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バッドエンドの果てに

作者: 砂礫

ミコトが魔物を討ち取った瞬間だった。


俺の目の前でミコトが苦しみだしたかと思ったら姿が変わり始めたんだ。


艶やかだった黒髪は輝く淡い金茶色に茶色の瞳は鮮やかな翠に、そして、陽だまりのように柔らかな微笑みは傲慢さの覗く冷笑に。


 高らかに笑ったミコトは「全てを壊す」と言った。


 見える人だけでも、手の届く範囲だけでもいいから救いたいんだと言ったミコトがだ。


 俺は呆然と聞いていることしか出来なかった。

 ふと、意識を取り戻した私はダラダラと嫌な汗が噴出すのを感じていた。


 なんだコレは。死にたい。いっそ誰か殺してくれ。むしろ羞恥心で死ねる!!!!!!


 私は先ほどまでの自分の行動を思ってひたすら羞恥心に悶えていた。


「ハハハハハハハ!コロス!コロシツクシテクレル!スベテノセイブツをコロシツクシテクレル!!!!」


「スベテヲハカイシムニキシテクレルワァ!!!」


 あぁ、うん。ごめんなさい。もうヤダ。なんでこんな状態で思い出すんだ?


 今の私はとあるゲームの主人公だ。しかもバッドエンドの。このゲームの主人公は4人いて、プレイヤーは最初にどの主人公にするかを選び、その後、魔剣と呼ばれる力の源となる剣を選ぶ。


 主人公は仲間との絆を深め、一番絆の強い仲間とのエンディングを迎える。異性同士の友情エンド・恋愛エンドはもちろん、同性同士の友情エンドのみならず恋愛エンドもあり、BLあり、百合あり、隠しキャラありのいくつのエンディングがあるんだよ!と思うほどにエンディング数溢れるゲームだった。


 だが、しかし。途中経過は同じなために飽きるプレイヤー多数でエンディングのスチル&動画を投稿する人達が増えた。


 私も誘惑に駆られたが他のゲームに浮気しつつもすべてのエンディングを揃えた記憶がある。周回プレイを続けたのでアイテムもスキルも全て揃え、修練用ダンジョンという名の無限の塔(200階まであり、先に進むを選ぶと200階のボスと再度戦う仕様だった)を踏破し、仲間全員を最大レベルまで上げ、装備も隠しボスの落とすユニーク装備を集めたり、固有装備を最終形態にまでしたりと今思い出せば良くあそこまでやったなぁと感心してしまう。


 そして、今現在のこの状況だ。


 そう、仲間とのエンディングではないバッドエンド。力の源たる魔剣に頼りすぎたが故の結末。魔剣の暴走の果てに封じられし魔物の怨嗟に飲み込まれ、主人公の自我が飲まれる。だが、ギリギリのところで理性の残った主人公は仲間達に自分を殺せと迫る。仲間達も葛藤の末に受け入れ、好感度の一番高い仲間によって主人公は討たれる。


 という、他のエンディングは色々緩い表現(微笑みあってるとか、手つないでるとか、寄り添ってるとか!)なのにバッドエンドだけが直接的なのは何故なのかと!シルエットだけでも確実に武器に貫かれてたぞ!?


 突然停止した私を不思議に思ったのか二次元でしか見たことのない仲間達が戸惑いを見せる。


 光を反射する刃に身がすくむ。確かに羞恥心で死ねるとは思うけど、やっぱり痛いのは嫌だ!


 どうする?!どうしたら良い?!


「ぁ・・・、ちか・・・づくな・・・、それいじょ・・・・」


「ミコト!?」


「意識があるのか!?」


「ミコト姉しっかりしてぇ!」


「ミコ!大丈夫だ!俺がなんとかしてやる!」


 口々にミコトの名前を呼び続ける彼らに涙がにじむ。


(あぁ、もうほんっとごめんなさい!)


 破壊衝動やら殺戮衝動やらはふっとんで正気ではあるんです。でもあれだけの台詞をのたまった所を見られた彼らと共にあるにはこの羞恥心に勝たねばなりません。それは無理です!できるなら床を転がってのた打ち回りたい!でもそんなことしたら余計に恥の上塗りだよ!


 ガガガガガッガガッガ!


 魔剣の一振りで近づこうとしていた彼らの手前に溝を刻む。


 線引くだけのつもりだったのに抉れたよ!?流石の全能力開放状態だね☆


「・・・・れ・・・いじょう・・・・近づくな・・・・耐え・・・きれな・・・」


 もう恥ずかしすぎて耐え切れない!顔に手を当てると熱いしね、きっと真っ赤だよコレ。あぁもう、彼らも気まずそうに目逸らしたりしてるしね。コレはあれだ、逃げよう!そしてほとぼりが冷めるまで待とう。時間が経てば笑い飛ばせるかもしれないし!


「・・・まて!どこに行くんだ!」


 ふらりとよろめきながら離れるとすぐに呼び止められる。彼は主人公・・・のひとりだ。


 このゲームはプレイヤーが選んだ主人公以外の3人はライバルや友人として主人公に関わってくるのでいても不思議ではない。


「ごめん・・・ひとりに・・・」


 なりたいんだ。


 声に出す前に思いに反応したのか、【浮遊】【飛翔】【高速移動】が発動して瞬く間に地上が遠ざかり、「ひとりになりたい」という思いだけで飛んでいく。


 やがて着いたのは深い森で地図を確認すると「最果ての原生林」となっていた。


 地図は主人公の行った場所が更新されていく魔法の地図なのだが飛んだ所も有効だったのか一直線に更新されていてその周りは黒いという谷とか湖に橋が架かったように見えるようになってしまっていた。


 そういえばゲームでは王国内しか移動がなかったな。と思い返して一息ついた。


 ここなら誰も来ないだろう。しばらくはのんびりしていよう。


 熱る顔に【冷風】を当てつつようやく安心の息を吐いたのだった。

 

 ミコトはひとりで行ってしまった。


 「全てを壊す」と言いながら、それを押さえつけてひとりで。


 俺は、いや、俺達はまたミコトに救われたんだ。


 ただひとりで剣に封じられた魔物の悪意に立ち向かい、理性を取り戻した彼女は俺達に謝って・・・ひとりで・・・ミコト、ひとりで全てを背負わないで。


 俺にその殺意をぶつけてもいいから、悪意を吐き出してもいいから、それに負けないように強くなるから!


「俺も行くよ。ミコトに負けない強さで彼女をひとりにしない」


 仲間にそう宣言して俺もその場を去った。


 仲間たちの反応は見なかった。


 自分勝手かもしれないが少しでも早く彼女にちかづきたかったから。

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