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母親の実家は異世界でした!! 作者:歩夢りんご

第04章 衝撃と出立

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第31話

突然出てきた言葉に俺は少し困惑する。
カランさんは前を向いたまま、俺の方を見ずに続ける。


「あなたは盗賊たちを殺さなかったと聞きました。あなたが一人の時には別にあなたが何をしようがかまいません、しかしリリーは攻撃能力をほとんど持たないのです。あなたの甘さのせいで危険にさらされた、というのは嫌すぎます」

「……」

「光魔法は、回復には大変大きな効果を発揮します。リリーはおそらく、この世界で一番の治癒師になるといえるでしょう。しかし、光魔法の攻撃はゾンビなどのアンデッド系にしか効果をほとんど発揮しません。そういう意味では、彼女の戦闘力はほぼゼロです。ファルシアちゃんもまだ、ほとんど戦闘はできないでしょう。あなたが唯一のアタッカーなのです」


確かに、ファルはまだまだこれからだろう。
まだ彼女の能力を俺はほとんど知らないのだから。


「あなたの前の世界はきっと大変平和な世界だったのでしょう。しかしここは別の世界です、いつまでもぬるま湯に浸かっている気分でいてほしくはない」

「……はい」

「加減はできるでしょう。でも、敵に情け容赦をかけているようでは愛娘を預けられません。あなたは強いです、でもこの世界で生き抜くには甘すぎます。優しさには需要がありますが、甘さはいりません。肝に銘じておいてください」


カランさんは立ち上がると、そのままエルフの里の方へと歩いていく。
俺は何一つ言い返すことができなかった。

完全な真実であったからである。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



カランさんが立ち去った後も、俺はそのまま根元に座ったままだった。
俺がこの三日間の激動の生活は、今までに誰も経験したことのないようなものだろう。
異世界にやってきて、早々にイってる集団から女の子を二人助け出す。
そしてエルフの母親に締め上げられ、叔母さんと挨拶を交わしているのである。

ーー俺は、酔っていなかっただろうか。

異世界という有り得ないような新しい環境に、そして俺の力がむりなく使えるという奇跡のような状況に。
こちらの世界はよほど地球よりシビアなのである。
犯罪があったからと言っても被告人に弁護士がつくような環境ではないだろう。

ーー衣食住に足りていた日本という国は地球でも異端な存在であったはずなのに、俺は甘えていなかったか?


この世界でも通用するそこそこの力。
助けた少女からの温かな信頼。



それらに胡座をかいて、俺は驕り、甘えていたのである。
だからこそ、カランさんに指摘されたことに何も言えなかったのである。
何か言ってしまうようなみっともない人間にまで堕落していなかったのがまだ救いか……。
俺がすべきなのは驕らず努力することであり、堕落することではないのだ。

俺は決意を新たにして立ち上がる。
上を見上げれば、肩に猫のファルを載せたリリーが身軽に木をつたって降りてくるところだった。


「ケント、準備できたのー!おまたせなの!」

「お、了解だ。どこに向かうのか、予定は何かあるのか?」


リリーは地面に降り立つと明るい声で俺に言う。
ファルもリリーの肩から降りて元の姿に戻ったところで、俺が尋ねる。


「もちろん、ファルのママを探すの!」

「私事ですが、とても心配なんです……。いいでしょうか?」

「私事じゃないさ、パーティーの仲間だ、当たり前のことだって」

「そうなの、ファルはもっと堂々とすべきなの!リリーがファルの悩みを助けない訳が無いの!」


遠慮がちに言うファルに、俺もリリーも口々に答えた。

ーーあの盗賊団から逃げるのは大変だろう、急がないと。

ふと目のあったリリーと、同じ考えを共有する。


「どこか、お母さんのいそうなところに心当たりはある?」

「えっと……おそらく、あの村のそばにある山に逃げ込んでいるんだと思います。何かあった時の村の避難場所なんです」

「ミシェルさんはあんまり戦いにつよくなかったはずなの。急いだ方がいいの!」

「リリー、ちょっと待ってくれ。あれは聖霊さまじゃないか?」


意気込んで出発しようとするリリーを俺はとめ、上を指す。
軽く広げていた魔力探知に、他とは異なる魔力を見つけたのである。
すこしすると、ひらひらと世界樹からの魔力の光が上から降ってきた。
その光はリリーの肩に止まり、柔らかく数度点滅する。
リリーは目を閉じていて、何かに耳を澄ましているようだった。


「……ファル、ミシェルさんは無事なの!20人くらいでその山頂の建物にいるらしいの」

「村の五分の一……。私のせいで「ファルのせいじゃない」」


少なすぎると思われたのか、ファルがつぶやく内容に自分を責める色が混じったのを感じ取り、俺はそれを止めた。
ファルの顔を見るのが色々と仕出かして照れくさかったりばつが悪かったりするのは確かだが、ここでまっすぐ言えなかったら人としてダメだと思う。


「村を襲ったのは投げ組で、悪いのはそいつらだろ?」

「そ、それはそうですけど……」


ファルが俯き、まだ責める色は消えない。
ここで、リリーがファルに言い放った。


「ファルが悪かったら村が襲われた原因はリリーになるはずなの。でもそんなのはちゃんちゃらゴメンなの」

「リリー……」


どうやら会って数日の俺よりは効果がありそうだ。
リリーの励ます意図がよくわかり、俺はリリーに後の言葉を譲った。


「ファルは優しいの。村の連中に追放までされたのに、ファルはまだやつらを心配しちゃうの。でもそういう優しいファルがリリーは大好きなの、だからそんな風に責める馬鹿がいたらリリーは怒るの!」

「……うん」

「それが本人であっても、なの」

「……うぅ、ありがとう」

「どういたしまして、なの」


頭をよしよしと撫でながらリリーは言った。
ファルも撫でられながら、泣きそうな顔をリリーの胸に埋めていた。


……優しいのは2人ともだよ。

俺は二人が眩しい。
あそこまで仲の良い友人はいなかった。
一とはあまり深い話をしたことがなかったから……いや。
同じように怒ってくれたのは渡辺だったか。
優しかった彼女に大したお別れの挨拶もせずに出てきた事に少し心が痛む。


と、リリーが切り出した。


「聖霊さまの話はそれだけじゃなかったの」

「何だって?」

「魔物の群れが、直撃しそうなの」

「ええっ!」


それを聞いたファルが飛び上がる。


「ゴブリンの群三百匹くらいで、寄ってくる原因は……」

「……村での、血の匂いか」

「……なの」

「……そんなぁ……、遠すぎるよ……」


ファルがその場にへたりこむが、俺はさらにリリーに尋ねた。


「山の方角は?」

「こっちに歩いて5日なの……」

「魔物が来るまでには?」

「……あと、3時間ないらしいの……」


盗賊たちのいた山の方角と反対側である。
盗賊たちはきっと転移とかなんとか、ファンタジーなことをしたのだろう。

それより、220キロを三時間か……。


「俺一人なら間に合う。二人は荷物持って後から来てくれ」

「だ、ダメですっ!危ないのにっ!」
「それは無理な話過ぎるの!遠すぎるの!」

「大丈夫、間に合わせるさ」


俺はリュックサックをリリーに渡す。
リリーもファルも止めようとするが、俺はやめる気はなかった。


「私も行きますっ!猫になれば何とか……」

「いや、今はファルは戦闘力が足りない。リリーは……?」

「弓矢は少し使えるけど、そんなに速く走れるわけが無いの……」

「流石に俺も人一人担いでいくのはその速さでは無理だ。だから後から来てくれ、終わらせ次第迎えに行く」


俺が言い切ると、ファルもリリーも心を決めたのか俺に頭を下げた。


「……はい、ケントさん、みんなをよろしくお願いしますっ!」
「村までは道があるの。そこを道なりに行ったら明らかに一つ山があるの。そこが多分、その山なの」

「任せとけ!」


俺は胸を張ってその期待に応えよう。
全力を尽くすのは当たり前だ、今度こそ守ってみせる。
仲間からの期待に、応えられないはずがない!


俺はリリーの言った方向に目掛けて、森の中へ突っ込んでいった。



次回投稿は木曜日です!

現在、こちらの作品を連載中です。

妹の代わりに俺は魔王になった。


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