プロローグ1
その日は雪が降っていた。
真っ白な雪を染める薔薇の花のような血の染み。
走っていたトラックの荷台に積まれていた鉄骨が目の前で崩れて、ボクはそれに巻き込まれてほとんど訳もわからず死んだ。
ただ雪に栄える血の赤は消え逝く意識に残って、ふと、自分の半身とも言えるゲームキャラクター『緋雪』のことを最期に想った。
・・・ああ、ボクが消えたら彼女も存在しなくなるんだな。
自分と彼女、二重の喪失を寂しく思いながら、ボクの意識は暗闇の中へと溶けて行った・・・。
◆◇◆◇
次に目が覚めた時、そこは薔薇の花が敷き詰められた豪奢な棺桶の中だった。
「――うわっ――!?!」
なぜか本能的にそれを知っていたボクは、咄嗟に蓋に手をかけ力いっぱい上体を起こした。
思いの外軽く開いたそこから身を乗り出し、慌てて周囲を見回した。
――どこだここ?! 棺桶ってことは葬儀場か火葬場?! 燃やされてる最中とかなら洒落にならないよ!
だが、予想に反してそこは中世の城の中、それも王族が使用するような天蓋つきの畳何畳あるのかわからないくらい大きく立派なベッドと、これまた広くて立派な調度が揃った寝室だった。
「・・・へっ? ここどこ??」
そう一人ごちた声が妙に高くて可愛らしい。
というか着ている物も黒を主体とした絹のような光沢のドレスで、そこに赤薔薇のコサージュをふんだんにあしらった豪華なものである。
その上にふわりと垂れたベルベットのような光沢の長い黒髪はもしかしなくてもボクのもので、視線を更に下に転じて見れば、微かに膨らんだ胸と折れそうなほど細い腰、そして――
「・・・ない」
股間の喪失感にまさかと思いながら、子供にように細くてなおかつしなやかな自分のものらしい指を這わしてみれば、慣れ親しんだ男性のシンボルが消え、代わりに未知なるスリットがその部分に鎮座していた。
あまりの衝撃に呆然としていると、誰かが寝室の黒檀の扉をノックする音がして、
「――はい…」
反射的に「入ってます」と言いかけて言葉を飲み込んだ瞬間、
「失礼しますっ」
挨拶の声ももどかしげな様子で、1枚だけで3×2mくらいありそうな重厚な扉を軽々と押し開け、見事な金髪で金瞳の美丈夫が部屋の中へ入ってきた。
その男、というか20歳前後と思えるタキシードをビシッと着こなした呆れるほど美形の青年は、物事の急展開についていけず唖然呆然としているボクを見て、その整い過ぎた美貌に満面の笑みを浮かべた。
いや、そっちの気はないつもりだったけど、ここまでの美形がこうしたフルスロットルの笑顔を浮かべるとか、ほとんど凶器だね。ボクが女だったら惚れてるところだよ。あれ・・・いま女みたいだけど、じゃあア――ッ!な危機なのかな?
なんて馬鹿なことを考えてるボクの前で、美男子は右手を胸に当て、騎士の礼をとるように、その場で片足立ちで深々と頭を下げた。
「姫のご復活、まことにもって祝着至極にございます。この天涯を始め、領内のもの全てがこの日あることを衷心より願っておりました」
美形がやるとなんでも形になるなぁ~とか思っていたボクだが、ふと、聞き逃せない単語を耳にして思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「天涯!!?」
「・・・は、はい。どうかなされましたか姫?」
怪訝そうな質問には答えず、ボクはその美形を指差した。
「黄金龍??!」
「? はい。その通りですが・・・?」
瞬間、指差した先のところから透明なポップアップメニューのようなものが現れ、美形にかぶさるような形で表示された。
種族:黄金龍
名前:天涯
所有:緋雪
HP:556,800(人間形態)/1,948,800(半龍形態)/61,234,800(龍形態)
MP:767,800(人間形態)/2,303,400(半龍形態)/53,746,000(龍形態)
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黄金龍は元々ボクがやっていたゲーム『エターナル・ホライゾン・オンライン』のイベント用ボスとして配置され、その後限定イベント用ガチャの景品としてSSR級アイテムとして販売されたものだ。
当時ボクも挑んだもののまったく掠りもせず、止む無くありったけのゲーム内資産と多量のレアアイテムと交換とで手に入れた。恐らくサーバ内でも5匹といないであろう超高レベルモンスターである。
そしてボクは手に入れた黄金龍に天涯と言う名をつけたのだが、まさかその当人?! いや当龍?!
混乱しながらなんとなく自分を指差してみたところ、同じように半透明なポップアップメニューが浮かんだ。
種族:吸血姫(神祖)
名前:緋雪
称号:天嬢典雅
HP:78,000
MP:95,500
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間違いなく、ボクがプレイしていた『エターナル・ホライズン・オンライン』のキャラ名とステータスであった。
他作品を書いてる途中でなんとなく書いてみました。
思い出したように不定期で書く予定です。
8/15修正しました。
×ここまでの美形がここまでフルスロット→ここまでの美形がこうしたフルスロットル