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制服談義

作者: 佐川恭

 土曜日の午後、由那が学校から帰ってきた後、自分の部屋で制服から普段着へ着替えていた。

「あそこの制服、可愛いかったよねー」

「そうですね。パイも美味しかったですし」

 どうやら由那と陽子は、学校の帰り道、どこかに寄り道をしてきたようである。警護する側としては急遽予定を変えられるのは迷惑以外のなにものでも無いが、学生である由那をそれほど不自由にさせるわけにもいかず、許容出来る範囲で自由な行動が許されていた。

「陽子だったらオレンジが似合うかしら?」

「どうですかね。私はガサツですから、あんな可愛い制服は似合わないと思いますが」

 二人は帝都でも制服が可愛い事で有名なファミリーレストラン「アンニャミラージュ」へ行って来たようだ。そんな所に陽子はメイド服で入っていったのかと考えると、かなりシュールな光景であっただろう。警護班は警護対象が目立ちすぎて頭を抱えたに違いない。

 なにしろ警護班長自らが目立っているのだから。

 しかし、彼らはその後さらに頭を抱える状況になるとは思っていなかった。

「由那様だったら、何色を着たいとお思いですか?」

 その店にはオレンジとピンク、黄色の三種類の制服があった。

「あたしだったら、ピンクがいいなー」

 由那は思い出しながら言った。

「あぁ、それはお似合いだと思います」

 それにピンクのカチューシャですかね、と付け加えた。

「明るく、可愛く、格好良く、ってああいうのを言うのかな」

 由那が店で元気よく挨拶され、オーダーの取り方などもウェイトレス全員が同じ仕草をしていたのを見て感じたらしい。

「私の目にもとても新鮮でした」

「くるくるてきぱき動いていたし、制服もきっちりしていたし、有名なだけあるわねー」

「あれは練習しているんですかね?」

 陽子はウェイトレスがコーヒーをついでいる時の仕草を真似した。

「着てみたいと言ってる女の子が多いのもうなずけるな」

 学校で友達との話題になったので帰りに寄ってみた、という事らしい。

「由那様も着てみたいですか? さすがに由那様がアルバイトするの無理ですしねぇ? 少し日程頂ければ作って差し上げられますが」

 とはいえ、実際に作るとしたらその担当は陽子達では無いが。

「んー着てみたいけど、恥ずかしいかも」

 由那は今着ているスカートの裾を軽く持ち上げて言った。

「そんな事ありませんって」

 由那は少しの間考えて、自分の胸を見て言った。

「やめとく。この胸じゃかっこ悪いわ」

「えーそこですか? 見るのそこですか?」

 確かに由那の胸は陽子や美雪よりもかなり控えめなのは誰の目にも明らかだった。


 しばらく由那と陽子の制服談義が続いた。

「で、ホントにやるんですか?」

 陽子は何となく哀れな表情をして言った。

「もちろん。そろそろ美雪が来るかしら?」

 由那は鞄から可愛らしい紙袋を取り出した。その紙袋はパイを食べた後、警護班を悩ませた別の店に寄った際、由那が購入してきたものだった。


「お嬢様?」

 美雪の声と共に、由那の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「あ、美雪来た来た。入って」

「お茶をお持ちしました」

 美雪はドアを閉めてから言った。

「ありがとう」

 由那は応えた。

 美雪がセイロンティーを準備している間、由那は美雪をじっと見ていた。

「うーん、今まで見慣れちゃったのもあるんだけど、較べると優雅って言うのかな」

「そうですね。美雪は給仕も上手いです」

「何のお話ですか?」

「ん。美雪の仕草。ウェイトレスさんと全然違うなーって」

 美雪と視線が合ってしまい、少し赤くなりながら言った。

「お注ぎしますか?」

 美雪が準備を終えると訊いてきた。

「お願い」

 由那は応えた。時々気が向いた時は由那自身で注ぐのだが、今日は美雪の給仕を見ていたくて注いでもらう事にしたのだった。


「今日は美雪にプレゼントがあるの」

 由那は美雪を手招きしながら言った。

「えーと、今日は何の日でしたか?」

 由那の予定やカレンダーを頭に入れている美雪だったが、特に該当する予定も記憶も無かったので訊いてしまった。

「ううん。全然何の日でも無い。学校帰りにいいお店があったから寄って来たついでに買ってきたんだけど」

 それを聞いた美雪は、警護班から逐一報告されてくる情報にあった、由那がファミリーレストランに寄った事を言っているのだと思った。

 しかし、美雪の予想は覆された。

「じゃじゃーん! ここで登場! 美雪にパンティ アンド ストッキング ウィズ ガーターベルト! どう? ちょっとスカートめくったらセクシー路線」

 由那は紙袋から折りたたんであるパンティとストッキング、ガーターベルトを取り出すと美雪に押し付けた。

「なっ」

 美雪は大きな声を出しそうになった。

「美雪に着せてみてみたーい!」

「由那様、由那様。一応、フォローしておきますと、私達の服はフルレングスの下にペティコートドレス、そしてドロワースですから、ガーターベルトとか使えませんよ。それにメイドがスカートめくってどうするんですか」

 陽子が由那に苦笑いしながら言った。

「美雪? あれ?」

 由那は美雪の様子がおかしい事に気が付いた。

「あ、固まってますね。うーん、今日は使い物にならないので引き上げます」

 そう陽子は言いながら、よいしょ、と美雪をまるで荷物のように肩に担いで部屋を出ようとした。

「え? え?」

「こうなると思ってましたよ。今なら美雪にやりたい放題出来ますよ。今のうちいじり倒しますか?」

「や、やめとく。さすがに悪い気がしてきた」

 今の由那の様子を漫画的に表現するのなら、大きな汗マークが描かれている事だろう。


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