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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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9/26

 俺は仕事場近くにある小さな公園の、ベンチに座って待った。後ろには木々と草むらが広がっており、少し暗い。
 まだ朝の9時前だというのに、幼児たちがあちらこちらで元気に走り回っている。

 「あのぉー……」聞き覚えのある声に俺は顔を上げる。気をつけながらそっと。

「おぉ、ごめんな忙しいのに」

 やはり。西だ。覗き込むように俺を見ている。

 「先輩、でいいんですよね?」眉をひそめながら訊ねてくる。

「ああ」

 まあそういう反応になるよな。

「なんでお面つけてんすか? それに手袋も……」

「実は昨日、帰ってる途中で蜂に刺されて、すごい腫れちゃってさ」

「大変じゃないですかっ!」

「あぁ……いやー参っちゃうよな、ホント」

 実際にそうなら「参っちゃうよ」の一言で片付けられるはずないのだが。

「アレ? 声、変じゃありません??」

 ギクッ
 そうか、声も変だったのか。それは自分では気づかなかった。
 どうする……どうする、俺……

「それも蜂のせい」

 結果、咄嗟に思いつかず、諦め半分でそう告げた。
 これじゃ赤ずきんとオオカミだろ、と自分にツッコミを入れながら。

「それは……大変ですね」

 よかったぁー……もう半分の方が成功したみたいだ。
 情報収集力は長けていて優秀なのだが、良い意味で純粋過ぎ、悪い意味で知識不足なところが西にはある。普段は「おいおい……」なことばかりだが、今回ばかりはそれに助けられた。

「てか、そんなにヤバいんなら早く病院行ったほうがよくないですか?」

 ん? あ、そうだっ!

「確かにな。それじゃあ今から念のためにも病院行ってくるな。編集長に遅れますって伝えておいてもらえるか?」

 しばらくしたら、「自宅療養しろ」と言われたとかで誤魔化せばいい。原稿さえあれば大丈夫だ。昔、FAXで送ってどうにかなったこともある。経験済みだ。

「分かりました」

 よしっ! 心の中でガッツポーズ。

「で、頼んだものは?」

「はい。即白骨に関しての資料ですよね?」

 手に持っていたバッグから青いファイルを取り出し、渡してくる西。
 早速、軽く中を。パラパラめくっていくと、最初から最後まで埋まっていた。
 これだけあれば十分だろう。

「ホントありがとう。恩にきる」

「なるべく早めに返してもらえると有り難いです。まだ今月号の記事書き終えてないので」

 なのに貸してくれたのか……
 申し訳なくなってくる。

「できるだけ早く返す」

「代わりと言っちゃなんですけど……1つ聞いていいですか?」

「何?」

「なんでこの資料が必要なんですか?」

 えぇっと……

「実はー……即白骨事件が今俺の調べてる人喰い女の事件と関係があるみたいなんだわ」

 完全なる嘘っぱち。だが、状況も状況。嘘も方便、というやつだ。

「それで、ちょっと情報を頭に入れておきたくてな」

「なるほど。でも、ギブアンドテイク。なんか分かったら俺にも教えて下さいね」

「ああ」

「じゃあ俺帰りますね」

 あ、思い出した。

 「あ、あと」去っていこうとする西を呼び止める。

「1つ調べておいて欲しいことがあるんだが、頼めるか?」



「分かりました。ちょっと調べてみます」

 西は踵を返す。

 あっ、そうだ。

「西っ!」
 慌てて呼び止めると、西は上半身だけクルリと振り返り、「何です?」と眉を上げた。

「俺って何歳?」

 「はい?」今度は体ごとこちらへ。

「俺って、何歳?」

 こんな質問をしたのには理由がある。
 もしかしたら俺が間違ってるだけかもしれないと無性に不安になったのだ。ミステリー映画や小説でよくある実は自分で都合よく記憶を塗り替えちゃってましたみたいな、そういうやつ。

「それは……とんち問題かなんかですか?」

 西は恐る恐る尋ねてくる。

「違う」

「なら、何歳に見えますか的なやつ?」

「それでもない」

 今の俺だったら、80歳ぐらいに見えるだろうな……って今そんなの関係ない。

「単に普通に、俺がいくつか聞きたいんだ。何歳だ?」

 俺が試しているとでも思ったのだろう、「えぇっと……」と眉をひそめ顎に手を当て、考え出してしまった。

 「そんなに深く考えなくていい」なんて余計なことを言うとさらに混乱を招くかもしれない——俺は黙ったまま回答を待った。

 30秒ほど悩み続けると、西は顔を上げた。

「すいません……31か33だと」

「いや、謝らなくていい」

 間違えたことも、なぜに32を抜かしたのかも今の俺には全く気になっていなかった。

「はぁ……」

 西はキョトンとしている。何故こんなことを聞かれたのか意味が分からないと思う。俺自身、何がなんだか分からなくなってきた。

「とにかく、俺は30代で間違いないんだな?」

「それは、そうですね……えっ、そうですよね?」

「あ、あぁ……そうだ」
 これ以上は余計ややこしくなりそうだったので、粗いとは分かっていたが、俺は「すまんな、変なこと聞いて」と切り上げた。

「いえ……」

「改めて、よろしく頼む」
 「はい」西は改めて踵を返し、来た道を戻っていった。

「上手くいったな」

 振り返ると、ガムを噛んでいるイチ君と服についた木の葉を取っているトー君の2人が。ベンチ後ろにある木陰に隠れていたのだ。

「なんとかね」

 俺は再び資料を開く。「あっ」早速見つけた。

「どうしました?」

「昨日起きた即白骨について書かれてる」

「一緒にいたあの女か?」

「うん、それもあるんだけど……」

 そこにはこう記されていた——即白骨はセーラー服を着用、と。

「被害者は学生だ」
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