挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
6/63

006 - 呪われた装備。

呪われた装備、というのがあるらしい。

「高価い、まけろっ!!」
「お客さん勘弁してくださいよ、これ以上まけられませんて!!」

一般的に、呪われた装備というのはソレを目的として生産される事は少ない。
誰も、最初から装備してマイナスを受けるような道具なんてつくろうとは思わない。思っても精々相手を罠に嵌める為とかそんなところだ。

「……オヤジ殿よ。おれはコレでも譲歩しているつもりなんだが?」
「そんな馬鹿な!? コレだけの装備、一体どれだけ値切る気なんですかあんた!?」

一般的に。
呪われた装備というのは、何らかの要因があって呪われる。
例えば、魔術師の最後の呪詛。
例えば、竜の呪いの血。
例えば、オーガの怨念。
そんな物に取り付かれて、呪いの品と呼ばれるのだ。

「……オヤジ殿よ。俺が気付いていないとでも思うのか?」
「……な、なにに気付いたというんですかい」

しかし、呪いを掛けられるほどの存在というのは、やはりかなり強力なものだ。
そして、そんな強力な存在を倒しうる武器防具が存在するとすれば、それはかなりの力を秘めた代物になる。

「別に、此処で大声で明かしても良いんだが。まぁしかし、オヤジ殿も中々に賢い。確かに、装備しなければ無害なんだし、天井に飾っておけば良い店の宣伝になるしなぁ」
「…………………」

しかし、だ。
例えどれほど優れた装備であるとはいえ、そうそう呪われた代物を手元に残す人間なんていうのは少ない。
なにせ、呪われているのだ。
装備しているだけで体力が削られたり、何時の間にか出血したり。
突然何も見えなくなったり、物凄く不幸になったり。

命がけの戦いをする最中、そんなマイナス要素を背負ったままなんていうのは、時には命取りとなる。
ゆえに、そういう武器防具の多くは処分されてしまう。

「俺は駆け引きというものが苦手でな。どの程度で手を打つべきか、というのがいまいち把握出来ていないのだ。ゆえにオヤジ殿よ。この辺りで頷いてくれる事を俺は望むのだが」
「…………………」

処分、といっても、壊したり廃棄されたりするわけではない。
そういう武器防具というのは、展示品としても一定の価値を持つ事がある。
ゆえに、それらが持ち帰られた場合、道具や等に売り払われる事がある。

が、商人もそんな呪いの商品を多く抱え込むと処理に困る。
そこで、それを一般商品に混ぜて売ってしまおう、なんて企むやからが居る。

元は高級な装備。呪われているという事で、安くで買い叩いたそれを、中古価格で売る。
……元が高価いのだ。中古といえど、相当の額になる。

「どうだ、オヤジ殿」
「………せめて、あと1000は……」
「なにぃ!!! この店は呪わ――」
「わーーーっ!!! 分りましたよっ、お売りしますっ、その金額でお売りしますよっ!!」

普通、聖職者でもなければ呪いの有無なんて、着てみなければ分らない。
が、俺には闇に関してずば抜けた能力がある。呪いという存在も、どちらかといえば闇に属している。そんなもの、見れば一発なのだ。

ソレを利用して、呪われた装備を安く買い叩けば良いのではないか。
そんな知恵を、腕輪の彼女から授かったのはつい一昨日のこと。

城で金を借り、果物をシャーベットにして、原価より少し高価く売る。大量に安くで仕入れた果物を、一杯銅貨一枚(400円)くらいで売るわけだ。場所代も冷蔵用の費用も出さなくて済むので、正直元手を巫女さんに返してしまえば、あとは完全に此方のぼろ儲け、というわけだ。
丁度ここらの気候は暖かく、多様な果物も売っていた事もあって、中々良い具合に稼げた。正直なところ、今の俺の手元にはこの国で家一つ……いや、二つ庭付きを買う資産があったりする。
そんな戦法で手早く金をため、資金稼ぎの真っ最中の時の話だ。
……因みに、果物を凍らせるには魔法を使った。メイドさんの中に、メイドだけど、実は魔術師でもある!! ……なんて人が紛れ込んでいたので、その人にこっそり教えてもらった。

「……うぅ、くそ、悪魔めぇ……」
「どっこい。因果応報、アンタも結構あくどいさ」

言いつつ、受け取った品物を袋につめていく。対価として、この鎧の代金……家一つ庭付きぐらい……を差し出す。
結構な重量があるし、結構かさばる品物だ。……が、まぁ俺には奥の手がある。

それらを自分の影の上に置く。と、その次の瞬間、まるで落とし穴にでも落ちたかのように、品物は影の中へと落ちていった。

「おぉう、アンタ一体今何したんだ!? それぁ魔術の類かい!?」
「ま、そんなところだ。ああ、それとオヤジ、一つ忠告しておいてやる」

言って、手荷物を全て始末し終えたのを確認し、出入り口へ向かって歩き出す。

「多分、後から俺が何を買ったのか、って聞きに来る連中が居ると思うが、正直に答えるのはやめておいたほうが良いと思う。多分国絡みの連中だし、一番安い品を売った、って事にしといた方が……呪われた品売ってたなんて言うと摘発されるかも」

言いつつ店を後にする。
カランカランというベルの音を耳に、そのまま店を後にした。
最後に少し親父の顔が見えた気がする。何か青白くなっていたが……まぁ、気にするまでも無いか。





刻一刻と旅立ちの準備は整っていく。
シャーベット商売も上手く行ったし、装備一式買ったとはいえ資金は十分残っている。
今晩にでも、旅立つ事はできるだろう。

「………………………」

全く。監視の目は鬱陶しい。
ぱっと見ただけでも三人。両脇と、斜め前方に一人。全てがむさ苦しい野郎ばかりだというのは正直腹立たしい。美女ならまだ監視されていても気にならないのだが。
……まぁ、ウザイ事はウザイのだが、しかしこの街にも愛着はある。というか、愛着が沸いてしまったのだ。
なんというか、朝から氷菓子なんて売っていると、いろんな人が買いに来る。
小さな子供から、果てはヨボヨボのおばあちゃんまで。
小さなカップルや、仕事をサボってデートする兵士。そんな兵士を怒鳴りに来て、逃げられて仕方なく一息入れる熟年兵士とか。

もう、なんというか。色々感慨は貯まる訳で。

「……ん〜」

この景色とも、もうすぐお別れなのだ。
そう思うと、この風景というのも中々に好ましく感じた。

高価(たか)い」っていうのは当て字です。
一般的には「高い」で良いらしいですが、気に入っているので。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ