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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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20/22

十九

「もしもし?」

 俺はその場から少し離れてから、電話に出る。

 『俺です』西だった。

「どうした?」

『分かりましたよ』

 「もうか?」分かったと言う内容が今パッと思いつくのは、タクシーの中で西に話したことだけだった。



 『大丈夫でした?』西からの電話。

 おそらく、蜂の件りだろう。

「ああ、もうしばらくこのままらしいが、とりあえず問題はないらしい」

『なら良かった。
 そういえば頼まれてた件、分かりましたよ』

 一瞬、その件が何なのか出てこなかった。
 だが、あくまで一瞬。すぐに思い出す。
 それが、公園で去り際に頼んだことだと。

「即白骨になった順についてだよな?」

『はい』

「何か分かったのか?」

『色々と調べてみたんですが、何故新宿館山渋谷の順なのかはまではちょっと……』

 何も出てこなかった、か——あっ、そうだ。

「じゃあ、ブレスレッドについて調べてくれないか?」

『ブレスレッド、ですか?』

「ああ。
 俺も今調べてる途中で、確定じゃないんだが、即白骨にブレスレッドが関係してるかもしれないんだ」

『それ……マジですか?』

「言ったろ、まだ確定じゃないって」

『でも、そんなのどこも知らない情報ですよ。俺だって知りませんでした。
 いや……そもそもそんな情報は発表されてなかったから、警察ももしかしたら——』

「とにかく、俺も本当に関係あるかどうかこれから調べてみる。
 だから、始めから数えて5番目以降をそっちで頼めるか? 4番目まではこっちで調べたから」

 『勿論! 了解っす!!』と若さ特有の威勢のいい返事が返ってきた。
 電話を切ると、タイミングよくタクシーが止まり、扉が開く。



「随分と早かったな」

『俺も気になったんで。それに元々は俺の担当ですからね。
 早速ですけど、本題に入ります』

 電話越しに何枚もの紙をパラパラめくる音が聞こえてくる。

『先輩の言ってた通り、ブレスレッドが関係あるのは間違いなさそうです。
 で、5番目以降の即白骨被害者遺族のうち数組と接触ができて話を聞いたんですが、皆共通して白骨化する丁度2週間前に、先輩が言ってたブレスレッドを購入していました。
 遺族が覚えてる限りの見た目や写真からおそらくそれら全ては同一のものかと』

 『で、肝心の死亡した順の理由についてはですね——』俺に返答や相槌を打たせてくれる隙を与えず、矢継ぎ早に話してくる。声色からも分かる通り、テンションが上がっているのだろう。

『おそらく購入順ではないかと』

「購入順?」

『はい。
 ブレスレッドの購入時期を比べてみると、新宿館山渋谷の順になるんです。
 でも裏付けが取れてないんで、間違いないとは言い切れないんですが』

「そうか……」

『先輩』

「ん?」

 妙な間が開く。

『俺も一緒に調べていいですか?』

 「一緒ってのは?」意味は分かっていた。

『行動を一緒に、ってことです』

 的中。

『おそらく先輩がこの即白骨の真相から誰よりも1番近いとこにいます。
 だから一緒に調べさせてください。
 お願いしますっ!』

「すまん……」
 西を危険な目に合わせるわけにはいかない。

『でも、一緒にやればもっと早くっ——』

「もう少しだけ待ってくれ。
 必ず全て、詳細に教える。
 だから……頼む」

 西は黙り込んでしまった。
 当然だ。協力しますと言ってくれてる人間を理由も話さず突っ返すのだから。調べてもらった人への態度ではないのだから。

『……ラーメンとビール』

「えっ?」

 西の大好物。もちろん俺もだ。
 2人で仕事終わりに食べに行くこともしばしば。

『それで手を打ちます』

 西……

「恩にきる」

『いや……編集長にバレないようこっそりと調べるの大変だったんで、餃子も一緒に——へ? なんでここに……いるんですか?
 あっ、いやそういう訳じゃ——えっとですねーそのー……あっ!』

 すると、電話の向こうでガチャガチャと音が聞こえる。
 なんだろう……凄く嫌な予感が……

 『坂崎か?』次に聞こえたのは西ではなく、編集長だった。

 体がこわばる。

 その時思い出した。
 そうだ、タクシーの領収書貰う時に思った忘れてたことを。
 休む言い訳——連絡をしてなかったんだ。

 マズい……

「じ、実はですねっ、そのー……休む連絡してなかったのは——」

『人喰い女と即白骨が関連してるかもしれないんだろ?』

 えっ?

「西から聞いたんですか?」

『いや、あいつは隠し通してた』

「なら……」

『俺だって伊達に編集長を名乗ってるわけじゃない。それくらいはすぐに分かるよ』

 いや、分からないと思うんだけど……

『で、どうなんだ? 関係あるのか、ないのか?』

「あると思いま——」

『あるのか? ないのか?』

「……あります」

 沈黙が流れる。1秒が途轍もなく長い。

『他はまだその関連性については見つけてない』

 たった数秒の沈黙だったが、緊張が走りっぱなしだった。それに、経るごとに累乗されてその重さは積み重なっていっていた。

『いいか? 確実な情報を一刻も早く集めろ。
 集まるまで編集部に来るな、俺に休む連絡もするな。その時間全て裏付けに使え——これは編集長命令だ』

「はいっ!」

 俺は恵まれた会社に勤められたみたいだ。

 「じゃあ次は、調べ終わった時に」と言って、俺は電話を切った。

「さっき言ってた『購入順』というのは?」
 振り返ると、すぐそばにトー君が。

 「おぉ……」思ったよりも近くにいて一瞬体がビクつく。

「あっ、すいません」
 トー君は申し訳なさそうに謝ってきた。

「いや……
 で——さっきのことだけど」

 俺は、西から告げられた事実を伝える。

 「成る程」深く頷くトー君。

「だから新宿館山渋谷の順だったんですね」

「まだ推測の域は出ないけどね」

「だとしても筋は通ってますから、おそらく当たっていると思いますよ。
 それに前にも言いましたが、警察が調べるのはあくまで被害者が死亡した場所や現住所などだけ。
 不自然な死亡順が購入した順と関わってるなんて調べるどころか、そもそもを知りようがないですからね、そういった点でも納得できます」

 確かに。

 「とりあえず……確認をしてみる?」俺はチラッと後ろに視線をやった。
 トー君も同じ動きをすると、理解したのか、口を小さく開けて数回頷いた。

「そうですね。統計は多いほうが正確ですし」
 意見が一致した俺とトー君は元の場所へ戻った。

「エンドウさん」

「はい?」

 そこにはエンドウさんしかいなかった。
 イチ君はというと、例の店内を見て回っていた。眉をひそめ、床や天井の隅から隅まで目を凝らし、何かを調べているようだったので、とりあえずそのままに。

「度々すいません。
 金山さんがいつ頃購入したかとかって分かります?」

「確か月、いや……金曜です、3週間前の」

 金山さんは先週の金曜に死亡しているから、購入してから死亡するまで2週間。今までのこととピッタリ一致する。

 「じゃアンタは?」戻ってきたイチ君が質問を引き継ぐ。

「私は……月曜です」

 「というと、次の週ってことですよね?」ブレスレッドを見せてもらったとこで聞いたことや様々な状況からそう推察した。

「はい。
 『お揃にするなら早くがいいし、店員さんも……イケメンだから』って」

 「ケッ」イチ君は嫌悪感たっぷりの表情でそう吐いた。
 店員って言うのはさっき言ってたシクという人物のことだろう。

 「ん?」俺は頭を一旦整理する。

「てことはつまり——」

「怪異が現れるのは明日(・・)、ということですね」
 そう言って、トー君はメガネのブリッジを中指で上げた。

 まさかそんな近々だとは……

「あっちから来てくれるなんてありがてぇー話じゃねぇか。
 よっしゃぁ~今度こそケリつけてやらぁ」

 手をボキボキ鳴らし、笑みを浮かべながら首を回すイチ君。
 いや、ニヤついているといった方が正しいかもしれない。
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