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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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008 - 良い日旅立ち。

目覚めはまだ日の昇らぬ暗闇の中だった。
この時間ならまだ監視はされていないはずだとは思うのだが。

――一応調べておくか。

闇の触手を八方へと伸ばしていく。
壁伝いに広がり、壁を通り越して広がり、一帯の情報を探査していく。

「……マメな。監視付けてるのか……」

昼夜問わず、というわけではないのだろう。と、信じたい。
が、どうも今現在。この部屋のすぐ隣に、人の気配を察知していた。

うーん、出来るだろうか。
やろうと思えば、今この体勢のまま監視者を抹殺する事もできる。
でも、ソレは不味い。流石に刃傷沙汰は勘弁願いたい。

「―――トイレトイレっと」

ベッドからモソモソと起き上がり、そのまま部屋の外へ。城の一角に設置された厠に入る。

「……さて」

此処からが本番だ。
面倒だが、監視の目を欺いて、このままこの城……街を脱出しなければならない。

闇を身にまとう。
それだけで、俺は外部からほぼ認識不可能な状態へ移る。

「―――うし」

少し移動して、気配が此方を注視していない事を確認して。
こっそりと、城の外へ向かって走り出す。
闇で姿まで隠せても、残念ながら足音を消すほどの技量は身につけられていない。
もう少し練習すれば、ソレもできそうでは在るが。

勢いを付けて、そのまま城壁をよじ登る。
四肢だけでは身体を支えきれない。なら、四肢以外……闇を物質化させ、それを新たな腕として用いる事で、無理やり城壁を登る。
……まるで気色の悪い蜘蛛。

城壁を乗り越え、そのまま堀を飛び越える。この時間帯、門は閉ざされているし、外へ出るには結局こんな力技しかないのだ。

トンッ、と軽い足音を立て、そのまま静かに走り出す。
まだだ。まだ此処では早い。
周囲の気配を探知しつつ、昼間に目を付けていたポイントへと走る。

――人気が少なく、そもそも人の寄り付かないところ。

巡回の兵士すらもスルーするような、そんな意識の死角。
闇を操れば、そんな場所を探すのも容易かった。
要するに、昼間だというのに光の届かない場所を探せば良いのだ。

「さーて」

周囲に誰も居ない事を確認して、闇の中から荷物を引っ張り出す。

「………あれ?」

開いた途端、中から何か、靄のようなものが飛び出した。
あまり良い気配は感じなかったので、闇でその靄を潰しておく。

「……で、あれぇ??」

再び疑問の声を上げる。
買い取った装備一式。それに塗りつけられていたはずの呪いが、何時の間にか綺麗さっぱり消えてなくなっていたのだ。

――俺の闇に保管されているのに耐え切れなくなったか。

つまり、
装備の呪い<<越えられない壁<俺の闇
と、こんな感じ。

何となく思い至った冗談のような結論に、然し半ば俺はそれを正解だと思っていて。
全く。ますます自分が変になっていく。

とりあえずとばかりに、考え事をしながら装備を身にまとっていく。
角が一つ付いたフルフェイスの兜に、僅かな魔力を放つ鎧と腰当。手と足にも其々、鎧と同じような効果が付与されている。
さらに魔力の遮断効果のあるマントを羽織り、最後に魔力によって切れ味が増す、かなり硬い剣を腰にさす。

どれも呪われていた品というだけあって、真っ黒。
まるで死神の如き黒い騎士の風体をかもし出した俺は、まさに黒騎士といった風体で。

コレなら、間違っても俺だとは気付かれないだろう。

多少……いや、正直言ってこの鎧かなり目立つ。
元が良質の装備というだけあって、細部にも地味に装飾が施されていて。
下手をすれば髪の毛以上に目立つと思う。
まぁ、真っ黒だというのも、下手な貴族が持ってるような装飾華美なのに比べて、いかにも実戦向け的なイメージだし、それが威嚇にもなってくれるだろう。
目立つということは何も悪いことだけではない。要は使いようということだ。

……さて、と。
着替えてしまえば後は此方のものだ。
必要最低限のもの以外は全て影の中に仕舞い、そのまま悠然とした足取りで街中を進む。
そろそろ夜の明ける頃だ。

日が昇れば、冒険者ギルドも動き出す。
そうなれば、何処か外部の町への馬車の護衛任務でも受けて、ソレと一緒に移動してしまえば良いのだ。

ここ数日で手に入れた知識をフル活用した作戦。
読まれる可能性も無きにしも非ずだが、この装備さえあればそれも如何にか誤魔化せる。

ガッチャガッチャと音を立てながら、ゆっくりとした足取りでギルドの扉を開く。
前にも何度か来たことがあるのだが、ソレも当然普段着の姿で、だ。
……あの時は“ボーヤ”とか言われて笑われたんだっけか。

ガッチャガッチャと音を立てて、ギルドの奥へと足を運ぶ。
奥に設置された巨大掲示板。その中から、適当に求める依頼を探し、カウンターで受注する事でその任務に従事する事ができるのだ。

任務にもやっぱりランク制限とかあるらしいのだが、幸いこの辺りは他と比べて比較的に治安が良いらしい。
そのおかげで護送任務も、割と低いランクで受ける事ができるそうだ。

因みに、流石に本名は不味いと思って、本名と偽名、二つの登録を申請してある。
偽名の方は“イーサン”という名前で登録してある。
イーサン。一が三。111。
これは大和型戦艦四番艦、111号艦の事だ。建造されなかった幻の機体ということで、偽名やハンドルネームにはよくコレを使うのだ。
大和繋がりなだけに。

「この任務を受注したい」

言葉少なに喋るのは、声を覚えられないための予防策。
言って、掲示板から剥がして来た依頼書をカウンターへ提出する。それと、ギルドカードも。
ギルドカードというのは、所謂会員証だ。
魔術で加工がしてあるらしく、そこにランクも記載されているらしい。
当然の事ながら俺は、最下位付近のランクであるDだ。

「……よろしい。それでは指定の場所へ移動為さるが宜しい」

此処で依頼内容と受注資格の照らし合わせをし、許されたものにのみギルドが発行する受注書が渡されるのだ。
むっつりした受付の爺さんに渡された受注書を手に、そのままギルドを後にする。

受注書に記載された場所……馬車駅からこの任務は始まる。
そこで待っているであろう依頼主と面談して、そこで漸く任務が始まるのだ。

少し歩いて馬車の発着場へ着く。
目当ての馬車を探し、その馬車に乗っていた人間に受注書を見せる。

相手も俺を認識し、これで正式に任務がはじまったことになる。

「出発は何時です」
「後数十分ほどで。それまでに、後3人ほど護衛が来る予定になっています」

成程、と頷いて、成らば少しだけ休ませてもらう事にする。
なにせ、朝早かった所為で、まだ少し眠気が残っているのだ。

依頼主の商人に少しだけ休ませてもらうとつげ、立ったまま軽く意識を落とす。
この街最後の眠り、というやつだった。

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