挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第04章 衝撃と出立

32/53

第32話

エルフの里の森を真っ直ぐ抜け、そこに延びていた道に入る。
カランさんが手回しでもしていてくれたのだろうか、はたまた叔母さんのお陰だろうか、エルフの里の森は道を開けてくれていたのである。
ファルを抱えていたときにはあまり揺らさないように手加減して走っていたが、今回はそうする必要がない。
少し早めに着いて魔物たちの様子を確認しておきたいこともあり、俺はかなり飛ばしていた。
具体的には時速100キロ近くで走っているのである。
魔力強化なしでは瞬間速度で時速80キロが限界だったが、魔力強化をふんだんに使って走っていたら100キロ出しても余裕がある。

……まあ、向こうについて魔力が十分残る程度の強化だから余裕があるのだけれど。

さて、普通なら三百匹の魔物に一人で対峙するのはただのアホだと思うだろう。
しかし相手はゴブリンなのである。
ゴブリンの習性によると、好物は人肉であるらしいのだが、味方であろうがなんであろうが、死肉があればよく食べるということである。
しかし、その死体に含まれている魔力を自分のものにすることができるウルゴブリンは厄介らしいが……。
そいつの有無を探りに行っておきたいのである。


「……ほんと、魔物の知識は言葉と一緒にインストールしてくれたみたいなのに何で食物の名前とかを入れてくれないんだよ」


リリーにとりついていたのは魔物ではなかったのか見ても何も分からなかったが、エルフの里まで走っている間に鉢合わせた魔物を見たときに気づいたのだ。
流石に弱点まで分かるわけではないが、習性が分かるのはかなり使い勝手がよい。

……覚えた記憶がないのに覚えているって言う時点で、受験生への冒涜だとは思うが。

だって、魔物の知識だけで理科や社会一教科分の知識を優に越えるのである。
命に関わる知識だからいいんだけどさ、うん。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



さて、高速道路の車並の速さで、東京ー静岡間を駆け抜けた俺は二時間後、山登りをしていた。
避難している人たちがいるという山である。
流石に100キロでは走れないが、それでもなるだけ速く走って山頂を目指すこと10分ほどで、しっかりとした建物が目に入った。
魔力で気配を探ってみると、人数は18人。
確かにリリーの言っていた話と同じだ。
俺は小屋に近づくと、扉をノックし名乗る。


「すみません、俺はエルフの里から救援にやってきました、ケント・タツノです!中に入れていただけないでしょうか?」


少し待つと、ゆっくりと扉が開き人族の男性が顔を出した。
露骨に不信感を顔に出し、その男が言う。


「あんた、どこからどう見ても人族じゃないか。冗談につきあってる暇はないんだ、魔物が来てるんだよ!」

「いや、ですからその退治をですね……」

「うるさいうるさいっ!私たちは荷物を持ってここから離れるんだ!魔物の相手なら勝手にやってくれっ!ここの小屋にいる人はみんな逃げるからな!」


とりつく島もないとはこういうことである。
その男性は目を血走らせながら口汚く小屋の中に怒鳴った。


「クソっ、早く支度しろっ!あの亜人どもが時間を稼いでもおそらくは30分ほどだぞ!」

「……亜人、だと?」


聞き捨てならない単語に俺は聞き返した。
『亜人』の意味が俺の知っている内容と同じなら……。


「ああ、この元凶になったクソ猫の母親たちだよっ!だから獣人なんざ人なんて呼ぶのもおこがましいんだっ!」


どうやらこいつらは村の獣人の生き残りを生贄に逃げ出すつもりだったらしい。
ギャーギャーと口汚くファル達を罵る男の声に、俺はますます腹が立つ。
が、ファルからは母親だけじゃない、『村の人』を助けてと言われている。
腹が立っても見捨てるということはしないけれど……。


「だからあんな亜人どもは撲滅しておくべきで……」

「黙れよ人でなし」

「っ、なっ!」

「そこをどけ、伝言だけはする」


俺は男を扉から引きはがし、中に入る。
中には人族だけがあわてて逃げる支度をしており、獣人は一人もいない。
子供も数人いて、震えるようにして身を寄せ合っているようだ。


「俺はエルフの里から来た。今から魔物を潰してくるから、確実に生き残りたい奴はこの小屋に居とけ。外に出られると守るのが難しいから安全の保障はしないぞ」

「に、二百匹もいるのにあなた一人なんて無理よ!なら少しでも遠くに離れなきゃ!」


子供の母親があきらめの色を浮かべながら言う。
だが、実際今からどこかに移動したところで、逃げ切れる可能性はかなり低い。
もともと大量に殺された村人達の血のにおいで寄ってきた魔物だが、生きた人間のにおいをかぎつけてこちらに進路を変えてきている。


「俺はファルシア、リリアーヌの二人から頼まれている。だから全力でみんなを守るし、俺個人としては大変いやだがそこのおっさんであっても、この小屋の中にいたならば絶対死なせないさ」


やったこともないから不安はあるが、ここでそれを口にするわけにはいかない。
まあ、犠牲者は一人も出すつもりはないが。


「……お兄ちゃんはファルねえの知り合いなの?」


震えていた幼い子供の一人が俺に聞いてくる。


「ああ、そうだ」

「ファルねえ、どこ?ママに聞いても旅行に行って当分帰ってこないって……」


露骨に顔を背けた別の女性を、俺は思いっきりにらみつけた。
子供達の人間性を見習いやがれっ!


「……お兄ちゃん?」

「ああ、後から来るって言ってたぞ?明後日には会えるかもな?」

「ほんとっ!やった!」
「ファルねえってことは、リリーねえも?」

「ああ、もちろん」

「「「わーいっ!」」」


子供達がわいわいと喜ぶ。

ーーとっても好かれてるみたいじゃないか、二人とも。


「だから、この小屋の中で少し待っててくれよ。お兄ちゃんが魔物をお掃除してくるからな」

「うんっ!」


子供達はさっきまで震えていたのが嘘みたいにうきうきとしている。


「おいっ、あんた!何勝手なこと子供に吹き込んでる!おまえ達もだ、早く逃げるぞ!」

「おっちゃんの言うこと聞くよりファルねえ達待つ方がいい!」

「おっちゃんたちの言うことって何かアレだよな、ウソくさい」

「っ、なっ、何をっ!!」


子どもたちから思いっきり不信感を露わにされ、二の句が継げない男に俺も少し溜飲を下げる。


「それでは、俺は行きますんで」

「頑張れー、お兄ちゃん!」


声を上げた子どもたちに手を挙げて応え、俺は小屋を出ようとしたところで腕を掴まれる。
見れば子供達にばっさり言われた男が俺を引き留めようとしていた。


「わ、わかったから!あんたはここで子供達を守ってやれ!わざわざ離れるよりその方がいいだろうっ?」

「魔物の様子もきちんと探っておきたいからな。それにここで暴れたら小屋が壊れる」


地面も壊したし。

話しながら魔力で辺りを探っていたので、ミシェルさんらしき人は見つけてある。
山から真っ直ぐ降り、魔物との直線距離が最短の場所。
そこに4人の反応があったが、その場からいっさい動いていない。


「な、なら私が偵察にいこう、離れないでやってくれっ!」


思いっきり手のひらを返した態度に俺は眉をひそめる。


「まさか、獣人の人たちに何かしているのか?」

「い、いや別にっ、そんなっ!」


ーー怪我してるとか、そういうのじゃないだろうなっ!

俺は腕を振り払って男を小屋に蹴込み、小屋の扉を閉めて駆け出し、4人の反応めがけて急いで山を駆け下りる。
魔力で気配を探るのはそんなに疲れないし魔力の消費も微々たるものだが、しかしあの雰囲気では何人かは小屋を出るだろう。

……『感知』とでも名前を付けようか。

感知を入れっぱなしにしておいて小屋の人をリアルタイムで把握しつつ、俺は山を数十秒で駆け下りる。

……いや、駆け落ちると言う方が正確かもしれない。


そして、その先にあったのは麻痺毒に身を震わせる三人の子供と一人の大人の姿だった。


次回投稿は月曜日です。

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


http://ncode.syosetu.com/n4562cu/


よろしければ、こちらもどうぞご覧ください。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ