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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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12/22

十一

 資料を基に今までの被害者遺族から話を聞くことにした。
 だが、今までの経験上、記者だと名乗ると「もう静かにさせて欲しい」と断られたり、「いい加減にしてくれ」と怒鳴られたりする恐れがある。いつもだったら根気よく続けていくこともできるが、今は時間が——俺の人生の時間が少ない中でそれはかなり痛手。

 そこで、エンドウさんと出会った時と同じ方法、つまり俺がイチ君・トー君の2人の祖父であり、被害者に昔世話になったという設定で遺族と接触することにした。

 1番目の被害者は、大学生であったため1人暮らしをしていた。そのため、遺族はここ最近のことについては何も知らなかった。
 2番目の被害者とは連絡がつかなかった。
 3番目の被害者遺族は当の本人が亡くなる数日前に喧嘩をしていたため、会話がなく何も分からないと言われ突っ返された。ただ、一言も記者と名乗ってないのに、情報提供料をたんまり取られた。

 3番目の被害者の家を出ると、辺りは真っ暗になっていた。時間はもう夜の10時。

 これで1日が終了か……

 時間を無駄にした。こうしないために、記者と名乗ることを泣く泣く辞めたのに、意味がないじゃないか。
 せめて何か1つでも、情報が欲しかった。記者として、生命の脅かされている者として。

 「今日はもう休め」——何の前触れもなく、ただ唐突にイチ君からそう言われた。

 「えっ?」素っ頓狂な声を出してしまった。

「寿命吸われたせいで、お前の体力はどんどん落ちてる。
 あとは俺らがやっとくから、もう寝ろ。休んどけ」
 言葉は少し粗暴だが、心のこもった一言だった。

 俺は「分かった。休む」と返した。だが、実際は分かってなどいない。正確には、いないようなもの。だって、彼の気持ちを、気遣いを無視したのだから。

 2人と別れた後、俺はここから30分ぐらい歩いた、駅の反対側にある24時間開いている図書館へ篭った。そして、様々な記事や文献を漁れるだけ漁った。だが、意識が飛んだ30分間以外一睡もせずにひたすら調べても、有益な情報は何一つ得ることはできなかった。

 そもそも俺らが相手にしてるのは、容態を忘れたり写真や動画に納めることのできない、我々の理解を超越してる特殊な存在。なのに今日初めて調べ始めた人間がそう易々と何かを得られるはずなどない。
 思い返してみれば、そんなことは容易に想像できたはずだった。だが、行動せずにはいられなかったのだ。記者として、生命の脅かされている者として——

 イチ君とトー君と待ち合わせ場所で再び顔を合わせたのは、別れる際に集合時間として決めておいた、朝の10時だった。



 合流した俺らは早速4番目の遺族の家へ。4番目の被害者は大林おおばやし香奈(かな)。15歳女子中学生。受験生だったそうで、塾近くのコンビニの監視カメラに帰る姿が映されていたため、警察は塾からの帰り道に亡くなったのではないかと見ているらしい。

 昨日の二の舞にならぬよう、念のため前もって連絡をした。
 俺ではなく、トー君が。理由は「いい考えがあるんですが」と彼に言われたからだ。
 トー君にケータイを渡すと、すぐに電話をかけ始めた。
 “トー君が被害者である大林香奈さんと昔同じクラスメイトで、今近くにいるので、是非線香をあげに行きたい”か。成る程、確かにいい考えだ。

 「ありがとうございます」喋りながら頭を下げるトー君。どうやら成功したみたいだ。

「あとですね、祖父と弟も一緒なんですがよろしいですか?」
 イチ君は気に食わない表情をしながら舌打ち。でも、これなら俺らが一緒に行っても問題はない。上手い口実だ。

 「では今からお伺いします」電話を切るトー君。

 優秀だな……ウチに欲しい人材だ。

 「ありがとうございました」とトー君からケータイを返してもらった時、ふと横に何かが視界に入る。見ると、イチ君が俺の方に向けて手を伸ばしていた。

「……どうしたの?」

「ケータイ」

 「あぁ」俺はポケットから取り出し、手の平に置いて渡す。

「サンキュー」

 操作し始めるイチ君。

 そういえば……

「イチ君もケータイ持ってないの?」

「まあな」

 とすると……

「2人ともケータイ持ってないのに、どうやって連絡を取り合うの?」

「そんなの必要ねえよ」

 はい?

「何で?」

「そりゃあー、オレらはいつも一緒だからだよ」

「あぁ……成る程」

 ……え?

 「いつも一緒なの?」——そう訊こうとした。
 だけど「あっ、ここですね」とトー君の声に遮られた。
 聞こえたのは、背中から。振り返ると、表札を見ていたトー君がその前に立っていた。
 おっと!——話すことに集中していた俺とイチ君は行き過ぎた分、少し駆け足で戻る。

「被害者の方と同じ名前ですよね?」
 トー君は隣に来た俺に顔を向けて尋ねてきた。

「そう、みたいだね」
 資料にあった被害者の苗字と同じ“大林”と書かれた表札を目にして答える。
 下はグレー、上はクリーム色の壁に黒い屋根が乗っかった、ごくごく一般的な一軒家だ。

 ベルを押す。ピンポンと音が鳴ってすぐに、「はい」と女性が出る。機械が古いからなのか、声と一緒にザーという小さなノイズも聞こえた。

「先ほどご連絡した、佐藤ですが」

 これもトー君のアイデア。3年間に1度くらいは苗字が『佐藤』の者と同じクラスになるだろうと考えたそうだ。

「少々お待ちください」

 プツリと音声が切れる。

 数秒後、ガチャガチャと2箇所の鍵を回す音を立てて、扉が開く。
 出てきたのは、目元のくまが濃く出て顔色が悪く、気力もない女性。時間も割とあったはずなのに、すっぴんのままなのだから、その心境は相当だと察せられた。
 年齢的なことからも考えて、被害者の母親であるというのは間違いなさそうだ。

 「初めまして」トー君が頭を下げて挨拶をする。それに続いて、俺とイチ君も。

「……どうぞ」

 玄関が大きく開かれる。入ってよしということだろう。

 「失礼します」俺らは玄関の扉をくぐった。
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