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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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051 - 盗賊団

「……っと、止まれランド」
「ガウッ!」

その一声で、それまで続いていたドッドッドッドッという小気味の良いリズムになっていたランドの足音がペースを崩し、次第にそのリズムを緩やかに、速度を落していった。

「この辺り……ですか?」
「確かそうだったと思う。……ちょっと、はっきりしないんだけどな」

言いながら眉間を押さえる。
先程、見張り台の上から周囲を眺めていたその暫く後、不意に眉間に痛みが走ったのだ。
闇を見渡す、というのも、軽度ではあるが能力の行使としてカウントされているのだろう。

「ガウ……」
「ヤマトさん、大丈夫ですか?」
「ん――大丈夫。問題ない」

心配そうにランドが此方を見つめ、ベリアがそう声を掛けてくれた。
……全く、女の子に心配をかけるなんて、紳士失格だ。

「――よし、それじゃ早々に盗賊団を壊滅させちゃうか!」

だから、少し力を入れて、痛みを押し殺して、元気良くそんな宣言をして見せて。

「は――はいっ!」
「ガーウッ!」

元気に頷く二人の姿に、ほんの少し癒されたりするのだった。





現在ランドに騎乗している俺とベリア。ランド込みのこれらを一ユニットとして、闇でその姿を完全に覆いつくす。
一応抗魔効果とかもある闇なのだが、今回の使用目的は防御手段としてではなく、隠蔽手段……身を夜闇に隠すための手段だ。

「それじゃ、ベリアとランド。周囲の警戒は二人に任せるよ」
「了解ですっ!」「ガウッ!」

俺の言葉に、小さく、然し元気良く二人がうなずきを返した。
現状、俺達が陣取っているのは盗賊の陣地と思しき洞窟……リンネルの村から40分程東へ進んだ場所にある、小さな断崖の折り重なって出来た不思議な渓谷のような場所……その、真ん中より少し下、と言うところだ。

先程此処に来る手前、この先の崖の下に洞窟の入り口があるのを確認した。
人気も無く、如何見てもただの洞窟にしか見えなかったが、其処からは僅かな魔力の残留が見られた。無論サングラスに備えられた残留魔力検出機能でもしっかりと魔力の色が検出されていた。

「この、真下なんだよな……」

此処で一発、闇を使って派手に一帯を吹き飛ばす、なんていうのも出来る。
出来るが――まぁ、そんなことをすればこの国、と言わず世界の各国から危険分子扱いされるのは目に見えているので却下。
精々大地系統の魔術で局地地震を起こす程度に留めるのが無難だろう。

「……ヤマトさん、顔が悪人になってますよ?」

おっと、考えが顔に出てたか。
ベリアに注意されて、改めて表情を引き締めなおす。

とりあえず、この盗賊の拠点を吹き飛ばすのは最終手段。吹き飛ばす前に、色々とやらねばならないことがある。
例えば、戦場の地形情報収集。この洞窟の出入り口が一つであるとは限らない。
もしこの奥に出口が一つ……多数有った場合、その全てを塞がなければ、地震を起こしたところで脱出される可能性が高まる。
他にも、盗賊に捕虜にとられている場合……人身売買、というのは、残念ながらこの世界でも存在しているそうだ。
まぁ、閑話休題。

手を腕を組んで、静かに目を閉じる。
五感から受ける情報を全て最低限までカットし、その分を全て闇へと廻す。

「――っ」

背後から息を呑むような気配。それも当然だろう。今、俺の足元では闇がうごめいている。
目を閉じている所為で俺からは見えないが、闇自体が俺の目の、手の、耳の、鼻の、感覚器官の延長となっている。だからこそ、何となくわかる。
さも名伏しがたき光景に成っているんだろうなー、と。

その闇を、地面に向かって……真下に向かって放つ。これはカノンで地下牢を探ったときのと同じ操作だ。
闇は光と違い、何処にでも存在している。
例え継ぎ目の無い岩であろうが、その内側には闇がある。
そんな闇を伝って、闇は一気に降下し、その先に不意に空間のような、風の流れを知覚した。

どうやら通路に出たらしい。が、この時点で既に面倒そうではある。風が流れているという事はつまり、風の入り口のほかに出口もある、という事だ。

見つけた通路の天井……俺の足元を基点に、通路に沿って闇を伸ばして行く。
其処から更に闇を広げ、通路で分岐させ、合流させ、更に通路に沿って伸ばして……。

……なるほど。出口ではなくて、上に穴が幾つか開いてるのか。それも、これは人が通れるサイズじゃないな……
目を開けて、少し離れた足場へと目をやる。
と、その岩の地面の裂け目から、黒い靄のような……つまり、俺の闇が顔を覗かせていた。

――俺の闇が顔を覗かせていた。
なんだか、その一文だけ見たら、俺って陰のある男みたいだ。
閑話休題。

とりあえず、コレで出入り口は一つだけ、という事が確認できた。
後は捕虜とかその辺りの調査なんだけれども。
さて、如何やって調べたものか。
目をとじて考える。闇は、俺の感覚器官の延長としての機能がある。
要は、俺の支配した闇が有るところなら、大抵の情報は拾うことが出来る。
……のだが。

試しに聴覚情報を拾ってみて、即座に悶絶しかけ、慌てて耳を塞いだ。
そりゃ、そうだ。
闇全体が俺の聴覚に成ってしまっているのだから、その闇の内側の音は、全て一つの音として聞こえてしまうわけだ。
ならば、聴覚を一点に絞って……みたのだが、かなり調整が難しい。しかもピントを調整するのに常に神経を使うし、それだけならまだしも、人気が無い場所だった場合には焦点を移動させなければならない。で、移動させた箇所によっても音が混ざったり、何も聞こえなかったり……。
コレは効率が悪すぎる。

「……」

さて、如何しようか。
今の俺は、衛星写真から現地の情報を詳細に把握しようとしているようなものだ。
出来ない、とは言わないが、そんな手間を踏むくらいなら、直接じかに歩いて確かめた方が……。
―――直接、か。

一つ、思いついたことを試してみる。
地下へと送り込んだ闇に、大量の魔力を送り込んでそれを凝縮させる。
魔力を凝り固めた所為で、半分物質面に引き出された闇。更にそれを練って、闇の結晶を作り出す。
其処に闇を纏わせ、簡易な擬似的思考能力を与えて……と。

まさか、本当に出来るとは。
闇のコアを軸として生成された、言わば闇の塊。
霊質面に属し、どちらかと言えば精霊に近く、しかし自我を持たない……言わば、俺の遠隔端末のようなものだ。

因みに、当然ながらこれは今即興で作ったものだ。
ファミリア契約云々は魔導書に乗っていたが、この闇のアバターを作る、と言うのは、何となく、気付いたら作っていた。
……はて。

多少自分に違和感を持ちつつ、しかしそれは無視して作業を進めることにした。

処理能力を上げる為、洞窟中に散していた闇の制御を一時的に緩める。
次いで、闇の塊……闇玉と呼ぶ……に精神を同調させる。

闇玉には、ある程度の演算能力を持たせた。
つまり、この闇玉は俺の視点であると同時に、此処から魔術を行使するための演算を補助してくれる外部拡張機器でもある。

要するに……縦スクロールシューティングの、自機の後ろについてくるオプション。あのオプションが一つだけで飛んでるようなものだ。
まぁ、それを維持するために多くの魔力を消費しているのだけれども。

聴覚、嗅覚、触覚と移して、最後に視覚を移す。
本来は薄暗いのであろうその洞窟は、然しやはり俺の目にはハッキリと見通せている。

適当に闇玉を進ませる。
基本行き当たりばったりで、たまに聞こえてくる人の話し声に耳を傾け、色々と情報を取得していく。といっても、対外は親分が逆切れしたとか、そんな下らない日常会話で。
が、その中で一つ、重要な話を拾った。
どうやらこの盗賊の拠点に、一人捕虜を捕まえているのだとか。
つい先日、この盗賊団のアジトを単身襲撃してきた戦士なんだとか。
そのことを話していた盗賊は、やられた傷が痛むとかブチブチ文句を言っていたが、それはまぁ如何でもいい話だ。

しかし、面倒な。聞いてしまった以上、放置するわけにも行くまい。
この拠点を爆破する前に、その戦士とやらを一応助ける為に行動しなくては。
……まぁ、無事だと良いのだけれど、なんて一応祈っておく。



「……さて、如何するかね」

意識を引き戻して呟く。
正直なところ、一番手っ取り早いのは正面から乗り込んで無双するという手段だ。
ただ、これは俺の趣味じゃないし、助けに行く捕虜に思い切り警戒されかねない。なにせ、到着する頃には洞窟内はチミドロだろうし。

となると……またこっそり潜入?
面倒だが、やはりそれが良いだろう。

「うーん……となれば、……ベリア、30分くらい経ったら、此処の少し南の辺り……あの辺りを暫くの間爆撃してくれないか?」
「? 良いですけど、あそこに何か有るんですか?」
「いや」

首を振る。
その場所には、岩肌と土が見え隠れする意外、特にコレといったものは見当たらない。
まして街道からもそれている為、人の姿なんて有り得なかった。

「潜り込んで、出る時の陽動に……な」
「――、なるほど」

どうやら理解してくれたようだ。やっぱりベリアも聡い。

「何か想定外の事態が発生した場合、速やかにこの場から撤退する事。いいか?」
「ヤマトさんは?」
「俺は寧ろ、大暴れするときに味方が近くにいると全力が出せないから……。大丈夫。いざとなったら全力で逃げるし」

言いながらベリアの頭を撫でてやる。

「ランドも。ベリアの事頼むぞ?」
「ガウッ!」

任せておけとばかりに頷くランドの頭を撫でて、岩場の淵から身を投げる。
3メートル程度の距離を落下して、壁を蹴って速度を殺しながら、洞窟入り口に立っていた見張りの背後へと着地した。

即座に闇を纏って、見張りに気付かれる前に洞窟の中へ。
俺の闇は影より深く、洞窟の暗がりの中ではほぼ完全にその内側を外界から隠し切っていた。

「……さて」

何と無し、掛け声のように、けれども小声で呟く。
早速、洞窟探索を開始すべく、洞窟の奥へ向けて一歩前進するのだった。

05.……orz
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