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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第06章 もう一人

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第45話

私が、謙人くんのことを忘れるか。
私が、みんなから忘れられてしまうか。

こんな究極の選択を、今私は下さなければならなかった。
今までの人生はたった17年弱で、意識のなかった時間だってあるけれど、両親はいつも優しかったしカラオケに行くような友達もいる。
かと言って、好きな人のことを忘れてしまうなんて、考えたくもない。
しかも、思い出そうとしたらあんな強烈な頭痛に襲われるのだ。


「……謙人くんのことを思い出そうとしたら猛烈な頭痛に襲われたのも、世界の強制力なんですか?」


今はないけれど、何となくさっきまで自分が感じて痛みを思い出して少ししかめっ面になる。
すると、光弘さんは驚いた顔をして言った。


「何だって?!普通、記憶消去は絶対かつ一瞬だよ?思い出そうとしたら痛みを感じるなんて、聞いたことがないよ?」

「でも、私が謙人くんのことを思い出そうとする度に頭痛が酷くなりましたよ?あのとき勝手に頭痛が起こったっていうのはかなり無理があると思います」


あれだけ頭が痛くなったのは初めてだ。
というか、普通の頭痛なんか遙か超えるものだったと思う。
痛いを通り越してたもん、あれ。


「うーん……少し、君のことを調べてみても良いかい?何かわかるかもしれない」

「はい、何か分かるのであれば……」

「ちょっとごめんね……」


そう言って光弘さんは右手を私の額に当て、待つこと数秒。


「うん、もういいよ。ありがとう」

「あ、はい」


何かをされたという感覚は全くない内に終わってしまった。
しかし、光弘さんの右手の中には見覚えのないUSBメモリが握られている。


「あの、それは……?」

「うん、これが君の構成情報のコピー。思い出とかそういう奴はなしなんだけど……まあ、理解はさすがに出来ないだろうから、ごめん」

「は、はあ……」


確かに、手のひらをおでこに当てたらその人の情報がわかります~なんてあり得ないよね。
ただ、光弘さんにはわかるらしくそのUSBメモリをパソコンに刺すと、表れたウィンドウをすごい早さで読んでいく。


「……ふぁっ!?」

「はいっ!?」


突然光弘さんが奇声を上げ、釣られて私も変な声が出る。


「ああ、ごめん……。ただ、問題点が見つかってね……。あのジジイはこれが分かってたんでしょうね……はあ……」

「……あの……?」


突然、どす黒い雰囲気を身にまとい始めた光弘さんに恐る恐る声をかけると、光弘さんはぐったりした様子でこちらに向き直る。


「……ああ、ただ理不尽な仕打ちに呆れていてね……。確認なんだけど、この世界では起こり得ないような、『()()()()()()()()()』はないかい?」

「『()()()()()()()()()』、ですか?」

「そう、ニュートンやアインシュタインによる物理学を超越していそうな体験。何だろう……超能力とか言ってもてはやされそうな体験だよ」

「えっと……『幽体離脱』みたいな体験をしたことはあるんですけど」


そういった瞬間、光弘さんは思いっきり顔をしかめた。


「ごめん、それだ」

「……はい?」

「君は謙人と同じだよ。謙人の今いる世界に居た人と、地球人とのハーフ……というより、先祖返りだ」

「……はいっ!?」

「君は、向こうの世界では『魔族』って言われる種族だよ。だから君から記憶は消えにくくて、そのせいで君そのものを世界は消去しようとしたんだ」


私が、異世界人!?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



私が落ち着くのを待って、光弘さんはゆっくりと説明してくれた。

私の先祖の中に、この世界に来た魔族を身に宿して世界の強制力から守った人がいるらしいこと。
そして、長年の間に私の血筋に同化し、私のときに私の能力として発現したらしいこと。
それが、私の『幽体離脱』であったということ。
そして……。


「これで、申し訳ないのだけれど君には選択権が無くなってしまった……。どうしても、向こうの世界に行ってもらう必要がある。じゃなかったら、君の存在そのものが消えてしまうんだ」


そう、私は異世界に行かなければならない。
私という痕跡のすべてをこの世界から消して。


「ふふっ、そうですか……。何だか、信じられないです……うっ、私のっ、ことを、みんなっ、忘れちゃうなんてっ……」


ポロリと涙が私の目から零れる。
17年の生活は、私の中にとっても大きなものになっていたらしい。
光弘さんはそのままじっと私のことを見つめている。
少しの間、私は泣いた。


「……ごめん、僕は君に何かをしてあげることは出来ないんだ……」

「ふふ……構わないですよ、私も心を決めましたっ!」


目を拭い、笑顔を浮かべる。


「異世界に行きますっ、そして謙人くんに会ってきますっ!!」

「うん、強制してるけど、本当にごめん……。お詫びに、向こうに行ったら女性に会うと思うから、これを渡して」


そう言って渡されたのは、小さな茶色い封筒だった。
宛先も何も書いてはいないけれど、かなり分厚い便箋が中に入っているようだった。


「……これは?」

「うん、もうすぐ異世界へのゲートが開くんだけど、たぶんそこで向こうの世界の管理者と会うことになると思うんだ。名前はシーレ、僕の妹だよ。僕よりもよほど喋り方は婆臭いけどね」

「その、シーレさんに?」

「そ、渡してあげて。ある程度の情報を書いてあるから悪くならないようにしてくれると思う。ただ、妹はどこか抜けてるところがあるから気をつけてね」

「は、はあ……」


私は一人っ子なのでどういう感じなのかは分からないけれど、自分の妹を婆臭いとか言いますか?
うーん、仲がとてもいいんだろうか?


「多分、た○やのバームクーヘンを持って行かないといけないんだろうけど……まあ、それくらいの手間は惜しまないさ。さて、もう時間だよ。あそこの扉をあけて、床に飛び込んでね。少し落ちると思うけど、その先にシーレがいるはずなんだ」

「分かりました。色々とありがとうございました」

「いやいやいやいやっ!!僕の方こそ、無理やりさせてごめんね、本当にありがとうっ」


私はぺこりと頭を下げると、慌てて光弘さんが手を振る。
まあ、異世界に行くのは強制で、私には結局何の選択権もなかったのだけれども。

ーー光弘さんは一生懸命対応してくれたのだから、お礼は言わないと。

そんなことを考えながら微笑むと、光弘さんは自分の額に手を当て、溜息をついた。


(あー、本当にいい子だよ……お父さんに気に入られちゃわなければ、凄くいい人生を送ったんだろうに……)

「え、何かおっしゃいましたか?」

「いや、何もないよ。それじゃあ、君の異世界ライフに幸運のあらんことを」

「はい、ありがとうございます!」


光弘さんの祝福をありがたく受けて、私はさっき言われた扉を開ける。
先は真っ暗で見通せないけれど、きっとどこかに繋がっているのだろう。

……お母さん、お父さん、ごめんなさい。
忘れてしまうのかもしれないけれど、私は覚えているからねっ!

また少し零れた涙を振り払うように、私は暗闇の中へと一歩踏み出して……。


「きゃあぁぁぁっ!!」


そのまま下へと落ちていった。
……そうだった、光弘さんは少し落ちるって言ってたなあ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



プルルルル、プルルルル、プルル、ガチャッ


「もしもし、お父さん?」

「おう、なんじゃみーくんや」

「もうお菓子は送りませんからね」

「な、なんでじゃっ!?」

「私はお父さんに何の反省も促せませんからね。力はあなたの方が上ですし。ですから、私のできる最大攻撃です。シーレにも伝えますからね」

「な、なな、なっ!」

「ななじゃなくて未菜ちゃんですよ。きちんと反省をして欲しいですね、本当に。では」

「うぬぬぬぬっ!みーく


プツッ、ツー、ツー、ツー……。


大きな湖のある県出身の友人からバームクーヘンを貰ったのですが、かなり美味しかったです。
今度行った時に買いに行こうか……。

次回は土曜日更新です。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


http://ncode.syosetu.com/n4562cu/


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