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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第06章 もう一人

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第50話

『うーん……これも無理か……』


朧気な記憶から引っ張り出してきた、チェーンソーが砕け散る。
これまでに一週間ほど経っており、その間に試した道具は百を超えていた。


『すごいのです。よくそんなに道具を思いつけるのです』

『まあ、前の世界はもので溢れていたからね……。結局、何も効かなかったから意味がないような気がするよ……』


私がかなり落ち込んでいると、フィオさんは私の肩をぽんぽんと叩いて慰めてくれる。


『普通は、道具を具現化するだけで一苦労なのです。おそらく、ミナの敗因は慣れない道具ばかり使うことなのです』

『うーん……チェーンソーはまあ、慣れてはいないけど、ガスコンロとかはかなりいい出来だったと思うんだけど……』


向こうではよく料理してたし、その関係で具現化がうまくいったのだろう。
まあ、同様に作り出した包丁も効かなかったんだけど。


『あの円形に火が出る道具……あのイメージで、普通レベルなのです。前の世界で、もっとも長く取り組んだものは何なのです?()()()()()より長く取り組んだものがあると思うのです。あ、睡眠は例外なのですよ?』


思わぬところからアドバイスをもらい、私は考えてみる。
17年に近い人生の中、もっとも長くやったこと……。
私自身は途中記憶がないから、直近で考えるなら……。


『勉強、だね……』


意識なく寝ていた時期が長かったせいで、年齢と同じ学年にはいるために入院中も、そしてその習慣のまま退院してからも勉強していた。
スポーツも出来なかったし、将来を考えるとどうしようもなかったから……。


『それは、この木を切り倒すのに使えないと思うのです……』

『……植物はセルロースっていうのが主成分だったよね』


細胞壁に含まれるセルロース。
多糖類で人間には消化できない。
構造式は……などと、知識が頭の中にぱっと広がる。


『せ、せる……?』

『そして、反応させるなら脱水反応かなあ。濃硫酸の性質は……』


この一週間で気づいたことの一つに、口に出すことでイメージははっきりする、ということだ。
私がイメージを口に出して作ったノコギリは、ほとんど歯が立たなかったものの砕けはしなかったのだ。
しかし……。


『脱水?分子?何を言っているのです?』


現代知識、特に化学のオンパレードだ。
役に立たないかもなあ、じゃなくて役に立たせよう。
私だって学校でまじめに勉強してきたんだし、それを使わないのは大損でしかない。
しばらくイメージを集中させていると、キラキラとした光が私の手のひらに集まってくる。


『……あ。容器に入れないと』

『えっ??』


イメージに致命的な不備があったことに気づき、止めようとしたが時すでに遅く。


『あっついっ!!』


量は少なく数ミリリットルだったからよかったものの、それでも私の手のひらに濃硫酸が飛んで私は飛び上がった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



慌てて水を出して手のひらを洗い、しげしげと飛んだ跡を見つめる。
黄色くなっている部分がぽつぽつとあるので、おそらくはきちんと作り出せているだろう。


『手のひらが黄色くなっているのです。大丈夫なのです?』

『うん、洗ったから反応は止まってるし。じゃあ、改めてその木に挑みましょうか』


改めてイメージを集中し直したけれど、一度具現化しているので今回は簡単に生み出すことが出来た。

そう、瓶一本に入っている濃硫酸である。


『これ、何なのです?』

『えっとね……取りあえず、お酢と比べものにならないくらい酸っぱいものかな?』


酸っぱすぎて、酸っぱいなどと感じることなく飲んだら死ぬけれど……。


『これが、何か使えるのです?』

『うーん、生物だったらかなり効果がある成分だと思うんだけど。あんまり真似してはいけないから、こういうテストにしか使わないけどね』

『そんなに危険なのです?手のひらが黄色くなっているだけだと思うのですが……』

『まあ、見れば分かると思うよ。じゃあ、飛ばないように離れててね』


フィオさんがある程度離れたことを確認してから、私は大きく息を吸って止め、一気に瓶の中身を振りかけた。
そのままぴょんとフィオさんの隣にまで下がり、呼吸を再開する。


『これで、何とかなると思うけど……どうだろう?』

『どれくらいの時間、離れておくのです?』

『まあ、数分かな。くさい臭いが漂ってくると思うから、風でどこかに流した方がいいかも。そういえば、この私の精神世界でこんなことして大丈夫なのかな?』


ふと気づいて私はフィオさんに尋ねる。
忘れていたけれど、ここは私の精神世界なのだ。
よくよく考えたら、硫酸まき散らすとかどうかしてるとしか思えない。


『明確に自らを傷つける、という意図がない限り、自らを傷つけることはないのです。これは生き物として、必ず存在する安全装置のようなものなのです』

『うーん、つまり私がここで何をしても、大抵大丈夫なんだね?』

『自分の精神世界こころですから、自分がもっとも好きに過ごせる世界なのかもしれないのです。ただ、ここには本来なら他者は存在できないので1人なのが前提なのです』

……やったね、引きこもる場所を見つけた!

なんていう冗談は置いておいて、再度フィオさんの作った木を見ると……。


『お、想定通り』

『え、ええ?!』


黒く炭化したようになっているそれを見て、フィオさんは仰天している。
あわてて駆け寄り、虚空から木の棒を取り出すとついついとつついている。
表面に振りかけただけなので深くまで脱水反応を起こしているとは思っていなかったのだけれど……。


『ああ……完全に、枯れてしまったのです』

『あれ、表面だけじゃなくて?』

『はい。私は里では世界樹とよく接していたので、世界樹の特性を少し反映させていたのです。その特性の一つが、[ダメージを全体に薄く広げることで影響を減らし、エルフに治せるレベルにする]というものなのです』

『ああ、じゃあ……山ほど劇物を取り込んでしまったわけだ……。なんかごめんね?』

『いえ、イメージですからいいのですけど……約束ですから、共闘をお願いするのです。こんなものがイメージできるのなら、百人力なのです』

『ああ、流石にこれを彼女にぶっかけるつもりはないよ?』

『え??これで倒すのではないのです?』

『うーん、だって悪魔って体はタンパク質かな?そもそもそこから分からないし。それに練習とか実験ならまだしも、実戦に使うにはあまりに残酷すぎるもの』

『そ、そういうものなのです……?』


首を傾げるフィオさんは、想定以上のダメージを受けていた木に触れる。
そして、その木はカシャンッと軽い音を立てて砕け散った。


『悪魔は精神世界では魔法を使ってくるのです。それだけ魔法が身近な世界だったのだと思うのです。私もイメージを全力で集中させれば何とか放てるのですが、正直実戦では使えないのです』

『魔法か……。それなら、いけるかも』

『う、すごく、悪い顔をしているのです』


私が浮かべた表情を見て、思いっきり顔をしかめるフィオさん。

……失敬な!普通の笑顔だし!悪巧みしてただけで!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



暗い教会の一室で、微動だにせず座っている少女が1人。
瞬きのタイミングは必ず5秒に一回で、背もたれにもたれることもなく座る様子は人形のようだ。
すると突然、部屋の扉が開け放たれる。
光が射し込み、開いていた目が少し細くなるが、彼女の表情や姿勢にそれ以上の変化はなかった。


「さあ、勇者!これを見なさい!」


意気揚々と帰ってきたフィオレンティナは、右手に持っていたものを高々と掲げる。
勇者、と呼ばれた未菜は、生気を感じられないような動きでゆっくりとフィオレンティナの右手を見る。
そこには青い光を燦然と放つ小さな玉があった。


「持ちなさい」


短い命令にすっと手を伸ばし、未菜は玉を受けとる。
フィオレンティナは更に鞄を開き、一本の人の腕を取り出した。


「この血液を玉にかけなさい」


ただ淡々と従う未菜は、自らの手のひらが血塗れになることも、そして自分が握っている腕は人間のものだ、ということも考慮しない。
ポタッポタッという小さな音が暗い部屋に響く。


「うーん、条件が違ったかしら?」


あまり変化が見られず、フィオレンティナが呟いたそのときだった。


「ぁ……」

「眩しいっ!」


目が眩むほどの青い光が部屋を満たし、同時に強風も吹き荒れる。

その風と光が止んだとき、その場に立っていたのは人形のような振る舞いはそのままに強烈な力を内包している未菜と、高笑いをするフィオレンティナだった。


「キャハッ、キャハハハハッ!!これで最強の勇者が私の駒よっ!!キャハハハハッ!!」


それを聞いても、未菜の顔に表情が浮かぶことはなくただ右手を伸ばして立っていた。


その手のひらには、割れて光を放つこともなくなった玉のかけらが載せられていた。


明日も更新です。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


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