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ヤーシャの国の魔法技師 作者:アラトリウス

東の森の来訪者達

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第15話 今度こそ再会を

「瑛士に渡したいものがある」

 サアラがそう言い出したのは、精霊との踊りを見せてから数日後、彼女たちが城を離れるその日のことだった。
 その間に彼らは再び街にでて、件の大捕り物の演劇を観覧し、瑛士が屋台を回って土産物をかき集めて大騒ぎになったり、その様子がさらに後日譚として演劇にされて大盛り上がりを評したりするうちに祭りは終わり、つまり長老がサアラを連れてきた目的は達成されてしまっていたのだ。

 その間、瑛士とサアラの関係は前よりも良好になっていた。
 遠慮がなくなっただけではあったが、元々が接近する距離も早さも格別なサアラのそれは傍目にも明らかな違いとして映っていた。
 ゆえに、何をもらえるのだろうとのんきに考えていた瑛士も、兄妹から突き刺さった視線に思わず怯む。

「ほう……随分と信頼したものだな、エンジ?」

 言いたいことはヤーシャ王のセリフと同じだったのだろう。
 ニヤリと笑った兄の横で、ジロッと刺すように睨む妹の姿がある。

「いけませんでしたか?」
「いいや、構わん。むしろ東の森のエルフの長老の孫というのは相応しい立場だ」

 東の森のエルフの長老。
 "の"が続いてややっこしいなぁ、と瑛士はよそごとを考えていたが、王のお墨付きは助かったという思いのほうが強かった。
 自分の名前を覚えておいて欲しいというのは、魔法技師のエンジとして生きると契約した瑛士にとって、契約違反のエゴだと自分では思っていたのだ。
 妹の方はまだ納得していないようだったが、長老に急かされてサアラが一歩前に出た。

「これを」

 短い言葉と一緒に差し出されたのは、彼女の瞳と同じ色をした、透き通るような(みどり)のエメラルド。
 手のひらに載せるような巨大なサイズの宝石に、瑛士は息をのんだ。

「これ……この宝石って……なにか……」
「気づいたか?」
「違和感……正直に言っちゃうと、普通じゃない。なにかおかしい気がする」
「さすが魔法技師殿だな。それは大地から生まれた物じゃない。精霊の涙だ」

 精霊の涙、という単語をゲーム脳で翻訳する。
 きっと、人外の存在が産み落とした物質のことを指すのだろう。
 さて、こういうものは大抵が貴重品なのだが、どの程度なのだろう……と王を振り返ったところで、両手で肩をがっしりと掴まれた。

「エンジ。あの神殿を中身ごとお前にくれてやる」
「いや……あげませんよ?」
「しかしだな。個人が持っていて安全な代物ではないぞ!」

 つまり国家レベルのアイテムということだろうか。
 いったいどういう意図でこんな貴重品を……とサアラに視線を戻すと、彼女はやや小ぶりな、しかしそっくりそのまま同じ翠をした宝石をシャルロッテに渡していた。

「ロッテにはこっちだ。小ぶりだけどよくカットされてるから、なにかアクセサリーにでもしてくれ」
「ありがとう、サアラ。でも事前に言ってくれたら私もプレゼントを用意したのよ。今度は私から何かプレゼントさせてもらうからね」
「うん。楽しみにしてる」

 友人同士が仲睦まじくやり取りしているのを見て、ヤーシャ王は大人げなく長老に言い放った。

「おい。俺だけなにもないのか?」
「ふん。お前さんにゃ昨日、一緒にあの酒を飲ませてやっただろ。200年モノの酒を飲んで不満があるのかい?」
「不満だ」

 真っ直ぐすぎる言い分に、長老は大きくため息を付いた。
 小声で「どうしようもないところまで似たもんだね」とぶつぶつ文句を言っていたが、ヤーシャ王が腰に佩いた剣に手を触れる。

「ダー・ディアー・ダゥアン」

 確かにそう聞こえた魔法を三度唱えて、長老はゆっくりと息を吐いた。
 ヤーシャ王が剣を引き抜くと、こころなしか刀身の刻印が淡く緑に輝いていた。

「何をした?」
「婆の最後の世話だよ。この剣は先代の魔法技師が刻んで、私が上から呪文を込めて、初代のヤーシャ王にくれてやったもんだ。魔法を込めなおしてやったから、あとは大事に使うんだよ」
「ありがたい。感謝するぞ、長老」

 途端に声音が弾んだヤーシャ王の反応に、今度は長老以外の全員がため息を付いた。
 言いたいことはそれぞれ山ほど思いついたが、王の後ろに立つ侍女はめずらしく笑みを浮かべていた。冷気を覆い隠すような明るい笑顔を見て、彼女に一任しようと一同は見解の一致を得、長老が「では」と切り出した。

「達者でな」
「また近いうちに会おう」

 サアラと長老が異口同音に別れの言葉を口にする。
 そのままサアラは長老を背中におぶって魔法を唱え、飛ぶように街中を……その屋根の上を再び駆けていった。

「だから、こっちの返事がまだだっていうのに」

 拗ねたシャルロッテは宝石を大事そうに両手で握りしめながら、部屋へと戻っていった。
 さて、この後はメリルがいかづちを落とすだろうと退散しかけた瑛士だったのだが、再び大きな手にがっしりと肩を掴まれた。
 今度は正面ではなく背後からだったのだが、ヤーシャ王は魔法を唱え、瑛士の肩を掴んだ手の指輪がきらりと光った。
 世界から。否、瑛士とヤーシャ王の外から、音が消える。

「消音の魔法だ。誰にも聞かれんから、正直に答えてほしい」
「はい。なんなりと」
「この前のあの踊り。あれの正体は分かったのか?」
「もちろん。先代もあの踊りを見せられたのでしょう?」
「そうだ。そして長老の話によれば、それはヤーシャの夜明け前のことだったそうだ」

 その意味を、忘れずにいてくれ。

 王はそういうと、瑛士の肩から手を話した。
 魔法は切れたのだろう。メリルがヤーシャ王をしかりつける声や、通路をいきかう侍女や兵士の声が戻ってくる。

 あの踊りの意味。それが何をもたらしたのか。
 言われなくても分かっていたことだが、念押しされてその情報の重みがさらに増した。

「……やめよう。とりあえず、これを何に使うか考えよう」

 午後になれば、きっとメリルが茶を持ってきてくれるだろう。
 しばらくは祭りなどのイベントもなく平穏な日々になる予定だ。
 彼女が魔法技師にもたらしたもの全てを、しっかりと成果に結び付けなければ。

 決意をしっかりと胸に秘め、瑛士は部屋にもどるなりベッドに横になった。
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