挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
50/63

047 - 出発前のお買い物。

さて、いよいよ明日は出発。カノン王都と御然らばする日だ。
つまり今日がカノン王国滞在最終日、という事。
折角だから、街中を色々と見て回ることにした。

「で、主殿。何か目的はあるのか?」
「いや。これといって特に。……でもまぁ、美味しいものがあれば最優先で」
「うむ!」

金に糸目は付けなくて良い。
なにせ、ここ数日で売りまくった虹の雫は元手が無料だし、その上魔物狩りも平行してやっていたため、かなりの金額が手元にあるのだ。

大量のソルを換金したのだ。今現在、国中の換金所は色々潤っていたり。
というか、国土のエンカウント率ががくっと下がっているのではないだろうか。

……因みに。
ソルの換金にも国によってレートが違ったりするらしい。魔力と物質体の含有率の差らしいが……。
いざという時の為にソルも貯蓄してあるのだ。

「あ、但し保存の利く物にしてくれよ?」
「む……と為れば、……うむ。わかった」

言ってリネアはふらふらと周囲の屋台を視にいってしまう。
今現在。リネアは実寸大になっている。俺の魔力を一定量溜めたらしく、後は余程の事が無い限り、少量の魔力で顕現は維持できるらしい。

……まぁ、とりあえずリネアとはパスが通っているおかげで、互いの位置関係は大体把握できる。迷子に成る事は無いと思うのだけれども……。

少々の不安を押し殺して、俺も周囲の露天に視線を向ける。
何時ぞや買ったサラミはまだ残っているが、しかしその残量は、長期のたびをすると考えると少し心許ない。
そういう意味では、俺も多分に補給物資を求めているのだ。

「ふむ、サラミが安いな。買いだ」

とりあえず何十本かの束を幾つか買う。どうせ資金は腐るほどあるのだ。
……嗚呼、こんなリッチな気分、元の世界ではしたこと無いなぁ。

えーっと……ついでだ。
フランスパン(っぽいパン)も幾つか購入しておく。はさんで食べると美味いのだ。
……いやいや、ソレならばチーズも買って置かねばなるまい。あれは保存も効くし、良い感じのつまみに成るのだ。

――いや、そもそもつまみとは何のつまみなのか。
理性と欲望の葛藤が始まる。
待て、待て未成年。日本人。
よく考えろ。そうだろう? 俺は未成年だ。日本国憲法に基づいて、それを呑む事は法的に禁止されている……筈だ。

だが、と欲望が反撃する。
此処、異世界だぞ? そも、国の法律なんか関係ないぞ? と。

居や然し。ソレでも俺は彼の国の国民なのだ。
なのだから、可能な限りはその法を遵守した方が……。

欲望を殺してまで? それはおかしいだろう。
罰する人間なんて居ないんだし、そもそもこの世界では罰ですらない。
いいじゃねーかよぉ、呑んじまえよぉ、大和おおお!!!

「……く、くうっ!!」

脳裏に響くアクマの声。
財布にしている皮袋から、銅貨を数枚取り出してしまう。
――いかん、止せ、やめろっ!! 良いではないか良いではないか。
心の中で必死に抵抗しても、やっぱり枷が無いというのはヤバイらしい。

気付いたときには、ビール腹のおっちゃんに銅貨を数枚渡していて。

「ほれ」
「ども」

黒っぽい色に、白い泡がシュワシュワと。
呑んだ途端に……うわぁ、五臓六腑に染み渡る。

「……っぷはぁ、ぅ美味」

地元醸造の黒麦飲料。ぐっと来るのにすかっとしていて。
嗚呼、欲望に負けてしまった。修行が足りない、という事で。

「おっちゃん。大樽で10貰うぞ!」
「おおぅ、兄ちゃん気前良いねぇ!?」

とりあえず修行は今度にして。
緩む頬を自覚しながら、その大樽を闇の中へと仕舞ったのだった。





「くくくくくくく…………」

ハーブやミルク、色々な香草で風味を付けられたウィンナーを購入できたのは、なんというか正直にラッキーとしか言い様が無かった。
ニンニク風味のウィンナーが、まさかこの世界で手に入るとは思っても居なかったのだ。

掘り出し物の魔導書も幾つか手に入ったし、今回の買い物はもう既に文句無し言う事なしだ。

図書館で調べているとき、ついでに色々調べていたのだが。
……どうやら、存在するらしいのだ。隕石落としの魔術。
とりあえず、「お星様に願いを」な類の魔術ではない、ちゃんとした攻撃用の魔術らしい。

……が、残念ながら、この魔術の存在は知られていても、具体的な術式は既にロストしているらしい。
折角だし、復活させてみるか。なんて考えて。
こうして古魔導書の類を集めてみたりしたのだが。

「……くくく」

案外、うまく行きそうでニコニコしているのだった。

「ありゅりろの」
「おう、リネア………リネア?」

背後から聞こえてて来たリネアの声に振り返り、だというのに思わずそんな声を返してしまって。
其処に居たのは、両手一杯に菓子や駄菓子を抱え、目をキラキラと輝かせて幸せそうにしているリネアが居て。

「……………」
「みままめまぅ……」

幸せじゃ……とか言ってるんだろう。まぁ、確かに幸せそうだけど。
恍惚とした表情のリネアは、やっぱり幸せそうにその両手のお菓子だか果物だかを頬張って。

あー、なんだか視てるだけで……和むなぁ。
なんて、リネアの顔を見て和んでいると。
不意にリネアが、その手に持ったバスケット籠を此方へと差し出した。

「主殿。これを預かってくれぬか?」
「ん? いいけど、これは?」
「うむ。この市で楽しむのは良いが、しかしベリアだけ仲間外れと言うのも忍びない。そこれじゃ、今晩もまたあれは宿に遊びに来るであろうから、そのときに三人で一緒に……の」

そういってバスケットを差し出すリネア。
……良い子だなぁ。

リネアの頭をくしゃくしゃと撫でて、そんな感じですっかり和んでしまい、とりあえず、その日の買い物は引き上げたのだった。





「ほれ、ランド」
「ガウッ!?」

そうして一度宿に帰った後に、適当な出店で品を買って、ギルドの厩へと訪れた。
此処では、ギルドに登録している人間の騎獣を預かってくれると言うシステムがある。
そこの一角に、ランドもつながれていて。

「お待たせ。今回の騒ぎにも片がついたし、またお前の背中に乗せてもらうよ」
「ガウッ」

今まで暇だったー! とばかりに笑顔で首を振るランド。
まぁ、確かに。
今回の件はカノン首都で……厳密には王城及び観覧席でのみ実質的な事件があった。
ぶっちゃけ、ランドが活躍できたのは虹の雫を汲みに行った所までだ。
以降、ずっと此処のギルドで預かってもらっていたのだが。

「ほら、色々買ってきたから」
「ガウッ!!」

言って、闇の中からフルーツバスケットを取り出す。
林檎っぽい果物に、葡萄っぽい果物や、蜜柑っぽい果物。
どれも甘そうな臭いを香らせる、色鮮やかな品々。

これはちょっと意外に思ったのだけれども、ランドは肉を余り好まない。
ドラゴンというと、もう少し肉食なイメージがあったのだが、ランドが主に好んで食べたのは林檎モドキや葡萄モドキ……要するに、そういったフルーツばかりだった。
菜食主義なドラゴン。……うーん、イメージがなぁ。

「ほら、ゆっくり喰えよ?」
「ガウッ!」

シャリシャリと音を立てて林檎を頬張るランド。
その背中を撫でながら、まだまだ続くであろう先の分らない旅路を、星を見ながら想うのだった。


RETURN。オリハルコンゴーレム暴走させたりして。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ