妨害を受けながらも何とか第一試合に勝つことが出来た。だが、餃子の包で我が五十五期春組の面々は疲労しきっていた。こんな状況では第二試合などやらなくても結果は見えていたのだが、華河蛍子が勇気を振り絞り、手を揚げた!
「由雅…てめぇ後書きと本文をごっちゃにするんじゃねぇ! ってか揚げたって何だ、揚げたって! から揚げにでもやったのかよ!」
おちおち回想もしてられないらしい。このままではマジにクラス委員長の横家柚那に殺されるかも知れないので真面目にいきたいと思う。俺は常に真面目なんだけどな。
飛翔学園に転入してきた俺、天野由雅は本来編入するはずだった第五十五期夏組の元を離れ、というか半ば強制的に五十五期春組へと拉致られた。
その春組というのがちょっと変なところで、所属生徒はかなりのツワモノぞろいだが、その数は十数名。一クラス四十人ぐらいと考えてもかなり追い詰められている。与えられた教室はすでに失い、校舎の隅にある教材を置いておくような物置と思えるような場所まで追いやられている。
それでも諦めない闘志が俺のハートを震え上がらせた。
さて、これからどうしようか。自己紹介でもしたほうが良いのかと迷っているとき、喧しく教室…もとい物置…えぇいめんどい。教室で良いよな、拒否は許さん。ともかく教室の扉が勢いよく開かれた。
「報告、報告なんだぜ!」
一人の男子生徒がお得情報を持ってきたとばかりに教室内に転がり込んでくる。
ちょっと待て、こいつ確かさっき教室の中に居なかったか?
俺が転がり込んできた人物が居たであろう場所を見ると誰も居ない。あれ、おかしい俺の思い違いか?
「何? 男子生徒A」
横家柚那が転がり込んできた男子生徒に質問する。
名前云々については突っ込まないで置こう。これがコイツのあだ名かもしれないし。
「近々五十五期赤組の武田と五十五期白組の上杉が駐輪場の覇権を賭け戦闘する準備を始めたらしいぞ!」
前回近々って言ってなかったか?
「予定より早いな…横家、我らは……?」
日本刀を手に持った女子高生、大和撫子が横家柚那に問いかける。日本刀を持つ女子高生なんてありえないって言うな、其処。今は戦国乱世己の身は己で守らねばならん。模造刀の一振りや二振り持っていても不思議じゃないだろ? まぁ大和撫子は頭がおかしいので真剣を持っているが。本人には口が裂けても言えない。言ったことで口以上に全身が裂けそうだからな。
「…此処は様子を見て武田、上杉の勝者しだいで狙う場所を決めようか」
一同納得したらしく横家の言葉に頷く。これだけで横家がどれ程クラスメイトに信用されているか一目瞭然である。
「なんだ? 不服そうだな由雅」
横家は俺の首に手を回し馴れ馴れしく言ってくる。どうやら横家は俺の事を知っているようなのだが、俺の記憶には記録されていない。もしかしたら昔に会っているのかも知れない。一週間前の晩飯のメニューすら覚えてない俺なのだから、昔に何処かで会ったことを記憶しているとは思えない。
「他のクラスもハイエナのように上杉か武田の領土を狙ってるんじゃないのか?」
一大決戦に負け自らの支配教室や地域を守るだけの力を失うという事はありえないことではない。むしろそっちのほうが多いのだ。戦闘の主力になる人物を失い、なし崩しに他の勢力から支配地域を奪い取られる。生徒数が決まっている学校内戦闘ではそのようにして支配地域を増やしていく方法が一番被害が少なくてよい。
だが、それだけでは漁夫の利を得たとして敵対勢力に大打撃を与えたクラスに目をつけられてしまう。そのような事を避けるために奪い取った場所の何割かをその勢力に譲る。あなた達のために力の失った勢力の支配地域を取っておきましたよ、どうぞお納め下さいと。これで損をするのは負けた勢力だけとなる。いかに騙し騙された振りをするかが重要になる訳だが、何か気に入らないな。
他の奴と同じ事をしていれば他の奴と同じような支配地域しか得られない。俺としてはゼロからのスタート。他に類を見ない方法でやってみたいな。心機一転のためにも此処に来たわけだから。
「それはそうだけどさぁ…」
「我らの数では他の弱小クラスと遣り合って支配地域を奪い取ったとしても、大きくなり始めたところで他の教室に狙われるだろ」
横家と大和が口を揃えて言う。
「そうだな…すまない、余計な事を言った」
俺は横家と大和に頭を下げた。
「皆、戦闘よ、戦闘!」
女子生徒が勢いよく扉を開け放つ。あれ、なんか既観感?
「こんな時に一体何処と何処よ!」
横家が問い返す。その表情は少し輝いていてあわよくば自分達の得にならないかと期待をしているようだ。
「生徒会が絡んでいるのは確かです! 相手のクラスは不明」
なんだ? 生徒会?
「またあの理想家ね……ほんと飽きないわねぇ…」
「横家…生徒会って?」
始めて聞く単語である。生徒会? 生徒の会って事だよな。一体なんだそりゃ?
「生徒会ってのは才色兼備の東北西美波が率いる…って良いのかしら、とにかく学校を一つにって言ってる奴よ」
「とうほくせいみなみ? 随分中途半端な名前だよな。とうほくせいなんだったら笑えるが」
「そんな素敵な名前だったら別のところからお呼びが掛かるわよ…ほら、生徒会でもばっちりだし」
ちょっとなんの話! 前々から思ってたんだけど割りとせっまい元ネタあるような事ばっかり言っちゃってない?
「だってしょうがないじゃない」
いや、それは確かにわかるような気もするが。
「とにかく様子を見に行きましょう」
横家はそういうと先ほど飛び込んできた…女子生徒Aとでも言っておこうか。女子生徒Aに案内を頼む。
「こっちです!」
女子生徒Aはそのまま中庭の方へと駆け出す。
中庭にはもうギャラリーが多数集まって、その中心にさっきの面白名前の人と思わしき女生徒と、ガラの悪そうな男子生徒四人、女子生徒二人が居た。
「えーっとあれは五十五期夏組ね…」
五十五期夏組っつーと、俺が編入される予定だったクラスの奴か。
いかにもヤンチャしてそうな感じだな。
「支配クラスから金を巻き上げているという噂もあるな。それだけでなく、他の小勢力クラスの奴からも」
……ヤンチャしてましたか。
あんな奴の居るクラスに入ったなら俺も巻き上げられそうだ。勿論丁寧に拳をくれてやりますがね。
「あなた達、前にも言いましたが金品を巻き上げるなど言語道断。速やかに巻き上げた金を戻しなさい」
六対一という圧倒的劣勢の中でも面白名前の生徒は怯まずに言う。腰まである長い黒髪に前が見えるのか不明な長い前髪。男だったら間違いなくギャルゲ主人公だと叫んでいただろう。え、俺? 良いじゃないか、俺の髪型なんて。
「何か勘違いしてるんじゃないんですか?」
一同声を揃えて言う。
「彼らは他のクラスの悪い奴らからお金を取られると困るから僕らに預けているだけですよ」
絶対嘘だ。その面でそんな事言っても説得力ないぞ? 刃物ちらつかせてコンビニに入って、僕強盗しませーんって言ってるのと同じだぞ?
「そうそう、いわば貯金って奴ですよぅ。僕らに金を預けておいて、安全になったら返してもらうっていう」
絶対帰ってこない貯金だな。何せ貯金箱のケツに開閉できる蓋が付いてなく、更に貯金箱がガンダニウム…まぁ、ザ…緑色の兵隊の持つマシンガンで致命傷を与えられないぐらい頑丈な素材で出来ている貯金箱だろうし。
「減らず口を」
静かに面白名前の女子生徒が武器を両手に構える。武器は日本刀ではなく、片手で扱えるような五十センチにも満たないようなナイフ。片手に一本ずつ同じナイフを握ってるように見えるが若干、左手に握ったナイフの根元の部分がキザギザしている。刃こぼれか? まぁ刃の入ってない武器だから切るのではなく叩く。そりゃ刃こぼれもするわ。いっそ木刀の方が強いんじゃね? という突っ込みは受け付けないぜ。だって模造刀の方がかっこいいじゃん!
「確かに東北西会長は強いけど…今回は流石に分が悪いわね……三人ならまだしも、六人じゃ…」
む、分が悪いのか?
ギャラリーたちはやっちまえとはやし立てる。六人のうちの一人が前から気に入らなかったんだよね、正義の味方っぽく振舞ってるその姿と呟きながら応戦の構えを取る。
瞬きを三回ほどしたとき、六人が次々に面白名前の女子生徒に向かう。
六対一という不利な条件なのに面白名前の女子生徒は表情一つ変えない。というかずっとむすっとした仏頂面しか見てない気が。
六人の武器は剣が2。剣なのだが細い剣が2。まぁ戦い方が違うので別武器で考えた方が良いだろう。そして槍が2。
次々と打ち込まれているのだが面白名前の女子生徒は仏頂面のままそれをかわす。
かわしてはいるのだが、やはり多勢に無勢。徐々に追い詰められている感じがする。確実に追い詰められているんだけど、面白名前…しつこい? 面白名前の女子生徒は表情を歪めることなどなく、まだ仏頂面。その顔しかないのかって突っ込みたくなる。腕が六本ある超人だって怒りと冷血と…悲しみ。いや、アレは三つの顔が一斉に泣くからな……やっべ超気になってきた。誰か解る人教えて! とにかくそいつだって四つの表情はするわけで、この面白名前の女子生徒は喜怒哀楽というのがあるのか解らない。解ることは一つだけある。きっとカカカカと明らかに笑いにくそうな笑い方はしないだろう。ごめん、しつこすぎたな。
とか何とか考えてるうちに面白名前の女子生徒は追い詰められていた。ギャラリー達ももうおしまいかと期待が外れたように見守っている。つか、誰か助けろよ。
日本人はまったく白状だ。ドーナツ島だかドーナツ村かに生息するか二足歩行の動物を見習え。一度会ったら友達で毎日会ったら兄弟だって。その法則なら毎日お酒を飲むためというより横に座って話を聞いてくれるお姉ちゃんの店に行くのにも理由が出来るぜ? 兄妹の下に行くんだって。
というか動けよ俺。レッシー、ソラオだかはどうでも良いから。
「ったく、ミッテランない大統領だ」
俺は愛刀『天雅』で自分の肩を叩き前に進む。
そういえば刀の名前まだ由来を言ってなかったな。天野由雅からだ。だっさいって言うな、其処。これで刀が斬鉄剣とかだったら五右衛門かって総ツッコミだろ! え、ない?
「はぁ? なんだよそれ?」
六人のうち一人がミッテラン大統領に食いついた。いや、俺も誰か知らんぞ? 誰かの受け売りだ。
「そんな駄洒落から人の名前っぽく言うなよ、前髪の長い男貞子君」
「ちょ、お前ッ! 謝れ、フランソワ=ミッテラン大統領に! フランスの死刑廃止を行った功労者に! そして全国の前髪長い男子生徒に謝れ! 俺の前髪は人間筆の筆先目指してるのかって? 目指してねーよ! 俺の前髪を自分で左右に分けて一人暖簾ごっこしてるのかって? してねーよ! シャンプーするとき前髪を角みたいにしてユニコーンごっこ? するわけねぇだろ、馬鹿!」
ごめん、俺も最初ギャグだろうと思ってフランソワ=ミッテラン氏の存在疑ったわ。でも実在したわ…百人の愛人が居るって噂の立つお方で、俺も見習いたいわ。
「というか、お前ら…人の気にしてるところをズバズバと指摘しやがったな…」
「え、いや…何にも言ってないし…筆だの暖簾だのユニコーンだのなんか自分で言ってただけだし…」
目の前の奴が一歩後ずさる。
おい、やべぇ、やべぇよアイツ。と仲間と話してる。きっと前髪を馬鹿にしてるんだ。俺のアイデンティティを。
「貴様ら一人残らず前髪を俺と同じぐらいまで伸ばしてやろうか?」
「ちょ、それは一朝一夕じゃ無理…」
「うるせぇ、問答無用!」
一人に『天雅』を抜き放ち切りつける。確かな手ごたえ。そして同時に三つの衝撃が脳天に。
「……あれ?」
正面、左斜め後ろ、右斜め後ろからの攻撃。スッゲー脳天痛い!?
「お前、馬鹿だろ?」
俺の正面に立つ男の一言。
「よぅしおめえら、なんだか解らんが会長ついでにこの勘違いヒーロー君もやっちまうぞ! スイカ割りみたいに脳天から血吹かせてやるぜ!」
はぁ? ふざけんな! スイカ割りの基本は三人いや、三体か? それが一斉に一つのスイカを割ろうとして三人いや、三対の頭をそれぞれ割っちまう高レベルギャグだろうが!
というか、俺ピンチ?
「クソ、てめぇら俺の必殺奥義を喰らいやがれ!」
この状況を逃れる為には必殺奥義しかない!
俺は静かに腰を屈め、地面を強く掴む。
『なっ、必殺技だと!』
六人が怯む。よし、いけるぞ!
「必殺奥義、砂かけばばあ! 俺は男だから砂かけじじいか?」
うん、この状況を逃れるためには逃げるしかないだろ。というか俺逃げてばっかりじゃね?
ついでに何が起こったか解らないという状況でも仏頂面をした生徒会長の手を掴んで一緒に駆け出す。
「よし、逃げるぞ! 面白名前の生徒会長さん!」
『くそ、追え、殺すぞ!』
なんか気のせいだろうか、こんな状況になったの。確か肉団子とか、頭のおかしい真剣持った奴についさっきまで追いかけられてなかったか? |