表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

北風と太陽+α

作者: 東堂柳

「よう、太陽、ちょっと俺と賭をしないか?」


 北風は太陽に向かって、不敵な笑みをこぼしながら言いました。


「またか……。 どんな賭けだい?」


 太陽が尋ねると、北風は地上を歩いている男を指さしました。


「ほら、あそこにコートを着た旅人がいるだろう? あの旅人のコートを脱がせたら勝ちという賭けだよ」


「それで? 何を賭けるんだい?」


「こういうのはどうだろう。負けた方は、勝った方の言うことを、何でも聞くんだ」


「へえ……面白そうだ。その勝負受けて立つよ」


 太陽は内心ではほくそ笑んでいました。

 どこかから聞いた『北風と太陽』という話では、北風が強く吹いてしまうと、逆に旅人はコートをしっかりと着込んでしまいます。しかし、太陽は暑さを利用して、旅人に見事コートを脱がせることに成功するのです。

 そう、太陽は自分が賭けに勝つことを確信していたのです。


 北風はこれでもかと旅人に渾身の風を浴びせます。しかし、やはり旅人はコートをしっかりと掴んで、飛ばされない様にと耐えています。北風は躍起になって、さらに強い風を巻き起こしますが、旅人はコートを離そうとしません。

 見かねた太陽が、ここぞとばかりに割って入りました。


「それじゃあ駄目なんだよ。北風くん。まあ見ていてくれ給え」


 むすっとした北風を尻目に、太陽は燦々とした日差しを旅人に浴びせました。見る間に旅人の顔から汗が溢れてきます。

 しかし、旅人はコートを脱ごうとはしませんでした。


「おかしいな。こんなはずでは……」


 太陽は全身のエネルギーを旅人に注ぐ勢いで、陽光を浴びせます。しかし、やはり旅人はコートを脱がず、結局は太陽のほうが根負けしてしまいました。


「こりゃあ、引き分けかな」


 北風が嬉しそうにそう言いますが、太陽は釈然としません。

 するとそこに、もう一人の旅人がやってきました。見たところ女性のようです。

 女は、コートを着た旅人のほうへ歩いていきます。

 すると、二人がすれ違おうとしたとき、男はあれほど頑なに手放さなかったコートを、いとも簡単に脱いでしまいました。


「そんな……」


「馬鹿な」


 驚いた北風と太陽は、二人で目を見合いました。


 *


「まったくもう、天気予報が外れるのは私のせいじゃなくって、気まぐれな天気のせいじゃない!」


 女は怒りを露にしながら、テレビ局を後にした。最近の予報が当たらないので、上司から苦情を受けたのだ。

 最近は妙な天気が続いている。

 さっきだってそうだ。

 急に家を飛ばすほどの突風が吹いたかと思えば、今度は真夏のような暑さ。天気は尽く私を裏切るつもりらしい。


「ったく、いやになっちゃうわよ」


 ぶつぶつと文句を垂れながら、女は家に戻る。

 その途中で、向こう側からコートを着た男がやってきた。どうにも挙動不審で、怪しい感じがした。勿論根拠などはなく、ただの女のカンというやつだが。

 しかし、そのカンは当たったようだった。

 男はすれ違いざまに、女に向かってコートを脱いだ。男はコートの下には何も身に着けていなかったのだ。

 変質者だった。

 女は急いで逃げて、家に帰った。


 翌日から何故か、女の担当する気象予報は面白いほどに当たり始めたという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分を  ヽ('A`)ノ トキハナツ!   (  )   ノω| ですね‼北風と太陽を驚愕させるとはこの変質者やりおる
[一言] 舞台が現代ならありそうですね。 実質の勝者は女性ということになりそうですが、最強だったのは変質者さんですかね?
[一言] 変質者なら太陽と北風が負けるのはしょうがない、うん 自分から勝ちが確定している勝負を相手にしかけると私はいつも何故か上手くいかないので共感できます(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ