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ヤーシャの国の魔法技師 作者:アラトリウス

プルーフ・オブ・ゼム・ライフ

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第24話 魔法技師

 瑛士が左手を天に向けると、街全体を包むほどの突風が巻き起こり、空の雲を割った。
 新しい腕甲の金属のおかげか、サアラの込めてくれた魔法のおかげか。いずれにせよ、腕を覆う腕甲の補助はとんでもない効果を発揮していた。
 指先が実際にエレメントをつかめるのではないかと思うほどにエネルギーが充足して、ついつい気も大きくなってしまう。

「一騎打ちでも、全軍でも、好きな方の相手をして差し上げますよ」

 瑛士の発した声は空気中のエレメントの活動を通じて、両軍の全員がしかと耳にした。
 だがバカ正直にエルフを叩きのめしても、あの男への怒りは晴れないだろう……などと冷静に考えられるわけもなく。
 瑛士はどうやってスウィルノウただ一人を一騎討ちに引きずり出すかを考えていた。

 だが、面倒くさくなったので考えるのをやめた。

 高気圧の塊を作り、上昇気流と混ぜ合わせる。
 立派なトルネードの出来上がりだ。

 竜巻を丁寧に操って、スウィルノウと軍団の間を通過させる。
 竜巻に巻き込まれないようにこらえるのが精一杯で、踏み出せるものは一人もいない。

「エルフの伝統を気安く……私が相手をしてやろう!」

 声だけは威勢が良いな、と瑛士は感じた。スウィルノウが腰から細い剣を抜いて構える。

(意外としっかり足を踏ん張っているような?)

 もしかしたら本当に自信があるのかもしれない、とリスクに気付けたのなら、メリットと秤にかけるだけだった。

 風の力を普段と同じ程度に制限して、市壁から足を踏み出す。
 当然落ちるはずもなく、空中を歩いてスウィルノウの上まで歩いていった。
 相手が剣に自信を持っているのなら、その間合いに踏み込んで戦うのは愚策だ。
 問題が解決出来れば、同じ土俵に上がる必要はない。

「そんな無粋な物はしまって、お互いの魔法で証明しましょうよ」
「それならばこのままで、十分なのだよっ!」

 スウィルノウが上空に向かって剣を振り上げる。
 無論、悠長に見下ろしているはずもない。
 魔法を飛ばすか、剣が伸びるか。
 いずれにせよ物理的に届かない攻撃ならば指先一つでどうにでもなるのだから。

「オブジェクト破壊」

 遅らせ気味に発動した魔法が、空中で何かを霧散させ、光に弾けた。
 やはり。そしてこれは。
 思わず振り向きそうになったが、我慢してこらえた。
 これはヤーシャ王が持っている剣と同質のものだ。
 あの人が出ていかなくてよかった、とこっそり息を吐いた。人間の魔法がエルフの魔法を模倣だと盛り上がられかねないところだった。

 瑛士がゆっくりと思考を重ねている間、スウィルノウは幾度も剣を閃かせたが、すべてが同じ現象の繰り返しだった。
 危惧していたような魔法は持っていないのだと確認して、瑛士はようやく詰みへの譜を打つことにした。

「スウィルノウ、エルフに時間を操る魔法はあるか?」
「何を馬鹿なことを聞いている?」
「いいから。エルフの魔法に自信とやらがあるなら正直に答えてくださいよ」

 特大の大振りで返事が帰ってきたので、今度は剣を降る前に魔法を解除した。
 剣が振動して吹き飛び、スウィルノウは素手で空中を見上げた。

「時や空間は神々が定めたものだ。エルフの所有物ではない」
「そうですか。では聡明なエルフの諸兄にお聞きしましょう」

 瑛士は空中でタクトを振るように腕を動かしながら問いかけた。
 その動きを見てシャルロッテが息を呑んでいたのだが、あいにくと瑛士は気付かなかった。

「先代の魔法技師は魔法陣で呼ばれました。このような文字と紋様でね」

 ひときわ強く腕を振り上げると、空に巨大な円が浮かび上がった。
 円だけではない。その中には無数の魔方陣(プログラム)が、今まさに走っていた。

「はて、これは誰が考えたものでしょうか?」

 君達が考えたものかな?
 言外の問いかけはまたも全員に届けられた。

「長老が言っていましたよ。エルフの魔法は生まれつき持った言葉の力で呼びかけるものだと。人間のやり方は根本から異なるのだと」

 そして。

「魔法を作った先代のエンジニアは、この魔方陣で呼び出された……このようにね」

 魔方陣が輝いて消え、夕暮れの空に朝日のような眩い白が満ちた。
 目を逸らし、再び見上げた空の上で、魔法技師は手に黒い何かを持っていた。
 その武器の名を知っているのは瑛士だけだ。
 適当に狙いをつけて足元に放つ。

 リボルバー式の拳銃の炸裂音と、それよりも早く飛来した銃弾は見事にスウィルノウの太ももを貫いた。

「あなた方の言い分ではちょっとしたパラドックスですよね?」

 さぁ、どう言い訳する?
 できるものならしてみろ。論理の積み木は得意技だ。
 ましてここに嘘はない。純粋な真実だけ。

「そ、その武器もエルフの知恵を流用したのだろう!」
「まぁ、そうきますよね」

 悪魔の証明だ。流用していないと証明することは難しい。
 だがそれで良かった。
 秘策はまだあるのだから。

「論理では証明できないから難癖をつける。いますよね、そういう声だけ大きい人。八つ当たりですけど、そういう人種は」

 大嫌いなんですよ。
 前世で受けた理不尽な仕打ちが思い出したくなくても浮かび上がる。
 冷静に突き付けていた論理では相手を負かすことができた。
 エルフ達の中には白けた顔をしている者もいる。負けを悟った者もいるのだ。

 だがその中には拳を握りしめている者もいた。
 瑛士はゆっくりと地上へと降下し、スウィルノウの手が届く範囲に緩やかに着地した。

「口で勝てないなら腕力で勝ちたいでしょう?」

 弾き飛んだ剣を風で引き寄せて投げつける。
 流石にしっかりとキャッチされたがそれでこそだ。

 瑛士はローブの袖を捲りあげた。
 そこには腕甲と、今までになく輝くエルフの涙があった。

 もはや問答をする必要はない。
 スウィルノウは強引な話の流れを断ち切りたいように見えたが、隙を与えるつもりはなかった。
 瑛士はずかずかとスウィルノウの間合に歩み寄る。
 当然剣は瑛士の首を狙ったが、血飛沫は上がらなかった。
 肌に触れる直前で剣は見えない壁に弾かれていた。

 呆然と硬直するスウィルノウに、握った拳を叩きつけた。
 腰の入っていない正拳突き。
 しかしエルフの男の体は殴られた衝撃で宙に浮いていた。

 誰もが声を失っていた。
 何が起きたのかまるで分からないが、再び瑛士が近寄ってきたのであれば、スウィルノウは剣で迎撃するしかない。
 間合いの一足外、魔法の一撃はパリンと割れ、続く一撃はまたも何かに弾かれ、今度は無様な直蹴りがスウィルノウの腹を直撃した。
 体が吹き飛ばされるほどの衝撃が直撃すれば、内蔵もただでは済まない。現にスウィルノウは2回殴られただけで口から血を零していた。

「これが僕の魔法です。人間の魔法であり、異世界人が築き上げた魔法です」

 それをしかと目に焼き付けさせる。
 これを自分たちの物だと言い張るのか。
 何もない場所からこの技術を積み上げたであろう先代魔法技師の努力をかっさらい、傲慢な主張をするつもりなのか。
 瑛士は風をハンマーのようにスウィルノウに叩きつけ、地面へと押し付けた。
 負けたと認めさせるまで続けよう。
 そう思っていた瑛士は、地面へと臥せっていたスウィルノウが胸元から取り出したものに気付くことが出来なかった。

 それは、緑の弾丸。
 スウィルノウは手のひらに乗せた5発の弾丸に言葉を乗せた。
 小粒だが間違いなくエルフの涙だ。
 いったいどんな魔法を使うつもりなのか。推測は出来た。瑛士を狙うその動きには見覚えがあったからだ。
 咄嗟にリボルバーを右の腰だめに構え、左手をトリガーにかけた。

「レラ!!」

 魔法の言葉は以前に聞いたものより短いが、効果は同じようだった。
 凶弾が再び瑛士を狙う。
 しかも五発の弾丸は前回の暗殺者のように拡散せず、瑛士の左胸……弾丸が突き刺さった場所をあやまたず狙っていた。

 だから、それは偶然だった。

 引き金とトリガーを高速で交互に引き、早打ちでリボルバーに残った五発の弾丸を撃ち尽くした。
 5つの撃鉄音。5つの銃声。
 そして5つの金属音。

 魔法を使うまでもなく、瑛士を狙った凶弾は弾丸で弾き落とされていた。

(うっそぉ……)

 自分でも驚いて硬直していたのだが、エルフ達の驚愕はそれ以上だった。
 知恵でも、武力でも、己達を導くはずだった新たな長老を完膚なきまでに打ち負かした瞬間を、見逃さずにしっかりと目撃してしまったのだから。
 この戦場を終わらせる最後の一言を放ったのは、瑛士が地上に降りるや否や門を開き、突撃を開始していたヤーシャ王だった。
 瑛士が拡声の魔法を付与して、彼の言葉を戦場に広げる。

「全軍突撃だ!降伏するものは武器を捨てて地に伏せよ!立っているものは残らず切って捨てろ!!」

 地面に押し付けられているスウィルノウは殺さない、という意思表示だろうか。
 武器を取るものが半分。伏せたものが半分。
 全軍が揃っていれば魔法の差で良い勝負になっていたかもしれない。
 しかし趨勢は既に決しているも同然であった。

 歴史の舵を大きく切ることになったであろうエルフと人間の争いは、こうして魔法技師の活躍により日も暮れる前に終結した。
 そして、舵はヤーシャの国と魔法技師を大きな潮流に乗せる方向へと、ゆっくり、しかし確かに進むのであった。
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