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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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048 - 北へ進む。

「ほら、オベント」
「ガウ!」

そう言って林檎をランドの口元に差し出しつつ、その道なりを眺める。
針葉樹に覆われた緩い斜面。所謂一つの街道というやつだった。

カノンの騒乱から半月ほど。漸くベリアの所用が終わったとかで、ついにエネスクの兵士達が本国への帰還を開始することになった。
元々エネスク帝国へは訪れる心算だったし、ベリアも是非にと誘うので、俺はベリアの護送隊に同行させてもらう事となっていた。
因みに、俺の扱いはベリアの私兵……といった感じ。

まぁ本当のところ、カノンの王宮の動きが少し怪しくなってきたので逃げ出し、そのタイミングに合致していた為同行した、というのもある。
大臣や王様には釘を刺しておいたのだけれども。どうもカノンの王女様が動き出したとかで。
酒場の情報屋から齎された情報が無ければやばかったかもしれない。あと一日出国が遅れれば、完全に包囲網を敷かれていたみたいだったし。

――というか、恩人に逢って礼をしたいからって、その恩人に賞金を賭けるって如何よ?
……俺、何か迷惑かけるようなことしたかなぁ……?


「よう、イーサン。元気してるか?」
「……ジェイクか。ああ、特に問題は無いよ」

そんなことを考えていると、不意に前方から声が掛けられた。
話しかけてきた男性兵士に声を返しつつ、その顔を確認する為意識を思考から引き戻して。
この男、自らをジェイクと自己紹介をした兵士は、この護送隊……マル隊の副隊長を務めているのだとか。
カノンを出立してからというもの、どうも此方を気遣って頻繁に話しかけてくるのだ。

俺の立場は、正直物凄く怪しい。
本国の兵士達でさえ知らなかった自分達の姫の私兵。
そんなのが、突如として自分達の隊に組み込まれたのだ。拒否こそすれ、快く迎えるなんていうのはまず無い。

……筈なのだが。この男、どうも……微妙に良い人らしい。
多分俺のことを警戒した上司から、「俺に良い顔して情報を探って来い」とか言われてるんじゃないだろうか。
まぁ、それはいい。有る意味連中もベリアを大切にしているという事だし。
俺の身元が不明なのは意図してのことだし、まして素顔すら晒していないのだ。そりゃ、警戒もする。

だが、申し訳ないのは別のところだ。
このジェイク、物凄く俺に話しかけてくる。ベリアは現状隊列中心の籠の中に納まっているのだが、その所為で俺は如何しても独りでいることになってしまう。

で、そんな俺を気遣ってか、なにかと此方に話しかけてくれるジェイク。
しかし話し掛けられた俺は、正体を隠しているという制約上あまり自分の事を語れない。
世間話に混ぜて此方を探ってくるような会話をされても、ほぼ一切応える事ができなかった。

だというのに、この男はそれでも雑談をやめず、何とか俺と会話を成立させようとしてくれて。
おかげで、カノンを出てからこの来た街道半ばに至る頃には、ある程度俺との会話のコツを押さえてくれたようだ。

……基本的に、俺は余り自分から話題を振らない。
ので、相手側の話題の聞き手とすることがおおいのだ。俺の数ある欠点の一つ。目的の無い能動的会話が苦手という点。

「おう、それじゃまた後で」
「ああ。またな」

一通り会話を追え、自分の隊へと戻っていくジェイク。うーん、やっぱり気を使われている。

「やっぱり、コミュニケート能力をもう少し鍛えるべきかな」
「ガルッ!!」

呟いた言葉に、ランドが思い切り首を縦にふった。
……竜種にコミュニケート能力でとやかく言われるとは。

「……ガルッ?」

そういえばリネアは? とでも言うように、ランドの視線が俺の右腕に向く。

「ん、少しはしゃぎ過ぎたとかで、腕輪の中で寝てるよ。……とりあえず、前を向いてくれ」

言ってランドの首を前に戻す。
何せ山道だ。幾らなんでも前方不注意は怖い。

「ガウッ!」
「ん。 ……いや、カノンの事件でさ。ベリアのバックアップがあったとはいえ、少し無茶をさせすぎたみたいで。微妙に疲れているみたいだったんで、暫く腕輪の中で寝て置けと厳命した訳だ」

実体化を長時間連続で実行していた所為でエンプティーだとか。

なるほど、とばかりに首を振るランド。
リネアにとって、もっとも安定する状態は、あのデフォルメ状態なのだ。
そもそも肉体を持たない精霊種に近い状態のリネアは、俺が名を与えた事で力を増し、小さな姿を顕現することが出来るまでになった。

それだけでも常識外れな事態なのに、俺の膨大な魔力は更に常識外れを可能として。
リネアの等身大顕現。
リネアを等身大で顕現させるそれは、しかし同時にリネアに多少の負担をかけていたらしく。
慣れもしない能力を行使しすぎたリネアは、俺には平気な様子を見せていたが、その実結構疲れきってしまっていたらしい。

――まぁ、その状態で市場に買い物に出かけて甘味を漁っていたぐらいなのだから、さすが女の子というか何と言うか……。

「まぁ、そういう事で。暫くは頼むぞ?」
「ガウッ」

任せてくれ、とばかりに元気よく頷くランドを見て。
ああ、やっぱりコイツも良い奴だな、なんて感心するのだった。





カノンを出立して数時間。
何度かの休憩を入れ、しかし一団は着実に北へ北へと足を進めていた。
途中で何度か魔物と遭遇したが……幸いこの辺りはまだカノン領。それほど魔物の質は高くない上、此方の戦力は兵士個々の能力の平均が世界最高峰といわれるエネスク帝国の兵士たちなのだ。
先ず魔物如きに遅れをとる筈も無かった。

俺も俺で、なんとか周囲の人間とコミュニケーションをとろうと、色々と画策してみた。
例えば、昼食時に買い込んでおいたウィンナーを配ってみたり。
護衛から外れた休憩中の連中に、黒麦飲料を少し差し入れてみたり。

古典的に物で釣ってみた所、案外コレがうまく行って。
何時の間にか、ほんの少しだけ、彼等の輪に入る事ができていた。
まぁ、取り敢えずは一安心で。

そんな風に一路北へ。
カマズミ山脈まで、あと3日といったところだった。

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