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携帯投稿になってますけど、仕上げだけです。
9割PCです。結構ガツガツ書きました、多目です。
幕章・軽薄者の語り唄
 日曜日。
 その起源は紀元前一世紀までさかのぼる事ができ、太陽神を主神とするミトラス教の中で太陽の支配する日として登場する。
 そのミトラス教がローマ帝国に流入、そこから世界へと広まったという。
 日本へと伝わったのはかの有名なる、華々しき文明開化の折に伝播され役場、学校を通して地方に広まる。

 なんて。

 現代日本人の中で、そんなことを知っているのは五十人に一人いるかどうかだろうし、知っていたとしても単なる豆知識、自慢のタネ以外の価値をもつ情報でもない。
 どーでもいい。

 重要なのはただひとつ。
 つまり。

 休みの日だということ。
 働きアリのごとく勤労に従事する日本人でさえ、その腕を休む日である。
 学生だったら言わずもがな、である。

 買い物に行ったり、映画を鑑賞したり、もう少し日常が満ちている奴はデートなんてのもしたりするかもしれない。
 日曜日とは、そんな日なのである。

 そう、そんな日であるはずなのだ。
 やっぱり、この状況はおかしい――つーわけで。

「はあ……」

 面白くもない現状を再確認して、ストローのささった紙コップからコーラを吸う。
 まずっ。
 氷が溶けて、薄くなってやがる。
 フライドポテトに目を向けるも、時間が経ってしなびたソレは食欲を誘うとは言い難かった。もったいない。
 ま、別にファーストフードでかかる金なんて大したもんじゃないが。

 いや、むしろ今の状況が大したものだ。

 無駄だと思いつつも、一応声を掛けてみる。

「なー、奈駆木ぃ。帰ろうぜ、むしろ遊ぼうぜ。意味無いだろー、こんなことしても?」
「うるさい、黙れ、パツキン。ノドを燃やされたいの?」

 即答。
 それも、こちらを見ることさえしないで。

 ちなみに、愛すべき我が友人、奈駆木未咲サマの、俺のほうに向けられることのない美しい双瞳は、ある一点を凝視していらっしゃる。
 今更感が漂って仕方がない気がするが、一応未咲サマの目線をたどって行くと、八咫烏擁――俺の友達……だよな?――とその妹八咫烏弥生がいた。
 二人はここから離れたテーブル席で、仲良さそうに談笑していた。むろん、こちらの様子には気付いていない。
 ……それにしても、アイツがあんな自然に笑った顔するなんてな。俺にアイツの笑顔が向けられたことが皆無とはいえないが、その場合の笑みはいわゆる『冷笑』『嘲笑』『裏に何かを潜ませた笑い』とかいわれる奴だ……あれ、俺本気で嫌われてる?
 ま、本気で嫌われた奴に対しては、本当にまったく表情を変えないし感情も見せないんだが。
 つまるところ、何が言いたいかというと――やっべぇ、誰アイツ?バグってるバグってる。
 まるで、兄弟というより―――

「カップルみたいだよな……あ」

 やべ、と思う前に口が滑っていた。
 恐る恐る未咲サマの方に視線を戻す。反応は……ない、か?


 じゅわっ。
 未咲サマの手の近くにあった、お絞りからだった。

 ―――………。
 ―――………えっと。
 ―――いや、スルーだ。下手に突っ込むと死ぬ。

「なあ、あいつら動く様子も無さそうだし、ここらでいったん休憩しないか?ほら、コーラ飲むか?」
「………」

 無視。挙句の果てに、差し出したコップを奪い取るようにして飲み干した。もちろんこっちを見ずに。
 ゴキュゴキュ、ゴキュッなんて、およそ女子高生が出していいとは思えない擬音語が未咲サマのノドから発せられる。
 その様子に俺が呆れても、怒ってもなんらおかしくないわけだが、俺は何もアクションは起こさない。
 ひとえに、彼女が発している異常なプレッシャーのせいだ。
 怖いですよー未咲サマー。 

 未咲サマは背筋が寒くなるほどの威圧感を出しながらも、視線は微塵もブラさない。
 ・・・・・・はあ。



 さて、ここまでいえば分かっただろう。
 学園きってのアイドル、奈駆木未咲のしていること。

 それは、友達を巻き込んでの想い人へのストーカーだった。
 それも朝八時からの壮絶なるストーキング。

 そして、かれこれ五時間もの間、昼飯すらもなげうって従事した俺の思いはひとつだった。
 帰りてえ。

 そもそもが、昨日の夜、奈駆木から『明日ヒマ?』とかいうメールに異常にテンションを上げすぎてしまったのが原因だ。
 よく考えれば、これがデートに類するものではないとすぐに気付けたはずで、そこは完全に俺のミスだったといえるだろう。

 友達として誘うなら、もっと付き合いの長い奴だろう。
 恋人として誘うなら―――論外だ。
 俺は、奈駆木が擁のことを好きだということを、知ってたんだから。

 ああ、そうだ。集合場所が八咫烏家前ってのも、今から思えば気付けよって感じだな。ちなみにテンションメーターが振り切っていたその時の俺は『学校登校プレイか!?いやっほぅ!!』とか言ってた。嗤うがいい、男の性だ。
 んで、我が友人奈駆木さんは出会って一言、『あの兄妹を監視するわよ』

 そして監視――いや、言い繕う必要もねえ、これは紛れもないストーキングだ――は今の今まで続き、兄妹が入ったのに追随してこのファーストフード店に入った、というわけだ。

 ちなみにストーカーである奈駆木さんは、二人の仲良い会話に絶賛気分悪化中である。
 なんで好きな人の妹に嫉妬してんだよ。

 ――とかツッコんでやりたい。まじに燃やされそうだからしないけど。

「……そもそも誰だよ、情報をリークしたの」

 ぼそっとつぶやく。

 付き合えばすぐに分かるが、擁は出不精つーか引きこもりといって差し支えないレベルで、休日に外出なんてしない。
 本人曰く、ゲーセンにはたびたび(・・・・)行くといっていたが、そのたびたび(・・・・)がどの程度か怪しいものだ。
 妹が来てから、少しは増えたようだがそこまで変わるものではないだろう。

 そういう奴だから、たまたま奈駆木がストーカー(本人によると監視)しようとした日に、たまたま兄妹デートしていたなんて確率は結構低いはずだ。

 ……ま、楪毅先輩だろうな。
 その人を思い浮かべる。身長150、眼鏡、三編み。ロリ…じゃない胸があるから、前にいる奴より。
 見た目委員長なその先輩は、中身はまったく違う。不思議ちゃんとか言われる部類だ。
 普段から言動が目茶目茶なのに、何だかんだ頼りになる気がする人で、そういう意味でも不思議な先輩だ。

 その頼もしさは、万年人間拒否とでも名付けられるような擁相手にも発揮されたようで、俺や奈駆木に言わないことでも楪毅先輩には結構こぼしている様だ。
 だが実際、擁についての最近の情報の半分が、ソースは楪毅先輩だったりする。ソースダダ漏れ、ケチャップまみれ。

「……あ、立った」

 奈駆木の声に意識を戻す。
 言ったとおり、兄妹が席を立ったところだった。

「取り合えず、こっち向け。ばれるぞ」

 二人とも帽子なんて被ってないので、顔が合ったら終わりだ。
 つーか、何だかんだ俺、ストーカーに協力してるし。

「分かってるわよ。それより、会計よろしくね」
「はいはい」

 大した額でもないので頷く。
 デートだと壮絶に勘違いした俺の財布は、それくらい余裕だ。
 それよりも、こんなことでまごついて二人を見失うほうが、メンドくさい。絶対怒るから、コイツ。



 先に奈駆木を行かせて、会計を済ませた俺は八咫烏兄妹が向かっていた方向に走ると、不審者を発見した。
 ソイツは電柱の影に身を隠し、目に押し付けるかのように双眼鏡を構えていた。

「……」

 俺は無言で近づく。

「ぎゃっ!」
「なんて声出してんだよ。……いや、そんなことはどうでもいい。いいか?お前のストーカー行為を止めるのは諦めた。恋の力ということで、もう俺は感知しない。だがな、頼むから、ホントに頼むから、もっと常識を持った行動をしてくれ。なんで怪しさ満点の行動してんだよ、はなまる並みの不審度だから、ソレ」

 必死で説得する。
 この女ありえねぇ。兄妹にこそバレてないが、他の通行者にはガン見されてて、しかもそれを完全に無視していやがった。
 あれか、《女神》の一員だから下々の視線にはなれてるってか?
 ふざけんな不審者通報されたら、ここに来れなくなるぞ。

 だが、所詮は俺の言葉。

「はぁ、知らないわよそんなの」

 一蹴され、ついでに物理的にも一蹴され(パンツの色は白。柄までは見えなかった)。それ以上の言葉も無く、奈駆木は視線を擁達の方に戻した。
 ……ひでぇ、最近俺の立場が下がりすぎな気がする。いや、別に俺のキャラ的に問題は無いけど、程度が高すぎだろ。一応、俺にも感情があるんだぜ?―――なんて。

 それにしても、通行人からの視線が痛い。こちらをチラチラ見ながら眉を潜めて会話しているご婦人方を見て泣きそうになった。

 最近の若い子はよく分かんないわよねぇ、てか。

 というわけで、奈駆木ほど大物じゃない俺は最終手段を取ることにした。
 最終手段、なんていっても大したことじゃない―――すくなくとも俺にとっては。

「つーか、さっさとそうすれば良かったな、俺」

 何だかんだ、楽しかったからな。一応コイツも女な訳で、形だけならデートといえなくもない。
 そんなことを考えながら、俺は足を動かし始める。

 スタスタと奈駆木を抜かして、電柱も抜かして。「ば、バカピアスッ!?」とか叫んでる声も気にしない。
 そして、楽しそうに喋ってる二人組みに声を掛ける。

「よお、いちゃいちゃ兄妹」
「……バカピアス」
「こんにちは、円藤寺先輩。奇遇ですね」

 テンション上げ上げだった俺は、両耳にピアスしていたりする。最近ピアスを付けてないのに言われたりしてるから、特にそれを言った訳ではないんだろうけど。
 ……つーか、弥生ちゃんが黒い。『奇遇ですね』って言いながら、そして笑いながら、俺を見る目が冷え切ってる。この分じゃ、あれだろうな、奈駆木がいることも気付いてんだろうな。

 兄さんとのデートを覗き見されるというのは、いささかどころかかなり不満でしたが、だからといって兄さんとの至福な時間を害虫退治によって潰すというのは論外。そう思って放置していましたが、ここに来てでしゃばって来るとは、本当に不愉快ですね。

 そう目が語ってる。怖ぇ。
 普段は完璧超人を地でいく彼女も、兄のことに関すると完璧変人と化すのは、もはや一部の人間にとっては常識のことで。普段はそれについてはなるべく関わらないようにしているんだが。

 まあ、友人の恋路のためだというのなら、踏み込むこともやぶさかじゃない。

「ああ奇遇だな(・・・・・・・)、弥生っち。いつも通り仲良さそうだな」

 ついでに笑みを浮かべておく。
 俺の返答が意外だったんだろう、弥生ちゃんは目をしばたくと、ありがとうございますと呟く。
 
 と、頭に痛みが走る。

「――痛ってぇ!?何すんだ、てめぇ!」
「俺の妹に、にやけ面みせんな。気持ち悪ぃ」

 まるで恋人を守るかのような言い草に、内心呆れるものの顔に出さない。
 俺はそう、『円藤寺』らしい返答をするのだ。

「キモイだと!?俺の魅力抜群のスマイルに、弥生っちはもうメロメロだろ?」
「いくら円藤寺先輩でも、セクハラはやめて下さい」

 ばっさり。
 予想はしていたものの、つれなさ過ぎる態度に笑っていた口の端が引き攣る。

「……さて、大切な妹を精神的に傷付けるとは―――どうしてくれようか?」
「ちょ、まて。台詞だけなら冗談に聞こえるけど、目がマジだよね。ホントに何かするつもりだよね?まてまて。俺、平和主義者。暴力、キライ」
「兄さんも本気にしないでくださいよ、お互いに冗談って分かってやってるんですから……すいません、円藤寺先輩」
「見た目で判断しないって言うのはいい事だけどな、コイツは残念なことに見かけどおりの残念な中身なんだ。ダブル残念野郎なんだよ。何の手違いか頭だけはいいが、頭はチャラチャラ心もチャラチャラ、お前みたいな美少女が一番関わっちゃいけない人種だ」
「擁……俺のこと悲しまない、ただのギャグ要員だと思ってないか?」

 なんて。
 いつものやり取りを展開すると、タイミングを図って、目を兄妹から別の方向に移す。
 いかにも、偶然、なんとなくという感じをよそおって。

「……あ」
「ん?」

 案の定、弥生ちゃんは反応しなかったが、別にまあいい。擁が気付けばそれで事足りる。

「……円藤寺」

 そんなふうに、ひっそりと事の顛末を見据えていただろう彼女、奈駆木は俺のことを軽く睨むと、兄妹の方に、正確には八咫烏擁の方に向き直る。

「偶然なバッティングね」

 うわ、めっちゃテンパってやがる。
 言葉の選びがおかしすぎる。

「……ああ」

 と、擁は言葉少なめに返す。
 もともと寡黙な奴で、俺を弄るときや愛しの妹と喋るとき以外はいつもそんな感じなのだけれど、そのことを奈駆木が不満に思っていることを知っている。
 現に、奈駆木は顔をしかめる。

「相変わらず、根暗な顔をしているわね。何よ、そんなに私のことが嫌い?」

 言葉より手、手より炎な奈駆木さんは、その性格ゆえに恋なんて今までしたことが無いらしく(提供・楪毅●羅)、その手の経験値が無い彼女は、好きな人に対し憎まれ口を叩くという、小学生並みの態度をとっている。
 その、好きな人である擁は、そのことに対しまったく気にしていないようだが。基本、アイツが妹以外に感情を動かすことなんて少ないしな。

「別に嫌いじゃないが……メンドくさいのは確かだ」

 惜しい!
 後半が余分すぎる!
 それが無ければイイ感じになりそうなのに!
 いや、あいつの方は恋愛感情なんて無いんだろうけどさ。

「それぐらい我慢しなさい。《女神》の一人と歩けるなんて、感謝こそすれ断るなんて許さないわよ!」

 だから、それが面倒だって言ってんだろ、とばかりに擁はため息をつく。
 でも、なんだかんだアイツは断らないだろう。断ったほうがメンドくさいって事を分かってんだろう、この前の一件で。

 さて、と。
 俺の役目は終わり、と視線をずらすと、弥生ちゃんが近づいてくるのに気付いた。
 いつものように、超笑顔……なんかすっげえプレッシャー感じるけど。

「兄さんの言ってた通りですね。今日はやられちゃいましたけど、今度からはそうはいきませんよ。奈駆木先輩なんかに、兄さんは渡しません」

 と、強い意志を含ませた目で俺を見る。
 『兄さんの言ってた通り』ってどう言ってたのか気になる。

「『見た目ヘラヘラ、心はペラペラ。正樹は馬鹿っていう概念を掻き集めたような性格をしているけどな、頭だけはいいから油断するな。セクハラされそうになったら俺にすぐ言え』って」

「お前、読心術まで使えるのか!?」

 驚愕のあまり、『お前』呼ばわりしてしまった。
 っていうか、ふざけんな、擁!俺のことどんな奴だと思ってんだ!
 だいたい、お前の妹に手を出すなんて、マジで殺されるようなことするか!

「ま、それはともかく。兄貴を守るのもいいけどな、束縛にならないようにしろよ?」

 え、と突然真顔になった俺に驚いたのだろう、声を漏らした弥生ちゃんの頭にポンと手をのせる。

「あいつはホントに嫌なときは、ちゃんとソレを言える奴だからさ。奈駆木のことも、心から煩わしいとか思ったときには、本人にそういうだろ。少なくとも今は言ってないんだから、な?」

 面倒だという気持ちが嘘なわけでは無いだろう。
 だけど、それだけではないってのも確かだ。

 似合わないな、とそう言って締めた俺に、いまだ目を丸くしている弥生ちゃんは、あ、はい。というだけだった。
 その、珍しい表情を見て、つい俺は、

「っぷ」
「あ……何笑ってるんですか、円藤寺先輩。本当にセクハラで訴えますよ」

 そんな不満そうな顔もまた珍しくて。

「ははっ、あはははははは!」
「……もう、なんですか。訳が分かりません」
「いや、別になんでもないって。気にすん…な……ぷっ、ははははは!」
「――ほう。俺の妹の頭に手を置いて、あまつさえ笑うとは……いい度胸だ」
「はははは……は、は。いやまて、誤解だ。お前の想像していることとは違うって。落ち着け、擁」
「取り合えず、一発」
「うごっ!……理不尽だ」

 
 でも、そんな理不尽を甘んじて受けてしまうほどに、この時間が楽しい。

なんて。
それこそ俺らしくもないか。
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