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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第07章 決戦

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第52話

過去最長です。
ヒュンヒュンヒュンッと風切り音が鳴り響く。
ファルが村の外で白い棒を振り回しているのだ。


「ていっ、やあっ!!」


気合いとともにファルの中の魔力が励起し、振り下ろした棒に青い光が宿る。
ファルが全力で振り下ろした先は地面。
ドゴォンッ!!という轟音をたてて振り下ろした棒は、半径二メートルのクレーターを生み出した。
ファルは額に浮かんだ汗を拭うと、少し離れていたところに立っていた俺の方を向き、笑顔でVサインを作った。


ファルの持つ白い棒はゴーレムの体から作り出したものである。
魔力で圧縮に圧縮を繰り返し、魔力が浸透しやすいように成型をした結果、『如意棒』のような特性を持つに至った。
そう、魔力に応じて伸び縮みが自在で、太さも変えられるのである。
ただ本物と違って、最小サイズが30センチ、最大サイズが5メートルと制限があるのだが……十分だろうし。

ファルは渡した翌日にはその特性を使いこなし、今は重力操作とのコンボを練習中だ。
最初は数十秒集中してからでないと発動しなかった重力操作も、二週間経った今では息をするように操作できる。
ただ、[棒を振り下ろし直撃した瞬間だけ重力を極大化する]などという無茶を試みているために時間がかかっているのである。
今のクレーターは丁度成功した結果であり、辺りにはあちこちにそんなクレーターが空いている。
どうせ攻め込んでくるのだし、わざわざ埋め直すまでもないと放置しているのだ。
村人たちは一旦離れたところの村に匿ってもらっている。
作物を運んでいったから受け入れ先の村も喜んでたし、大丈夫だろう。

クレーターからひとっ飛びで俺の隣までやってきたファルに俺は話しかける。


「どう、棒の使い心地は?」

「すごくいいです!ただ、対人戦での使い勝手が分からないのが不安ですね……」

「俺と組み手してみる?」

「いえ、左手が……」


そう、俺の左手は結局治ることがなかった。
魔法とはいえ奪われた腕を再度生やすなんていうことは出来なかったようだ。
取り戻さない限り腕を治せないことが分かっていた2人は、みすみす俺に怪我をさせてしまったことを悔やんでいた。
だがそれは俺も同じであり、しかも母さんに『雪辱してくる』と誓っている。


「俺もこの体で戦うんだ、腕をなくしてからもう二週間、試行錯誤を繰り返してきたんだ。それに……」


と、ここでニヤッと俺は笑う。


「前回俺は組み手で負けたからな。ファルに雪辱戦を挑みたいね」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


怪我を負ってから俺が練習したのは3つ。

一つ目は、『感知』の強化だ。
今までは俺の魔力を周囲に飛ばしていたが、それでは最高距離が半径五キロくらいになってしまう。
そこで、地面に通っている魔力の地脈を用いることで大幅に距離を伸ばした。
さすがに精度は極端に落ちるが、それでも半径八十キロで誤差十メートルだ。
そして、俺の魔力による『感知』では誤差数センチだ。
ちなみに、今はこれで悪魔の状況を探っている。
奴は只今二千人程を率いてこちらに向かって進軍中だ。
後一日、余裕はあるだろう。

二つ目は、『崩壊』の練習。
あまりに力押しすぎるこの技だが、何度か繰り返す内にコツをつかみ、かなり必要な魔力を減らせたのだ。

最後に、新技の開発。
腕が一本使えないというのはかなり大きなハンデだ。
それをカバーすべく開発した新技を、ファルとの組み手で使ってみようというわけである。


「さて、じゃあやりますか。本気で来てくれ、じゃないと技の使える度合いが分からんし」

「分かりましたが……一応、リリーを呼びましょう。すぐに治せるリリーがそばにいたら安心です」


そう言って、ファルは森の方へ走っていく。
ちなみに、森からは何度もドォンッ!という重低音が響いているのだが……。
当然、リリーの魔法である。
森の中は魔物が多いので、リリーはここ数日は森の中で魔法を放っている。
教祖の姿を聞くと、彼女はこう言ったのだ。

「それは間違いなく、お姉ちゃんなの」

その次の日から、リリーは魔法を特訓し始める。
使える属性を増やし、魔力すら回復する『超回復』も使えるリリーは、もう魔法特化だった。
リリーには杖を渡してある。
魔法を待機させることができ、同時の発動を助ける機能がある。
姉を助けようとあまりに根を詰める姿に、負担軽減を目指して作ったのだ。
実際ファルが無理やり気絶させて寝かせていたほどリリーは必死だったのである。

これらから考えると消去法で、渡辺の中にあるのは竜息吹だろう。
地球にいる限り俺と同様発動することはないだろうし、そもそも封じた玉は悪魔の元にあるのだ。
今回の件では俺たちには全く関係のないことである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



あれだけ轟音を立てておきながら、一切疲れた様子を見せないリリーが戻ってきた。


「ファルと組み手するって聞いたの。大丈夫なの?」

「ああ、俺も戦うからにはきちんと実力をつかみたい」

「もう……分かったの。部位欠損さえしなければ治すから、思う存分やればいいの」

「はは、すまんな」

「よろしくね、リリー」


あきれた顔でリリーは首を振るが、俺は変えるつもりはなかった。

俺は右手を前に出した姿勢を取り、ファルも棒を振り回して真っ直ぐに構える。


「それじゃあ……始めなのっ!」


リリーの合図と同時に、ファルの姿がぶれる。
俺の普通の動体視力ではぶれる速度。
ただそれは、ファルの強化によるものではない。

(……間違いない、重力操作か)

『重さ』としてではなく『重力』の概念を教えたのは俺だ。
ファルは間違いなく、()()()()()()()に重力の向きや大きさを変えている。
そこに強化が加われば、音速は容易に超えるだろう。
彼女は二週間前に得た力を完全に使いこなしていた。

ドパァンッ!という轟音が鳴り響き、暴風が吹き荒れる。
それは衝撃波となって辺りに広がっており、リリーはそばで小さな結界を張っていた。
俺は強化だけで、そのファルの動きの()()を乗り切る。

しかしファルの速度は音速を超えてますます上がり、もう強化した目ですら捕らえられなくなる。
目を閉じて『感知』に集中することでなんとか位置を把握していると、突然それすら線になる。

(……まずいっ!)

俺は迷わず新技を発動して目を開けた。
目の前ではファルが横向きに棒を振り抜く直前らしく、俺の目にその姿が映る。
その次の瞬間、ファルの作るクレーターの音を遥かに超える轟音が炸裂した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



翌日。
俺たち3人は村の外の平原で敵を待ちかまえていた。
奇襲をかけることも考えたが、兵隊はすべて奴の魅了にはまった一般兵だったのだ。
実力から言って俺たちに拮抗する戦力は、鎧で全身を覆った勇者らしき人物と、悪魔本人のみ。
わざわざ一般兵を倒す必要もない、という判断だった。

「お姉ちゃんは私がやるの。ボコボコにして起きてもらうの」

「そんな肉体的でいいのか?」

「冗談なの。ある程度痛めつけてから精神世界に介入するの。その後悪魔を叩き出すの」

「じゃあ……俺が勇者を相手にしよう。ファルはリリーのフォローだ。俺はリリーのお姉さんを知らないし、分担はそちらの方がいいだろうでも、出来たら拘束魔術はリリーに頼みたいな。ファルは一般兵がやってくるようなら、まずそいつ等の意識を奪い、遠くに運んでやってくれ。余波で死ぬだろうし、俺も勇者の様子を窺いつつ運ぼう」

「そうですね……あまり犠牲は出したくありませんし、そうしましょう」


そんな会話をしていると、500メートル少々離れたところで軍勢は止まった。
何をしているのか?と思うと、風に乗って声が届く。


「真竜の、片腕がない男!勇者が殺しに来たわ、大人しく勇者に殺されなさいっ!」


教祖の声だ、と俺が思ったそのとき。


「お姉ちゃんの体を、返せっ!!」


絶叫したリリーが先頭で強化全開で突っ込んでいく。
どうやら我慢が出来なかったようで、俺とファルも続けて飛び出した。

リリーは離れていた距離をあっさりと縮め、前にいる一般兵をポイポイ上に投げ捨てている。
遅れて到着したファルがその吹き飛んだ兵士たちを受け止めて意識を奪い、地面に転がしていく。
俺も追加で兵士の意識を奪い、ほんの数十秒で過半数の一般兵が地面に倒れた。
なかなか減らない一般兵に業を煮やしたか、リリーが魔力を多めにつぎ込んで魔法を発動させる。


「じゃまなのっ!『影縛り《シャドウバインド》』っ!』


リリーの声に応じて、シュルシュルとそれぞれの影から黒い縄が飛び出し、体にまとわりついていく。
それと同時に隔離のための魔術が発動し、倒れた兵士も起きていた兵士も、あっさりと自らの影のロープで拘束されてゴロゴロと転がされていった。
照準が甘くて俺やファルの影に対しても発動したのは御愛嬌だ。
俺たちはあっさり抵抗(レジスト)したが、それは勇者や教祖も同じだった。


「おや、まさかここまでとは……。素晴らしい魔術の力をお持ちです」

「お姉ちゃんはそんなこと言わないのっ!」


2人が大量の魔法を展開し、全力のぶつかり合いが始まった。
ファルと俺も隔離のための魔法にあぶれた一般兵を早々に運び出そうとしていたのだが……。


「ケントさん、後ろっ!!」

「くっ!!」


『感知』から勇者の反応が消失したかと思うと、俺の方へと切りかかってきた。

(……なぜ、映らない!?)


「ケントさんっ!!」

「大丈夫だっ!保つから取りあえずこいつら運んでおいて!」


身を屈めてその剣先をやり過ごし、俺は勇者と真っ直ぐ相対する。
全身を銀色の鎧で覆っており、フルフェイスヘルメットのような防具を頭に着けている。
身長は少し低い、女だろうか?


「お前、勇者らしいな……。ダサいな、そのヘルメット」


軽い挑発をしてみるが、何の反応も返してこない。
何の変化を見せることなく、ただ構えた剣で切りかかってくるのを余裕を持ってかわしていく。


「なぜ、あんな悪魔の味方をする?勇者なら魅了の効果くらい分かるだろう?」


聞いてみるが、相手は無言だ。
目を全力で強化して見てみると、勇者の持つ剣から出た魔力の鎖が勇者自身を縛り上げているのが分かる。
全力強化でないと見えないとは、かなり高度な魔法らしい。
鎧はそれの隠蔽効果がついているし、どうやらこいつも操り人形のようだ。


「…………」


無言のまま勇者はこちらに駆け寄ると、手に持つ剣を振り下ろす。
ブォンッ!と音をたてる剣だが、当たらなければ意味がない。
動きもかなり複雑だが、正直攻撃は単調であるし、確かに人より格段に強いけれど、俺が強化して裁ける程度しかない。

取りあえず鎧を破壊して面を拝もう。

そう考えた俺は、『崩壊』の分の魔力を両手に集中させる。
そして、勇者が剣を振り下ろしたところを避け、勇者が姿勢を崩した瞬間を狙って俺は勇者の左腕に触れて魔力を流し込む。
さらに続けざまに蹴りを腕に放って衝撃を与え、『崩壊』を発動させた。


「……」


うまく魔力を回したつもりだったが、剣の方には回らず壊せたのは鎧だけだ。
ピシピシッと音を立てたかと思うと、鎧が消滅していく。
戸惑ったのか追撃をやめ、立ち尽くす勇者だったが、鎧は俺が触れた左腕から粉となって消えていく。
そして、そこにあったのは……。


「なっ、渡辺っ!!」


生気のない虚ろな目をした渡辺の姿だったのである。





渡辺がこちらに来ている、という衝撃に固まったのは何秒だったろうか。
ふと気づくと、渡辺の右手に眩い光がたまっていた。
その姿は、否応なくあのゴーレムの光線を思い出させた。

(……まさかっ!竜息吹かっ!?)


「させねえっ!」

「……」


俺は叫ぶと、体中に魔力を巡らせ強化を全開にして渡辺に飛びついた。
右腕を全力で振り抜き、光がたまっている右手を殴りつける。
間一髪、その瞬間に竜息吹は発射され、俺はその余波に容赦なく転がされる。
竜息吹の発射方向はうまく空に向けられたようだったが、その効果は絶大だった。
上空に留まっていた雲を丸ごと吹き飛ばし、空に丸い青空が覗いていたのである。


「ぐぅっ……!」


転がされた俺は腕の痛みに呻き声を漏らしつつ、立ち上がろうと右腕を動かすが、そこに焦げ臭いにおいが漂ってくる。

「……なっ!」

右腕は消し飛んでいた。
両腕を失ったことに衝撃を受けるが、今は強化によって痛みをカットしている状況だ。
強化が解けたらショックしかねない、となんとか強化を維持させていると、渡辺はゆっくりとこちらの方を向いた。

(マズい、せめて離れないとっ!)

残っている両足に力を込めて動かそうとするが、そのときになって俺は全身の筋肉が痙攣していることに気づく。

(くそっ、竜息吹には麻痺効果付きかよっ!)

渡辺は歩いてこちらにやってくる。
どうやら竜息吹は彼女にとっても負荷が大きかったらしく、右腕が炭化している。
その手で鞘にしまっていた剣を握ろうとして右腕が崩れたのを、彼女は無感動に見つめる。
それはまるでダメージ計算をする機械のようで……。


「やめろ、渡辺っ!」

「……」


俺の声を完全に無視し、残った左腕で剣を抜く。
ゆっくりと歩く彼女は、間違いなく俺を殺そうとしていた。


「ケントさんっ!」

「あらあら、あなた達を巻き込んだブレスを撃たせるはずだったのに……流石真竜ね、反らすなんて」

「リリー、ケントの元へっ!」

「分かっ……」

「行かせると思っているのかしら?」


周り中にゾンビを召喚し、邪魔している間に教祖自身が攻撃を加える。
ファルもリリーも焦って攻撃が大振りになっており、教祖の攻撃が身をかすめるようになっていた。
渡辺は淡々と俺の現状を把握し、俺のすぐそばに立つ。
確かに俺は体を動かして攻撃ができないが、ただ、麻痺は()()()()()()()()()
俺が技を使う分には何の問題もないのだ。


寄ってきた渡辺が、剣を逆手に持って振り下ろした瞬間、()()()()()()()新技を発動させる。


「『変換』っ!」


体を青い魔力が覆い、それに剣が触れた瞬間大きな音を立てて剣が動きを止める。


『変換』。
それは、運動エネルギーを全て、音に変える技である。
ファルと戦ったときには相殺できたのは棒の動きだけだったが、それは逆に持っていたファルはそのまま動き続けたということであり、ファルはそのまま制御を失ってすっ飛んでいったのだった。


機械的にしか動けない渡辺は、その状態で固まって現状把握に忙しい。
その隙をついて動きを止めた剣に向かって俺はありったけの魔力をそそぎ込んだ。
黒い魔力のせいで魔力の流れが悪いが、それは力業で押し通る。
そして、最後の一押しをしようとしたところで気づいた。
麻痺しているせいで『崩壊』のトリガーを引けないのだ。

(しまった、どうする!?)

考えたのはほんの数瞬。

俺は覚悟を決め、『変換』を解いた。

その途端再度剣が俺に迫るが、途中で止められていたせいで軌道がずれ、切っ先は心臓からかなり下のところへ突き刺さった。

(……ぐうっ!)


魔力が減って強化が弱まり、鈍い痛みが腹に走る。
そしてその瞬間、俺はその衝撃を使って『崩壊』を発動させた。

音を立てる間もなく剣が砕け散り、その瞬間に意識を失って倒れ込む渡辺。
俺は強化した目で、渡辺を縛る魔術が解除されているのを確認したが、それと同時に叔母さんが世界樹のそばで発したような光が2つ、ちかちかと瞬きながら教祖やファルたちのいる方へと飛んでいくのがわかった。
戦況がどちらに転ぶかは分からなかったが、麻痺している俺は何も出来ず、意識のない彼女が俺の上で動かないのを耐えるしかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



リリーとファルは教祖1人を相手に攻め倦ねていた。
ファルの高速機動を塞ぐのが目的か、教祖はリリーを相手に接近魔法戦を行っていたのである。
ファルもリリーもお互いにうまくあわせて戦うが、教祖はさらに上をいっていた。


「『ファイア・ボム』っ!」

「『ウォーターウォール』、『ウィンドカッター』……おやおや、その程度ですか?」

「……ふんっ!」

「『転移』」


何よりも手こずっているのが、教祖の使う『転移』だった。
ファルの一撃やリリーの魔法の弾幕が当たりかけると、転移で2人の背後に回ってくるのだ。
リリーの超回復によって2人は肉体的疲労を感じないが、それでも精神的にはかなりのものがある。

何よりも謙人が竜息吹を受けて倒れたのが2人の焦りに繋がった。


「きゃあっ!!」

「ファルっ!!」


教祖の『転移』を見逃したファルが錫杖による一撃を食らって地面に倒れ込む。


「さあ亜人め、石になりなさいっ!!」

「ダメなのっ!!」


追撃でファルが魔法を放つが、それが届くよりも教祖の魔法の方が早い……と絶望したときだった。
突然教祖から感じる魔力量が激減し、発動しかけていた石化の魔術が霧散する。

そこにリリーの魔法が直撃し、たまらず教祖はファルから飛び退いた。
そして、教祖は少し離れたところに倒れている謙人の方を向き、驚愕の声を漏らす。


「なぜだ!なぜ()()()()()()()()()!?」


変化はそれだけに留まらない。
謙人のことを睨みつけていた悪魔は、突如胸をかきむしり苦しみだしたのだ。


「ぐあああっ!お、おのれっ、なぜエルフの意識が残っているっ!!再度喰い殺されたいか!?」

「お姉ちゃんっ!!」


フィオ自身の精神は死んでいない。
そう確信したリリーは真っ直ぐに悪魔の元へと駆けより、エルフの特性魔法である精神魔法を展開して、悪魔の中へと飛び込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さあ、出番ねっ!」

「行くのですっ!」


私の体が謙人くんを襲っているのがとても苦しい。
必死で体の動きを鈍らせようとしたが、謙人くん本来の能力である竜息吹で謙人くんを攻撃までしてしまった。
申し訳なくて、つらくて、さっきまで私は泣いていたけれど、フィオさんは背中を撫でてくれていた。
謙人くんのおかげで聖剣が壊され、私たちが自由になった瞬間。
私はフィオさんに捕まって、フィオさんの体の中、悪魔の精神の元へと飛び込んでいった。



「薄暗いね……何というか……イヤな感じ」

「たぶん、悪魔の力が染み込んでしまっているのです。何とかして追い出さないと……」


たくさんの木が生えていたが、そのほとんどが枯れてしまっていて灰色だ。
辺りは無秩序に生い茂った森の中のように薄暗く、不穏な空気を漂わせていた。
フィオさんの木への思いはイメージの強さから伝わってきていたので、この風景はフィオさんにとってはとてもつらいものだろう。


「いました、悪魔なのです……」

「へえ……なんか、想像通りだね」


枯れた森の奥から姿を見せたのは、皮膚はどす黒く翼と尾を生やした、地球でも悪魔として通じるような外見の女だった。


「私の計画をよくも邪魔してくれたな……。エルフならまだしも、何故勇者がここにいるのだ?」

「あれ、聞きたい?でも言わないよ?」


私は挑発するつもりで思いっきりイヤな感じで言うけれど、悪魔は眉をしかめただけで言い放つ。


「ふむ……まあいい、殺せばいいのだから」

「殺されるのはそっちなのです。私の体、返してもらうのです!」


フィオさんが負けじと言い返す。
それをキッカケに、私たちは激突した。

まずフィオさんが魔術をイメージして放ち、私は強度を無視して大量のモノを生み出し、投げつける。
その間に、私は本命となるモノのイメージを固め始めた。


「トルエンを合成、硝酸と硫酸を混合、混酸に…。ニトロ化反応を起こして…」

「邪魔なものばかり積み上げるなっ!『フレイム・ボム』っ!」


私が積み上げたのは燃えにくいものや燃えやすいもの、熱で溶けるものや固まるものまで何でもだ。
私が使ったことのあるものや聞いたことがあるものを、記憶の許す限り積み上げているので、その高さや幅は十数メートルにまで達している。
そのようなところで足止めを食らっている中、あちこちから適当に撃ってくるフィオさんの魔法が山を崩し、圧倒的な質量として襲いかかるのだ。
崩れたり、砕けたりするものはどんどん私が補充していくので、悪魔も魔法をこちらに当てにくいようだ。


「……鬱陶しい。『深淵』」


ボソッと呟く悪魔は、その直後に大きな魔術を発動させる。
作り上げていたバリケードの下に黒い穴が広がると、モノの山は重力に従い一瞬で落下し、空間から消滅したのだ。


「くっ、マズいのですっ!」

「フィオさんっ、何とか時間を稼いでっ!」


今の状況では私は打開できるものを具現化できないし、フィオさんの魔法一択となってしまう。
かなりの悪条件だというのに、フィオさんは笑っていた。


「ここは私が戦うのです!かかってこい、なのですっ!」

「たかがエルフ1人には悪魔たる私は止められないと思いますが……まあ、早々に死んでもらいましょうか」


余裕が戻ったのか、喋り方が慇懃なものになる。
2人が構えて魔法の撃ち合いを始めようとしたそのときだった。


「お姉ちゃん1人じゃないのっ!私を忘れてもらっちゃ困るの!」


上から声が聞こえたかと思うと閃光が走り、上から雷が降ってきた。
慌てて飛び退く悪魔の前に、1人の女の子が下りてくる。


「お姉ちゃんに手を出す奴は許さないのっ!」

「リリーっ!!」


その女の子はフィオさんの話によく出てきていた妹らしい。

……フィオさんよりも背が高いので、彼女の方が姉に見えるけれど。

思わぬ援軍に私もフィオさんも肩の力を抜き、私は全力で合成を進めて具現化を急ぐ。


「そこにいるのはワタナベミナさんだと思うの。後で、お話があるから覚悟しておいてほしいの」

「……合成、合成、合成……分かったから、後二十秒は時間を稼いでっ!」

「分かったの」

「リリーと一緒なら余裕なのです!任せてなのですっ!」


私が合成しているのは爆薬だ。
化学反応を直接起こすのは生き物が違う以上不確実だと考えた私は、純粋に物理的襲撃を与えることを考えたのだ。
そこでフィオさんに聞いたのが、守る魔法の存在だった。
この世界にある物理衝撃を純粋に防ぐ魔法は、自らにかける身体強化と光属性による結界だけらしい。
悪魔はそのどちらも使えないらしいので、この作戦に踏み切ったのだ。
しかし、なら悪魔は何故精神世界での強さを誇ったかというと、やはり魔法なのだそうだ。
光を除く全ての属性を使いこなす悪魔は、ある攻撃に対する反対の属性の防御を繰り出すことで身を守り、攻撃を一方的に加えていたそうだ。


「……できたっ!離れてっ!」


私の合図でフィオさんとリリーがその場から飛び退き、一瞬だけ悪魔の周りに空間ができる。
そこに私は、今の今まで練ったイメージを具現化した。
私が作ったのは爆薬と可燃性の気体。
具現化したそれらは一瞬のうちに反応して……。


轟音をあげて火柱となる。


「……ミナの世界ではコレが一般に見られるのです?」

「……どれだけの魔力を注いでるのよ」


その火柱は、十数メートルにまで達していた。

……やりすぎたかな?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


火が燃え尽きた後、私たちはゆっくりとその場に近づく。
あたりの森の薄暗さがどんどん明るくなって、新しく草や若木が生え始めているから、きっとかなりのダメージを与えたと思っていたのだが……。

爆発の中心では、見た目無傷の悪魔が倒れていた。


「なっ、無傷って!?」

「ミナ、違うのです。悪魔からは魔力がほんの少ししか感じられないのです。どうやら本気で瀕死のようなのです」

「そっか……」


自分たちを襲ったものだとはいえ、自分の手で相手を瀕死まで追い込んでしまった、ということに今更ながら思い至る。
裁判所もない、文明レベルもそこまで発達していないこの世界ではそれが普通なのだろう……。


「ぐ……この世界には……まだ……1人仲間がいる……私より強い……殺されてしまうといい……」


呟く悪魔に、リリーが尋ねる。


「その悪魔、蛇っていうと伝わると思うの。合ってる?」

「……ああ……猛毒を持ち……私よりも……魔法が上手い……お前たちに……勝ち目はない……」


まだ強い奴がいるのか、そう思った私やフィオさんだったが、リリーはあっさり言い放った。


「もう、そいつは死んでるの。私に取り憑いてきたけどケントがあっさり潰しちゃったの」

「……なっ……」

「つまり、あなたが最後ということなの。さて、死ぬ覚悟はできたの?」

「ふっ……仲間はもういないのか……好きにしろ……」

「じゃあ……」

「ちょっと待ってっ!!」


思わず、私はリリーやフィオさんを止めていた。
甘い自覚はあったけれど、殺したくはなかったのだ。
それに、仲間が死んでいると聞いたときの悪魔の顔は、とても人間的だった。
どうしても、見捨てたくはなかったのである。


「ねえ、あなたは悪魔なのよね?」

「…それが……どうした……」

「私と契約しない?契約したら生きていくのは出来るよね」

「なぜ……その必要がある……」

「私はここの管理者を知っているもの。あなたの世界に返してあげられるかもしれないから」

「ほ……本当かっ!」


悪魔は驚いているようだったが、それよりも驚いたのはフィオさんたちだった。


「何を考えているのです!?悪魔と契約なんて、あり得ないのです!」

「バカじゃないの?ホント何言ってるの?」

「私は、甘い環境でただの人間として育ったから。実際は魔族だけどね、でもこういう形で殺したくないの。さて、悪魔さん。私はあなたが元の世界に帰るために全力を尽くしましょう。そして、あなたは過去の罪を清算し改心するまで私に従ってもらいます。これで、どうですか?」

「帰れるのなら……何でもしよう……」

「なら、契約成立ねっ!」


私と悪魔の間に、ほんのりと温かい絆が生まれる。
それと同時に悪魔の体が薄れ、私の中に入ってきた。

『当分の間は、ここに籠もっておきます。助けてくれてありがとう……』

「いや、攻撃したのは私だからそれは言わなくていいと思うよ?」


悪魔の姿が消えたのを見届けて、フィオさんが口を開く。


「今の契約内容なら大丈夫だとは思うのです。でも、悪魔の力を好き勝手に振るわないという契約も、私と結んでほしいのです」


今の話だと、力の制御はすべて私の手の上にあることになってしまうから……まあ、当然のことだろう。


「いいよ、私からもお願いしたいくらいだもの」

「何かしたらリリーが許さないの。覚悟しておくがいいの」


リリーに脅されつつも、もう一つの契約が私の胸に宿る。
こちらに来てから早々に苦難に巻き込まれたけど、よい絆も出来たんじゃないかな。


「さあ、帰って謙人くんに挨拶しないと……いや、それよりも大怪我させたから謝らないと……」

「あ、ママに怒られるのです……」


私とフィオさんは、それぞれ大変なことが残っていそうだ。





今夜中にエピローグを投稿し、完結となります。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


http://ncode.syosetu.com/n4562cu/


よろしければ、こちらもどうぞご覧ください。

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