第八話 約束は守ろう
・・・何かもう説明するのも面倒になってきたが、例のあの夢だ。
「・・・またお前かよ。」
「まあそう邪険にするなよ。用件は分かってんだろ?」
まあな。こちとら記憶力が悪い方じゃ・・・なんか今、無責任な発言をした気がするが、まあ良いか。
「ほい、この前のイデオロギーだ。受け取れ。」
デジャブだな。この前と全く同じ光景だ。
当然、夢も覚めるわけで。
「・・・ちょっと待て、一つ聞きたい。」
「・・・何だ?」
「お前には・・・、俺が何者に見える?」
俺としては結構真摯な質問だ。この前のポニーテール女に聞かれてから、俺の中をのた打ちまわっている質問でもある。
「さあ・・・、ただ仮面とマントをした変人にしか見えないが。」
「それはお前だろうが。生憎と俺は好き好んでんな奇特なカッコなんざするか。」
「つまりそう言う事だよ。お前には俺がそう見える。俺にはお前がそう見える。」
わけ分からんのは今に始まった事じゃ無いが、なんか慣れてきたような気がする。
天使と悪魔の影響かね?
「それじゃ、時間だ。またな、兄弟。」
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さて、幾らか時間が過ぎて今日は日曜日。良一たちが寮に遊びに来る日である。
当然あいつらを魔界とか何やらに巻き込むわけにはいかず、天使と悪魔は今日一日外で時間を潰してもらってタルタロスは何があっても喋らない手筈になっている。
ああ、天使と悪魔なら晩飯のリクエストに応える事を条件に受け入れてくれた。タルタロスは単純に身の安全を担保に恐喝したが。
で、現在朝の六時。天使と悪魔を起こして計画を実行しなければならない。
決意に満ちた表情を洗面台の鏡に映しながら、俺はこの熾烈な一日を乗り切ろうとしていた。
出来なかったけどな。
まあとりあえずそのわけを音声のみでお楽しみ下さい。
「あ、秋生さーん・・・強すぎですよぅ・・・。」
「うっしっし、あたしにゲームで勝とうなんて一世紀早いわ!」
「天使! 次替わりなさいよ! 天使ったら!」
「へ〜ぇ、ここの幽霊騒ぎってアンタが原因だったのか〜。」
「そーよ。俺っちが話し掛ける度どんどん人が離れていってなー。寂しいったらありゃしなかったぜ。」
次の瞬間、怒れる輩と化した俺は高速でゲームの電源を切り、良一に全体重を乗せたドロップキックを顔面にクリティカルヒットさせ、ペシュカド丸を掴み取ると思いっきり壁に突き立てた。
「「「あぁぁぁ〜〜〜!!」」」
「・・・・・・(ピクピク)」
「ぎにぃゃあぁぁぁ〜〜〜!!!」
五者四様の叫び。ちなみに良一は気絶してはいない。なんか微妙にウットリした表情になっていた。気持ち悪い。
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「酷いよ高村! まだセーブしてなかったのに!」
「そーですよ!」
「そーよそーよ!」
「お前らの脳味噌を記憶不可能にしてやろうか?」
「「「すいません何の異論も御座いませんハイごめんなさい」」」
有無を言わさず三人揃って土下座ってのはなかなか壮観かもしれない。カメラがあったら撮りたい気分だ。
「でさ〜、秋生のパンチはマジで痛くてさ〜、まあそれが良いんだけど。」
「へー、変わってるな、おたく。俺っちはもう単に痛いのキライでキライで・・・。」
「中学三年の時に一度だけ喰らわせたあの技を今一度喰らわせてやろうか?」
「すいません何の異論も御座いませんハイごめんなさい」
「り、良一が殴られるコトにおいて負けを認めた!?」
「・・・普通、認めると思いますけど・・・。」
「ああ、良一は普通じゃ無いから。」
「それは・・・どうかと思うけど。言う方も、言われる方も。」
「で、良一と瀬戸に聞きたいんだが、今日はお前ら九時に約束を取り付けたはずだが?」
「いやー、久々に朱海んち行くってことになって緊張して眠れなくなってなー。」
小学生か。
「で、勢い余ってどうせ暇だろうからもっと早く行こうって事になってさー。」
そこに俺の同意はあるのかい?
「そしたら天使ちゃんと悪魔ちゃんがなんか幽霊さんと喋っててさー。」
幽霊って・・・タルタロスの事か?
「うん。で、こうやって仲良く一緒に遊んでたわけ。」
ああもう、この際そこは甘受しよう。こいつらが奇天烈なのは今に始まった事じゃないし、天使や悪魔が人間じゃないと疑ってるわけでも無さそうだし。タルタロスは幽霊だと思ってるみたいだが。
「うん! じゃあひと段落ついたところで朝ごはんにしようよ!」
・・・・・・いや、朝ごはんってオマエ。
「・・・・・・食ってきてないのか?」
「ああ、久々に朱海の作った飯が食いたくなってな。あれ? 事前に言っといたろ?」
「・・・いや、言ったけどさ、九時に来るって言ってたから昼飯の分しか用意してないぞ。」
「あ、そうだったか。じゃあ俺何かコンビニで買ってくるわ。みんな何が良い?」
「あ、あたしポテトチップス。」
「え、ええと・・・、じゃあ私チョコレートで。」
「ウーロン茶。」
「・・・お前ら本当に腹を満たす気があるのか?」
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で、良一がコンビニに買い物に行き、瀬戸と天使と悪魔がまたゲームを始め、俺は物凄く暇を持て余していた。
しょうがなくトイレに行くフリをして・・・、二階に上がった。
「タルタロス、聞こえるか?」
「はいはーい、呼ばれて飛び出て俺っち、参上!」
なんかグレーゾーンに膝までどっぷり浸かった発言をした気がするが、多分気にしたら負けなんだろう。
「で、説明して貰おうか。今日は一日黙ってろって命れ・・・頼んだはずだが。」
「いや、俺っちもさ、"記念に壁に何か彫ってこうぜ"とか言われて包丁掴まれたら叫ぶぜそりゃ。」
・・・原因はあいつら、か。
「俺っちもガマンしたんだけどさー、200文字も刻まれたらキツいぜー。」
・・・イヤに多いな、文字数。作文か何かか?
「まあ、あいつらはお前の事幽霊とか思ってるからこの際良いけどさ・・・、まさか魔界とかの事は話したりしてないだろうな?」
「ああ、心配すんな。俺っちも娘っこ達もそこんとこは全く以て話してないから。」
そうか、良かった。
「あ、後な、タルタロス・・・。」
「ん? どうした朱海っち?」
右手に力を篭める。入学式の時と同じく、レギオンの銀色の右腕が現れた。
「これ、どう思う?」
「・・・・・・驚いた。朱海っち、魂繰使えんのか?」
「アートマ?」
「ああ、普通は天使とか悪魔とかと契約した人間が使える術でよ、契約した相手の能力を使うことが出来るってやつなんだが・・・、何だそりゃ、まるでレギオンみてぇな腕だな。」
「・・・いや、紛れもなくレギオンの腕なんだが。」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
なんだなんだ、この痛々しい沈黙は。
「・・・朱海っち。」
「お、おう、何だ?」
「あり得ねえよ。」
一蹴。なんか普段陽気なヤツに冷静に否定されると凄く傷つくよな。
「天使や悪魔ならまだしも・・・、レギオンなんかと契約できるわけないし、ましてや上手く能力使うとか論外だよ。少なくとも俺っちは聞いたコトないぜ。」
いや、でもお前だってこの腕の持ち主は知ってるはずだ・・・と言いかけて止めた。
そういやコイツ、寮にレギオンが出た時は熟睡してて俺達の存在すら知らなかったんだ。
「うぃ〜っす、ただいまー。」
一階から、良一の声が聞こえてきた。買い物を済ませたんだろう。
「じゃ、とりあえずこの件は保留って事で。いいか?」
「ああ、また何か変わったコトがあったら言ってくれ。相談ならいつでも乗るぜ。」
そうかい、頼りにしてるぜタルタロス。
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さて、二人が遊びに来たものの、室内で遊ぶと言ってもそんなもの文明の利器に頼るしか無く、従って瀬戸の持ってきたゲームを肴に時間を浪費していた。
「・・・・・・・・・」
「やったー、勝ちました!」
「朱海・・・弱っ。」
(ビキベキバキボキ)
「ああ、高村! コントローラー壊さないで!」
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「ええと・・・、昼飯はチャーハンか何かで良いか?」
「ああ、良いぞー。」
「あ、手伝いましょうか?」
「・・・四回。」
「・・・?」
「お前が火加減を間違えて料理を消し炭にした回数だ。」
「・・・ごめんなさい」
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「あ、コラ! ゲームじゃ勝てないからって卑怯な・・・きゃははははは!」
「天使、もうちょっと頑張りなさい! 今のうちに勝つから!」
「そーれ、こちょこちょこちょこちょ・・・」
「きゃはははははは! ちょ、止め・・・きゃはははははははははは!」
何やってんだか。
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そんなこんなでもう午後五時。お利口さんならカラスの鳴き声をバックミュージックにお家に帰る時間だ。
正直良一と瀬戸はお利口さんの部類に属していないと存じ上げていたが、さすがに朝も早よからハイテンションで奮迅していたせいか、疲労も露わに帰宅する事にしたらしい。
「あ〜、疲れた。今日はごめんね高村。」
「反省する気があるなら良い。ただし約束は守れ。」
「そーだな、じゃあ今度遊ぶ時は朝の六時に待ち合わせ」
「お前はもっと反省しろ。」
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「・・・・・・・・・・・・」
「どうかしたの? 朱海。」
悪魔に心配された。どうしたのだろうか、今日は何かアルマゲドン並みの天変地異が起こるんじゃ無いだろうな。
「いや、なんか今日珍しく普通の一日だったなと。」
「ええ? これまでに普通じゃ無いことありましたっけ?」
お前がそれを言うのか。言っちゃうのか。この非日常の原因その一。
「ま、良いんじゃない? たまにはこんな日があったって良いでしょ。」
おお、もっともな事を言ってくれたな、非日常の原因その二。
「いや、けどな、何か不安って言うか・・・、何かこう、嵐の前の静けさみたいで・・・・・・いや、こういう事を言うのは止めておこう。」
実現しそうで怖いしな。
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