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怪異妙奇譚伝 作者:Kt

壹譚目

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 「明日は10時でいいんだよね?」サヤは訊ねる。
 「うん」縦に大きく頷くアヤ。

 学校帰り。
 2人は近年稀である古風なセーラー服を揺らしながら歩いていた。

「今度は遅れないでよ〜」
 サヤを茶化すアヤ。

「分かってるって」

「今日は早く寝なね」

「余計なお世話だよ〜だ」

 顔を見合わせていた2人はフフッと笑いあった。

 十字路に差し掛かり、立ち止まる。

「じゃあね、サヤ」

「うん! バイバーイ」

 アヤは右方向、サヤは左方向。それぞれの自宅へ向かって、2人は歩き出す。



 立夏が過ぎて1ヶ月近く経った。だから、6時過ぎでもまだ明るい。
 でも、サヤが歩いてきた、そして歩いていく路地は街灯が少ないため心なしか暗く感じる。

 1人になると鼻歌を口ずさんでしまうのが、サヤの癖だ。嫌いではないが、周りに誰もいないと思って口ずさんだら、近くに人がいるみたいなことがあるので、少し自制しなければいけないと自分に言っているのだが、昔からの癖のため完全にはなかなか直すことができない。ふと油断した時にやってしまう。
 曲はバラバラだ。好きなアーティストの既存曲であったり、音楽知識は皆無だが適当に作った即興曲だったり。

「フッフフフッフッフー」

 今日も歌う。
 そして、ハッとする。「あっ周りに誰かいるかも」と。
 時間的に仕事や学校帰りの人がいても全然おかしくない。

 確認しようとするサヤ。だが、しなかった。というか、できなかった。振り返ろうとした瞬間、後ろから気配を感じたからだ。
 なんというか——得体の知れない何かが背中にまとわりついてこようとしている、そんな感じだ。

 サヤは以前ストーキングの被害にあったことがあるが、それとはちょっと違う。ちょっとどころじゃない。かなりだ。

 何が違うのか?——足音が少しも聞こえないのだ。

 気付かれぬよう歩くのだとしても、多少は聞こえるはず。なのに今回は聞こえない。前進による何かを踏むことで発生する物音的なものさえも一切。

 つまり、今気配だけしか感じていない状態。そのことが余計に悪寒を走らせている。

 何なの、一体……——サヤは頭の中でそう呟くも、歩くスピードを緩めない。鼻歌も止めない。
 下手に慌てるよりは平常心を保っているという自分への嘘をついた方が、落ち着けるし、もし「気づいた」・「気づいている」というアクションを見せてしまったら、自分の身に危険が及ぶ可能性がある。

 だが、このまま気づかないフリをし続けていても危険であるという現状が改善されるわけではない。悪化しないというだけ。

 タイミングを見計らうサヤ。
 何をするかは決まっていた。以前ストーキングをされた時と同じ対処をしてみる。状況などは違ってはいるものの、一応は成功している。
 それに、下手に叫んでもケータイをいじっても危険であるという状況と緊張から、これしか思いつかなかった。

 どこか……どこかいいトコは……

 目の前に曲がり角が見えた。あまり高くはない塀の向こうからは大きな木が生えている。

 あそこなら……

 曲がり角が近づく。
 体に緊張が走る。

 私ならできる——

 鼓舞するサヤ。
 さらに近づく。
 曲がり角まで残り5メートル、4メートル、3、2——

 今だ!

 サヤは思いっきり走る。

 曲がってすぐ腕を前後に振り、一目散に。

 その先で見えた曲がり角を左へ。次は右。

 もう1度曲がると、もう少し行った左手に空き地があった。隠れられそうなプレハブ小屋も。
 サヤはプレハブ小屋の陰に隠れる。

 息が荒い。ゼーゼー言っている。

 正直、体力がもう底を尽きていた。運動神経が良いわけでもなく、部活もブラスバンド部。こんな時は肺活量くらいしか役に立たない。
 2回大きな深呼吸。息を整える。

 よし——決心して、そっと見る。

 誰もいない。

 ホッとするサヤ。だが、まだ終わってない。

 とりあえず110番を……

 そう思ってケータイを取り出した瞬間、再びあの悪寒が。さっきと同じだ。何かが背中にまとわりついてこようとしている。
 たださっきと違い、その何かはもうすぐそば。おそらく距離は拳一個分ほどしかないだろう。
 恐る恐る振り返る。正体を見た。だが、分からなかった。

 今までに見たことない、本当に得体の知れぬ「何か(・・)」だったのだ。
 サヤはこの時、本当の恐怖に出会った時、人は声を出すことができないと聞いたことのを思い出し、同時にその間違いに気づいた。

 できないんじゃない。本当の恐怖が声を奪ってしまうのだ、と。

 そして、「何か」はサヤを……



 ふと、アヤは振り返る。

 何だろう、この嫌な感じ……

「……気のせいか」

 アヤは家路に着くため、止めていた歩みを再開させた。
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