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猫の日記帳
作:ごん太


 我輩は猫である。
 名前はロク。六番目に生まれたから、ロク。
 最初に生まれたのがはじめ、二番目が次郎、三番目がサンチェス、四番目が志緒しお、五番目がフランソワ、そして我輩だ。
 途中おかしな名前が入っている理由は、母上にでも聞いて欲しい。
 実は我輩、普段我輩などとは言いません。私です。 改めて、ロクです。
 余可珠よかたま町で、なんでも配達屋をやってます。
 え? 猫じゃ無理だって? あー、私、猫又ですから。ちゃんと人間と同じように、二足歩行出来ますよ。走るのが得意なんで、配達屋やってるわけです。
 あ、カンタロウさんが来ました。烏のカンタロウさんが配達依頼を受けて来るんですよ。
 さて、早速仕事して来ますね! それでは!


     ☆


 手付かずの緑溢れる山がパノラマで広がる田舎町、余可珠町。過疎化に喘ぐこの田舎町に人を呼び込むため、町内会が取った作戦。それが『妖怪とかと仲良くなって、町に住んでもらって、更に仕事とかも手伝ってもらって、それを余可珠の売りにしちゃおう作戦』なのだ。
 余可珠に広がる山々には、妖狐、天狗、鬼、猫又、竜人、等とにかく沢山の妖怪が暮らしている。人々は古来から彼らを山神の使いとして崇め、彼らのために祭りや供物を捧げて来た。彼ら妖怪にも愛情、友情、人情――いや、妖怪情? があり、与えられた恩を忘れるような薄情者ではない。人間の頼みを聞き入れ、町の人達と暮らすようになり、町内会の『妖怪と(以下略)作戦』は一応の成功を見せ、なんとテレビ取材等も受け、活気を取り戻しはじめていた。
 そんな余可珠町の片隅、木造平屋の、吹けば飛んで行きそうなそこにロクは下宿していた。

「姐御、依頼持って参りやしたぜ」

 ハスキーボイスがダンディズムを漂わせる漆黒の翼、彼こそが物語の主役、烏のカンタロウだ。
 カンタロウは……。

「違いますよ! 主役は私ですよ、ナミさん!」

 私のアドリブを遮ったデニム生地のオーバーオールがよく似合う、一見人間のような彼女……あれ? 彼だっけ? まあ、どちらでよし。とにかく、この子がロクちゃんである。見た目小学校低学年くらいで、その実、中身も小学校低学年並なのだ。

「どちらでもよくありませんよ! 私は産まれた時からメスです!」

 怒ると、頭上にある耳の毛と尻尾がピンと逆立って可愛い。イジメ甲斐がある。

「ちょっ!? ナミさん、目怖い! な、なんですか、そのわきわきする手つきは! 舌なめずりとかやめて下さい!」

 とまあ、これが毎日恒例、朝の挨拶である。
 ロクが下宿している我が家、大澤おおさわ家の長女兼一人娘をやってるのがこの私、奈美なみ、十五歳。好きなモノは、ロク。嫌いなモノは、ロクが好きなカンタロウ。
 二ヶ月前にロクが家に来て以来、私の中心はロクなのだ。ロク以外は何もいらない。あ、でも想い人は他にいるけど。
 家族構成は、去年脱サラして、お隣の田村さん家でパン作りの修行をしてる父親の春雄はるおと、パートで家計を支える母親の江利えりの三人家族。おじいちゃんのまさるは四年前に他界、おばあちゃんの玉恵たまえは、サザンカ・プロダクションの看板女優をしていて、離れて暮らしている。主演作は数知れず、今はレギュラー番組を三本持つ売れっ子なのだ。

 説明臭い話はここまで! さてさて、私は今日も今日とて学校があるので、さっさと制服に着替えて。

「カンタロウさん、今日の仕事内容は?」

「三丁目の吉田様に豚バラ肉、豚胸肉、豚足、豚……、」

 吉田さん、豚に怨みでもあるのかな。
 ロクとカンタロウの話を聞きながら、寝間着からブレザー制服へと素早く着替え、姿見で髪形チェック。いつもの事だけど、くせ毛がひどい。つんつんパーマネントだ。私は、ロングヘアーだから余計目立つ。

「奈美の姐御、今日は一段とお美しい」

 つまらない事言う烏は、サイクロン方式採用型の掃除機で瞬間吸引。
 ブラシが見当たらないので、手櫛で適当にとかして、と。

「カ、カンタロウさーん! 死んじゃダメです! ナミさん、ひどいですよー!」

 俺の分まで生きて下さい、とか言ってる烏を外に放り出して、さあ、朝ご飯をやっつけて登校!

「ナミさん! 主役、私! さっきからずっと、ナミさん視点で話進んでるじゃないですか!」

「えー、ダメ? うーん、私も飽きて来たし、じゃあ交代ね!」

 はい! ようやく、主役の登場です!
 学校に向かうナミさんを見送ると、まずは私も朝食を頂きまーす。
 今日は、ご飯、味噌汁、目玉焼きにタコさんウインナーが三つです。

「さ、奈美の次は、私が仕事に行かなきゃな時間よね」

 キッチンから顔を出したのが、大澤家を支える一家の大黒柱、エリさんです。 エリさんは今年、四十を迎えるそうですが、外見はとてもそうは見えません。まだまだピチピチですよ! この間、一緒に出掛けたら、二十代の男性にナンパされてましたから。

「ロクちゃんも配達頑張ってね! それじゃ、行ってきまーす」

「はーい!」

 朝食を食べ終えたら……ああー! カンタロウさん、ナミさんに窓からポイ捨てされたままでした!
 家の裏手には、狭いながらも庭があります。ほんとに狭いです。よく猫の額とか言いますが、猫の額は案外広いですよ?
 キョロキョロ辺りを見渡すと、黒い物体――もとい、カンタロウさんを発見! あー、なんとひどい。テレビ番組ならモザイクモノですよ、これは。
 具体的に説明しますと、羽はボロボロ、クチバシもいびつに曲がり、足なんか真ん中辺りから、逆“く”の字にイってます。残念ですが、カンタロウさんとはお別れですね。

「あ、姐御。自分、死んだりしませんから、う、埋めないで下さい」

 すでに八割方埋まったカンタロウさんは、私にそう訴えてきたので、とりあえず発掘開始。左右にスコップを持って、いざ!

「姐御。スコップはやめて下さい! 刺さったらヤバイんで」

「あ、そうだね。それじゃあ、ボーリング機で」

「さすがの八咫烏も、ボーリング作業に巻き込まれたら死にますぜ」

「嘘だよー。それじゃ、ここ掘れにゃーにゃー」

 発掘したカンタロウさんは、先程のご臨終半歩手前状態が嘘のように全快状態です。カンタロウさんは普通の烏ではないですから。
 八咫烏やたがらすと言って、死後の世界、黄泉国への案内人と言われている存在なんです。平たく言えば死神ですかね?

「姐御。春雄様が起きて来られたようですよ」

「あ、ほんとだ!」

 裏庭からだと、リビングが丸見えなわけです。ガラス戸で隔てられてるだけですからね。カーテン閉めれば見えませんけど。
 縁側からガラス戸を開けてリビングへ。そこから少し奥にダイニングキッチンがあり、今現在ハルオがご飯を食べています。

「おはよー、ハルオ!」

「おはよう。あのさ、なんで僕だけ呼び捨てなの?」

「エリさんが、ハルオは今、無職でどうしようもないダメ人間だから、あの人に気を遣うような事したら損だ、って」

「え、江利ーー!」

 ハルオが一日三回こうして号泣するのは、大澤家の決まり事なのです。
 パン生地こねてないで、いい加減働けよ、ハルオ! そんな感じでハルオを泣かした後、ようやく配達に向かいます。今日は七軒配達依頼が来ました。昨日は三軒だったので、まあまあですかね?

「行ってきまーす!」

「ひどいよ、江利ー!」

 ……あー、ハルオはまだ泣いてますが、無視して仕事に向かいます。
 余可珠は田舎ですが、ド田舎ではありません。
 駅前にはコンビニがニ軒もあるし、地上四階、地下ニ階建てのステーション・ビル内には有名服飾、飲食店がずらりと並んでますから。
 これ、田舎って言うんですかね? 都会の事情は知りませんけど、田舎離れしてませんか?



 配達仕事は、受け付けた品物を実費購入し、それを依頼主に届け、配達手数料を頂く。この手数料がそのまま収入になるわけです。
 手数料は荷物量に関係なく、一律ニ百円。なので、米二十キロとか頼まれた際は、おまけとして五寸釘を混入してやります。
 妖怪だって生き物ですから、体力的な問題があるんですよ。米とか、有り得ないでしょ!? ビールニケース依頼した坂本さん家には、災厄の呪いを掛けておきました。

「坂本さんは終了。加賀さんは……一リットルの醤油ボトル三本? 醤油ばっかり何に使う気? これは後回し。えーと、佐々木さんは、折り紙とペンのり? 佐々木さん家って、文具屋だったよね。なに今日? 変な依頼ばっかり」

 ぼやきながら歩いていると、見知った顔を発見。滝川さん家で厄介になってる、幼なじみのランマルです。ランマルは童子、つまり鬼子で、頭からにょきっと二本角が生えています。
 角を握られると童子は全身の力が抜け、とんだヘタレ鬼になるんですよ? 鬼を見掛けたら是非やってみて下さい!

「ランマルー!」

「ロクか。今日も仕事か? 大変だなあ」

 ランマルは一八○センチと長身で、更にイケメン。職業は女性に夢を売る仕事、ホストをやってます。今も黒いスーツ着てますし。

「ランマルは外回り?」

「いんや。待ち合わせ。客と一緒に店に行くんよ」

「あー、同伴とか言うやつ? ランマル嫌いなんだよね」

 ランマルは溜め息をつくと、頭をくしくしやりながら、内ポケットからニコチンを取り出し、慣れた手つきで着火。口端にくわえて、また溜め息。
 ランマルも大変だなあ。

「俺は、お前みたいなチンチクリンが好みなんだけどな」

「ははは! チンチクリンは余計だ!」

 ランマルは俗に言うロリコンなんでしょうか? 私もランマルも今年で百と七歳ですが、私はロリータなんですかね? 見た目は確かに……。

「あ、来た来た。んじゃな! 配達頑張れよ!」

「うん!」

 配達に戻るとしますか。 七軒中、現在さばけた依頼が四軒。残り三軒だけど、佐々木さんは除外して、残りニ軒ですね。
 今向かってるのは加賀さん家。加賀さんの依頼品、醤油三本は結構重たいから、代金上乗せしておこう。そもそも、手数料ニ百円じゃあ割に合わないよね。自分で決めた料金ですが。
 ここでいよいよ猫又パワー解放! 足に妖力を集中させて、ハイパーダッシュ! 時速で言えば七十キロくらい? ただしこれ、すこぶる疲れるため一日ニ回が限度なのです。重たい荷物を配達する時限定で解放します。本日一回目のパワー解放は、一輪車買って来いとの依頼時でした。タイヤの空気抜いて、更に代金一.五倍にしておきましたよ。だって、一輪車配達なんて普通有り得ないよ! 一瞬、墓石配達しようかと思ったけど、持ち合わせが足りないからやめました。足りてたらやったよ。
 そんな間にも加賀さん家に到着。途中、何人かを解放中の妖力障壁で弾き飛ばしちゃったけど、大丈夫かな? だいたい、車との衝突事故並の衝撃だけど。

「加賀さーん! 醤油買って来ましたよー!」

「おや、ありがとさんだね。いくらだったかね?」

「えーと、千八百円成」

「醤油一本六百円はボッタクリ過ぎだよ、ロクちゃん」

 うーん、加賀さんはまだボケてないか。吉田さんは二千円掛かったところを、五千円て言ったら信じてたけど。

「手数料込みで、千と九十四円です」

「はい。あと、これ持って行きなさい」

 頂いたのは、段ボール一杯の野菜。キャベツ、玉ねぎ、白菜、人参、ジャガ芋……うわあ、正直キツイかも。持って帰るの私ですから。

「あ、ありがとうございまーす」

 とりあえず加賀さんにお礼を言って、もらった野菜は佐々木さん家へ。依頼にあった折り紙とペンのりは、店の棚の物をそのまま渡し、野菜代金を依頼品と偽ってちゃっかり頂きました。今日は大儲けです!
 次の依頼は、小島さんか。えーと…………若い頃の清子? ああ、亡くなられた奥さんの事ですね。
 亡くなられた方を配達するのは無理なので、小島さんにあちらに行ってもらいましょう。

「カンタロウさーん! また、お願い出来ますかあー?」

 呼び声に反応して現れたのは、漆黒の翼ことカンタロウさんです。カンタロウさんは黄泉国の使いですから、私の言いたい事、わかりますよね?

「今月だけでもう三人。姐御、悪魔ですね」

「天に昇るのがちょっと早まっただけだよ。人間は短命だからね」

 飛び去るカンタロウさんを見送って、次は葬儀屋さんに連絡です。
 連絡方法は妖怪らしきテレパシー。……嘘ですよ。携帯電話で連絡します。
 キラキラにデコレートされてますが、これはナミさんの悪戯であって、私の趣味ではありません。

「あー、どうもロクです。はい、小島さんがご臨終目前です。え? いえいえ、こちらこそ一割頂いてますから、お互い様ですよ」

 さて、小島さんの依頼は終了、と。いよいよ本日最後の配達になりますね。
 えーと……え? ナミさん!? 依頼品は、わ、私ですか!? 昼休みまでに学校へ来いと追記がありますね。
 携帯電話のサブモニターを確認すると、現在十一時十五分。四時限目くらいでしょうか。ここから歩いて学校に行くと、三十分は掛かりますから、昼休みには着くでしょう。
 とぼとぼ歩いていると、見知った顔を発見。またまたランマルです。昼間っから表通りで、客の女性とイチャイチャして、他の人に多分に迷惑ですよ。

「ランマル、皆様に邪魔になりますよ?」

「うおっ! ロク!?」

 ウォーロック? 確か魔法使いとかの意味ですよね。私は猫又であって、魔法使いじゃないんですが。

「ちょっと、この生意気なチンチクリン、ケンジの知り合い? SKYなんだけど」

 ……? 最近の女性の言葉遣いは理解出来ません。たまにハルオが真似するんで、イラっときます。その時は一応注意(鉄拳制裁)しますけど。

「SKYでもUFJでもATMでも構いませんから、イチャイチャするなら、せめて公園奥の林の中でして下さい」

「いや、そう言う関係じゃないから」

「もう行こうよ!」

 ランマル、源氏名ケンジは、若作りが涙を誘う、推定四十歳女性とどこかに消えました。ファンデーション使い過ぎで、首に境目が出来てましたよ。
 ある意味妖怪を見送り、賑やかな商店街を抜けるとようやく見えて来ました、余可珠西高校です。東に高校無いくせに見栄張ってますよ。
 校内の規模は中級? グラウンド、五十メートルプール、体育館、部室棟、どれも通常サイズのものばかりです。
 ナミさんは、四時限目の授業が体育だったようで、テニスコートでテニス――らしき事をしてます。なんか叫んでますよ。ドライブB! とか、風林火山! とか。技名ですか? 見た感じ、ただのボレーとただのスマッシュですが。

「ナミさん」

「まだまだだね」

「え? なにがですか?」

「こっちの話だよ」

 ナミさんはテニスラケットをベンチに向けて適当に放ると、コートから出て来ました。ラケットを片付けもしないどころか、あんな乱暴に扱って大丈夫なんでしょうか? ナミさんて実は不良学生ですか?

「ナミさん。配達されて来ましたけど、なにかご用ですか?」

「一緒に帰ろうと思ってさ! 午後は大した授業ないし、帰っても大丈夫だろうから」

 多分、ダメだと思いますよ? ナミさんは普段から普通と違いますけど、たまに凄く常識からはずれます。ナミさんの将来が不安でなりません。
 その時、四時限目終了を知らせるチャイムが、辺りに反響し、皆あっという間にテニスコートから退散して行きました。
 後片付けを先生一人だけでやってましたので、私はそれを眺めながら応援しました。手伝っても利益が出ないので、応援だけします。無駄な事をしないのは、生きる知恵です。エリさんの教えですよ、これ。



 本日の依頼“ロクの配達”、これで最後なわけですが、当然手数料は頂けませんからボランティア扱いです。費用掛かってないからいいのかな。
 “自分に取ってプラスにならない授業は出なくていい”という、とんでも理論により、現在私とナミさんは帰宅路を歩いています。
 時刻は十三時二十二分。アンニュイなアフタータイム。私とナミさんはまどろみを貪るため、公園のベンチで日なたぼっこする事にしたわけです。
 余可珠公園には、年中咲きっぱなしの“時忘れ”という桜が咲いています。
 話によれば二千年程前、天狗のサコンさんが、酔った勢いで、桜の木に停滞の仙術を掛けたとか。
 長寿の木は、分身となる妖霊を生み出し、自身の得た知恵を広く伝えるため、各地を旅するそうです。

「チャオ!」

 声を掛けて来た、ニット帽にパーカー、ダメージの目立つデニムジーンズの軽そうなイメージの男性、彼こそが時忘れの妖霊、通称トキさんです。

「トキさん、今帰りですか?」

「まあねー。ったく困ったよ。今日のシフトだったバイト君、ドタキャンしてくれてさあ、俺が代わりに入ったんよ。バイト君は即クビにしてやった」

「大変でしたねえ」

 トキさん、妖霊としての使命である“知識を広める”という事は丸無視して、近くのファミレスで働いてます。今はチーフを任されて、毎日忙しいらしいですよ。知識を広める暇は無いみたいですね。

「トキさん、これから暇ですか? 暇なら二人で出掛けませんか? 海とか」

 これ、私じゃありませんから。ナミさんです。ナミさんはどうやら、トキさんに惚れているようです。見つめる瞳がキラキラ、ラメでも入ってるんじゃないかってくらいキラキラ輝いて、正直、気持ち悪い。

「トキさん。ナミさんをよろしくお願いします。私、帰りますから」

「ええ? 俺もこれから出掛けるんだけど」

 トキさんの予定なんて知った事じゃありません。
 乙女モードに突入したナミさんをトキさんに押し付け、私はさっさと家に帰る事にしたわけですが……。 道中、懐かしい友人に出会ったわけで。

「よお、ロク。元気そうだなあ。とっくに山に帰ったと思ってたのに」

 ワインレッドのはではでスーツを着込んだ、長身でスタイル抜群の銀髪女性。妖狐のカヤです。私の親友にして、許婚だったり。
 メス同士なのに、親がなぜか許婚にしちゃったんですよ。どうなってるんですか? 国の法律に『妖怪も同性の婚姻を禁止する』、というものを即刻作って頂きたい。

「カヤは相変わらず忙しそうで、今日はどこへ?」

「南に新しく店を出してね、これから新人講習に行くのさ」

 全国に店舗を構える洋菓子店『パラディッソ』の社長を務めているのが、何を隠そうカヤなのです。
 かたや、なんでも配達屋、かたや、有名洋菓子店の社長。同じ妖怪でもここまで差があると、全力でヘコみます。

「ロク。暇なら店に遊びに来いよ! ついでにいつでも、嫁にもらってやるからな!」

 表に停まっていた、スモークガラス仕様のリムジンの後部座席にカヤが乗り込むと、アクセル全開、信号ぶっちぎり、あっという間に視界から消えて行きました。危ないから信号は守ろうね?
 それにしても、カヤは本気で私を嫁にもらうつもりでしょうか? ナミさんと思考が近いのかなあ。

「姐御。葬儀屋から謝礼頂いてきやした」

 と、ふいに現れたカンタロウさん、私の頭の上にちょこんと乗り、クチバシにくわえていた封筒を、ぴらりと私に差し出した。
 中身は……と、図書券!? しかも千円分!? セコい葬儀屋さんですね。これからは、別会社に回しましょうかね。

「姐御。暇があったら黄泉国に遊びに来て下さい。かしらが是非とも、姐御と話がしたいと。それじゃあ、あっしはこれで」

 かしらというのは黄泉国に住む大妖怪、閻王様の事で、一般的には閻魔大王として知られています。
 少し西に傾きはじめた陽をバックに、漆黒の翼が飛び去って行きます。カンタロウさんはいつも画になるなあ。ズルイですよ。

「もう二時か。……帰ろっと」

 大澤家のある住宅街は、コンクリート製の耐震に備えた家屋が並びますが、そんな中にも我が家と同じ、木造家屋が多く存在します。潰れないのが不思議な年中ガラガラの床屋、元気だけが売りの寂れた八百屋、店番がいつも寝ている駄菓子屋。これらはみんな、木造家屋です。
 木造家屋は好きです。暮らしていた山を思い出しますから。ホームシックなんでしょうか?

「ただいまー」

 ……あれ? 留守? 家の玄関戸には鍵がありませんから、留守だと泥棒入り放題なんですよ。ハルオはお隣にパンをこねに行ってるみたいだし、お留守番でもして、みんなの帰りを待ちましょうかね。
 一息付こうとキッチンに向かい、冷蔵庫内からパックの緑茶を取り出し、それをラッパ飲みしていると。

「ただいまー」

「お? おかえりなさーい」

 玄関に向かうと声の主、ナミさんが帰宅して来ました。トキさんに相手をお願いしたのに、さっさと放したみたいですね。

「ロク、散歩行こ」

「え? 今帰ったばかりじゃないですか」

「まあまあ、いいから!」

 ナミさんは落ち着きがありません。座っていても、三分くらいで限界を迎え、急に何かはじめます。
 昨日の夜は、夕食後にマラソンに付き合わされて、危うく胃の中のものを逆流させるところでした。
 逆らっても仕方ないので、散歩に付き合う事にします。
 商店街への道とは逆、山側にどんどん進むと家屋は次第に少なくなり、そこから更に進み山中を登って行くと、オンボロの山小屋が姿を見せます。到底人の住んで居なさそうな小屋には、竜人のカネサダが住んでいます。名前はオスみたいですが、メスの竜人ですよ?

「カネちゃん、遊び来たよー!」

「お邪魔しまーす」

「奈美殿にロク殿か。何もないが、ゆっくりしていくといい」

 側頭部から小さな角が生えた竜人のカネサダは、私よりも更にちまい外見をしており、和服好きなのか、常に着物を着ています。昨日はナミさんが、無理矢理桜色のワンピースを着せてましたが、カネサダもまんざらでない様子で、照れながらも嬉しそうでした。やっぱり女の子なんですね。

「最近いっそう騒がしいようだが、里はどうかえ? ワシは賑やかいのは苦手だから、あまり好かんのだが」

「ここのところは落ち着いてますよ。去年までやってた、路線延長工事もなんとか無事終わりましたから」

「ああ、あれかえ。一日中ガンガンやかましかったが、そうか、終わったのか。それは重畳ちょうじょう

「チョウジョウ? カネちゃんの言葉は、少し難しいなあ」

「ん? そうか?」

 カネサダは言葉遣いが古臭くて、たまにわかりません。先日教わりましたが、重畳というのは、『満足』『良かった』という感じの意味だそうです。山のてっぺんの事じゃなかったんですね。
 この小屋には、色々面白いモノがあります。フツミタマとか言う剣とか、ニョイボウとか言う伸縮自在の用途不明のこん棒、一番気に入ったのは、これ。二枚一組の鏡で、時逆時順の鏡です。

「あははー! ナミさん、おばあさんになってますよ!」

「やめてー! そんなシワだらけな私見たくない!」

「これ、神器で遊ぶでない」

 時逆は過去を写し、時順は未来を写します。ナミさんはどちらの鏡でも色々変化するのに、私は大して変化しません。妖怪は半永久的に生き続けますからね。だから変化しない……あ、そっか……。

「いつか……ナミさんともお別れする時が来るんですね。当たり前の事なのに、忘れてました」

「ロク……」

 私は情けない顔してたんでしょう、ナミさんが頭を撫でてくれています。
 温かい手。いつも触れてるはずなのに、凄く温かい。優しさを温度で表すなら、まさにこの温もりを言うんでしょうね。

「ロク殿。死んだ者は、消えはせん。姿を変え、生き、そしてまた死ぬ。決別ではない。大いなる輪廻だ。悲しむ事はないぞえ?」

 カネサダは今年で、だいたい五千年生きた計算になるとか。きっとカネサダは、いくつもの出会いと別れを繰り返して来たんでしょう。

「……あ、もう四時だよ。ロク、帰ろっか」

「はい! カネサダ、また来ますね!」

「うむ。待っておるぞ」

 家に帰れば、エリさんがいて、ハルオがいて。楽しい事もあって、泣きたくなる事もあって。
 いつか必ず、ナミさん達と別れる日が来ますが、それまでは、このままで。




 ああー! シャワーとかホントに勘弁して下さい!

 にゃあああーー!!




 ――お休み


 読んでくれた方、ありがとうございます。最初は三人称で作るはずが、奈美のアドリブ入れたせいで、急遽一人称に変更しました。一人称というか、ロクの語りですよね。言うなれば、一人称の失敗例でしょうか。せっかく書いたし、投稿しちゃえ! みたいな感じです。これからもガンガン短編書きますので、見掛けたら応援して下さい。













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