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ヤーシャの国の魔法技師 作者:アラトリウス

二代目魔法技師、参上

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第4話 進捗、ダメですか?

 それから一週が経った。
 最初のうちは素直すぎる瑛士の態度に不安を感じていたシャルロッテだったが、その不安はすぐに消えていた。
 正確には懸念していた不安は実現しなかったが、別の不安が首をもたげてきたのだ。
 兄王の部屋を訪れて説明すると、彼女の予想通りヤーシャ王は眉をひそめた。

「……そんなことがあり得るか?」

 異世界人を召喚するにあたり、ヤーシャ王は当然のことながらすんなり話が進まない事態を無数に想定していた。
 それまで住んでいた場所から無理やり引き離されれば犬だって抵抗する。当然の想定だったのだが。

「仕事の対応が悪かったりはしないのか?」
「誠実そのもので、慎重かつ的確に魔道具を修理されています。本当に今の待遇に不安をもっておられないようなのです」

 返す姫の言葉も自信がなさげだ。
 あるものを有ると言い切るのは簡単だが、その逆は難しい。

「……下心でもあるんじゃないか?」
「お茶にお誘いしても、断られてしまいましたわ」

 男を茶に誘ったのか!と怒鳴りそうになったヤーシャ王だったが、自分から持ちだした話の流れでは怒るに怒れない。
 ふむ、と唸るだけに留めておいて、ヤーシャ王は思考を切り替えることにした。
 エンジに問題はない。それの何が問題なのか。問題はないはずだ。
 言葉にしてみるとおかしな結論だが、今問題になるとしたら、彼の魔法技師としての能力だけだ。

「エンジが何も企んでいないというのならそれでいい」
「何も対策をされないのですか?」
「奴が何かをしでかしたとき、首をはねる剣さえあればよかろう」

 兄の脳筋ぶりにため息を付いたシャルロッテは、そのまま部屋を出た。
 王があの様子だから、細かいことを見極めるのはいつも周囲の人間の仕事になる。
 人生とは問題ばかりが起こるものだ、ということを姫は熟知していた。大人に関わればいつだってそういうどす黒いものが自分の周りにあった。
 本当に彼が魔法を組み立てられるのか。
 その暗い未来を見通すのは自分の役目だろう。



* * * * *



 兄王が退出した後、シャルロッテは食事を楽しみながら、瑛士に舞台の演目の元になった伝承を語り始めた。
 舞台の内容は簡単にいえば『国を襲ったドラゴンを退ける』という英雄譚である。
 ドラゴンと戦うなんて、前任者はとんでもないことをしでかしてくれたものだとぼやきながらも、瑛士は姫からドラゴンの伝説についてよく話を聞きどんな魔導具を作ればよいのか頭のなかで絵図面を大量に広げていた。
 姫から聞いたお伽話から率直に思い浮かぶ魔法は、"ドラゴンの息吹をかき消す魔法"だ。
 しかし、それは魔法では不可能な領分だった。

 神殿で弄っていたいくつもの魔導具には、技術の型(フレームワーク)とも言い換えられる不変のルールがあった
 それは【他の魔法に魔法で干渉は出来ない】というもの。

 魔導具に記述された魔法を発動させる。魔法が効果を発揮する。
 この当たり前のプロセスには、一つの中間地点が存在する。それは、魔法陣が生み出した魔法の根源がどこかに存在するということだ。

 空中に生み出される火球。
 宝箱に封をする。
 それらのエネルギーに作用する何か。
 だが、その何か自体を制御するような魔法は存在しない。少なくとも、神殿には奉納されたことはなかった。

 では今までの演劇では飛んでくる火球をどのように防いでいたのか。

「過去の演劇では、水や風を使ってドラゴン役の息吹を防いでいたんですか?」
「正解です。観覧者に配慮してドラゴンの炎自体も小さめなのですが、ちょっと手を尽くせば手に入るような魔導具で演劇は行われてきました」
「……もちろん、私がその演劇と同じような手段を使って炎を防いでも、魔法技師である証明にはなりませんよね?」
「はい、大正解です」

 にっこりと微笑むシャルロッテ姫に思わず見とれそうになったが、その答えが分かっていて彼女は瑛士を誘導したフシがあった。
 実際にはふしどころか狙い通りに彼を誘導していたのだが、ともあれ瑛士はその場での回答は避け、どのようにして炎を防ぐかは後日回答します、とその場は切り抜けた。



 一朝一夕には進展しないと悟っていたのだろう。
 姫が再び瑛士の前に顔を出したのは、会食を行った晩から三日後のことであった。

「ドラゴンを倒す魔導具。案は出来ましたか?」

 前回よりも具体的でいじわるな質問に、机に座ったまま受け答えをしていた瑛士は苦笑していた。
 その目のしたにはどことなくクマが出来ていたが、瞳に込められた自信は力にあふれていた。

「倒す魔導具なんて作れませんが、今回作るのは他人の魔法を打ち消す魔導具をご用意しますよ」

 他人の魔法を打ち消す。
 簡単に言ってのけたその一手は不可能そのものだった。

「エンジ様……。残念ながら、その手段は」
「今のところ再現出来る魔導具はないんですよね?先代の魔法技師を除いて」
「除くと言いましても、先代の魔法技師様が使っていた道具は残っていませんし……」

 いったい何を根拠に話をしているのだろうか。プレッシャーを与えすぎて狂ったのか?
 普段は鉄面皮のような笑顔で本心を隠す姫がおもむろに訝しみ始めたのだが、それを認識した上で、瑛士は自信ありげに話を進めた。

「書物庫の伝承をひと通り読ませて頂きましたが、ドラゴンが吐くという炎の息吹も魔法と同等の存在のようです。おそらく前任者も干渉不可のルールを乗り越えていたと思いますよ」
「ひと……えっ?」

 姫は彼の推論よりも、最初の一節に気を取られていた。
 そして周りの目も忘れて、作り笑いも声音を整えることもできずに問いなおしていた。

「読んだ?あの大量の書物を?冗談でしょう?」
「概要をつかむだけですが。冗談ではなく」

 ほんとですか、と姫が彼の部屋に常駐している護衛へと目線を動かすと、兵士ははっきりと頭を縦に振った。

「たしかに、管理者からひと通りの書物を引き出し、目を通されてから返却されておりました」

 瑛士はその兵士にぺこぺこと頭を下げた。
 自分は椅子に座って読書を続けながら、彼に大量の本の出し入れをさせ、侍女さんには食事を運んでもらっていたのだ。
 あとで彼らにも何かを返せるといいなぁ、とのんびり考えていた瑛士は、姫が無表情になっていることに気づいた。

(これが、彼女が王様から大事を任される証拠か)

 瑛士はその鉄面皮を見て確信していた。
 やわらかな声音と、誰をも魅了する笑顔。それは彼女にとって公的な場に出るときの装備でしか無く、本質はこの怜悧な表情の底にあるのだろう、と。

 そして姫もまた確信していた。
 兄が召喚の際に求めていた「国を助くる者」という資格を、この男は確かに持っているのかもしれない。魔法を解析したのは偶然ではない。この頭脳を"使える"ことがどれだけ有力で、そして危険なことか、と。

 姫と技師の硬直は一瞬だった。
 部屋に控える誰もが気づかないほど時間で互いに逡巡し、お互いが出した結論はこのまま様子を見るということだった。

 姫はその後も毎日瑛士の元に顔を出し、その進捗を確かめた。
 なにせ祭りまではあと一月を切っているのだ。兄が盛大に見切り発車を決めたため、魔法技師を祭りまでに用意できなければ周辺諸国が大いにヤーシャの国を侮って派手な行動に移るだろう。
 それだけは絶対に避けなければならないというのに、いざヤーシャ王に瑛士の状況を伝えれば、彼が裏切ることは想定していても、魔法を作ること自体に失敗するとは微塵も考えていないようであった。

 私がなんとか形にしなければ。
 そう思って意気軒昂に瑛士の部屋を訪れたシャルロッテだったが、昨日とは打って変わって、瑛士の表情は暗く、顔は青白い、不調そのものな様子であった。
 瑛士の生活環境はこの国において最高水準のものを与えるように采配をしている。監視のための兵士と、侍女を部屋へ待機させているのは一般人出身という彼には息苦しいかもしれないが、不自由はしていないはずだ。
 ならばなぜ、と思った姫は、彼の机の上に散らばる色とりどりの輝く欠片に気付いた。

「それは……宝石ですか?」

 高等な魔導具を作るのに宝石は必須だ。
 魔法を発生させる何がしかに影響するのに宝石が適しているようだが、その詳細は分かっていない。
 分かっているのは、影響の度合いを大きくするためにはより大きな宝石が必要、という現状の法則だけだ。
 他国からの贈呈などで宝石をあしらった魔導具をもらったことは数多くある姫はそのサイズも知っていたが、これらは魔導具に使うにしてはいずれもこぶりだった。

「えぇと、宝石だったものです……」
「これ全部、宝石を壊したものなんですか!?」

 机の下で何か物音がするので回りこんで見てみたら、そこには大量の割れた宝石が詰まっていた。
 一個や二個では効かないだろう。
 何をしていたかわからないが、彼の言う「魔法を打ち消す魔導具」を作るのには並大抵の宝石では足りないらしい。

「メリル。これは?」

 瑛士に聞いても誤魔化そうとするだろうと判断したシャルロッテは、侍女に直接問いただした。

「神殿に貯蔵されていた壊れた魔導具の宝石を回収して、再利用の実験をしておりました」
「あっ、メリルさん!黙っててって言ったじゃないですかあ!」

 メリルはその隠し事のほとんどをしっかりシャルロッテに報告しているのだが、瑛士の泣き言に付き合うものはいなかった。

「こんなに壊すまでやる必要があったのですか?」
「壊れる法則は分かったそうです。ですが、成功例は今のところありません」
「エンジ様?」
「いや、正しく動くプログラムを作るには、動かないところを1つずつ潰していくのが大事なんですよ!」
「誤魔化していませんか?」
「マジです!ホントに!」
「であれば、素直に報告してください。でなければ協力できることもできないではないですか」
「えっ。協力……頂けるんですか?」

 バカにされているのだろうか、と再び姫の表情が冷たくなりかけていたので、瑛士はあわてて釈明した。

「いえ、たいていの仕事は一人で任されていたものでして、依頼主から援護があったためしがなくてですね!」
「どれだけ劣悪な労働環境でしたの!?」

 一人でできることなどたかがしれている。
 国どころか仕事に関わっていれば当たり前の事実だ。
 メリルから伝え聞く元の世界の話では、生活環境は大分恵まれていたようだったのだが、実は奴隷階級だったのだろうかと姫は余計な心配をしていた。
 姫は瑛士を勝手に(実際は的外れでもなく)哀れんでためいきをつき、彼を立ち上がるように促した。

「宝石ならば私の手元にいくらでもあります。自由に見繕ってよいですから、そういうことはしっかり相談して下さい」

 優しい依頼主(クライアント)なんて、まるで神様みたいだ!と内心でよく分からない感動を覚えながら、瑛士はのこのこと姫のドレスルームについていった。
 彼の周囲を囲む兵士の数が増えていることには全く気づいていなかった。
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