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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第01章 突然の急展開

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第5話

暗くなった病院の廊下に、ぽつんと俺は座り込む。病院の隣の道路はひっきりなしに車が通り、せわしないクラクションが壁越しに小さく響く。


時刻は21時を少し回ったところだった。時計を見ると、今日の日付である『5/09』が目に入る。何か見覚えがあると思いながら首をひねった俺は、のろのろとあることを思い出した。


「そうか、明日は俺の誕生日だ……」


人を一人殺しかけておいてそんな記念日が来ることに、言いようのない苛立ちを自分に感じる。

そこに、誰かが近寄ってくる気配を感じ目を上げる。


「ちょっと君、いいかな?」


目の前には看護婦が一人、心配そうな顔でのぞき込んでいた。


「君、あの子の彼氏くんだよね?そろそろ病院閉めなきゃいけないの。彼女の容態は今は安定してるし、急変したら知らせるから一回帰って休まないと」

「…じゃないです」

「ん?どうしたの?」


聞き返した看護婦に、絞り出すように俺は言った。


「彼女でも、彼氏でもないんです!守るって言ったのに…容態の安定なんて、大丈夫って、元は俺のせいじゃないですかっ!!」

「それは…」

「何かできると思ったのに、今度は手伝えると思ったのに、結局こうなっちゃうんですよっ!!」


苦悶の色を浮かべながら俺が言うのを聞いて、看護師はゆっくりと口を開いた。


「事情は知らないけれど、その気持ちはあの子に伝えなさいな。あなたが倒れては意味がないし、次会うまでに言う内容をはっきりとさせておいたらいいのよ」

「…」

「さ、帰りなさい。見舞いそのものは7時から一応できるから、その時には私が許可出したげるよ」

「…すいません、ありがとうございます」


看護婦の説得に、俺はのろのろと重い腰を上げた。


(…すぐ来るから)


胸の内で渡辺にそう呼びかけ、病院を出る。
外はそんな俺の気持ちを知ってか、雲が星を隠していた。






家に帰り着いたのは22時近くだった。
晩御飯の準備は何も考えていなかったことに気づき舌打ちをする。

(晩飯食ってなかったけどどうするか……ん?)

ふと見上げると何故か換気扇が回っている。

「光弘叔父さんが帰ってきてる?思いのほか早い帰国じゃん」


少し意外な事実に驚きつつドアを開けると、いい香りが玄関先まで漂ってきていた。


「…ただいま」

「お帰り、謙人。事情は聞いたよ。とりあえず飯を食おう、話はそれからだ」

「…わかった」


台所から廊下に顔を出した叔父さんに挨拶をしつつ、そのままリビングに入る。

いつも海外を飛び回っているのに今日は珍しく早めの帰国で、前回出発してから2ヶ月であった。
(ちなみに最長で二年間国外にいたと聞いたことがある…)

制服の上着を脱いで食卓に目をやると、そこには三人分・・・の親子丼が並んでいた。


そして、見知らぬじいさんも座っていた。
年の頃は70そこそこだろうか。頭は真っ白になっているものの、そこから漂う威圧感は並のものではない。


「…誰」


ぼそりとつぶやく。見覚えは全くないのにちょうど、師匠と相対したときのように緊張が走る。


「ふぉっふぉっ、良い腕をしとる。しょぼくれた顔しとるのが減点じゃがのぅ」

「だから誰だお前」

「ふぉっふぉっ、まず食事じゃよ食事。腹が減っては戦はできぬし、見舞いも行けぬからのぅ」


そう言うとあっさり身から漂わせていた威圧感を消す老人。


(このジジイ)


全く答える気がない様子のジジイに舌打ちをしつつ、目線を叔父さんのほうにずらすが、申し訳なさそうな顔をしながらも、このジジイの正体を言うつもりはないようだった。


「分かった、食べよう。無理やり言わせる必要もないし」


そう吐き捨てると、食卓について箸をとる。


「いただきます」

「わしもいただこうかの、みーくんもはよ座って食べよ」

「は、はい…」


みーくんって何だよ。

その突っ込みが頭の中をぐるぐる回っていたが、とりあえず飯を食うことに専念する。叔父さんの作る食事はかなりおいしい。残念ながらいまだに料理の腕には追い付かないということが、この親子丼一つでよくわかる。


「やはりみーくんの料理は旨いの」

「ありがとうございます」


いや、みーくんて何だよ。


「これは何じゃ、えーっと…」

「親子丼、といいます。鶏肉を卵でとじたもので、卵と鶏から親子丼だとか…」

「ほぅほぅ、旨いのぅ」


どこのジジイだよ、親子丼知らないとか。
あきれた目を叔父さんに向けたが、黙って首を振るばかりだった。



さて、二十分ほどで三人ともが食べ終え、空のお椀が並んだ。
そこで、俺が口火を切った。


「さてジジイ、お前誰?」

「そうじゃのぅ、はっきり言ったほうがいいのか、みーくんや」

「…それはご自分でお決めください」


あくまでふざけた態度のジジイに、頭に血が上ってくる。この年でも自分より腕が上だというのは分かっていたが、それでも腹が立つものは腹が立つのだ。


「俺よりも強そうだし、ただの爺さんじゃないんだろ?叔父さんもなんかすごい敬語使ってるし」

「そうじゃな、じゃあもうぶっちゃけるとしようかの」


あくまでふざけて見えるこの態度に一言物申そうとした瞬間、ジジイは強烈な一言を放った。


「わしゃお前の爺さんじゃよ」






はい?




「お前の親父の生みの親じゃて」




おい。




「なお、この世界系の管理者でもある」

「…ふざけてんの?」

「いや、大真面目じゃよ?のうみーくん」

「ごめん、謙人。これほんとの話」


叔父さんは父親と一緒で嘘はつかない。つまり、本当なのだと信じざるを得ないわけだが…。


「…マジか」

「おお、マジじゃよ?どうじゃ?感動の祖父と孫の出会いに泣いて抱きついてもよいぞ?」


やはりふざけた態度のジジイに、眉間を押さえて俺は言う。


「俺の爺さんが生きてたっていうのは衝撃だが、それよりもこのジジイと血が繋がってると思うと吐き気がするな」

「ハハハッ、謙人、それは思ってても言っちゃだめだろう。私も何回それを思ったか」


苦笑しながら叔父さんも返事をする。

「そっか、息子になっちゃうのか」

「そういうこと」

「二人ともひどくないかのぅ?」

泣きごとを言うジジイに、二人は揃って同じ言葉を投げかけた。



「「自業自得」」



その言葉にジジイも少し萎れたように見えた。どうやらかなり刺さったらしい。


「わしだって孫の顔見たかったのに、息子どもに止められるし…。上の世界を無理やり離れるわけにもいかんかったのじゃよぉ…」


確かにこんな祖父がいると知っていたら、二度と会いたくないとか言ってごねていそうだった。しかし、それよりも気になることがいくつかある。


「なるほど、ジジイが誰かは分かったよ。でも、父さんに止められたのにここに来ている理由が分からない。しかもこんなときに…」

「ふぉっふぉっ、今日来ることは昔からの決定事項なのじゃよ。今日起こったことは全くの偶然じゃった」


やっとまじめな内容を語り始めたジジイの話に耳を傾ける。さっきまで薄れていた威厳がまた、ジジイの体から感じられるようになったところで、ジジイが口を開いた。



「謙人、お主母親の実家に里帰りせい」



うん、やはり訳が分からない。
何考えてんだこのクソジジイ。


そんな言葉が頭に浮かぶが、そんなことはおくびに出さずに俺は言う。



「俺は実家知らないぞ?一回も連れて行ってもらったことないし、というか実家に帰ってるのも見たことがない」



すると、中途半端に伸びた白髪を掻きながらジジイは答えた。


「そりゃわしがいないと行けないからの、行ったことはないじゃろうて。ま、異世界じゃしの」



今度は異世界かよ、本当にいい加減にして欲しい。
そんな感想が頭に浮かんだのだった。




明日も更新できたら頑張ります。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


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