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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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005 - 怪しげなもの。

倉庫から持ち出した道具は、そのまま自分の所有物にしてもよい、との事だった。
なんでも、それ一つ一つに特殊な効果が込められているらしく、旅に出たときの補助になるだろうから、だと。

まぁ、それはいい。貰える物は貰っておく主義だ。
……けれども。
よりによって、そのまま連れて来られたのが。

「王の御前である!!」

そんな一声の前に、俺と晃は平伏していた。
勇者としての王への面通し、というヤツである。
……そう、王様への面通し。つまり、此処は所謂一つの謁見の間という奴だった。

「そなたが新たな勇者か」
「はい、王様。二階堂 晃と申します」

俺の斜め前に居る晃がスラスラと答える。
なにせこいつは金持ちのイケメンだ。何かと目上の人間と話す機会は多かったらしく、そういう類の礼儀は結構出来るらしい。
俺も二言三言言葉を交わすが、王の興味はすぐさま晃に移ってくれたようで。

「そなたは我が国のために戦う覚悟はあるのか?」
「はい。呼ばれた以上、お力になれるよう努力したいと思います」

なんてやり取りが云々。
正直クソ面白くない会話だったので、半分以上聞き流していた。なにせ、晃が大抵受け答えしてくれたし。

第一、晃は……そう、男女問わずウケが良い。
赤毛にブラウンの瞳なんていう、日本人離れした物凄い美貌だ。前に立たせておけば、俺の事なんて大抵の人間が忘れてくれる。

「………それでは、退室するが良い」
「はっ」

ほら。
促され、静かに、誰にも気付かれる事のないように、一足先に謁見の間を抜け出す。
全く。滅茶苦茶肩こるわ。

「おい、大和っ!!」
「うむ、お疲れだな」

背後から追いかけてきた晃に適当にねぎらいの言葉を掛けつつ、早々にその場から移動する。
正直、この場所にとどまるのは結構不味いのだ。

「おい、そんなに慌てて何かあるのか?」
「いや、特にこれといって」

今現在、この国には、大きく分けて三つの派閥がある。
王を中心とし、多くの騎士団と結びついた王権派。貴族達の勢力を強めようとする、大臣を中心とした大臣派。そして、魔術師と兵士達の支持を集めている土台派とかクリス派とか呼ばれている三つ。
因みにクリス派は、いわば労働組合みたいなものだ。クリス氏は騎士なのだが、かなり一般大衆に人気が有り、本人もこの国の改革を望んでいるとか。

で、さっきの場所には其々、王様も居れば大臣も居て、騎士も結構いた。件のクリスとか言う騎士も居たのではないだろうか。多分。
つまり、さっきの場所では表向き俺達の様子を見ていただけだが、勢力同士が互いに牽制しあったりと、かなり重苦しい雰囲気に包まれていたわけだ。

「……ふぅ、お前は良いよなぁ」
「ん? 何がさ?」

そういう雰囲気を読まない晃に、「いいや」と首を振って適当に流しておく。
政党争いは面倒くさい。出来れば係わり合いにはなりたくないものだ。

「そういえば、お前本当に勇者やるのか?」
「ああ。それはちゃんとやる。……俺も、色々思うところがあるしな」

いって、晃は脇にさした短剣を抜いて見せた。

「コレのおかげで魔力も目覚めたし、そのうち能力っていうのも扱えるようになるだろうさ」

そうなれば、おれもちゃんと勇者出来るだろうし、と。

晃があの倉庫から選び出した短剣。それは、俺の腕輪に比べると、それほどの自我を持っていたわけではないらしい。
晃いわく、薄らと語りかけるような声が聞こえて、それに従って力を目覚めさせたらしい。
というか、ソレが一般的なほうらしい。巫女さん曰く。
この腕輪が少し規格外なんだろう。よく分らんが。

で、晃が手に入れた能力というのが、光の能力。炎や雪吹、果てには呪いなんかもキャンセルできる聖なる守りにして剣……だとか。
つまり俺の真逆の能力。
なんというか、まさに勇者様というやつだ。

「お前も手伝ってくれるだろ?」
「何を」
「魔王退治」
「………………」

なにコイツ。
いかにも手伝うの当然だよね? って顔で問いかけてきてるんですけど。

「悪いが、今回は俺パスする」
「え、ええっ!?」

何故驚くのか。
そもそも、勇者として召還されたのは晃なのだし、俺は巻き込まれただけだ。多分。

「そ、そんなぁ……」
「別に俺なんて居なくても、適当に仲間を集めていけば良いだろう。お前は顔も人柄も良いんだし、仲間なんてすぐ出来るさ」
「でもなぁ。お前も付いてきてくれよ」
「勇者はお前だろ? なら、勇者らしく酒場で仲間集めて行け。……あ、道中で仲間になる、っていうのもアリだな」

冗談めかして笑いながら言いつつ、廊下を歩いて適当な小部屋に入る。
この辺りには使われていない部屋が意外とあるのだ。

「……………」

まだ覚醒したばっかりでそれほど扱えるわけではないのだが。
薄い闇を壁伝いに這わせ、部屋全体をすっぽりと覆いこむ。

「……ん? 何かしたか?」
「ああ、少しな。……まぁ、それより俺の話なんだが」

闇で区切られたその部屋は、一種の亜空間の類になっているらしい。
黒い腕輪の精霊。あのゴスロリ少女は、偶に俺の呼びかけにこたえて欲しい知識を与えてくれたりする。
普段は寝ているらしく、滅多に答えてくれないのだが。

「俺は、行方をくらまそうと思ってる」
「……は?」

ポカンとする晃。中々に珍しい顔だ。

「というわけだ。数日中にはこの城から消えてると思うが、心配しなくて良いからな?」
「は? あ、いや、ちょっと?」
「因みに。コレの事が漏れた場合、周りからの監視がきつくなる場合がある。そんな事態になったら、俺は問答無用でお前も張り倒す」

言いつつ、部屋を出る。
俺が制御を手放した事で、部屋を覆っていた闇は途端光にかき消されて。

「そんじゃ、お前もがんばれよ」

言って、背に向かって手を振り、そのまま自室目指して歩くのだった。


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