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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第01章 突然の急展開

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第8話

俺もいつまでもここにいるわけにもいかない。血色の戻った渡辺の顔はただ眠っているように見える。


「じゃあな、渡辺。無理すんなよ」


俺はそうつぶやくと、病室の窓から体を宙に投げた。足が下になるようにだけ気をつけて20m近い高さから一気に飛び降りる。

数秒の落下感のあと、かなりの音を立てて着地する。


「いって!骨が数本いったか?」


そう呟き、傷の治る感覚を待つが、


「いつもより遅い…?渡辺の傷を治したからかな」


思いのほか治るのが遅くその場から動けない。
そんな中、微かに声が聞こえた。


「おい、なんの音だ!」

「知らねえよ、向こうの棟だろ?おまえの担当だ、見に行ってこい」

「なんか出てたらどうする!お化け嫌いなんだよ!」

「お化けなわけがねーだろっ!」


どうやら警備員か?

(まずいまずいまずいっ!ちょっと今は走れないぞ?これは捕まったらヤバいんじゃないか?)

と、慌てていると後ろに人の気配がした。


「まったくもって無茶しすぎだ、謙人。帰るよ」


その人はそう言うと俺を背負い、ひとっ飛びで病院の敷地から抜け出した。

「ごめん、ありがとう叔父さん」

「まぁ、気にするな。そのまま何を持っていくか考えておきなさい。たぶん家に帰ってから出発まで30分くらいしかないから」

叔父さんの背中に背負われながら、俺は家に帰ることになった。

帰ったときにそれを見た祖父さんが爆笑していたのは別の話である。


うん、妙に悔しいぞ?


結局、足が治るまで数十分かかった。いつもの治る速度から考えるとあまりにも遅い。何となく治るのが遅い普通の人の苦労が少しだけ分かった気がする。
それでもおかしい速度らしいが。

ある程度荷物をまとめ終わって立ち上がると、もう足は大丈夫そうだった。その荷物を持って時計を見ると、23時55分を指している。もうあと五分でこの世界から出ていかなければならないのだ。


「いい世界だったよ。ほんとに」


俺はそう呟いた。

俺の部屋は机と布団以外何もない殺風景なものだ。ただ一つ壁にある写真は、去年東高の学園祭でのクラス写真だった。俺としてははじめて、仲間と何かをして楽しいと思えた時間だった。


「持って行こうか…」


俺は外して鞄の中に入れる。叔父さんによると、俺はこの世界では『いなかったこと』になるらしい。ありとあらゆる俺の痕跡が消滅するので、俺が持っていないほかの写真からは俺の姿が消えることになるのだ。
世界にたった一つしかない俺の思い出になる、大切に持って行くことにしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


俺がリビングに戻ると、祖父さんはコーヒーを飲んでいた。

「ふぉっふぉっ、黒くて苦いこの飲み物は『大人の味』じゃのぅ。ゲホケホッ、うまいとは思えんがのぅ」

「そっちが素なのかよ祖父さん」

「…」

俺が入ってきたのに気づいていなかったのか、ふざけた喋り方が復活していた祖父さんに声をかける。

一発返したぞっ!


「さて、荷物を見せい。何を持って行くつもりじゃ」

「ほらよ」


何事もなかったかのように聞いてくる祖父さんに、俺は背負っていたバックを投げる。

「…スマホとリュックサック、後は塩と水だ。後は何とかなる」

「向こうは争いごとが日常だが?お主、こんな持ち物で行くのか?」

「武器はない方が俺は強い…と思う」

「まあ、人それぞれだろうが…。後は写真か、スマホだけロックをかけるが、後は好きにしろ」

俺の荷物はお気に召さなかったらしい。でも大抵現地で調達すればいいのだろうし、どこに行くか分からない以上、当然要るのは水と塩だ。
祖父さんは何だか大事なところで失敗しそうなタイプだと俺は思う。


「何考えとるか分かる気がして、わしは泣きそうじゃぞみーくん」

「自業自得です父上。さっさと仕事をしましょう」

「息子までつれないのぅ…」

「結局どっちの口調でいくんだよ、キャラがぶれにぶれてるし」

「こっちが素じゃよ。もうこれでいかせてもらうわい」


すぐに元の口調に戻った祖父さんにつっこんでみると、祖父さんはため息を一つついて、諦めたように言った。


「さて、出発じゃな。よーし、開けゴマ!」


そう言って祖父さんはリビングの扉を指さした。その指から光が迸り、リビングの扉を直撃する。


「おいおい、ファンタジーだな…」


俺の治癒力もファンタスティックだが。


「ほら謙人、あの扉が境目だよ」

「叔父さん、あの扉が向こうの世界に繋がってるということであってる?」

「そういうこと。こっちに帰ってきたいならあっちでかなり頑張らないといけないよ。父上も管理者権限でこの扉開けたから、後数千年は下界に降りてこられないだろうし」

「頑張ったら帰ってこれるのか。わかった、ありがとう叔父さん」

「頑張ったのはわしなのに、なぜか孫と息子が和気藹々だし、ふ、ふふふ…」


どうやら叔父さんと仲良く喋っていたのがお気に召さないらしい。しかし、祖父さんも数千年外に出られないことを承知で、孫の俺を助けるために来てくれたのか。

扉を開けると、廊下ではなく真っ暗な暗闇だけが広がっていた。じかんは23:59、もうこの世界とは一旦おさらばだ。


「祖父さん、ありがとう。行ってくるから、数千年だったか、のんびり待ってたらいい」


感謝の一言を告げ、祖父さんに背を向ける。お礼を言った後に顔見るの恥ずかしいし。
祖父さんが何かを言う前に、俺は身を暗闇に投げ出した。

そのとたんに身を襲う落下感に、少し胃袋が浮き上がる。


「さあ、実家に帰省だぞ母さん。どんな世界か、楽しみだ!」






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「父上、どうされましたか?顔がだらしないですよ」

「いやのぅ、孫にありがとうと言われるのがここまで嬉しいとは思わなんだ」

「本当にバカ親ならぬバカジジイですね。管理人としてはこれからの仕事が大変なんですよ?どんな思いで甥の痕跡を消して廻らないといけないとおもっているんですかね?」

「…すまんの、みーくん」

「…いいですよ、それよりあの女の子はどうするんですか?」

「ん?あの入院してる女の子のことかの?孫はどうやってあの子を治療したのじゃ?」

「自らの血を体に注いで、ですよ!傷口だけでなく、生まれつきの病弱を治すほどの魔力を注いで、自分の治癒力が一時的とはいえ低下するほどにね。そう誘導したのではないのですか?」

「そうじゃな、そうなるように仕組んだわけじゃが…。体中が光ったりしなかったかの、みーくん?」

「眩く輝いていましたよ?」

「ふーむ、なら彼女もあっちの世界に行くかもしれんのぅ」

「どういうことです?」

「まあ、それはそのときが来てからのお楽しみじゃよ。将来の義理の孫じゃぞ?会って孫のことを頼まねばなるまいて」

「…会いたいと思うのは勝手ですが、仕事のたまっている量から考えて父上はこっちに降りてこられませんよ?」

「嫌じゃ!わしも曾孫の顔を見たいし抱き上げたいのじゃよ!」

「まだ二人とも付き合ってすらいないのに、何考えているんですか?さあ、帰ってください。仕事はたまる一方ですよ」

「そうじゃな、今は耐えて仕事するわい。後は任せたぞ、みーくん」

「かしこまりました。今晩中に、ある程度の物理痕跡と記憶は削除しておきます」

「ではな、みーくん」


謙人のいない部屋で親子は語り合う。そして片方が消えてから残りがそっと呟いた一言は、誰の耳にも届くことはなかった。


「辰野謙人。貴方の身に、輝かんばかりの幸運のあらんことを」


流れ星が一つ、空を走った。


何とかきょう投稿出来ましたが、また少し間があきます、すみません。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


http://ncode.syosetu.com/n4562cu/


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