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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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038 - 鏡面の檻。

こそこそと城の中を徘徊し、なんとか位階の高い人間の住むフロアまでたどり着くことが出来た。
調べたところ、この更に上のフロアからのみ、闘技場の上座に行けるのだとか。成程、それなら防犯にもなるか。場内の警備さえ確りしておけば、早々上座には手を出せない。
……逆も然り。

「さて、それじゃ大臣の部屋なんだけれども……」

コレばっかりは流石に盗み聞きだけでは如何にも成らない。
都合よく大臣の部屋に用事がある兵士が出てくるとも思えないし……。

物陰に潜みながら、世界全体を注視する。
額に第三の瞳があるイメージ。それは、理の外を視る瞳。“魔”と言う異質を理とした外法の理。

「……これ、かな」

視点と言う割りに、その感覚は視覚ほど明確に表現できるものではない。
むしろ直感とか、そういった曖昧なものに近い。

だけれども、それをはっきりと認識できる。
淀み、濁り、正常を破滅へ導く闇。

俺の闇が怠惰な闇だとすれば、これは害意と憎悪をもった邪悪の闇。
似通っているからこそわかる、理解してはいけない暗黒。

頭がズキズキして、胃の辺りがチリチリ焦げ付く。コレを認めてはいけない。存在を許してはいけないと誰かが囁く。

「………」

目を見開く。
闇の視点と、人の視点が重なった先。其処には、質素なあしらいの施された扉が一つ。
気配自体は薄い。城……いや、国中を覆う瘴気に紛れ、光の属性を持つ人間に近寄られれば、即座に昇華されてしまう程度の残留だ。だから、コレには俺だけが気付ける。闇に属する俺だから気付ける。

闇を這わせ、扉に何らかの仕掛けが無い事を確認し、その内側へと身を滑り込ませる。
あまりの呆気無さに罠を警戒したが、そもそも大臣が疑われる心配など欠片も無いのだから、用心は逆に周囲の不信を買うかもしれない。

そうして、見つける。
最も邪悪の痕跡の残るその一点。

「…………………………す、姿見とは……」

絶句する。
魔の気配、邪悪の気配共に色濃く残るのは、大臣の部屋の隅に設置された、歴史のありそうな巨大な姿見だった。

……いや、まぁ、な。
鏡というのは、現実を映し出す虚構。人々は其処に、異世界を幻想したと言う。
だからこそ、鏡の異世界に人を封じる、というのは、嘗ての世界でもオカルトとしてちゃんと存在していた。
代表的な例を挙げるなら……まぁ、ドラゴンな感じのクエストの……6番?

「……………」

我ながらなんて例えだ。最悪。
痛む頭に手を当てながら、闇を伸ばして鏡へと接続する。

……なんて面倒な。
複雑怪奇なパスワードと魔術的防護壁の織り成す火の壁。
これは今すぐに解いて、完全に掌握する……なんていうのは無理そうだ。
後の憂いは先に取り除いてしまいたかったのだけれども……。まぁ、焦って相手側の行動を乱すほうが怖いか。恐慌に陥った人間の行動を読むより、慢心に陥った人間のほうが思考は読みやすい。

……と、そんな事を考えているうちに、徐々に人間の気配が近付いてきている。
不味いな。今此処でこの部屋に人間が忍び込んだ事を知られるのは不味い。相手側に警戒されてしまえば、新たな手を打たれてしまう。それは此方にとって不利以外のなんでもない。

せめて、確認だけでも……!!

(――――か、誰か、誰か!!!!)
―――聞こえたっ!!

『問う。汝の名は?』
(――!? だ、誰だっ!?)
『時間が無い。もう一度問う。貴殿は誰か』
(っ、私はこの国の経済発展を担う大臣の、ギッシュ・フォートレスだ!!)

ビンゴ。……あ、これ死語。
じゃなくて、だ。此処に居る彼が、本物の大臣だとするならば。俺の予想は完全に正解していた、という事に成る。

『私は……イーサンと名乗る者です。此処に居る理由は語れませんが、大臣殿に一つだけ聞きたい。貴殿を此処に幽閉したのは、魔族ですね?』
(――!? 何故ソレを……いや、その通りだ。私を此処に閉じ込めたのは、ミヒャエルと名乗る人型の魔族だった。それも、完全な人型の姿を取っていた!!)
『人型!?』

簡単に言ってしまうと、魔物というのは魔力を有する動物であり、魔族というのは人間の亜種であり、魔物の上位種という位置付けにある。
―力ある魔物は二足で歩き、次に言葉を解し、最後に姿を人と成す。コレを魔族と呼ぶ。―
コレは町で売られていた魔導書に記載されていた言葉だ。魔力自体はそれほど籠められていなかったが、求める知識は十分に記されていた。

つまり、魔物は力を増すと人の形に近付いていき、逆説的に力を持つ魔物……魔族は、限りなく人に近い姿を持つ。

一応獣人なんて種族があるが、アレは例外的に魔物が進化した“新種の生物”という事らしい。人間の血も混ざってるって……うん。妄想は無しで。割愛。

さて、つまり何が言いたいかと言うと。

『……それは、まさか今姿を……』
(――其処まで理解しているのか。君は一体……?)
『ソレは後ほど。今は時間が無いので、一度撤退させていただきます。次来るときには、必ずこの檻からの開放を』
(……わかった。君を信じよう)
『では』

闇を鏡から切り離していく。
意識体として話していたおかげで、実際の時間はそれほど経っていない。
……まぁ、それでもピンチなのはピンチなんだけれども。

(テラスを木伝いに下りるが良かろう。塀を越えれば、コロッセウムへたどり着ける)

と、不意にそんな思念が、残った闇から伝わってくる。
闇から感謝の念を鏡に伝え、ベランダへと駆け寄る。
音を立てないよう、けれども慌てて其処を開いて。
……木って、コレか!? 結構距離が離れているんですけれども!!

と、そんな事を言っている間に人の気配は部屋のすぐ前へ。もう一刻の余裕も無かった。

「……っ、南無三!」

思い切って飛び降りる。飛び降りてから気付いた。
もしかして、俺の闇で何とかできるかも。
最初に思い浮かんだのは、ハングライダーのような翼。広く風を受け止めれば、空も飛べるはず……。

試しに闇を広げて……駄目か。
風圧で魔力を固定化できない。慣れていたなら別だろうが、全く新しい行動を瞬時に……なんていうのは流石に無理だった。
仕方無しに、闇で身体を強化し、その木へと闇を引っ掛ける。

ずんっ、と響く衝撃。
軽く内臓をシェイクされ、正直吐きたい気分だが。そう言っている暇もなさそうだ。
人間の気配が二つ……四つ。巡回の兵士だろう。木の上で見つかる事は無いと思うが、だからといって余裕をかませる程に神経図太くも無い。

闇を伸ばして足とし、早々にその場を立ち去る事とした。
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