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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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053 - 【Lv30 盗賊団の討伐】!

微かに、しかし継続的に揺れ続ける洞窟の中を、手探りで、しかし手早く出口へ向かって歩み進む。

「――付いて来れているか?」
「――、――大丈夫だ」

背後の鎧からの返答を受けて、頷きながら更に前進する。
この洞窟、闇を使って天井沿いに進んだときは結構簡単に入れたのだが、その下……地面を歩くと成ると、コレがまた辛い。
何が辛いかと言うと、矢鱈と高低差があるのだ。

「――っ、――っ」
「やっぱり、辛いだろう。此処をその重鎧で進むのは無理だと思う」

振り返って、その鎧に向かって声を掛けた。
声を掛けられた鎧は、此方に対して何か言葉を返そうとしていた様子だったが、その瞬間に鎧の体がガクッと、まるで何かに引っかかったかのように……良く見れば、鎧の肩が壁に引っかかっていた。

「無理ではない、と言おうと思ったのだが……」
「仮令進めたとして、こんなところで敵と遇ったりしたら、引っかかってるところを一撃、なんていうのは洒落にならないぞ?」
「………仕方、あるまい」

言うと、鎧は渋々と言った風情でその鎧を脱ぎ始めた。
そうして、鉛色の下から出て来た人の姿を見て、思わず仰天した。

「……女?」
「――声で判らなかったか?」
「いや、兜で声がこもって分らなかったから……」

なんだか鎧……その中から現れた女性が此方を睨んでいたので、慌てて弁解を入れた。
然し、自分もやっておいてなんだが、兜だけで声って大分分らなくなるんだなぁ。

「……高価かったんだがな……」
「鎧を捨てれなかっただけかよ……」

いやまぁ、俺だって闇の中に収納スペースがあるから、何処でもすぐに着替えたり出来ているだけで、コレがなかったら旅路とかは今以上に大変だっただろうと思う。
防具関係が高価だ、と言うのも分るし、心情的には十分頷けるのだけれど。

「とりあえず、命を守る為の防具に足を引っ張られてたら話に成らないからな」
「ん……む」

名残惜しそうに鎧を破棄して歩き出すその女性。
まぁ、流石に可愛そうなので、こっそりと彼女の鎧を闇の中に収納しておく。
洞窟から出た後、適当に拾ったとでも言って返せばいいだろう。

「然し、こうなると無防備で……」
「あー、何か有ったと思うけど……」

言いつつ、懐に手を突っ込む。
懐と言っても、胸ポケットの位置に固定してある闇の収納(よじげんぽけっと)に手を突っ込んでいるわけなのだが。

……っと、あった。

「これなんて如何です?」
「これは……ショートソードか? 奇妙に折れ曲がっているようだが」
「ククリ、って言う武器ですね」

俺が普段扱っている武器は、騎乗用のランス、陸戦用の黒い剣の二つ。
大会のときに思ったのだが、この二つでは近距離戦闘とか俺の得意な距離では殆ど戦えない。
そこで、改めて新しい武器分野を開拓しよう、なんて思ってカノンで仕入れたのが、このククリ(っぽい)武器だ。
まぁ、後々考えれば、鎧を着た状態でショートソードを使った接近戦なんて出来る筈も無く(鎧が邪魔過ぎて上手く動けない)、結局今この瞬間まで放置されていたのだけれども。
更に言っておくと、実用と予備とで二つある。一つは自分で装備してみた。

「私はこの手の武器の経験は少ないのだが……」
「こういう閉所……限定された空間では、長物なんかは動作が限定されるし、こういう小物の方が良いと思うよ」
「状況に合わせて武器を使いこなす、か。――コレも修行と思おう」

なんだろうこの人。
見た目は金髪を後頭部で束に括った、身長170微妙に届いていない程度の、けれども引き締まった身体をしたかなりの美人さんだ。胸はCゲフンゲフン……くらいか。
そんな人が、矢鱈と渋い顔で武器防具を眺めて、修行云々と呟くのだ。

「……キミ、エネスクの人?」
「いや? 私はカノンの人間だが」

はー、エネスクなら修行が趣味みたいな人間がいても、そういうお国柄だと納得できそうだったのだけれども。
よりによってカノンですか。何処の国にも変な人はいるようで。

「……所で、お名前をお聞きしても?」

そういえばの話、この鎧の女性の名前を聞くのを忘れていた。
なんというか、脳内の呼称が『鎧』で統一されていたのに、その鎧を脱がれたものだからいきなりイメージがずれたというか。その上女性だとは思っていなかったし。

「……レイアだ」

あからさまな間。おーけー把握、偽名ですね。
まぁ、たしかにいきずりの冒険者に本名を明かしたくない、というのは良く分る。
何せ俺も偽名だ。

「それじゃレイアさん、この先戦闘区域に入るみたいなんですが、準備は良いですか? 何処か怪我とか問題はありませんか?」
「大丈夫。連中に捕まったときに、ハンマーで腹を殴られて痣がある……程度。全力は無理でも、逃げ出す分には問題無い」

それは無事とは言わない。

「――この者に癒しを与える」

右手を翳して、組み立てた術式に魔力を供給する。
極低位の回復魔術……ホ○ミみたいなものだが、まぁ打撲程度なら癒せる。

「治癒魔術まで……扱えるのか」
「まぁ、少人数で旅するには、ある程度は必須なんで」
「―――」

なんだか不穏な……というか、疑うような視線で此方を見つめられる。
はて、何か矛盾した言葉でも使ってしまっただろうか。

「とりあえず、感謝する。……丁度連中も来た様だし、な」

視線をレイアの指す方向へ向ける。
通路の先、点々とした松明達の明かりに照らされる通路の奥から、確かに人の気配が近付いてきていた。

しかもどうやら、此方の事にも気付いているようだ。通路の奥……牢の方から、捕虜が逃げた云々と罵声やら怒声が上がっていた。

「ち、もう見つかったか」
「異常を感知してすぐに牢を確認に行ったか……。どうも、ある程度の手練が混ざってるみたいですね……」

思い出すのは、この場所を最初に調べたときに感じた、一際大きな魔力。
雇われの魔術しかと思っていたが、もしかして兵士崩れでも混じっているか……?

「とりあえず、脱出しますか」





大気の鉄鎚(エアフィスト)

術式に魔力を通し、洞窟の通路へむかって放つ。
単純な空気砲の術だが、空気の流れが一方的なこんな密閉空間であればその効果は跳ね上がる。
風の魔術によって押された空気は、この洞窟全体の空気を移動させる。
つまり、小さな魔術で洞窟全ての風が動いたのだ。
当然、その余波だけでも盗賊連中を牽制するのには十分で。

「はああああっ!!!」

刀身に氷を纏わりつかせたレイアが、体制を崩した盗賊に切りかかる。
あの重い鎧を捨てた彼女の機動は目を見張るものがあり、凄まじい速度で盗賊どもをきりつけていく。
その上刀身に付加された魔術。
近寄るものは冷気によって体力を奪われ、さらに体温を奪われる事で挙動に誤差を生じさせられる。
切り付けられれば其処に魔術が定着し、対象をゆっくりと弱らせる。
なんというか、エグい剣だ。

「呼び集う雫、撃ち抜く」

接近戦をやらかしているところで風なんて使っては、レイアまで吹き飛ばしてしまうかもしれない。
術式を風から水に変更する。
大気中の水分を凝縮させ、小さな水滴を幾つか作り上げる。
それを指先に乗せ、一気に加速し撃ち出した。

「ぐああっ!!??」
「なっ、盾を貫通した!?」
「嘘だろ、たかが水の魔術だろう!?」

相手は魔術を使ってこないが、それでも少しは知識があるらしい。
まぁ、雨粒ほどの水に盾を貫通されれば、誰でも恐怖する。
といってもこの水滴、一滴で結構な量の水が圧縮されている。大体ペットボトル一本分くらいか。
幾ら水といえ、高い質量を持ち、それが銃弾並みの速度で射出されているのだ。
……それも連続で飛来するのだから、機関銃の掃射に勝るとも劣らない。正直、剣を持っただけのゴロツキにはたまったものではないだろう。
まぁ、それでも一応致命傷にならない程度には威力を抑えているのだから、感謝して欲しい。
……いや、走っている所為で致命傷になるほどの威力を練れるほど集中できない、というのもある……というか其方の理由がメインなんだけれども。

「親分を……親分をよべーっ!!」

不意に、そんな声が上がる。
やはりレイアさんを避けて魔術を打ち込んでいた所為で、大分撃ち洩らしがいるか。

「不味いな。此処の親玉は強いぞ。流石にこんなコンディションでは相対したくない」
「……そういえば、此処の親玉とはやりあったんですか?」
「ああ。噂通りの強豪で、不覚にも囚われの身と成ってしまった」

ほぅ、と驚く。
正直、レイア程の使い手であれば、並大抵の剣士魔術師では太刀打ちできないと思うのだけれども。
当然の話、十把一絡げの盗賊で、よくこの御仁を捕縛できたな、と。

「本人が強い、というよりは、その統率力が厄介なのだ」

言うと、レイアさんはそんな説明をした。
レイアさんも、本人の実力だけなら、此処の親玉は自分と同程度。相性的にはそう不利な相手でもなかったらしい。
しかしそいつは、数の利というのを深く熟知していたようだ。
一対一(サシ)でレイアを足止めし、小競り合いで隙を誘い、ついつい大技に走ったところに、部下達に魔封じの鎖でレイアを捕獲させたのだとか。

「なんというハンティング」

ちくちく削って、単調化した所に罠とか。
ではなくて。
なるほど、盗賊には結構珍しいと思うのだが、ボスは指揮官タイプか。
そういう相手ならば、限定空間で、大人数に押し切られないように戦闘する、というのも一つの手ではある。
が、正直今の戦力でそれは無理がある。
レイアは回復させたとはいえ、スタミナ面や魔力的に、結構消耗しているように見える。
この現状では、幾ら狭い通路とはいえ、それでも押し込まれてしまう可能性がある。

やはりここは、一度外に出てベリアと合流しなければ……。

「……少しペースを上げないと、不味そう……か。レイアさん、後衛を任せます」
「む、しかしそれでは……」
「大丈夫です。それより、ペースを上げます。……確りついてきてくださいよ!!」

言い、駆け出しながらながら術式を展開させる。

紫電(スタン)収束(チャージ)

魔力の消費は高いが、威力と速度で最速を誇る雷撃系魔術。
呪文と共に小さな雷球が幾つも浮かび上がり、ソレがまるで衛星のように、自分を中心として廻り始める。

出口まであと少し、というところで、再び前方に盗賊が大人数。
出入り口付近の詰め所にいた連中だろう。

全段発射(ファイア)再収束(リチャージ)

放たれた電撃が盗賊たちを撃ちぬき、その瞬間に盗賊たちは泡を吹いたり痙攣しながら地面へと崩れ落ちる。
ソレを確認する前に再び雷球を再装填。倒れ伏したその連中の背後に並ぶ連中へ、再び雷撃を発射していく。

まぁ、今始末しなくても、どうせ此処は爆破なりで埋めるんだし。

「……………っ、…………っ!!」
「レイアさん、大丈夫か?」
「……っ、舐めるな、まだいける!!」

流石にこのデコボコの岩道を全力疾走というのはつらいか。
少しペースを緩めようかとも思ったが、本人が大丈夫というならこのまま行かせて貰おう。
どうせ出口まであと少しだし、第一例の気配も近付いてきている。

正面に見えた団体の最後の一人に電撃を食らわせ、その背中を踏みつけていく。

「見えたっ!! レイアさんあと一息!」
「応っ!!」

ラストスパートとばかりに速度をあげるレイアさん。
気配を探るが、出口の外には大きな魔力を二つ程度……ベリアとランドのものしか感じない。
待ち伏せなんかは無いだろう。

そう判断し、一気に出口から飛び出した。

「ベリアっ!!」

高まる魔力を感じて、目で確認する事も無く声を上げた。
それだけで伝わると、何となく確信していた。

「撃ち爆ぜる千刃の矢!!」

正面から放たれた矢が、頬のすぐ脇を掠めて飛んでいった。

「――っ!」

振り返った瞬間。
洞窟の入り口で、盛大な爆音と閃光が夜空に響き渡った。

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