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ヤーシャの国の魔法技師 作者:アラトリウス

東の森の来訪者達

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第10話 初めては再会?

 ドラゴン祭こと救国の祭りが終わって一月後。瑛士はかつて見上げた玉座の側に立って、謁見の間に居た。
 あの時は明日どころか、五分後にどうなっているかも分からず不安だったのに、激動の二ヶ月だったなぁと、彼は激動の日々を思い返していた。
 祭りからの一ヶ月は健やかだった。急務はなく、日々好きなだけ魔法を解析するだけの日々。
 願わくばこの平穏なる日々よ永遠に。

 だが、その日は異世界に召喚されてから最大の緊急事態が起こっていた。
 エマージェンシーだ。障害コールだ。夜間出勤だ。
 いかん、それは違う。
 すっかり混乱して脳内の警鐘に肉体が全く反応できなかった数秒で、彼女はあっという間に距離を詰めてきた。
 褐色の肌に、銀とも金ともつかぬ太陽のような明るい白の髪。
 肌の大部分を露出させた革製の衣服は質素だが、見るもの全て……少なくともほぼ全ての男性の目と心を奪う強烈な胸と尻をことさらに強調している。
 そしてそれらが視界に入らなくなり、急接近されたのだと思った時、瑛士のカサカサの唇は、ピンクの唇を重ねられていた。
 ゆっくりと顔を離されると、彼女の長く尖った耳がピクピクと跳ねていた。

「久しいな、魔法技師殿。200年ぶりの再会を嬉しく思う」

 いいえ、人違いです。


* * * * *


 話は半日ほど前まで遡る。
 瑛士は生徒として選ばれた人材にプログラミングの技術を教え伝えていた。
 前世であればコンピュータが自動でやってくれていた部分も、こちらの世界では自分で考えてプログラムを作らねばならないので、授業の進みは元の世界で自分が学習したスピードよりも遅い。
 生徒達と一緒に都度実験を繰り返し、細かな魔導具を作り上げつつ、ゆっくりと、自然とヤーシャの中に「魔法学」とでも言うべき体系を築き上げる。

 非常にやりがいのある研究だ。
 特にシャルロッテの覚えは目覚ましい。
 今日も、この前作成した魔法解除の指輪について理解し、なぜ先代がそんなセキュリティホールを残しているのかも推測できていた。
 この分だと、早々に次の新しい魔法のネタを考えないと飽きられてしまうかもしれない。なにか新しい魔法のネタはないだろうか……。

 このまま平穏で、好きなだけプログラミングを突き詰める日々を送りたい。
 彼の願いは半分は叶えられ、半分は叶わぬものとなる。
 その先駆けとなったのは、怒鳴りながら瑛士の部屋に飛び込んできたヤーシャ王だった。

「エンジ!居るか!居るな!来い!!」

 誰が引き止める間もなく、ヤーシャ王は瑛士の首根っこを掴み上げると、まるでずだ袋のように肩にかついで部屋から連れだしてしまう。
 メリルですらも唖然として置いて行かれたのだが、瑛士が連れこまれた先は王の私室だった。
 使い込まれたその部屋は瑛士も初めて足を踏み入れる領域だったのだが、部屋の中には目を引くものがあった。

 鷲だ。
 巨大な鷲が、窓際の桟にしっかりと爪を突き立てて、こちらを見ていた。

「うひぃっ!?わわわ鷲!?いや、鷹!?」
「鷲で合っているぞ。おい、何を怖気づいている。魔法技師が鷲の一匹も恐れるのか?」
「いやぁ、子供の頃、鳥が人間に復習して目を食べたりする映画を見て以来、怖いんですよ……」
「エイガ?まぁその話は後で聞くとして、問題はあの鷲だ」
「ヤーシャ王のペットじゃないんですか?」

 慌てて瑛士を呼びつけた理由が、この鷲なのだろうか。
 もしかして鷲を捕らえろとか言われるのだろうか。絶対にイヤだ。近づきたくない。
 瑛士が勘違いしたままずりずり後退すると、ヤーシャ王が首根っこを掴んで鷲の目の前に瑛士をつきだした。

「どうです。彼が今代の魔法技師です。"見えますか?"」
「この鷲、喋れるんですか?」
「いや……。だが、彼を操っている者達には、君は見えているはずだ」

 話がどちらの方面に進んでいるのか、瑛士はようやく掴むことができた。
 当然のことだが、この鷲を操っている者が、魔法を使うものがこの先に居る。

「で、私は何をすればよろしいのでしょう?」
「良いから。黙って鷲の目を見ろ」

 言われるがままに、猛禽類と睦まじく視線を絡める瑛士。
 あぁ、意外とつぶらな目をしていてかわいいじゃないか。

「魔法技師殿に問う」

 そう思った途端、鷲はしわがれた老婆の声で突如喋りだした。

「イヤァァァァ!?シャベッタァァァァァ!?」

 ヤーシャ王は逃げようとする瑛士の膝裏を剣の鞘で強く叩き、腕を捻って体の向きを固め、スリーパーホールドで首から上も固定して黙らせた。

「主の魔法。その土台となるはなんぞや?」

 首を抑えたヤーシャ王の太く逞しい腕が、瑛士の首をグイッと押し上げる。
 わけもわからないままだったが、なんぞや、ということは疑問形というわけで。

「プ、プログラミングですけど?」
「何を至高とするものか?」

 頭をフル回転させて答えているのに、相手の質問はポンポン飛び出した。

「オブジェクト指向言語ですよ」
「では、其と異なる言語も答えられるか?」
「えーと、手続き型言語?C?スクリプト言語とかそういう答えで良いですか?」

 ヤーシャ王にはちんぷんかんぷんな受け答えは、しかし二人の間ではスラスラと流れるように行われた。
 問答が落ち着くと鷲はしばらく黙りこくり、瑛士が不安に冷や汗をだらだらと流し始めたところで、再びその嘴を開いた。

「……良かろう。汝らの元へ参ろう」
「ハッ、お待ちしております」

 ヤーシャ王がピシャリと敬礼すると、鷲は巨大な翼を広げながら、器用に窓の外へと飛んでいった。
 部屋の中に一迅の風だけを残して、東の空へと飛んで行く。
 だが、その様子はどこかおかしかった。しっかりと見てみれば単純なこと。翼がろくすっぽ羽ばたいていないのだ。

(あれも魔法なのか……。どうやって飛んでいるんだろう。重力?でも、風は起きていた)

 瑛士は鷲の事はすぐに忘れて、新たな魔法の解析に入ってしまう。
 鷲の姿が見えなくなると、ヤーシャ王はようやく瑛士を解放した。

「すまんなエンジ。話せば長くなるのだが、今はともかく準備をする方が先だ」
「準備ですか?」
「あぁ。すまんがまたぞろ忙しくなるぞ」

 この人の"すまん"は金輪際信じられないな、という確信以外に瑛士が得られた情報はなかったのだが、少なくともヤーシャ王がえらくマジメで、普段顔を合わせる時には見られない真摯さであることは確かであった。
 ヤーシャ王は他人を己の上に置かないと思っていたのだが、今日ばかりは普段の傲岸さがなりを潜めているようだ。

「とりあえず、ロッテとメリルを呼ぶぞ。お前も身支度を整えてきてくれ」
「は、はぁ……」

 いったいどんな偉人がやってくるのか、その質問をすることすらできず、ヤーシャ王は部屋を出て行った。
 ヤーシャ王が庇護してくれないのであれば、どうやって自分の身を守ろうか。
 それ以前に巻き込まれないように立ち振るまうという想定ができない根っからの家畜体質な瑛士は、迎えに来たメリルにあれよあれよという間に身支度を整えられ、日が落ちるころには祭りの際に着ていた正装を再び着こまされていた。
 そして、場所はいつぞや連れられた謁見の間である。

 瑛士が連れられてきた時とはちがい、壁際に立たされている兵士はおらず、扉の左右に一人ずつが待機しているだけだ。
 最近わかったことだが、この兄妹は基本的に護衛をしっかりと準備する。最初に瑛士と謁見の間で会話したときなどがそうだ。
 それが、今はいない。

 この兄妹が父親を暗殺されたという話は祭りの後に聞く機会があったのだが、その二人がこれほどまでに警戒しない相手というのは聞いた覚えがなかった。
 しかも、敬意を払うどころか、畏敬にまで近い感情を抱いている様子すらある。
 瑛士が前世の人間相手でこうなるとすれば、かのスティーブ・ジョブスであろうか。

「いったい、誰が来るんですか?」

 この期に及んで、瑛士はようやくその一言を口にした。
 ヤーシャ王が「誰か教えなかったのか!」と怒りを顔に出し、
 シャルロッテも「メリルったら、もう……」と諦め顔になり、
 メリルは「ヤーシャ王はまた説明してなかったのですか」と嘆息した。

 そして三人が同時に何事かを口にしようとしたタイミングで、扉はゆっくりと二回、トントンとノックされた。

「失礼するぞ、ヤーシャ王よ」

 しわがれた老婆の声であった。
 しかし、それは老朽したというよりは、老成された知性を秘めていた。
 兵士がゆっくりと左右から、両開きの扉を引いてゆく。
 姿を表したのは二人の女性だった。

 一人は、先ほどの声の持ち主であろう老婆である。
 背は曲がり、うねうねと曲がりくねった白髪が、褐色の肌の上で踊っている。
 右手には樫の木でつくられた小さな杖が握られていたが、後ろ手に回されている左手にはおおぶりな宝石が3つはめられていた。
 枯れ果て、石化している木肌のような石灰色のローブをずるずると引きずって歩く姿は、まさしく魔女といった風体だ。

 だがその横を歩くもう一方の女性を見て、瑛士はこの老婆も若かりし頃はこのような風体だったのでは、と魔女のイメージを覆す。

 老婆と同じ褐色の、しかし若々しさにあふれた、健康的な小麦色の肌をしている。
 王族の前に立つには実用的すぎる、革で出来たショートパンツとノースリーブの衣服だが、そこから溢れ出さんばかりの大きな果実が上半身に2つ、そしてショートパンツも内側から押し上げられている。
 銀とも金ともつかぬ太陽のような明るいウェーブがかった白の髪が、彼女の双房を覆っていた。

「久しいな、魔法技師よ」

 唇からは、すこしハスキーで、それゆえに色っぽさのある艶やかな声が鳴る。それにつられて視線を上げ、瑛士はようやく彼女の顔を正面から見た。
 造形の美しさは、言葉で語る隙間がないほどに調和され、整えられている。
 眉、鼻、二重のまぶた、痩せすぎない頬と顎のライン、そして褐色の肌の中でひときわ目立つピンクの唇と、エメラルドのような翠の双眸。
 そして、老婆とお揃いのピンと尖った長耳……。

 エルフだ。

 横と後ろにいる女性陣二人から痛い視線が刺さっていることにも気づかず見とれていた瑛士だったが、その顔がどんどん大きく……否、近づいているのだ、と気付いた時には時既に遅しであった。

「200年ぶりの再開を嬉しく思う」

 人違いです、という間もなく、瑛士はピンクの唇を重ねられていた。

 おぉ、というヤーシャ王の感心した声と、
 悲鳴と一緒に息を大きく飲み込んだ姫の喉の音、
 そして二人分のため息が同時に瑛士を責める。

 たっぷりと唇を押し付けられて、ようやく離れたエルフの女性は、改めて瑛士の顔を見て、ん?と首をかしげた。

「その、人違いかと……」

 褐色の肌でも、肌が羞恥染まるんだなぁ。
 前後から視線の針で筵にされて、瑛士はひたすら耐えるしかなかった。
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