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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第06章 もう一人

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第46話

「きゃああぁぁぁっ!!」


落ちていく間の体感時間は十秒くらいだろうか。
遊園地のアトラクションにもろくに乗ったことのない私にはかなりきつい体験だった。
胃袋をきゅっと絞られるような時間が過ぎて、私はふかふかの何かの上に着地した。


「わあ、ふかふかだ……」

「今代の勇者は可愛らしいおなごじゃの。先代は厳つい男じゃったが」

「うわあっ!」


後ろから突然声が聞こえてきて私は驚いて飛び上がる。
喋っていたのは、見た目は若いのにかなりば……古臭い喋り方をする女の人だった。


「なんじゃ、妾の声を聞いた途端そんなに飛び上がらんでもいいじゃろうに」

「あ、ええと、すいません……。びっくりしただけですので、ごめんなさい」


とりあえず、腰に手を当てて怒っているようなので謝ると、その人はからからと笑って言った。


「何、気にするでない。異世界からの来訪者が立て続けなのでな、妾もかなり機嫌が良いのじゃ」

「は、はあ……」


周りを見渡すと何もない真っ白な世界。
光弘さんは色々とパソコンみたいなものを部屋に持ち込んでいたけれど、こちらはただ何もない空間だ。


「お主は地球から来た、ということで大丈夫じゃな?」

「あ、はい。あのー、シーレさん、であってますか?」

「ん?何故妾の名前を知っておるのじゃ?」

「えっと、光弘さんからお聞きしました。手紙を受け取ってますので……」


そう言って、私は貰っていた封筒をシーレさんに手渡す。
その封筒はシーレさんが受け取った途端、勝手に中身の便箋が飛び出てきて空中に並び始める。

……うーん、ファンタジー。

光弘さんがしていたこともファンタジーっぽかったけど、やっぱりパソコンを使っていたこともあってどこか現実感があった。
しかし、普通では起こりえないような紙の動きを見ていると、やっぱり違う世界に来たんだな、と思うのだ。


「ふむ……お主は魔族なのか。これは問題になるかもしれんな」

「……どういうことでしょうか?」

「うむ、勇者を召還する奴らって大抵誰じゃと思う?」

「えっと……魔王と戦っている国の王様、とか?」

「じゃろうな。じゃったら、その種族は?」

「人間です……あっ!」


シーレさんの言いたいことにふと気づく。
自らの種族を守ってもらおうと呼ぶ勇者、だったら……。


「そう、人間じゃ。人間の召還した勇者が異種族じゃぞ?迫害される未来しか見えんわ」


召還を勝手にやってる国家はほとんどの場合最低な人が多いんだけど……。
私の場合は魔族だったということから渡りに船みたいな感じだったけど、本とかだったらほぼ誘拐だからね。
今回の国はどうなんだろう?


「うーむ……種族は完全非表示にしておくとして、この特性魔法はどうしようか……」

「特性魔法、ですか?」

「お主も向こうの世界で使っておったじゃろう?種族固有の魔法じゃ、魔族は感覚魔法じゃな。光弘兄の言う……幽体離脱か?これは多分、お主が感覚を空気につなげたんじゃろうな」


幽体離脱の種明かし。
何というか、超高性能のアンテナを飛ばしてるみたいな感じだろうか。
とっても使い勝手の良さそうな魔法な気がする。


「どうするかの?妾の権限でこれは止めておくことが出来るが……まあ、あった方が後々楽じゃろうな、バレないように使えばよいしの」

「うーん、じゃあ残しておいて貰えますか?」


私からしたらそんなこと言われたって使える訳じゃないんだけど。
地球で出来たのはほぼ偶然……というか、勝手に出来たみたいなものだし。
そんなことを考えていると、シーレさんは羊皮紙のようなものに何かを書き込み始めた。
その速度も人間には出来ないほど速く、やはりシーレさんもすごい人なのだな……と今更ながら思う。


「良かろう。さて、最後に勇者さまへのはっぴーたいむじゃ。何か欲しいものを一つ授けよう!」

「欲しいものですか?」

「うむ、いわゆるチート能力でもモテる能力でも大抵のことなら何でもござれじゃ」


そんなことを言われたら……私の言うことは一つに決まっているもの。


「じゃあ、謙人くんのところに送ってくださいっ!!」


「……一発目から数少ない不可能なお願いを持ってくるとは……。やはりお主は凄いの」

「あはは……。やっぱり出来ないですか……」


まあ、それくらいは分かってたけれども……。
言ってみるだけならタダじゃない?


「うむ。勇者召還じゃからな、召還主のところにいかねばならん」

「でしたら……この世界についての正確な情報、というのはどうでしょう?」

「うむ?それは簡単じゃが……そんな簡単な要求でよいのか?」

「ええ、いくら力があっても情報が無ければ無駄ですからね。きっとどこでも一番怖いのは『無知』たと私は思います」

「ふーむ……賢いのう。情報一つで絶対強者の立場など容易に入れ替わるしの」


私の提案に納得したかのように頷くシーレさん。
私も、ずっと不思議に思っていたのだ。
異世界に行くお話って、主人公はかなりの割合でチート能力を頂くけれど。
その世界で最初に会う人がいい人じゃなかったら、騙されておしまいだと思うんだ。


「ほれ、この世界に暮らしていく上で人が必ず知っている常識と、世界情勢ってところかの。特に知っておきたい情報はあるかね?」

「そうですね……では、私を召還した国の実態とか教えてもらえませんか?」

「うむ、やはりお主は賢いの。まあ、聞いて怒るでないぞ?」


そんなことを言ってシーレさんが話した内容は……。


「……うわあ、そんなところに召還されたんですか……」

「まあ、妾はただの管理者じゃから止められんのじゃよ。すまんの」

「……まあ、いいんですけど。いや、よくはないですけど……。はあ、シーレさんに言ってもダメですからね」


私ががっくりと落ち込むような話だった。
だって、勇者召還しなければいけないほど世界が荒れてるとかそういうのじゃないらしいよ?
私を呼んだ最大の目的は、『戦争での秘密兵器』。
呼んだ国はシーレイア皇国らしいけど、隣のカルティナ公国を征服するつもりらしい。
ちなみに、その主導者は教祖と呼ばれる胡散臭い女の人。


「……すまんが、時間じゃよ。あそこにもうゲートが開いておる。あそこに入ればその胡散臭い女のもとに一直線じゃよ」

「あれ、声に出てましたか?」

「思いっきり出ておったの。まあこれからが大変じゃとは思うが、頑張ってもらうしかないのじゃ」

「分かりました……。同じ世界にいるんですからいつか謙人くんにも会えますよね?」

「うむ。というか、そんなに遠くないじゃろうな。我が甥っこのいるのはカルティナとシーレイアの国境の村じゃし……あ、この情報はサービスじゃよ」

「大変親切にありがとうございますっ!!」


何ともまあ、いい情報をシーレさんは最後にくれた。
これできっと、シーレイアを脱出すれば謙人くんに会えるはず!
そんなことを言っている間にも、時間はなくなっていく。
ゲートが完全に姿を見せ、大きな扉が現れる。
ちょうど……ホグ○ーツの校門みたいな。


「それでは、いろいろとありがとうございました」

「うむ、また会える機会があるとよいの」

「その時にはまた、たくさんお話が出来ると良いですねっ!」

「そうじゃの、ここでの仕事は本当に退屈なんじゃよ……」


ドアを押し開けるとそこにはまた、暗い空間が広がっていた。
……私は、きちんと学習している。


「……また、落ちますか?」

「……落ちるのう……」


やっぱり、と思いはするものの、躊躇ってばかりではいられない。
私はその空間に飛び込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今度の落下感は数秒くらい。
叫ぶことなく耐えていると、突然目の前が眩い白で塗りつぶされる。


「きゃっ、何っ!?」


何も見えないまま足の裏がどこかについた感触。
そして、目の前の白は光ではなく何かの膜らしい、ということも分かった。
おずおずとその膜に手を触れると、独りでにその膜はシュルシュルと糸になって上から空気中に溶けていく。
そして、そこに広がっていたのは教会のような空間と。


「ようこそいらっしゃいました、勇者さまっ!私はシーレイア皇国の教祖、フィオレンティナと申します」


その空間の中ただ1人、私の前に跪く女の人。
私が胡散臭いと言っていた教祖その人だった。






次回は水曜日15時更新予定です。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


http://ncode.syosetu.com/n4562cu/


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