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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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11/29

 あの空き地から5分ほど歩き、大通りに。そこからさらに100メートルぐらい先にあった小さめの喫茶店を選んだ。

 イチ君が「あっちにしようぜ〜」と大通りを挟んだファミレスを要望してきたが、無視。タイムリミットが刻々と迫っている今、1分1秒が惜しい。無駄な時間は消費したくない。それにそっちに行ったら、今日の夜中みたく恐ろしいくらいの量を食べるだろうし。

 レバー式のドアノブを下に倒し奥に力を込める。ドアに付いたベルが鳴る。中に入ると、奥から腰エプロンをした男性店員がやって来た。風邪でも引いてるのか、白いマスクをつけている。

 4人であることを告げ、店の奥にあるボックス席に案内を受ける。

 外見からは小さめに見えたが、中はそうでもなかった。だが、だからと言って大きいわけではなく、普通の大きさ。4つあるボックスの他にカウンターが6つと4人席テーブル幾つか。奥まで広がっているみたいで正確な数は分からないが、少なくとも7組はある。

 成り行きで俺とトー君、イチ君とエンドウさんが隣同士となる。で、俺とトー君が奥側に。寿命を吸われている影響からか、上手く体に力が入らずドスッと落ちるように座ってしまう。だが、ソファが衝撃を吸収してくれたおかげで大きな音がなることはなかった。

 俺は肩からバッグをおろし、すぐ左に置く。

「ご注文は?」

 えっ?

 俺は思わず視線を声がした右へ顔を向ける。そこには手に注文票とペンを持った店員が立っていた。
 もうか、と思いながらも、俺はテーブルに置いてある卓上メニューをチラ見して、「じゃあ、ホットコーヒーで」と注文した。店員は注文票に記入する。

 ふとエンドウさんを見ると、組んだ手を膝の上に乗せて待っていた。

「お好きなのをどうぞ」

 俺が手を出して勧めると、「えっでも……」とためらいの態度を見せてきた。

「自分から誘ったんですし、どうぞ遠慮せず」

「……それじゃあ」と視線を店員に向けて、「オレンジジュースで」と頼んだ。店員は「はい」と続いて記入。

「2人は?」

 「僕もオレンジジュースで」トー君が先に注文。
 「んじゃ、オレはハンバーガーセットのポテト山盛り、飲みもんはコーラで」イチ君は指でメニューをなぞって注文。

「以上でよろしいですか?」

 イチ君の「はーい」で店員は去っていく。

 「……えっ?」俺は目を丸くする。勝手に返したことが、じゃない。頼んだメニューが、だ。

「大丈夫だよ。ポテト山盛りはランチタイム無料だ。追加料金はない」

「いやそういうことじゃなくて」

「心配すんな、余裕で完食できっから」

「そういうことでもないんだけど」

「んだよー文句あっ……りますか、おじいちゃん?」

 同時に向けてきたイチ君のぎこちない笑みで俺も気づいた。自分で作ったのに孫設定をすっかり忘れてたことに。

「いや、ないよ。イチ……郎。ハハハハ……」と笑い誤魔化す。

 エンドウさんの顔を見ると、少し眉をひそめていた。疑心を抱いている、と一瞬でそう見て取れた。

 マズい……

 「早速ですが、昨日何か変わったこととか不思議なことはありませんでしたか?」トー君が質問を切り出してくれる。

「変わったことですか?」

 「はい」蝶番辺りを掴んでメガネを整えるトー君。
 俺は疑心がそれてよかったと思うと同時に、慌てて手帳とペンを取り出して取材態勢に入る。

 「特になかったと思います」エンドウさんは左手で右手首辺りを撫でながら応える。服の長い袖に擦れるようにして当たり、ほんの軽く音が鳴る。

 エンドウさんは話を続ける。

「昨日も一緒に帰って、好きなアイドルの話とか来年ある受験の話をしてました。本当にいつも通りで何も変わらずだったので尚更、小夜がこんなことになったのかって実感が湧かないというか、受け入れられてないというか……」

 色んな感情が入り混じった表情を浮かべながら、エンドウさんはふいにケータイを取り出し、操作し始めた。

「3日前のです」

 ケータイをこちら側に向けて置き、スライドしてこちらへ。見せてくれたのは、エンドウさんが自らシャッターを押した自撮り写真だった。
 2人ともセーラー服姿であること、背景に黒板が映っていることから学校で撮影したものだと一目で分かる。顔をくっつけ、満面の笑みを浮かべている。幸せそのもの、といった表情。

「こんなに元気だったのに、なんで……なんであんなことに……」

 目に涙を浮かべ、深く深く俯いて、鼻をすする。エンドウさん。まだ自分の中で整理がついていないんだろう。事件が起きてからしばらく経ったのに、まだこんなにも混乱してるのだ。
 被害者とはなんら関わり合いのない人ばかりがいる世間でさえ、の状況なのに、エンドウさんは親友と呼べる存在を、つい昨日亡くしている。こうなってしまっても致し方ないし、当然なことだ。

 空気を読まず、あの店員が全員の飲み物を運んでくる。ハンバーガーは後もう少し、だそうだ。

 店員が去った後、エンドウさんは「すいません」と俯いたまま目と鼻を指で触れ、呼吸を整えてから、顔を上げた。
 「どうぞ続けて下さい」そう言われたので、俺も「金山さんのことは、ニュースか何かで?」と質問を続けた。

「いえ。実は今日、小夜と遊ぶ約束してたんです。土曜の午前授業もなかったので、映画行ったり洋服見たりして1日過ごそうと思って。昨日の帰り道ではそれも、どこに行くかとかも話していました」

 構わず、イチ君が大きな欠伸をする。

「今朝待ち合わせ場所で待ってたんですけど、いくら経っても来なかったんです。でも前に寝坊したことがあったんで、最初は『また遅刻か』ぐらいにしか思ってなくて、電話かけたりしたんですけど、それでも出なくて。何度かかけてようやく繋がったら、相手はサヤのお母さんで、それで……昨日亡くなったと、知りました」

 成る程。

「では、ここ最近金山さんに何か変わったことや気になったことはなかったですか?」

 「おっ!」イチ君の視線の先には、白く丸い皿に乗せられたハンバーガーと山盛りポテトが。目の前に置かれ、「おっひょー!」とテンションを上げる。

「んじゃ、いっただきまーすっ」

 空気も読まずイチ君は大きな口でパクリ。次第に笑みが無に変わっていく。

「……前のほうが美味しかったな」

 「どうですか、エンドウさん?」俺は無視して、顔をエンドウさんの方に向ける。「うーん……」再び左手で右手首を擦るエンドウさん。

 「些細なことでもなんでもいいんです。何かありませんでしたか?」俺は藁にもすがるような思いで質問する。だが、答えは「多分なかったと思います。少なくとも私は分からなかったです」だった。

「そう、ですか……」

 エンドウさんは悪くない。まさか翌日に死ぬとは思わないし、意識しないと違いなど気づけないだろう。

 「すいません、力になれなくて」視線を落とすエンドウさんに「いえ」とだけ答えておいた。こういうのはあまり言葉多くするものではない。

「もし何か思い出されたりしたら先ほどお渡しした名刺の番号にご連絡いただけますか?」

 俺は話題を切り替えた。

 「分かりました」再び視線を上げるエンドウさん。続けて、「あと、先程の自撮り写真頂いても?」と尋ねると、快い返事をもらえた。

 写真をメールに添付して送ってもらい、俺らは一旦エンドウさんと別れることに。

 調べたいことは、調べなきゃいけないことはまだ沢山ある。
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