第四話 『今日から春組!』
かなりのツワモノばかり揃っている五十五期春組。
他のクラスを滅亡させ、支配下に置いたクラスなどの数は一体どれほどのものなのか。嫌でも期待させられる。
「さぁ、着いたわ。此処が我が五十五期春組の本拠地よ」
五十五期春のクラス委員長がある部屋を指して言う。
思わず言葉を失う俺。
「此処が…本拠地?」
クラスプレートがつけられた一つの小さい部屋。これは教室とは言えない。
幾つか棟のある学生校舎の片隅にある使わなくなった教材を仕舞うような小さな教室。
四十人ほどの生徒が入るような教室の大きさではない。その大きさは教室というより部室並の狭さである。
「待て、何処に行こうとしている」
背中を向けた俺の肩を大和撫子が掴む。
これは流石に無茶があるだろ。
もう滅亡寸前のクラスじゃないか。本来のクラスはこの様子だと他のクラスに奪われ、命からがらこの空き教室に逃げ込んだとしか思えない。
「位置的にもクラスの場所が悪かったんだよ。とりあえず紹介もあるから中に入ってよ」
クラス委員長は扉の鍵を開けると俺をその中に招き入れる。
やはり中は狭い。長机が部屋の中央に一つあるだけ。そして壁の色も汚い。
廊下など、ある程度塗装などがしっかりしていた学園の教室だとは思えないほど汚い。
壁は代々此処で数人の生徒が集まり、輪になって何かの儀式をしていたのだろうか、黄ばんだ色に変色し、床の一部は黒く、何かを擦り付けたような痕が残っている。
天井に至っては雨漏りをしているのか、真っ白なはずの天井に素敵な模様が描かれている。
一つ言える事は…もう色々と駄目じゃん!?
教室の中には先ほどの荷物を抱えていた短めの髪の女の子と、ツインテールをした外見小学生。
ちょっと待て、何で小学生が此処に居る? 此処は高校で小学生が来るにはまだ早いぞ? それにその背丈とクビレのないスンドー体形で、贔屓目に見て中学一年生。率直に見れば小学校上級生。
「皆、お疲れ様ー。話はホタルちゃんから聞いたよー。いやー転入生を捕まえたんだって、お手柄お手柄」
小学生らしき高校生が労いの言葉を掛ける。
他の生徒と違って、この小学生らしき高校生は学校の制服を着ていない。あからさまに小学生が着るようなセーターなどを着ている。そんな様子だから小学生に見えるのか。
いや、待て。普通に考えてわかるだろ。高校に制服を着ていない生徒が来るなんてありえない。こいつは……。
「座敷童だ!」
小学生らしき高校生を指差して叫ぶと、周囲のなんら特徴もない男子生徒と女子生徒が騒ぎ出す。
『え、マジマジ? 座敷ワラシってあれだろ? その家に居ると裕福になるって奴。って、マジで居るぅぅ!? じゃぁ1−春学校統一出来ちゃうんじゃね? 出来ちゃうんじゃね!?』
そんなものただの迷信だと思っていたが、実際に居るんだなぁ。
座敷童は小刻みに震えている。
「いやいや、大身田先生、皆冗談で言っているだけですって。まぁ、先生を始めて見る転入生がそんな反応するのは見えているじゃないですか」
クラス委員長がそう言って座敷童をなだめる。
ってか、先生だったの、この人。
「さて、自己紹介と行きましょうか、アタシは横家柚那。歳は十六。解ってると思うけど、このクラスの委員長代理を務めているわ。とは言っても、あと一ヵ月後にもう一度クラス委員長を決めるからね」
横家柚那は俺と同い年か。時々十六歳の集団の中に十七とか八が居たりするからな。
あと一ヶ月って言うと、四月……そうか。二年生に進級するにあたってまた委員長を決めなおすのか。だが、この分だとまた横家柚那が委員長を務めそうだが。
それよりも、俺はこいつを知っているのか? 何処かで見たような顔だ。でも、一体何処で? それが思い出せない。
「え、えっと、私は華河蛍子です。趣味はお料理を作る事ですね。う、運動とか苦手で、抗争のときは役に立たないと思いますが、よろしくお願いします」
先ほどのショートカットの女子生徒がぺこりと頭を下げる。一言で感想を言うならば、守りたくなる。
「貴様のような輩に挨拶をするのは気が引けるが、大和撫子と申す。まだ貴様を信用していない。不穏な動きをしたら、即座に我が愛刀、菊花の錆にしてくれよう」
先ほど俺を追っていた女子生徒の大和撫子。まともに打ち合ってはいないものの、かなりの実力者で、真正面から戦ったら勝てる気がしない。
残るクラスメイトは六人。男子生徒三人。女子生徒三人。残りで外見小学生の先生か。
男子生徒ABCと女子生徒ABCといったところか。何処にでも居るような平凡な奴らである。
「で、最後に私、大身田長子このクラスの担任をやっています。好きなものは牛乳と魚。名前の由来はお父さんとお母さんが大きな子になれって……」
自らの出生を語りだす先生。聞いてるだけで涙があふれ、止まらない。
不憫すぎる……。
身長を伸ばすために脚にダンベル括り付けて新体操用の鉄棒にぶら下がる話とか。
「って、後は俺だけか。五十五期夏組に転入予定だった天野由雅。十六歳」
其処まで言ったところで、クラス委員長の表情が変わる。
「お前、由雅か!? あの天野由雅か? 第二中学に一年間通ってた!」
確かに俺は中学校一年生の時は第二中学校という場所に通っていたが、急な親父の仕事の都合で第四中学に転校する事になった。
そうなると、横家柚那は第二中学の頃の知り合いか?
「いやぁ、久ぶりだなぁ、由雅。かなり雰囲気変わってしまってわかんなかったぞ、おい」
横家柚那は俺の首に手を回し、馴れ馴れしく話しかけてくる。
駄目だ、名前と第二中学だけじゃ何にも思い出せない。
「背、アタシの方が大きかったのに、今じゃ越されちまったなぁ。それに男らしくなって!」
横家柚那は懐かしむように俺の背中を叩く。
いかん、思い出せない。
まぁ、無理に思い出さなくても、じきに思い出すだろう。
「横家…其処の天野と面識があるようで、その再開を邪魔するようで悪いのだが、今五十五期の夏組は天野の奪還を目論み、早々に手を打ってくるであろう。それの対応を練るのが先ではないか?」
大和撫子が一度咳払いをする。
確かに俺の編入先予定のクラスが何もしてこないというのはありえないだろう。
「あーごめん、大和さん。つい懐かしくって……」
横家柚那は俺から離れ、制服から一冊のメモ帳を取り出し眺める。
「えーっと、情報によれば近いうちに五十五期白組の上杉と五十四期赤組の武田が大規模な戦闘を行うだろうから、どのクラスも迂闊に動かないでしょう。この結果によっては上杉支配地域と武田支配地域に大きな変動がある事が予想されるから、武田と上杉の同盟クラスはその混乱に乗じ、自分達の支配地域拡大を目指して動くと思うから、五十五期夏組とアタシ達の間で戦闘は起こらないわ。ありえるとするなら、上杉と武田の戦闘が終わった翌日とかにありそうね」
勢力云々の話をされても理解できない。これは後で華河蛍子ちゃんにでも聞いておくかな。
男子生徒ABCや女子生徒ABCも今後の方針について話し合いを始めた。
話を盗み聞く限り、この学園の勢力は一つだけ大きい勢力とかはなく、小さい勢力が小競り合いをして、均衡を保っているようだ。
その中でもかなり追い詰められて居る春組。だが、其処に残っている生徒には諦めなどという言葉はなく、自分達で切り開く道を探している。そんなメンバー達を見ていると、俺の中でも何か熱く燃え滾るものがあった。 |