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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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007 - 良い日旅立ちその前夜。

この世界の文字、というのは案外簡単に覚える事ができた。
文法は日本語で、文字と単語はアルファベットのような感じだ。
文字はアルファベットに少し似ていて、結構簡単に覚える事ができた。
ただ、一番謎なのは俺が今現在会話している言葉。俺は日本語のつもりで話しているのだが、どうも違う言葉を話している臭い。そんな気配があるのだ。
当然の話だが、俺は日本語以外で知っている言語なんて、精々英語を少し話せる程度。異世界の言葉なんて知りえる筈もない。
ま、後は別としても、取り敢えず言葉に関して困る事はないだろう。

「さて、目的地は〜……と」

この国、ウェストリー王国。
コレといった目玉商品も無く、ウールとかが地産のかなり地味な国らしい。
で、地味な国は地味なりに魔王の被害を受けているのだとか。

魔王、というのを実際に見た人間は居ないらしい。
急激に増加した魔物の発生件数の増加から、魔王云々と言っているらしい。殆ど迷信の域だ。

正直、色々言いたい事は在る。
そも、誰が魔王が存在する、なんて言ったのか。俺が尋ねた殆どの人間は、ソレが居るのは当然、みたいなかんじで、本当に居るのかなんて疑ってすら居ない。
かといって魔王がじきじきに力を振るった様子もないし……。

とりあえず、他国に出て情報を集めるのが最優先だろう。
メイドさんに聞いた話だと、今現在何処の国も戦争をしたりはしていないらしい。
魔物の討伐で手一杯。国から冒険者ギルドへ依頼を回す事も多々、という状況らしい。

「ん〜、とりあえず、此処かな……?」

地図の一点を指差す。
この国から国境が接し合わせている、この国と殆ど同じサイズの国。
ただ、聞いた話によるとこの国、ウェストリーよりも経済発展に力を入れており、かなり賑わいある国だという。これもメイドさん(メイド長さん)情報。
その名を、“カノン”。パッヘルベルとか付きそうな国名だ。

商業国を名乗るだけあって、その物流は山奥にあるこのウェストリーへまで至っている。
世界中の商人が集う町とまで言われている其処は、つまり世界中からさまざまな情報が集っているかもしれない。
もしかすると、件の召還に関する魔術が記載された魔道書の一冊でもあるかもしれない。

……正直、メイドさん達の情報網は、この国の政治というか、裏を完全に網羅している。
どんな立場の人間にも、等しく仕える。それがメイドさん。
どんな嫌な馬鹿であろうと、それは変わらない。
彼女達はだから、連中の内部情報も結構平気でぺらぺら喋っている。
例えば王女と王の確執とか、王城に存在する派閥だとかから始まり、城の警備の弱点とか、もう本当に色々。

「……とにかく、この国は出る」

とにかく、政治をする上層部がゴタゴタなのだ。
正直、何時内部崩壊するか。知ってしまった以上、俺は逃げる。

「……まぁ、晃が居れば何とかしちゃうかも、だけど」

晃というのは、人徳だけで世界をハッピーエンドに導くという意味の分らない主人公体質をもっているのだ。正直何度殴り潰したいと思ったことか。
補正とかで勝てないんだろうけど。

「ま、とりあえず今日は寝るか」

明日夜明けと共に……この城を出る。
最後に晃に挨拶すべきなのかもしれないけれど……まぁ、それはこの間済ました。

……書置きでも残すか。

幸い、この世界では日本語……文字は通じない。
部屋に用意されている紙とペンを用意して、机の上でカリカリと。

「えーと――“晃へ。女の子をあんまり泣かせるなよ。帰る手段は俺も模索しておくから、お前も適度に頑張っておけ。親愛なるお前の友より”……と。うわ、クサ」

自分で書いておいて、相当にクサい文章だった。
書き直すべきか。
考えて、そのまま紙を折りたたみ、机の上に放置する。

この国では、一応紙も貴重品らしい。
……というのは建前で、面倒くさかったからだ。うん。

「……お休み」

誰に言うでもなく、ベッドに横になり、天井に向かって呟く。
全く。面倒くさい日々だこと。





そして、夢の中。
気付けば俺は何時の間にか、件の見覚えのある公園のベンチに座っていた。

「……む」
「久方ぶりじゃのう、主殿。その後の経過は如何か?」
「お前か」

キーコ、キーコと、気付けばブランコを漕ぐゴスロリ少女が一人。
それで認識する。此処は己の心象風景だ。

「珍しいな。此処に引っ張り込むなんて、最初以来か?」
「まぁ、普段は思念で会話しているしのう。偶にはこうして顔を合わせるのも良いかと思った次第よ」

言いつつ少女は、ブランコを漕ぎ続けて。

「で、旅立ちの準備は?」
「ああ、お前の助言は助かった。おかげで安くで武器防具、共にそろったよ」
「そうか。それは良い」

キ−コ、キーコ。

……なんなんだろうか、この沈黙は。

「主殿よ。今回は、少し主殿に忠告があってな」
「忠告?」
「うむ。主殿に身につけられ、早二週間が経とうと言う。その間妾は主殿の力を調べておったのじゃが、……どうも、主殿には何かありそうなのじゃ」

キーコ……。ブランコが不意に止まる。
見れば、見事なジャンプでブランコから飛び降りていて。

「何か……とは?」
「主殿の力、少し人には過ぎたる力であるとは思わぬか?」
「……確かに」

闇を操る力。
扱ってみて分るが、この能力は便利すぎる。
闇で覆って簡単な異世界を創造する事もできれば、それを伸ばして触手を作る事もできる。
闇の中にポケットを作る事もできれば、その他様々な効果を持っていたりもする。

というか一番おかしいと思うのは、この能力を扱いきることの出来る俺自身だろうか。

「成程な」
「心象風景に現れた竜は、主殿の眠れる力の表れ。それを主殿は、認識した瞬間に従えた。本来、あんなもの普通の人間であれば、従える前にそれ自体の重圧に潰されかねん」

ドラゴンか。
でも、あれ、なんか勝手に俺に従ってくれたし。
しかもその後、殆ど手足みたいに従ってくれている。まぁ、俺の一部なんだし、当然といえば当然なんだが。

「で、だな。主殿、なにか主殿の血に、この世界に似た匂いを感じるのだ」
「……ん? どういう意味か?」
「いや、ソレは分らん。とりあえず、ソレを報告したかっただけ故」

……何か良く分らないが、まぁ頷いておく。

「それじゃ、俺はもう寝るよ。明日に備えて」
「うむ。遅くにすまなかったな」

片手を挙げ、手を振って。お休み、と一言言って目をつぶる。
思いの外早く、意識は闇に包まれ、今度こそ静かに眠る事ができた。

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