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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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050 - リンネルの村。

驚いた事に、このリンネルの村の宿屋、他の宿屋に比べて圧倒的に質が高い。
宿屋の建物が良い、と言うわけではない。この宿屋も、旅の最中で立ち寄った宿屋とさほど変わりの無い、木造の家屋だ。

食事が良い、と言うわけでもない。高山に近い所為か、野生の動物の肉やちょっと変わった野菜なんかも目に付くが、調味料が殆どないので正直言って大味だし。あのソーセージなんかはごく一部で生産されている貴重品だ。
では、何を持ってこの宿屋を良質と判断したのか。

「…………ふわふわだ……」

埋もれたベッドのシーツの上。呟きは思わず零れたものだった。
そう、ベッドだ。
この世界のベッドって、良くて動物の皮の上にごつごつした布が敷いてあるようなものにしかお目にかかれなかった。悪いところなんて、木の板の上に布が敷いてあるだけだったし。
まぁ、節約していたと言うのも理由にあるのだろうが……。
こんな言いベッドがあったのなんて、過去王宮の客室くらいじゃないだろうか。

「フカフカすぎる……」

疲れた身体に、少しひんやりとしてさらさらで軟らかいシーツの敷かれた布団。
目にした瞬間、一気に鎧を脱いで、ベッドにダイブしたのは言うまでも無い。

「然し……寂しい」

このフカフカの喜びを誰かと共有したいのだけれども。
ベリアは兵士一団に囲われて強制的に引篭もっているし、リネアは魔力を使いすぎてエンプティ。現在は充電中との事。案外また変化してるんじゃないだろうか。

「……ランドのところにでも行くかな」

リンネルのさらさらフワフワ布は、この宿屋の近隣の道具屋で取り扱っていた筈だ。
密貿易分のついでに、ランドへのプレゼントの分を買っていこう。

「んじゃ……軽装でいいよな」

一つ呟いて、影の中から何時もの衣類を取り出す。
因みにこの軽装、コートの下は鎧のアンダーとしても着れて、一応5セット程を収納してある。
……後で洗濯もしておかないとなぁ……。
そんなことを考えながら、宿屋の自室を後にした。



「はぁ? 盗賊が出る?」
「そうなんだよなぁ。しかもそいつらが地味に家畜とかさらって行く所為で、リンネルの生産以外……農耕に、地味にダメージを受けてて……」

酒場……と言うには日の光の良く入る、大衆食堂のようなその店で。
正面に座るこの村の青年相手に、そんな愚痴を聞かされていた。

「然し、そういうのは普通属する国の兵なんかに助けを請えるんじゃないのか?」

治安維持、というのは国として最も基礎的な行為だと思う。
だが、青年は首を横に振って見せて。

「それが盗賊連中が現れるのが不定期でさ。此処は一応カノンに属してるんだけど、国境の端っこ。派遣兵をあまり長く駐在させることも出来ないし、前に来たときには盗賊連中、それを知ってたみたいに全く姿を見せなかった」
「それは……」
「それに……此処はカマズミを背負ってる、余り大勢で来るとカマズミの魔物を刺激しかねない。あそこの魔物は平原の魔物と比べて洒落にならないぐらい強いから、兵士達も警戒してるんだよ」

なるほど、と頷く。
確かに、このカマズミ山脈、というのが視界に入るに連れて、周囲一帯に漂う魔力……所謂、大源(マナ)と呼ばれるものが、強く感じられるようになってきた。
大源とはこの星が持つと言われる魔力の事。魔物と言うのは、この大源と大きく関わりのある存在なのだとか。カノンの市場で入手した魔導書に書かれていた。
因みに、魔物の質と、魔物から産出されるソルの質も比例していたりする。
このことから、質:{大源=魔物=ソル}が成り立つ……んじゃないかな、と思ったり。
まぁ、閑話休題。

「でも、それじゃ今は如何やって……?」
「今はな、ハルペイアって外国の学校で勉強してた村長とこの息子が、落とし穴とか見張り台とかをつくって、それでなんとかなってるんだよ」

学校。これまた面白そうな単語が出て来た。
それも留学、ときた。まぁ、これも閑話休題。

「そこで勉強してきた成果を生かして……レンジャー、だっけか。確かに効果はあったよ。男手は少ないし、女達は弓なんかそう扱えないが、高台の上から数撃ちゃ、確かに牽制にはなってた」
「それでも被害は出るし、襲撃がやむことは無かった……と」

此方が足した言葉に、青年は首を縦に振って見せた。
まぁ、聞いた限りでは、確かにこの村は良い狩場なのだと思う。
大国に属してはいるが、その本国からは離れた距離にあり、目立った特産品があり、交通の要所でもある。
一気に食いつぶしてしまえばそれまでだが、小分けに少しずつ奪えば、相当長期にわたって得るものがある。
なるほど、狩場というわけか。

「それに連中、やたら強い剣士をやとってやがった。黒い鎧を着た大男だったが……」
「ふーん」

黒い鎧……ねぇ。
と、なんとなく嫌な予感を感じつつ、こういう事はスルーするに限るな、何て考えていたら、憂鬱気な顔をしていた青年が不意に顔を持ち上げて。

「なぁ、あんちゃん。あんちゃんあの兵隊さんたちの連れなんだろ? あの兵隊さんたちに盗賊を何とかしてくれるよう頼んでくれないか?」
「あー……悪いんですが。俺はどちらかと言うと勝手に彼等について行っているだけですし、それに彼等はカノンの兵士と言うわけでもないので、多分無理かと……」

途端に顔をガクッとうなだれる青年。
まぁ、兵士諸兄も悪い人間ではないし、暇なときなら他国の揉め事とか関係なく、盗賊なんか即座に叩ききってくれるだろうが。
残念ながら現在は、自らの国の姫君を護送する、という重要な任務の真っ最中で。
多分、頼んでも断られるんだろうなー。

「まぁ、仕方ないか。自分達の事だし、自分達で何とかするしかないか。幸い、村長の息子にはまだまだ手があるらしいし」

言って、青年は「落とし穴の中に尖らせた槍衾」だの「触れた瞬間に倒れてくる柱に見せかけた倒木」だとか、色々とえげつないトラップを語ってくれた。なんでも、トラップの設営に力仕事をこなす人手として借り出されていたのだとか。
これでごく一部だというのだから恐ろしい。

「まぁ、(ほぼ)一旅人である俺としては、頑張ってくれとしか言い様が無いんだけれども……頑張れ」
「おう。俺の愚痴に付き合ってくれてアリガトな、あんちゃん。折角だし、旅人のあんちゃんの食事代ぐらいはおごっといてやるよ!」

その代わり、この村の事を宣伝しておいてくれよ〜などと言いつつ、青年はこちらが口を開く前に代金を支払い、そのまま食堂を颯爽と後にしてしまった。
……なんという事だ。不覚にも、借りが出来てしまったではないか。

正直な話、この村が滅びようが生き残ろうが、そんなことは俺には関係が無い。
このさらさらのリンネル生地が失われるのは悲しいが、とりあえず自分の分は大量に確保してあるので問題ない。
だから、とりあえずこの村の問題に関わる心算は無かったのだけれども。

……せめて、あの青年が、ここの食事を奢ってくれなければ。
打算だけで近付いて、兵士を動かせない、と分った時点で席を立ってくれていれば。

「――まぁ、いいか」

普通に食堂で出会って、普通に世間話をした。
それで、縁故に食事を奢られて、名を聞くまもなく立ち去られた。
……なんというか。こういう気持ちの良い場所は、残っていて欲しくなってしまった。

一飯の恩は大きい。奢ってくれる人間は良い人間だ。
そんな人間に、何の恩を返す事も無く見捨てる、なんていうことは出来ない。
でも、俺が考えている事は、一飯の借りを返すには、如何考えても大きすぎる利子で。

「あー、俺ってお人よし」

なんて馬鹿なことを呟きつつ、机の上に並ぶ食事に手を付け始める。

頭の中では既に、今夜決行するために作戦を組み立てているのだった。







と、いったものの。
昼間のうちに密貿易用の商品を買い集め、気付けば日はとうに暮れて。
村の周囲には篝火が敷かれ、地味に村中央の高台からの狙撃がしやすくなっている。
さて今から盗賊の拠点を襲撃に行こうと思ったのだけれども。

「〜〜♪」
「……あの、ベリア?」
「はい、なんですかヤマトさん」

すぐ隣を鼻歌交じりでスキップしながら追随するベリア。
今から盗賊退治に行くとは思えないような、余りにも気軽なその様子に思わず眉間を指でもんでしまう。

「……マルさん達は良いの?」
「大丈夫です。今夜中に戻れば!」
「―――」

ようするに、抜け出してきたらしい。
事の次第はこうだ。
俺が準備を整え、宿から出た。背後からつけられている様な気配を感じた。左折確認してみたら見事に引っかかった。ベリアだった。

「……これから、下手すると盗賊狩りになるんだけど?」
「ドンと来いですよ。人に刃を向けた連中です。人に刃を向けられる覚悟はしていて当然。それだけの話ですよ」

おおっと、やっぱりなんだか武人っぽい事を言う。

「それに、最近ヤマトさん、全然私の相手してくれないじゃないですかっ! この前はリネアと一緒に居ましたし、それ以外はランドちゃんとばっかり遊んでますし!」

……と、思ったのだけれどもどうやら結局私怨のようだ。相手してくれないって、子供じゃ有るまい――いや、まだ子供の範疇に入るのかな?
あと、リネアには資料集めや商売を手伝ってもらっていたのであり、ランドは俺の話し相手に成ってもらっていたのだ。別に遊んでいたわけではない……と、思う。

何だかんだ言ってみたが、どうやら俺では彼女を説得する事は出来そうに無い。
――まぁ、ベリアは強く聡明な子だ。多分、大丈夫だとは思うのだけれども。

「それじゃ……一緒に行くか?」
「行きますっ!!」

喜び勇むベリアに思わず息を吐き、とりあえずとばかりにその場から歩き出した。



先ず最初にむかったのは、この村で一番高いであろう場所……この村の防衛拠点として設置された見晴台の一つだ。

闇を纏い、ソロソロと梯子を上って見張り台に上り、その上であくびを付いていた見張りの頭に、背後から小さくコトバを唱える。
低級魔術、『眠り』だ。
扱いは万人に可能と言われ、近所の奥様が夜中子供を寝かしつけたいときの最終手段、何て呼ばれていたのをウェストリーの広場で行商をしていた時に聞いた。
因みに子供側からは『子供殺し』の愛称で親しまれて(?)いる。

「ぬ、むふぅぅぅ――――」
「――――、……………成功、かな」
「本当に効いた。ヤマトさんの魔力の質は相当高いんですねぇ」

背後から梯子を上ってきたベリアが、本当に驚いた、と言う表情を浮かべて倒れ伏す……うつぶせになって爆睡している衛兵に目をやった。

本来、この『眠り』の魔術は、素人にも扱えると言う点から見ても分るように、かなりその効果が弱い。それこそ、抵抗値の低い子供を強制的に寝かしつけられるか、と言う程度のものだ。
しかし、やはりと言うか物事には例外がある。
それがこの、『魔力の質』と言うものなのだそうだ。
コレが良ければ良いほど、同じ魔術でもその効果は大きく変化する。
本来は瞑想やら滝に打たれたり断食したりで質を上げる筈のものなのだが……。

「要するに、魔力補正値が凄い、と」

思い出したのは某RPG。パッシブスキルばかり大量取得して、地道に基礎固めとかしていたっけ。

「??」
「いや、なんでもないよ」

首をかしげるベリアに、言いながら首を横に振って見せた。

「……、さて」

今回この見晴台の一つに上ったのには、やっぱりそれ相応の事情がある。
俺の闇。――というか、それを見晴らす目には、文字通り闇を昼間の如く見晴らす事のできる力がある。
そんな基本能力に加え、魔力的な視覚や、少し霊的方面に傾いた視力もあったりする。
修練すれば、死霊使いに成れたりして。まぁ、余談だ。

「ん――………」
「如何ですか?」
「派手に動いてる気配は見つからないな。少し離れた距離に拠点を構えているか、でもどうせならこの村と似た立地条件の場所に……っと、あったあった。ベリア、この方角に集落か何かって有るか?」

言って、高台から向かって東北東の方向を指差す。

「ありえません。リンネルの村の別称は、カマズミ足元の村、なんですよ? これ以上北に村なんて……」
「んじゃ、あれで間違いないかな」

視線の遥か彼方、カマズミ山脈の傾斜から微妙に外れた場所。そこから、幾つかの魔力……生命力を見つけていた。

「動物の巣穴……という可能性は?」
「サイズと規模からして間違いなく人間のだと思う」
「数は? 分りますか?」
「んー……、15人くらいだと思うんだけど……一人、魔力が大きいのが居るな……。コレ、魔術師かな?」

感覚的に表現するならば、小さな靄一つが一般人の持つ魔力のイメージ。
大きな靄の中に、小さな靄がいくつもある……そんなイメージが見えていた。

「地形的には……小屋とか、そういう建造物は見えないなぁ……」
「では地下……ないし、横穴的な洞窟、という事ですか」

盗賊、洞窟、溜め込んだ財産……。
――はぁ、なんともまた、典型的な盗賊だこと。
そんな感想を思わず抱いてしまったのだが、……隣で呆れた顔をするベリアを見る限り、やっぱり此処は呆れても言い場面なのだと思う。

「……まぁ、そうであるなら話は早い」
「如何するんです?」
「無論、洞窟を崩す。俺は別に正義の味方でもバトルジャンカーでもないし、まして盗賊の溜め込んだ宝、何て者にも興味は無い。態々正面から斬り伏せて降参する隙を与える、何て真似はしないよ」

その点、洞窟を崩して仕舞えばそれは即座に相手側の全滅を意味する。
密閉された洞窟。それは残された酸素を徐々に消耗していく、密室地獄そのもの。閉じ込められた連中は、ジワジワと息の根を止めていく事だろう。
――よしんば洞窟の崩壊から抜け出せたとしても、出口の先に待つのはこの俺なのだから。

「……、正義とは口が裂けても言えない戦法ですけど……効率的ですね、確かに」
「俺は所詮、利己主義の俗悪人だしね。助けたい人間だけ助ける。後は知らないよ」
「ですね。赤の他人を助ける余裕なんて、私には力及ばずです。そんな奇跡、それこそ勇者にでも祈っておきます!」

……、晃に、祈る……?
無い。それは無い。

思わず笑いそうになりながら、そんな雑念を捨てて、盗賊の洞窟攻略に向けた作戦プランをベリアと話し合うのだった。

Q.作者はこの夏の間、一体何をやっていたのか。
次の選択肢からコレと思うものを選択せよ。
なお、複数回答有り。

01.某名作RPG最新作、DQ9。
02.某有名ハンティングアクション最新作、MH3。
03.某有名「3DCG描写に定評のある」PCゲームメーカーのファンディスク、SMGSP。
04.新しく思いついた作品の構想を練っていた。
05.仕事に勤しんでいた?。
06.某西○維新の小説原作アニメを録画閲覧していた。
07.某同人発通称「うみねこ」の録画分の消費。
08.よそ様の作品を読んでは「マダ更新シネーノー」なんて呟いていた
09.ニコ○コ動画でプレイ動画を見て爆笑していた。
10.ニコ○コ動画でヌコの動画を見て癒されていた。
11.そういえばうみねこのEp5をプレイしゲフンゲフン!!

――――A.全★部――――

orz
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