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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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13/22

十二

 玄関からは右側に少しキツそうな傾斜の階段、左側に廊下が見えた。
 通されたのは廊下の途中にある扉をくぐった先の、ダイニングとリビングが一体となったよくある造りの居間。ダイニングには白いソファにテレビ、室内観賞用の植木鉢に入れられた小さな花が。大きなガラス戸や窓があり、外からの光が多く入るであるはずだろうに、心なしか部屋が暗いように感じる。空気もなんだか暗く冷たい。
 そして、リビングとダイニングの間ぐらいの壁際には全体が黒く所々に金の模様が入った仏壇があり、被害者のにこやかな笑顔の遺影や戒名が書かれた位牌、りんや線香などが置かれている。

「コーヒーでよろしいですか?」

「あっお構いなく」

 「お2人は?」イチ君らの方を見る母親。

「あっオレはコーラ——」

 「大丈夫です。お願いします」イチ君の発言をかき消すように遮るトー君。

 「お好きな席にかけてて下さい」母親に4人掛けの茶色のテーブルへ促される。
 だが、その前に——顔を固定したまま、トー君とアイコンタクトを取り、小さく頷く。

「その前にお線香を」

「あぁ……お願いします」

 口元は少し緩むが、目元は疲れと悲しみからか止まったように動かない。
 そのまま母親は奥にあるキッチンへと消えていく。仏壇の前に、トー君、俺、イチ君の順に並ぶ。

 待っている間、少し辺りを見回す。テーブルのそばに本棚があり、そこには家族写真や赤ちゃんの写真が飾ってある。何十枚も所狭しと飾られているのを見て、なんか胸が締め付けられた。部屋が暗く空気も冷たい理由が分かる。
 だが、それはあくまで気がしたレベルの話。当の本人らが感じているものと比べたら雲泥の差なのだろう。結局のところ、本当の痛みは本人たちにしか分からない——俺はそう思う。

 俺の番が来た。緑色の線香を手に取り、ロウソクの上で揺れる小さな炎につける。火が移り、線香の上で燃え出す。手で扇いで火を消し、香炉灰にさし、立てる。そして、りんを2度鳴らす。部屋中に響き広がる音を聞きながら、目を閉じ両手を合わせる。次第に音が小さくなっていき、聞こえなくなった時目を開ける。

 そのまま、テーブルの方へ向かう。既に窓側に座っていたトー君の隣に俺は腰掛けた。



「大丈夫か?」

 イチ君の声で意識を取り戻す。いつの間にか真向かいに座っていたイチ君が俺の顔を覗き込んでいる。例の『刀』が入った黒い竹刀袋は

 「あ、あぁ……」乾いていたのか、俺の意思とは別に目が勝手にパチクリと動く。
 まただ……いつの間にかまたボーッとしてしまった。あの時と——ファストフード店でのアレと同じだ。

 改めて確認する。分かってはいるが、自分の中だけだと不安になるのだ。

「時間はあとどれくらい?」

「3日と10時間。まだ残ってる」

 まだ、か……イチ君の余裕を感じられる一言だ。俺にとっては、それしか残ってない、だ。
 疑ってる訳じゃない。そうじゃないが、俺は……助かるのだろうか? 改めて怖くなってきた。実は俺の双肩に死がしがみついていて、3日と10時間後を今か今かと待っている−−そんな気がしてならないんだ。
 手足が震え出した。もちろん、寒い訳じゃない。味わったことのない未知の恐怖に、感覚に慄いている震えだ。

「お待たせしました」

 見ると、お盆にコーヒーを4つ乗せてこちらへやってくる被害者の母親が。

 「どうぞ」目の前にコーヒー、スプーン、プラスチックの小さな使い捨てカップに入ったコーヒーミルク、そしてスティックシュガーを置く。イチ君やトー君の前にも同様に置かれる。

「いただきます」

 俺は不安や恐怖を胃液で溶かしてしまおうと、まだ淹れたてのコーヒーを流し込んだ。舌全体が細かく刺すような痛みが走った。少し火傷しちゃったかな……

 乗せてきた盆をそばに置きながら、母親はイチ君の向かいの席に座る。そして、コーヒーを口にするトー君の方を見て、
「カナと同じクラスだったんですよね?」
 と尋ねてきた。

 トー君は飲むのを慌てて止め、コーヒーカップを置きながら「はい」と答える。

「お話する機会は少なかったですが、たまに話す時凄く親切にしてくれました」

 トー君の切なさそうな表情は本心からなのか、演技によるものなのか、それとも別の嘘をついていることからくる罪悪感からなのか。

「そうですか……」

「すいません、来るのが遅くなってしまって」

「いえ……わざわざ足を運んで頂けただけで充分です」

 仏壇に目をやる母親。

「あの子も喜んでると思います」
 そう言うと、母親は目を潤ませ、手でふき取る。

「すいません」

「いえ……」
 俺にはそう言うことしかできなかった。部外者の慰めの言葉はただ空虚なものでしかない——そう思ったからだ。

 「あのー」トー君が口を開く。

「はい?」

「そこにある写真を見せてもらっても?」

 指差したのは先ほど俺が見た本棚だった。

「ええ。どうぞ」

 トー君は立ち上がり、本棚に向かう。だがその向かい方は少しおかしかった。複数あるのを見に行ったのではなく、ある1枚へ一直線に見に行っているのだ。まるで気づいた何かが本当にそうか確認するためのよう——いや、訂正。本当にそうだったみたいだ。
 額に入った1枚の写真を手に取り、持って帰ってきた。

「これについて、香奈さんから何かお聞きしてませんか?」

 母親に見せるトー君。俺も体勢をずらして盗み見る。
 あれ? これって……
 俺はすぐにケータイを取り出す。目的は画像フォルダ。

「ブレスレット……ですか?」

「はい」

 やっぱり——画像を目一杯引き伸ばして拡大してみると、金山さんの手首にも同じようなブレスレットを身につけている。

「いえ、特には……
 でも、お気に入りだったみたいで、買ってからよく付けていたのは覚えてます」

 「いつぐらいに購入したとかは分かりますか?」曲げた人差し指の第二関節辺りでクイッと上げてから、トー君は続ける。

「確か、香奈が亡くなる2週間ほど前だったと」

 メモは取りにくい状況であるため、得た情報を脳内に刻んでいく。

「今、それを見ることはできますかね?」
 俺は少し体を前のめりで聞いてみた。もしかしたら何か突破口になるかもしれない。

 でも返された言葉は——
「それが、なくなってしまったんです」
 だった。

「なくなった?」

「はい……あの日も付けて出かけたんです。それで後日遺留品として警察の方からバッグやケータイなどを返してもらったんですが、そのブレスレットだけなくなってしまったんです」

 だけ?

「他のものは返ってきたんですか?」

「はい。全てちゃんと。本当にそれだけ帰ってきませんでした。
 ないのが分かってすぐ刑事さんに連絡したんですが、『現場にはこれ以外なかった』と言われて……」

 記者の勘が叫んでいる。
 これは何か関係があるぞ——と。

「どこで買ったとか……は?」

 一応訊いてみただけ。ダメ元。

「確か……」

 まさかのヒット。

「四六横丁だったと……」

 えっ?——俺は眉をひそめた。

 その名称に聞き覚えがあったからだ。
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